軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02.エントール国結界警備隊 隊員

ーエントール国結界警備隊 隊員視点ー

地面が揺れ、異様な力を含んだ風が通り過ぎた次の瞬間、結界が破られた警戒音が更衣室に鳴り響いた。

急いで上着を着て、外に出る。

「持ち場に急げ」

隊長の声と同時に、いつもの警備場所へと走る。

結界が破れた原因は不明だが、俺がする事は魔物をこの国に入れない事。

「魔物は?」

「今のところは大丈夫だ。だが2日ほど前に、周辺の森で混ぜ物が目撃されている」

混ぜ物か。

あれには、結界が利かない。

森の中で対処出来ればいいが、無理な場合は此処で食い止めなければ国民に被害が出てしまう。

「さっきの魔力の波動が何か分かるか?」

先輩の問いに首を横に振る。

あんな波動は初めて感じた。

「森に何か、あったのかもしれないな」

「もしそうなら、森の神か森の王だよな?」

先輩の言葉に息を飲む。

結界を壊したのが、彼らの意思なら?

この国は、エンペラス国を攻撃しようとした過激派がいる。

王の血縁者である宰相が主導したため、彼の処分で上が揉めているらしい。

それに対する罰なんて事は無いのだろうか?

「大変です!」

顔色を悪くした、同じ持ち場を警備する後輩のアッピアが駆け込んでくる。

「遅いぞ!」

「すみません! ここに来る前に、第1騎士団員達の話を聞いたんですが、牢屋に入っていた宰相率いる過激派が何者かの手を借りて逃げ出したそうです。既に森に逃げ込んだ可能性が高いと言っていました!」

アッピアが先輩を気にしながら、それでも興奮気味に話す。

「「はっ?」」

先輩と俺の声が重なる。

宰相が逃げ出した?

結界を壊し、国を混乱させようとしたあいつが?

「それは本当なのか?」

「はい。既に騎士団が過激派を追うために動き出しているようです」

先輩が腕を組んで考え出す。

「さっきの魔力の波動は過激派が起こしたという事か?」

「それは違うんじゃないですか? あんな力を持っているなら、もっと早く脱獄したはずです」

「それもそうか」

先輩がアッピアの言葉に頷く。

確かに、先ほど感じた魔力の波動はかなり大きかった。

宰相は魔力が多いと聞いた事があるが、あれほどの力があるとは思えない。

もしあるのなら、アッピアの言う通り既に脱獄しているだろうし、王と宰相の立場が入れ替わっているはずだ。

グアァ~。

魔物の声に、剣を持ち森へ向かって構える。

「全員、今の声が聞こえたな?」

団長の声に、緊張が走る。

「こちらに向かって来る混ぜ物が、数十匹確認できたと連絡が入った。既に森の中の警戒線を突破されてる。全員、気を引き締めろ! 必ず、食い止めろ!」

数十匹の混ぜ物か。

最悪だな。

だが、ここで倒さなければ家族が被害にあうかもしれない。

「ふぅ。やるしかないな」

「そうだな」

先輩が俺の隣に立って剣を構える。

アッピアを見ると、真っ白な顔色で剣を握っていた。

やばいな。

こんな緊張した状態だと、無駄に力が入って怪我をするかもしれない。

最悪「死」だ。

「アッピア、深呼吸して少しでいいから落ち着け」

俺の言葉に、何度も深呼吸する音が聞こえる。

「すみません。もう、大丈夫です」

「無理はするなよ」

アッピアは、結界警備隊に配属されてまだ3ヶ月。

どう考えても、彼には荷が重すぎる。

先輩を見る。

同じ事を思っているようだが、混ぜ物を前に下がれという事も出来ないのだろう。

「大丈夫です! 俺も、厳しい訓練を耐えてきたので!」

俺と先輩の気配に気付いたのか、アッピアが力強く言い切る。

「そうだったな。なら、頼むぞ」

先輩の声に、嬉しそうに返事を返すアッピア。

ガサガサガサガサ。

バキバキバキ。

興奮しているのか、周りの木々を倒しながらこちらに近付いてくるのが分かる。

長く息を吸って吐く。

よしっ、大丈夫だ。

森から姿を見せた魔物に、全員が息を飲んだのが分かった。

今までも混ぜ物とは戦った事はある。

あるが、今目の前にいる混ぜ物はこれまでとは少し違う事がすぐに分かった。

黒い影を纏わりつかせているのだ。

「呪い?」

先輩の声に、背筋が冷える。

なぜ呪われた混ぜ物が?

「怯むな!」

団長の声に、ギュッと手に力を籠める。

グアァ~。

黒い影がぶわりと周りに広がり、混ぜ物が突進してくるのが見えた。

口を大きく開け、牙を向けて来る。

ガチッ。

なんとか剣で耐えるが、手がぶるぶると震えているのが分かる。

「力が……」

全身で押してくる力に体が弾かれそうになる。

なんとか今は抑えられているが、これは時間の問題だろう。

ガッ。

「くっ」

腹から激痛が走り抜ける。

見ると、魔物の牙が腹に刺さっているのが見える。

どうやら、目の前の魔物に集中し過ぎていたようだ。

手の力が緩みそうになるが、何とか抑え込み、足を使って腹に噛みついている魔物を蹴りあげる。

ボゴッ。

うまく急所に入ったのか、魔物が腹から離れる。

目の前の魔物を注意しながら腹を見る。

大量に血が出ているのが分かる。

「はっ。抉れてやがる」

一瞬、意識が飛びかけるが何とか踏みとどまる。

周りの先輩やアッピアもかなり苦戦しているのが分かる。

遠くでも叫び声や、逃げる足音も聞こえる。

ここまでなのか?

「うわっ。ちょっ、やばいなこれ。ていうか、また呪い?」

なんだ?

誰の声だ?

霞む目を声が聞こえた方へ向ける。

「えっ?」

幻想でも見ているのか?

なんで、アルメアレニエがここに?

もしかして、結界がちゃんと破られているか見に来たのか?

本当にエントール国は要らないと、判断されたのか?

「えっ? 任せろ? あ~うん、じゃあ、俺はとりあえず浄化」

優しい魔力が体を通り過ぎた事に気付いた。

それと同時に周りに纏わりついていた黒い影が消える。

あれ?

俺を襲っていた魔物が消えた?

……どこに行ったんだ?

周りを見回すと、空中に浮いているのが見えた。

「……なんで、浮いているんだ?」

あれっ、魔物に巻き付いているのは……糸?

どこからあんな物が……魔物に巻き付いている糸を辿っていくとアルメアレニエにいきついた。

あっ、やばい倒れる。

ドサッ。

「大丈夫か?」

大丈夫じゃないかもしれない。

頭がふらふらする。

どうやら、血が流れ過ぎたみたいだ。

腹もズキズキするし、気持ちも悪い。

「酷いな。すぐに治すな。といっても、人数が多いんだよな。1人1人するのはめんどくさい。ん~、一気に出来るかな? えっと周辺全てにヒール」

ヒール?

あぁ、声の主は魔導師だったのか。

ん?

気分が悪かったんだけど、落ち着いたな。

魔導師が掛けてくれたヒールが効いたのか?

なんだか、前に掛けてもらったヒールとは全然違うような気がするな。

あれ?

腹の痛みが……全くない?

「えっ? あれ? 怪我が……」

さっき確認した抉れた部分の腹を押さえる。

手に張りのある皮膚が触れる。

視線を向けると、綺麗な皮膚が見えた。

抉られた痕跡も、残っていない。

ヒールって、こんなに効果があったっけ?

「大丈夫か? 簡単に怪我を治してみたが。何処か違和感でもあるのか?」

えっと、彼は誰だろう?

それに、彼の肩に乗っているのはもしかして、小型のアルメアレニエだろうか?

いや、さすがにそれは違うよな。

だって、アルメアレニエは森の王の子だ。

人の肩に乗っているなんて……でも、黒い体に6つの目があるような気がするんだが。

「なんだ? 孫蜘蛛が気になるのか? ……大丈夫か? もしかして貧血か? かなり血を流していたからな。ヒールでは、カバーできなかったんだな。悪い」

いや、気のせいじゃない……小型のアルメアレニエだ。

彼は……まさか、森の神か?

そっと目の前にいる男性を見上げる。

さっきより視界がはっきりとしている。

「……マジか」

出回っている絵姿にそっくりだ。

なんで気付かなかったんだ、俺!

それにしても、あの絵の通りだな。

細いし小さい。

「どうした? 言葉は……分かるよな? ウサとクウヒには通じるんだが」

ウサとクウヒ?

誰かは分からないが、森の神が訊いているんだから答えないと。

「だ、大丈夫です。分かります」

あっ、声が裏がえってしまった。

「よかった。ん? 終わったのか? よしっ、後は……あっ、結界だ。エンペラス国と同じ結界でいいよな? 結界!」

ふわりと目の前の森の神から温かい魔力が溢れると、頭上の結界が一瞬眩しいほどの光を発生させた。

見上げると、空中に何かきらきらした物が、微かに見えた。

「よしっ、次はエルフの国だっけ? 行くか。あぁ、そうだ。結界の事、悪かったな」

結界の事?

つまり、結界を壊したのは本意ではなかったのかな?

あっ、行ってしまった。

森の神が森の中に消えると、後を追うようにアルメアレニエが森の中へと消えた。

「……森の神と……話してしまった」