軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43.特別調査部隊アバル1

―エンペラス国 特別調査部隊 アバル視点―

マロフェ隊長が執務をしているテントから出る。

しばらく歩くと自分が寝泊まりしているテントが見えた。

立ち止まると、ため息が出た。

「アバル、どうしたんだ? 問題でもあったのか?」

もう1人の補佐であるラーシが、ちょうどテントから出てきた。

「いや、問題はない……事も無いか」

俺の返事に首を傾げ不思議そうな表情をするラーシ。

「問題があったという事か? マロフェ隊長に報告に行っていたんだよな? 重病患者が出たのか?」

ラーシの言葉に首を横に振って否定する。

「いや、違う。全員、疲れからくる体調不良だったから数日ゆっくり休めば大丈夫だ」

「そうか、それは良かった。じゃあ、なんでそんな表情をしているんだ?」

「……理解したからかな」

俺の言葉に、訳がわからないという表情をするラーシ。

「ちょっとな」

先ほど見た隊長の表情を思い出して、表情が歪んだ。

「大丈夫か?」

ラーシの心配そうな声に、小さく頷く。

大丈夫だ。

ただ、自分の罪を目の前にして、その罪の大きさに狼狽えただけだ。

「歪だと感じても何もしてこなかった。その結果を、被害の大きさを目のあたりにして……逃げ出してきただけだ」

俺の言葉に、苦しげな表情をするラーシ。

エンペラス国では当然だった、獣人の奴隷。

微かな違和感はあった。

だが、何もしなかった。

かつてのエンペラス国ではそれが当然だったから。

でも、隊長を見ていたら、そんな言い訳が許されるはずないと気付く。

彼は、何に対しても怒りを見せる事がない。

と言うよりも、表情がほぼ動くことがない。

最初は、そういう人物なのだと思った。

いきなり隊長職に就いたことで、緊張もあるだろうから。

だが、ある事が切っ掛けで気付いた。

表情が無いのではない、奪われたままなのだと。

その事に気付いてからは、彼の行動のすべてが奴隷時代に培ったものから来ていると気付く。

誰よりも早く起きて準備をする事も、誰よりも前に出て戦う事も、どんな態度をとられても、一切怒りを見せない事も。

全て我々人が、彼らに押し付けてきた事だ。

「ホルンたちが隊長に謝りたいと言ってきた」

「ホルン。あぁ、命令無視した奴らか」

「そうだ。他にも数名、謝罪したいという者がいたから、隊長に言ったんだが……」

先ほどのやり取りを思い出して自嘲する。

「あまかった」

「えっ?」

期待していたんだと思う。

少しでも、何か反応を返してくれることを。

もしくは許していないと言ってくれることを。

でも、まるで何も問題は無かったみたいだった。

正直、あの反応に戸惑ってしまった。

隊員の態度が悪かったのは、確かに実害はない。

だがホルンたちが命令を無視した時は、そうじゃない。

ホルンたちは軽傷だったが、隊長は腕を深く切られたのだから。

しかも獣人は怪我の治りが早いから気にするなと言って、治療すら受けてもらえなかった。

そう言えばあれが切っ掛けだったな。

隊長が何を考え行動しているのか、気になったのは。

それから隊長を観察して、気付いた。

彼が今もまだ、過去に囚われているのだと。

いや、過去としたのは人だけなのかもしれないな。

「そう言えば、隊長の怪我の状態は聞いたのか?」

「聞いてない」

「なぜ?」

なぜ?

それは……なぜだろうか?

聞こうとも思わなかった。

なんでだ?

「分からない」

「珍しいな。アバルが迷うなんて」

迷っているのか?

違うような気がする。

ただ、何かを認めたくなくて。

認めたくない?

何を……。

「あぁ、そうか」

あの日、治療を拒否された日。

隊長の言葉にすぐに「そうだな」と思ってしまった。

今思えば、怪我をしたのに治療をしないのはおかしい。

なのに俺は「そうだな」と思ってしまったんだ。

獣人だから「怪我をしても大丈夫」だと。

「俺は最悪だな」

「えっ?」

そうか。

過去に囚われているのは隊長だけじゃない。

俺もじゃないか。

それに気付きたくなかったんだ。

隊長が俺たちに距離を置くのは、俺のせいじゃないか。

「何をしているんだ?」

不意に聞こえた声に、視線を向けるとピッシェ副隊長が不思議そうに俺たちを見ていた。

そう言えば、テントに入るのも忘れて話していたな。

「ちょっと、話し込んでいただけだ」

「テントの前で?」

ラーシの言葉に、首を傾げる副隊長に乾いた笑いを返す。

今は、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

今ほど、自分の事が信じられなくなった事は無いな。

「何かあったのか?」

副隊長の視線が俺に向く。

なぜか、今日はそれをまっすぐ受け止められない。

すっと視線を下げると、隣にいるラーシから戸惑った雰囲気を感じた。

情けないが今は無理だ。

水面下ではいまだに奴隷制を支持する者たちがいる。

否定していたのに、俺は奴らと変わらない。

「ピッシェ副隊長は、何をしているんだ?」

ラーシが少し明るい声で副隊長に話しかける。

俺の様子がおかしいから助けてくれたんだろう。

それにぐっと掌を握りしめる。

「あぁ、ホルフェとマフェが働き過ぎだから、討伐する数を1人1匹までに制限しようかと思って」

「「はっ?」」

1人1匹に制限?

しかもホルフェとマフェが働き過ぎ?

彼らは隊長と同じ獣人だな。

「もしくは1チームで2匹までとか。とにかくあの2人に少し制限してもらって、他の奴を働かせようと思って。そう言えば、体調の悪い奴はこの中にいるか?」

副隊長が書類を俺に渡すので受け取る。

名前の一覧に、チェックが数個入っているのがわかる。

「ムロは3日ほど休むことになった。このチェックは?」

「今日ホルフェとマフェが組んだ隊員たちだ。明日はこいつらの討伐時間を増やす予定にしているんだ。今日は楽をしてたからな」

楽?

「どういう事だ? 彼らも今日は頑張っただろ?」

ラーシの言葉に頷き、副隊長を見る。

隊員の今日の働きを思い出すが、楽をしていたような様子は無い。

「気付いてないのか? ホルフェかマフェと組ませると、この2人に自然ときつい仕事が行く事に」

「「えっ?」」

副隊長の言葉に、ラーシも俺も固まる。

そんな事、思いもしなかった。

いや、違う。

本当にそうか?

さっき、俺も過去に囚われたままだと気付いたばかりだ。

もし、自然にホルフェとマフェにきつい仕事が向くようにしていたとしたら?

ちゃんと見れば判断できる事を、気付かないようにしていた可能性は?

「無視をしてた訳ではないみたいだな。気付いていなかったって感じか」

副隊長の言葉に息が詰まる。

「……わるい」

「俺に謝ってもな」

副隊長の言う通りだ。

謝る相手が違う。

だが……。

「まぁ、隊長にもホルフェとマフェにも、きっと不思議な表情をされて終わるだろうけどな」

そうだろうな。

謝ったところで、たぶん彼らには届かない。

それにしても副隊長はよく見ているな。

「ピッシェ副隊長は、いつ気付いたんですか?」

「何を?」

「隊長たちが、まだ過去に囚われていると」

俺の言葉に、副隊長はチラリと俺を見る。

「過去に囚われているのは、隊長たちだけじゃないだろ?」

副隊長の言葉に言葉が詰まる。

「まぁいいけど。違和感があったのは、混ぜ物に襲われた村に行った時だな」

そんなに早く?

「俺、マロフェ隊長に必要とされたいと思ったんだ。昔の俺は何もできず、ただ眺めていただけだったから」

それは多くの者がそうだったはずだ。

あの時、もっと何か出来ていれば。

「昔の事は、俺は仕方ないと思ってる」

仕方ない?

副隊長の言葉に、じっと彼を見る。

「あの時は、それがエンペラス国の常識だった。それを覆すのなんて俺には無理だ」

それは、そうかもしれない。

王は恐ろしい存在だったから。

王の前では、体を小さくして決して目立たないように気を配っていたな。

「でも、今は違う。だから現状を変えるためにどうするか考えている」