軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09.特別調査部隊マロフェ隊長2

―エンペラス国 特別調査部隊隊長 マロフェ視点―

扉の向こうから足音が3人分聞こえてくる。

……やばい、吐きそうだ。

緊張から尻尾が動きそうになるのを、何とか理性で押しとどめる。

何度か深呼吸して気持ちを落ち着けようとするが、無理だ。

思いっきり逃げ出したい。

ガジーは大丈夫だと言ったが、やはりどう考えても俺に隊長は無理だ。

だが、既に受けてしまったし……はぁ。

もういっそのこと、本当に逃げ出すか。

窓を見る。

ここは特別調査部隊の隊長に与えられた部屋で2階にある。

猫獣人の俺には、何の問題もない高さだ。

……はぁ、逃げられないけどな。

決定権は無かったが、覚悟を決めたんだ。

それに俺の行動は、騎士になった獣人達にも影響があるからな。

コンコン。

来た!

「失礼します。本日より特別調査部隊副隊長を務めるピッシェ・ロングラです。補佐の2名と、挨拶に参りました」

副隊長に就いてもらうピッシェには、昨日辞令書を俺の名前で出しておいた。

どう思ったのか気になるが、冷静に、冷静に。

「……どうぞ」

扉を開けたのは、若い男性。

確か、副隊長は俺より1つ下だったはずだ。

後ろの2人は補佐に任命された者達で……あれ?

やばい、緊張で覚えたはずの彼らの情報が思い出せない。

「失礼いたします。本日より特別調査部隊補佐を務めるアバル・ママホです」

「失礼いたします。同じく補佐を務めるラーシ・チェチェです」

あぁ、そうだ。

確かにそんな名前だったな。

ガジーが、補佐ならこの2人が良いと言ったんだった。

騎士歴が長いアバルとラーシなら、各方面に顔が利くだろうからと。

「特別調査隊、隊長のマロフェだ。これからよろしく頼む」

人の上に立つなんて、1年前は考えもしなかった。

……まぁ、1年前はまだ奴隷だったが……。

今はこれを思い出す時じゃないだろう。

緊張で混乱してしまっているな。

ふぅ、とりあえず必要な事だけ言って終わらせよう。

「アバルとラーシだが、俺と副隊長のピッシェにそれぞれついてもらう」

アバルは元第4騎士団でミゼロスト団長の直属の部下だった。

ミゼロスト団長にこき使われていたので、団長や副団長に顔が知られているらしい。

ラーシは元第2騎士団。

ここは他の騎士団と違い、団長と副団長の折り合いが悪く下で働く者たちは大変だったらしい。

その中でもラーシは上手く立ち回っていたと資料に載っていたな。

よかった、思い出せた。

「俺の補佐にアバル。副隊長ピッシェの補佐にラーシだ。……異論はあるか?」

あるなら今のうちに言って欲しいが。

「「「いえ」」」

まぁ、あったとしても言えないか。

まずはどちらも様子見だろうな。

とりあえず、今日は簡単な顔合わせだからこれでいいよな。

終わっても問題ないよな?

「何か質問は?」

俺の質問にラーシが手を挙げる。

「よろしいですか?」

なんだ?

まだ何も失敗はしていないと思うんだが。

「なんだ?」

「森へ出発する日時を確認したいのです。それともまだ、決まっていないのでしょうか?」

あっ……失敗した。

出発の日が急に決まったから、必ず言わなければならなかったのに。

「出発は3日後だ」

俺の言葉に3人が驚いた表情を見せる。

それもそうだろうな。

普通なら2週間は準備期間があるはずだから。

「なぜ、3日後なのですか?」

ピッシェが、困惑した表情で聞いてくる。

執務机の上にある3枚に纏められた紙を取り、ピッシェに渡す。

「先ほど届いた書類だ」

受け取ったピッシェは、内容を読み息を飲んだ。

「これは、本当ですか?」

「あぁ」

俺とピッシェの会話を不思議そうに訊く補佐の2人。

報告書を、補佐の2人にも見せる。

その報告書の1枚目には、数匹の魔物が村を襲った事が書かれている。

「村が襲われたんですか? しかも村人の半分が被害に……」

書かれていた被害の大きさに、ラーシが眉間に深い皺を刻むのが分かった。

魔物についての報告は2枚目にあり、巨大な体に鋭い牙、鋭い爪に茶色の短い毛。

尻尾は長く、毛は無く鱗のようなモノが見られたらしい。

これは生き残った者たちの証言を纏めた物だ。

そして3枚目には、その魔物についてある事実が書かれてある。

その内容は、エンペラス国の前王の命により作られた「混ぜ物」の魔物だと。

ラーシとアバルが険しい表情をした。

「特別調査部隊は森の王との接触が目的だが、『混ぜ物』の駆除も担っている」

混ぜ物と呼ばれる魔物がいる。

それは前王が残した負の遺産。

前王は、違う種の魔物同士を無理やり番わせ、無理やり新しい魔物を生み出すことをしていた。

種が異なるため、子供は出来ないと思われたが魔石の力がそれを可能にしてしまったのだ。

そして生み出された2つの種の特徴を持つ魔物は森に放たれ、森の生態系を壊していった。

この国が生み出した混ぜ物の魔物が、森から外に出てこの国の村を襲った。

自業自得ともいえるが、そう言って放置も出来ない。

騎士は王が守る国と民を守るのが役目だ。

「村を襲った以上、急ぎ対処する必要がある。そのため、急な事で悪いが出発は3日後にした」

3日あれば各自最低限の準備は出来るだろう。

「分かりました。3日後に出発になったと隊員に伝えておきます。村が襲われた事は極秘ですか?」

「いや、極秘ではないので話してくれて構わない」

「分かりました」

これで彼らに言わなければならない事は全部だな?

今度こそ大丈夫だよな。

「話は以上だ。今日は解散」

「「「はっ」」」

3人が部屋から出ていくのを、見送る。

扉が閉まると、ため息が出る。

何とか初日は乗り切れた。

「緊張した」

「そうだな」

「俺はそうでもないが」

獣人は耳が良い者が多い。

それを知っているはずだが、部下となる3人は廊下で話しているようだ。

3人の声が自然と耳に入ってくる。

何を言われるのか、心臓がドキドキと煩い。

「俺が副隊長なんですよねぇ」

この内容と声はピッシェか?

「なんだ、嫌なのか?」

ラーシの少し不安そうな声が届く。

トップ2人の仲が悪いと部下に被害が及ぶので心配なのだろう。

「いえ、それは無いです。俺は副隊長になれて嬉しいですよ」

よかった。

嫌がっていないか、心配だったんだ。

「じゃぁ、なんなんだ?」

アバルがピッシェに聞くと、少し間が開く。

「いや、隊の中には他の獣人がいるので、彼らが副隊長の方が隊長は動きやすいのではないかとおもって」

それは、そうだろうな。

だがガジーは、それでは駄目だと言っていた。

「それだと不満を持つ者がいるかもしれないからな。だから副隊長は人の方がいいんだよ」

トップが獣人だと、直属の部下も獣人しか選ばれないとなったら不満がでる。

その不満を出さないためにも、副隊長には人から選べとガジーだけではなく俺の部下になる獣人からも言われた。

まぁ、失敗したら次からは獣人でいいとガジーには言われているが。

3人の印象は悪くない。

表面上は俺が隊長でも、問題ないという態度だ。

その事にほっとして、隊長としてやらなければならない書類の決裁をする事にする。

「それにしても、機嫌があまりよさそうではなかったな」

あっ。

アバルの言葉に硬直する。

「仕方ないだろう。急に3日後に出発になったんだ。予定が狂って忙しいはずだ。不機嫌にもなるよ」

ラーシの言葉に背中に汗が伝う。

そうでは、ないんだが。

「確かに前に見かけた時より不機嫌だったな。一瞬、怒っているのかと思った」

ピッシェの言葉に、小さくため息を吐く。

元々無表情に近いため、感情が読みにくいと仲間に言われた。

奴隷の時の名残なのか、焦っていても怖がっていても、顔はほぼ動かない。

それなのに、緊張すると少し変わる。

怖い表情へと。

そのため、不機嫌や怒っていると思われるのだ。

今日は朝からずっと緊張をしていた。

気持ちを落ち着けようと何度もしたが、3人の会話を聞く限り失敗したようだ。

「ふ~」

椅子にどかりと座り、息を吐きだす。

顔合わせは成功……だと、思っておこう。