作品タイトル不明
94.助かったぁ。
―アイオン神の補佐 マッシュ視点―
「ありがとう、親アリさん」
今、魔界に落とされた俺達は魔族に保護され、ある洞窟の中にいる。
その洞窟は、シックスティーンが結界を張り魔神力と闇の魔力の侵入を防いでくれている。
そしてアリ達と蜘蛛達が協力して、結界内を光の魔力で満たしてくれていた。
「気にするな。それより、体は大丈夫か?」
親アリさんの言葉に、小さく笑う。
「何とか、大丈夫かな」
魔界に流れる魔神力と闇の魔力は、神族の体を容赦なく痛めつけた。
魔族がすぐにこの洞窟に俺達を連れて来てくれて、結界を張ってくれたので死ぬ事は無かった。
でも、傷ついた体は徐々に体力を奪われている。
今、結界内は光の魔力で満たされている。
でも、現状維持をするのが限界のようだ。
すぐに神国に戻る以外には、生き残れる方法は無いだろう。
でも、この体では移動は無理。
かなり最悪な状況だ。
傍で寝ている仲間の神族を見る。
俺は呪界で、魔神力と闇の魔力に触れていたのでこの程度で済んだが、他の仲間はもっと酷い状態になっている。
スッと手を伸ばし仲間の手を握る。
体がかなり冷たい。
もう、彼は限界かもしれない。
「すまない、我々ではこれが限界なんだ。でもあと少しすれば、サブリーダーが戻ってくる。そうすれば、現状を改善出来るはずだ。だから今は少しだけ耐えてくれ」
親アリさんの言葉に、少し首を傾げる。
サブリーダーがこの魔界で自由に動き回れるのだろうか?
そう言えば、アリ達が魔族達に指示を出していたな。
……問題にならないんだろうか?
「ありがとう」
少し疑問に思うが、俺達のために動いている事は間違いない。
ただ、これ以上は迷惑を掛けられない。
「これで十分だよ。それより君達は大丈夫なのか? 体が震えてるよね?」
さっきから微かに親アリさんの体が震えている。
最初の頃は、震えていなかったのに。
もしかして、かなり無理をしているのでは無いだろうか?
「大丈夫だ。これは、我々の力が弱いせいだ」
えっ、俺に比べたらかなり強いのに。
「お待たせしました」
洞窟にサブリーダーが来ると、アリ達や蜘蛛達がホッとしたのが分かった。
やはり洞窟を光の魔力で満たすのは大変だったのだろう。
俺達のせいで無理をさせてしまった。
後で、不調など起こさなければいいが。
「主から魔石を預かって来ました。すぐに洞窟内の環境を神族に合わせます。最初は洞窟内を主の作った結界で包み込みます」
神族に合わせる?
魔界で?
大丈夫なのかな?
魔界王に許可は貰っているのかな?
サブリーダーが魔石を取り出すと、白い光を放った。
その眩しさに目を瞑る。
「あれ? 体が軽くなった!」
光が収まると、体に掛かっていた重みが消えている事に気付く。
シックスティーンも結界を張ってくれていたが、まさかこんなに違うなんて思わなかった。
呪界王は、やはり凄い存在なんだな。
「次にこの結界内を、神力と光の魔力で満たします。これで傷ついた体を癒せるでしょう。もし気分が悪くなった場合は、すぐに教えて下さい」
サブリーダーが次の魔石を取り出すと、さっきと同じように白い光を放った。
その瞬間、体を襲っていた痛みがスッと引いていった。
「えっ?」
まさか、こんなすぐに痛みが引くとは思わなかった。
「どうした? 何かおかしいのか?」
親アリさんが不安そうに俺の顔を覗き込む。
「いや、大丈夫。痛みが消えて驚いたんだ。あれ? 息がしやすい」
痛みと息苦しさがあったのに、どちらも無い。
「凄いな。こんなにすぐに変わるなんて、素晴らしい力だな」
呪界王が凄い存在だとは、アイオン神から何度も聞いた。
でも、実感したのは初めてかもしれない。
本当に、凄い存在だ。
「ふふっその通り! 主の力はとても澄んでいるから、体への浸透力も強いんだろう」
そうなんだ。
それにしても、体がどんどん軽くなる。
手を上にあげてグーパーをしてみる。
まだ少し動かす時に違和感があるけど、それもすぐに無くなりそうだな。
「痛みや、気持ち悪さを感じる方はいますか?」
サブリーダーが、神族の様子を順番に確認している事に気付く。
そして、ここからは見えないが、誰かの傍に寄ったみたいだ。
何かあったんだろうか?
「この方を奥に、集中的に治療しましょう」
サブリーダーの言葉に、顔を上げる。
この力の中でも駄目だったのか?
「大丈夫ですよ。彼は少し他の方より状態が悪かったため、別の治療をするだけです。きっとすぐに良くなりますから」
サブリーダーの言葉に、あちこちからホッとした声が聞こえた。
「他にはいませんか? 大丈夫のようですね。ではこれからの予定を簡単に話します。神族の方々は、この結界内で体を癒し、ある程度動けるようになったら、呪界に行き、そこから神国に戻ります」
サブリーダーの説明にホッとする。
死ぬかもしれないと覚悟したのに、神国に帰れるのか。
「良かったな」
親アリさんの言葉に頷くと、視線を彼に向ける。
あれ?
親アリさんの震えが止まっている。
良かった。
「親アリさんもありがとう。助かったよ」
「マッシュさん」
「はい!」
サブリーダーの言葉に、起き上がる。
「そのままでいいですよ。無理はしないで下さい」
「あっ、いえ」
凄いな。
無意識に起き上がったけど、もうここまで回復しているのか。
それにしても、どうして名前を呼ばれたんだろう?
かなり迷惑を掛けてしまったからな。
緊張する。
「あの、この度は申し訳ありませんでした」
サブリーダーに向かって深く頭を下げる。
「頭を上げて下さい。マッシュさんは、悪いことなどしていません」
でも、迷惑を掛けたのは神国の者で。
俺は神国に住む神族だ。
「悪いのは、馬鹿げた事を考えた者です。他の者達は被害者です」
そっと顔を上げてサブリーダーを見る。
彼はゴーレムなので、表情は読めない。
でも、どこか優しい雰囲気を感じる。
「ありがとうございます」
「いえ。アイオン神に、マッシュさん達が生きている事。それと、今は療養のため魔界から移動できない事を話してきました。何か伝えたい事はありますか?」
伝えたい事?
あっ、俺達を魔界に落とした神族も一緒に、魔界に落ちていたんだった。
何処だ?
「どうしました?」
キョロキョロしていると、サブリーダーが不思議そうに俺を見る。
「俺達を魔界に落とした神族も、一緒に魔界に落ちたんです」
「そうなんですか?」
サブリーダーも一緒に、周りに寝ている神族を見る。
「特徴はありますか?」
「えっと……」
チラッとしか見ていないんだよな。
髪が……肩ぐらいで、緑だったかな?
「髪は肩ぐらいで、緑色だったと思います」
「緑色?」
「はい」
サブリーダーが首を傾げる。
どうしたんだろう?
「その方なら、集中治療のために別室に移動しました」
さっきの者がそうだったのか。
「話を聞けますか?」
「今日は無理ですが、体調を見ながら話をしましょう」
これで主犯格が分かるといいけど。
「あっ、そうだ。今回の件はすぐに解決すると思いますので、気にせずゆっくり休息をとって下さいね」
「えっ、もう?」
「はい」
早過ぎないか?
もしかして神族を見張っているなんて事は……。
まぁ、いいか。