作品タイトル不明
61.それでも生きたい。
―魔族視点―
仲間の2人が魔神に見つかり連れて行かれるのを、震えながら見る。
助けたいという思いは、とうの昔に無くなった。
そんな感情があったのかも、今は覚えていない。
ただ、逃げて隠れて。
魔神に見つからないようにするだけ。
時々思う。
逃げるより終わりを迎えた方が楽なのではないかと。
でもなぜか、最後の1歩が踏み出せなかった。
意気地がない自分が嫌になる。
仲間の悲壮な声に耳を塞ぐ。
仲間を連れて行った魔神に、見覚えがある。
あれは、ドルハ魔神に仕えている魔神だ。
ドルハ魔神に捕まったら、楽には死ねないと噂されていた。
彼もきっと、これから酷い目にあうのだろう。
ギュッと両手を握って目を瞑り、魔神が去るのを待つ。
しばらくすると、辺りは静寂に包まれた。
そっと目を開け、魔神と仲間がいた場所を見る。
既に、誰もいない。
それに息を吐くと同時に、ギュッとどこかが痛んだ。
でも、それを気にする事はない。
そんな物を気にしていては、ここでは生き残れない。
「生き残るためだ」
また、どこかがギュッと痛んだ。
周りを警戒しながら移動する。
この場所も見つかった。
今すぐ、他の場所に移動して隠れないと。
「「あっ」」
移動中に、少し前に知り合った魔族と会った。
そしてお互いに、気まずい表情になる。
仲間を見捨てて生き延びた事を、分かっているのだ。
「どこに?」
彼に話しかけられるとは思わなかった。
だから少しびっくりしたが、ある方向を指す。
「あっちだ」
少し前、ある噂を聞いた。
なんでも洞窟に隠れると、助けてくれる存在に出会える事があるらしい。
正直、馬鹿馬鹿しい噂だと思った。
きっと、現実のつらさに夢を見たのだろうと。
そんな存在などいない、と。
なのになぜか、その噂に上がった洞窟がある方を指していた。
「そうか。俺もだ」
彼を見ると視線が合う。
そして2人で苦笑した。
「行こうか」
「うん」
名前を知らない魔族と行動することはよくある。
俺にだって、名前はある。
でも、最近は名前を名乗る事は無くなった。
すぐにいなくなるかもしれない存在の名前など、知ってもつらいだけだからだ。
明日、魔神に捕まるのは、俺かもしれないし、彼かもしれない。
安全に過ごせる場所がなくなったここでは、名前など……知らない方がいい。
なんとか見つかる事なく、噂の場所まで来る事が出来た。
でも、この周辺に洞窟などあっただろうか?
何となく不安な気持ちになっていると、後ろに気配を感じた。
慌てて振り返り、諦めた。
もしかしたらあの噂を流したのは、魔神だったのかもしれない。
俺達のような間抜けな魔族をおびき寄せるために。
「あっ」
小さな声に視線を向ける。
一緒にここまで来た彼が、真っ青になって震えている。
視線を下げると、自分の手も震えているのが分かった。
「ここにいるぞ」
「何人だ?」
「2人。まだ元気そうだ」
どこがだ?
俺も彼も、かなり痩せている。
元気に見えるわけがない。
「それだったら、少しは耐えられるだろう」
聞きたくない。
自分がこれから何をされるのかなんて、知りたくもない。
「そうだな。俺はもう少し向こうを見てくる」
「分かった」
傍に立つ魔神を見上げるが、視界が揺れる。
あぁ、久々に泣いているのか。
まだ、泣けたんだな。
ボルチャスリ魔界王が、この世界の秩序を作っている間はまだ平和だった。
魔神達が面白がって魔族を甚振る事はあったが、殺すことは無かった。
実験の材料にされる事も。
ボルチャスリ魔界王の力が衰え、急激に魔界は変わった。
次の魔界王を目指す魔神達の争いが、あちこちで起こったのだ。
そしていつしか、魔族達は魔神達に狩られるようになった。
最初は、捕まった後に何をされているのか知らなかった。
でも、魔族を実験に使っているという噂が流れた。
それからの魔族達は、恐怖に駆られながら生きる事になった。
あれから、随分と時間が流れた。
いまだに魔界王は決まっていない。
ドルハ魔神かギュア魔神か。
どちらの魔神が王になったとしても、先は暗い。
ボルチャスリ魔界王の腹心、ゴルア魔神に王となって欲しかったが、力が足りないと噂が流れた。
多くの魔族がその噂に絶望した。
「とっとと立て。俺に面倒を掛けさせるんじゃない」
魔神が腕を掴んで立たせようとする。
でも、体に力が入らない。
目の前にいる存在が放つ恐ろしい魔神力に、なんとか立とうとする。
でも、どうしても力が入らなかった。
「クソ」
魔神が腰から何かを持ち振り上げる。
それが鞭だと気付く。
あれはきっと、痛いだろう。
ギュッと目を閉じ、腕で頭を守る。
どうして、まだ頭を守ろうとしているのだろう?
もう諦めて、首でも切ってしまえばいいのに……嫌だ。
生きたい!
死にたくない!
バチッ。
「がっ」
「駄目だよ。か弱い存在は守るべきだって、主が言っていたから。力を持つ者が、か弱い者に力を振るうのは、みっともない行動なんだって。あれ? あっ、力を籠め過ぎた?」
あれ?
なんだろう?
痛くない?
そっと視線を上げると……見た事のない存在が目の前にいた。
目が4個?
あっ、違う6個もある。
「大丈夫? 叩かれていない?」
心配そうに声を掛けられるが、声が出ない。
何が起こったのか、周りを見る。
一緒にここまで来た彼も茫然と、現れた目の前の存在を見ている。
「あれ? 聞こえないのかな? もしかして言葉が違う?」
違う、聞こえている。
でも、驚き過ぎて声が出ない。
「あ~、何をしているの~! 装置を設置するだけだと言ったのに!」
「……へへっ」
違う声に視線を向ける。
小さな岩が動いていた。
いや、違う。
形が違うけど、俺のように足があって腕があって頭もある。
あれは、なんだろう?
「全く。で、何があったんだ?」
「襲われていたから、ちょっとこう……頭をスパンと」
頭をスパン?
そういえば、俺の腕を掴んでいた魔神はどこに行ったんだろう?
あれ?
少し離れた場所に、魔神と同じ服を着た者が転がっている。
でも、おかしいな。
首から上が無い。
「叩いたら……吹っ飛んだ」
「……頭が?」
「…………そう。まさか、身体強化をしていないなんて思わなくて。だから、子供達にするぐらいの威力で叩いたんだ」
叩いたぐらいで、頭が吹っ飛んだ?
そんな事があるのか?
「そうか――」
「貴様ら何者だ! ビジュをどうした?」
「あぁ、彼ならあそこで死んでるよ」
怒り狂う魔神相手に、なんでもないように答える岩?
「シックスティーン。そんな風に言ったら、相手を怒らせるよ」
岩はシックスティーンというらしい。
「死んだだと? どうやって? 俺たちは魔神だぞ!」
魔神が腰に差していた剣を、シックスティーンと6個の目を持つ存在に向け殺気を放った。
近くにいた俺にもその殺気が届き、呼吸が苦しくなる。
「魔神だから、何か?」
殺気など気にした風もなく、シックスティーンが首を傾げる。
それに、魔神の眉間に皺が寄る。
「躾が必要のようだな!」
魔神が、シックスティーンに向かって一気に距離を詰める。
速い!
そのスピードに驚いていたら、目の前に何かが転がった。
「あっ」
「ほら~」
転がったものを見ると、魔神だった。
既に息はしていないのが分かる。
さすがの魔神も、体が二つに分かれたら死ぬようだ。
「どうして、そんな簡単に体が真っ二つになるの?」
シックスティーンにとって、俺達が恐れ慄く存在である魔神は、簡単に死ぬ存在だったようだ。
つまり、魔神よりシックスティーンの方がはるかに強いのだろう。
それなのに、なぜだろう?
シックスティーンにも6個の目を持つ存在にも、恐怖を感じない。
それどころか、彼等の力をとても優しく感じる。
あれ?
そういえば、シックスティーンからも6個の目を持つ存在からも、魔神力と闇の魔力を感じる。
いや、これは本当に俺が知っている魔神力と闇の魔力だろうか?
なぜか、温かく感じるのだけど。