作品タイトル不明
74.午前の日課
「「「「「行ってきます」」」」」
「行ってらっしゃい。勉強頑張れよ」
朝食後、子供達が勉強へ向かうのを見送る。
教師達とは良い関係を築けているようで、勉強時間も楽しそうだ。
今日は、午後からバッチュが誰かを連れて来るらしい。
朝食時に、午後からの予定を空けて欲しいとお願いに来た。
午前は無理だが、午後からは相変わらずやる事がない。
だからもちろんOKなのだが、誰を連れて来るんだろう?
そもそも、バッチュは獣人の国の問題に取り掛かっていた筈だ。
獣人国から来るのか?
「主。今日も、墓地に行かれますか?」
ん?
一つ目のリーダーの声に、首を傾げる。
珍しいな。
最初の頃は毎日「行くのですか?」と、聞いて来たけれど、最近は何も言わなかったのに。
「あぁ、行くつもりだ。どうした?」
「こちらを、お使いください」
リーダーが俺に魔石を1つ差し出す。
受け取ると、魔石から膨大な魔力を感じた。
「これは、リーダーの魔力か?」
「はい。何か主の手助けができればと思い、魔石に魔力を詰めました。どうぞ、お使いください」
リーダーには、かなり心配をかけている。
本当は、墓地に行って欲しくないと思っている事も分かっている。
それでも、こうやって俺のやっている事に協力してくれる。
「ありがとう。ごめんな、色々」
墓地で行う、呪いの浄化。
正直、どれだけの効果があるのか全く分からない。
もしかしたら無駄なのかもしれない。
それでも、呪いがある以上は止めたくない。
いつか、彼らをあの苦しみから解放したいのだ。
この世界のせいで被害にあったのだから。
「行ってらっしゃいませ」
「行ってきます」
地下神殿をイメージすると、体がふっと浮く感覚がする。
目を開ければ、目の前には地下神殿が見える。
毎日の事なので、慣れたが便利だ。
「さてと、今日も頑張りますか」
まずは、魔石に力を注ぐために、地下1階へ移動する。
「おはよう」
「主、おはよう。今日も魔石の状態はいいみたいだよ」
妖精の嬉しそうな声に、魔石に視線を向ける。
毎日魔力を注いだせいか、白や青、赤の光を纏った魔石に新たな変化が起きた。
今魔石は、部屋の中央で浮いている。
そして白や青、赤の光を纏った魔石は、自ら発光しているのだ。
妖精が言うには、良い変化らしい。
「今日も宜しくな」
声を掛けてから、魔石に手を翳す。
以前は魔石に触れていたが、今は魔石に手を近づけるだけで魔力を送れるようになった。
触れていないのに、魔石からトクン、トクンという振動が伝わる。
目を閉じ、振動に合わせて魔力を送る。
「はぁ。今日の分は終わり」
体内から、魔力がごっそりと消えるのを感じ、送るのを止めた。
目を開けると、魔石に変化が無いか調べる。
「変化なし。よしっ」
良い変化はいいが、悪い変化が起きないとも限らない。
なので、魔石が変わるといつもドキドキしてしまう。
今日はその心配はしなくて済みそうだ。
「さて、墓地に行くから戻るな。また」
「うん。変化があったら、呼ぶね」
妖精に手を振って、一度地下神殿へ戻る。
体内を調べ、魔力が戻って来ているのを確かめる。
「今日も大丈夫そうだな」
毎日、毎日膨大な魔力を使用している。
いつか、魔力が戻って来ない日が来るのではないかと、それが心配だ。
目を閉じ、墓地をイメージすると体が浮く感覚と、風を感じた。
目を開けると、いつも通り何もない草原に立っている。
「よしっ」
小さく気合を入れて、草原の真ん中に行く。
地面に手を付くと、真っ暗な世界が目の前に現れた。
その瞬間、呪いの不穏な気配に包まれ、大量の呪詛が聞こえだす。
頭にぶつけられるような、妬みや怨み。
それらに気持ちが引きずられないように、何度も深呼吸を繰り返す。
しばらくすると、気持ちが落ち着いてくる。
もう、大丈夫。
「おはよう。今日は仲間のリーダーから力を貰って来たんだ。だから、昨日よりもう少し浄化が出来ると思う」
魔石を手に持ち、呪いが充満する空間に俺の魔力と一緒にリーダーの魔力も流していく。
何度も体内の魔力を空にしながら、魔力を大量に流し込む。
しばらくすると魔力の戻りが悪くなるので、魔力を送るのを止めた。
そして浄化のイメージを確認してから、流した魔力に指示を出す。
「浄化!」
魔力が流れた部分だけが、一瞬真っ白になる。
だが、今日もすぐに真っ黒な空間へ戻ってしまった。
「まだまだだな。また、明日」
ふらつく体に力を入れて、地面から手を離す。
『ま……』
ん?
今、声が聞こえたような?
地面に手を付けている間は、ずっと呪詛の言葉が聞こえるので声が聞こえるのはおかしくない。
でも、今。
手を離してから聞こえたような気がしたけど。
「…………、気のせいか」
しばらく待ってみるが、何も聞こえない。
「さてと……休憩だな」
帰りたいが、魔力が枯渇していて動けない。
いつものように、寝っ転がって魔力が戻ってくるのを待つ。
しばらく休憩していると、魔力が溜まっていくのを感じた。
それに、ホッとする。
「今日も大丈夫だな」
……半分ぐらいは戻ったか?
そろそろ帰れそうだ。
起き上がって、伸びをする。
地下神殿に戻ると、妖精がいた。
いつもなら、この時間は魔石の傍を離れないのに。
「どうしたんだ?」
魔石に何かあったのか?
「えっと、魔石に黒い線が一瞬入ったような気がしたんだ」
黒い線?
「でも、その……すぐに消えたから見間違いかもしれなくて……」
見間違いか。
さっきの声も気のせいだと思ったけど。
ちょっと気になるな。
「分かった。知らせてくれて、ありがとう」
「うん。また明日」
妖精が地下に戻っていくのを見送ってから、俺も家に戻る。
「ただいま」
家の玄関前に、今日も無事に戻ってくれたようだ。
「お帰り」
「えっ?」
聞こえるはずの無い声に、視線を向けるとテフォルテがいた。
相変わらず、3体の顔が不機嫌そうだ。
まぁ、そう見えるだけで、実際は機嫌がいいようだ。
尻尾が激しく左右に揺れている。
「どうしたんだ?」
「今日はお祝いなんだろう? だからお酒を差し入れに来た! そしてうまい物を食いに来た!」
お祝い?
なんの事だ?
「どうした?」
「いや、お祝いって誰に聞いたんだ?」
「ナインティーンに聞いたんだ」
ナインティーンは、色々道具を作りだしている農業隊の1体だな。
という事は、農業隊関連のお祝い事か?
「お祝いの内容を聞いたか?」
「あぁ、獣人国の悪人討伐完了祝いで『祝! 悪い奴は地獄行き!』パーティーだと聞いた」
なんとも言えないパーティー名だな。
それにしても、悪人討伐完了?
完了という事は、獣人国の問題が解決できたのか。
バッチュは流石だな。
で、今日はそれを祝うための場が設けられると。
なるほど。
「地獄行きか」
エルフ国の問題の時に、最終的な判断はその国の王に任せるように言っておいたから、たぶん大丈夫のはず。
……きっと。
「どうした?」
「いや、なんでもない。そういえば、お酒をありがとう」
「いやいや。一つ目達が作る料理は格別だからな。あれが食えるなら、酒ぐらいいくらでも盗ん……持って来るよ」
今、盗むって聞こえたが。
じっと見ると、テフォルテの3体の顔がそれぞれ視線を逸らす。
あっ、ここは皆違う方向を見るんだな。
って、今それを気にする時じゃない。
「盗んできて大丈夫なのか?」
「魔界ではよくある事だ。だから問題ない。それに私は強い。誰も文句は言ってこないよ」
魔界は強さが何より重要視されるみたいだからな。
テフォルテが問題ないと言うなら、そうなんだろうけど。
「あまり、無茶はするなよ。テフォルテに何かあったら、アルト達が悲しむんだから」
「……分かった」
今の間はなんだ?
テフォルテを見ると、どこか嬉しそうな雰囲気を感じた。
それに首を傾げると、
「心配される事など、魔界ではないからな」
もしかして、テフォルテは照れたのか?
じっとテフォルテを見ると、さらに顔を背けられた。
可愛い性格だよな。