作品タイトル不明
115.黒い塊。
ウッドデッキでお茶を飲みながら、ロープから神国で起こった事を聞いた。
創造神は随分と思い切った事をしたみたいだ。
「創造神は、どこまで力と権限を取り戻したと思う?」
ロープの話から、創造神は本来持つ力や権限を取り戻している事が窺える。
でも実際はどれくらいなんだろう?
「ん~。それはちょっと分からないかな。でも、様子を見る限りほとんど取り戻しているんじゃないかな」
「そうか。ありがとう」
ほとんど、か。
それなら、神達が創造神に何かしようとしても対処が出来るはずだ。
「そうだ。神達の集会のあと、部屋に戻った創造神は『怖かった~。でも、やってやった~』って大喜びしてたみたいだよ」
「ははっ」
今までの常識を変えるのは、どれほどの勇気が必要なんだろう?
創造神には力も権限もある。
でも、それを行うのにはまだ若い神だ。
相当な覚悟を持って挑んだんだろうな。
「あっ、それとこれが話に出た黒い塊だよ。神が壊した丸い入れ物から出て来て、禍々しい力が広がりそうになったんだけど、闇の中に入れたら落ち着いたんだ」
ロープから、黒い塊を受け取る。
「これは、呪いだよな?」
「うん。のろくろちゃん達も『間違いなく呪いだ』と言っていた」
目の高さに持って来て、全体を眺める。
「禍々しい力を出す呪いの塊」
爪で黒い塊を叩くと、コツコツと音がする。
指で少し強めに押すが硬い。
「結界」
黒い塊を結界で覆い、中に呪力を送り込んでみる。
スーッと、呪力が中に吸い込まれていくのが分かる。
「動いた」
ロープが警戒した様子を見せると、傍で様子を窺っていたコアとチャイが立ち上がる。
ウッドデッキで実験したのは失敗だったかな。
「………………」
黒い塊から何か音がした。
ただ、あまりに小さく聞き取れない。
耳の傍に黒い塊を持って来ると、音に意識を集中する。
「………………」
……聞こえない。
でも、声とは違うような気がする。
呪力をもう少し送れば、分かるかな?
黒い塊にもう一度呪力を送り込み、耳を澄ます。
「………………」
おかしいな。
音は大きくなって耳に届いているのに、意味のある音として聞こえない。
「悲鳴だ」
えっ?
悲鳴?
ロープの傍に、一つ目のリーダーと一緒にいるのろくろちゃんが飛んでくる。
そして、黒い塊の周りをくるくる回り出す。
こののろくろちゃんは、他ののろくろちゃんと違い、
呪いの集合体ではなく、1体でのろくろちゃんを維持出来る力を持っている珍しい子だ。
のろくろちゃん達のリーダーとして、頑張ってくれている。
「…………」
黒い塊から、また音がした。
「主、この子達は姿も声も持っていない呪いみたい」
姿も声も持っていない呪い?
「のろくろちゃんは、何を言っているのか分かるのか?」
俺の言葉に首を横に振るのろくろちゃん。
「言葉じゃない。ただ感じるんだ」
「そうなのか」
神国にいた、呪い達。
でも、姿も無く声も無い。
「まだ、こんな存在が神国にいるんだろうか? というか、神が壊した物の中から出てきたんだよな?」
「うん」
神達が、彼等を閉じ込めて利用しているという事か。
「主、この子達を湖に連れて行っていい? そこでゆっくり過ごさせてあげたい」
地下神殿の地下、墓場に出来た湖の事だな。
「その湖に連れて行って、他ののろくろちゃん達に影響は無いか?」
「大丈夫だと思う。同じ呪いだし」
それなら、良いか。
「分かった。それなら俺が連れて行くよ。ロープも報告をありがとう。あまり無理しないように」
「大丈夫」
両手をぐっと握ってみせるロープ。
またこれから、神国に戻るらしい。
「創造神の宣言で、暴走する神がまだいるかもしれないから気を付けて」
俺の言葉に、ニヤッと不穏な笑みを見せるロープ。
何かするつもりなのかな?
ちょっと怖いんだけど。
「ほどほどにな」
「大丈夫です。フィオ神以外に、使えそうな神を見つけたのでちょっと会ってみようかと思って」
使えそうな神と言っているあたりで何かが違うと思うんだけどな。
ウッドデッキでロープと別れ、コアとチャイを護衛に墓場に向かう。
「我々も一緒に行っていいですか?」
コアの言葉に、墓場まで行きたいと言っている事に気付く。
地下神殿は、妖精のお陰でいつでも空気が綺麗だ。
のろくろちゃん達のいる墓場も問題ないし、そろそろ仲間達に開放しても問題は無いだろう。
「いいぞ、今日は一緒に墓場まで行こうか」
俺が許可を出すと、コアとチャイが嬉しそうにすり寄ってくる。
うん。
デカいから!
「力加減! 力加減!」
左右から来られると間に挟まれてギュッと色々大変な事になるから。
「あぁ、悪い」
コアが申し訳なさそうにチラッと俺を見る。
くっそう。
この表情をされてしまうと、許してしまうんだよな。
大きいのに可愛いんだよ。
「あれ? そういえばリーダーは?」
一緒に墓場に向かう、のろくろちゃんを見る。
「ちょっと所用で、オアジュ魔神のところに行っています」
所用?
「何か問題でも起きたのか?」
そう言えば、キッチンで働いていた魔族達が少しいなくなっているな。
「いえ、問題では無いです。リーダー達が『合格』を出した魔族達が魔界に帰るので、入れ替わりに来る魔族達の事で話があるそうです」
「えっ! とうとう合格者が出たのか?」
「はい。ようやくだと魔族達が喜んでいました」
本当に、皆頑張ったよな。
最初の頃は、キッチンから叫び声と物が崩れ落ちる音。
これらが聞こえない日が無いほどだったからな。
「合格した者達は、もう魔界に帰ってしまったのか?」
「いえ、代わりに来る魔族達が決まってから、魔界に帰るみたいです」
「そうか」
それなら、まだ会う事もあるな。
会ったら「おめでとう」と言いたい。
墓場に着くと、ふわっとした風が流れる。
今日も妖精の力で、風が気持ちいい。
「ここが」
コアが湖に近付く。
チャイも、興味津々でコアの後を追う。
「コア、チャイ。水には触れないようにな」
「「分かった」」
コアが湖から1歩、後ろに退がる。
チャイは、その隣から湖を見つめる。
「綺麗だな」
「あぁ、澄んでいてとても綺麗だ」
コアとチャイの言葉に湖の水が微かに揺れる。
「ほわお~」
コアとチャイから少し離れた場所から、のろくろちゃんが飛び出す。
それに、ビクッと驚くチャイ。
コアは特に驚く事もなく、飛び出したのろくろちゃんに視線を向けた。
「こんにちは」
「ちわ~」
コアの言葉に返事をしたのろくろちゃんが、湖の上で飛び回る。
それに反応したのか、湖から次々とのろくろちゃんが飛び出して来た。
今日の子達は、皆元気いっぱいだ。
「はよはよ~」
「待って~」
追いかけっこなのか、2匹ののろくろちゃんがコアとチャイの周りをくるくると回る。
「んっ?」
「何?」
戸惑った様子を見せるコアとチャイに笑ってしまう。
「大丈夫だよ。遊んでいるだけだから。好きにさせてあげて」
俺の言葉に、頷くコアとチャイ。
少しするとこの場所ののろくろちゃん達に慣れたのか、一緒に追いかけっこを始めた。
「のろくろちゃんには、ちゃんと加減が出来るんだな」
コアもチャイも本気を出せばすぐにのろくろちゃんを捕まえられるのに、適当な距離を開けて追いかけている。
……俺には全力で甘えているという事だろう、たぶん。
湖に近付くと、膝をついて湖を覗き込む。
今日も底の方まで見えるほど、澄んでいる。
手に持っている黒い塊を見る。
「このまま入れて大丈夫なのか?」
一緒に来たのろくろちゃんが、湖の水面近くまで下りてくると俺を見る。
「うん。大丈夫」
のろくろちゃんの返事を確認したあと、黒い塊を一度撫でてから手を放した。
ポチャン。
湖の底にゆっくり沈んでいく、黒い塊を見る。
どんどん沈んでいき、小さくなっていく。
しばらくすると、底に着いたのか動かなくなった。
「このまま少し様子を見るよ」
「うん」
湖の傍に座ると、膝の上にのろくろちゃんが座った。
その状態で、ジッと湖の様子を見守る。
湖に変化は無く、いつも通り。
「大丈夫だったでしょう?」
「あぁ、そうだな」
のろくろちゃんの言葉に頷くと立ち上がり、底に沈んだ黒い塊を確認する。
特に変化は見られず、このまま様子を見る事になりそうだ。
「あの子達の様な存在がいるなら、なんとかしないとな」