軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3話 光

そろそろとベッドから足を下ろす。

ぐっと力を入れようとするが、入らない。

もしかして歩けないのかと心配になる。

「大丈夫ですか?」

一つ目が俺の足をそっと撫でてくれる。

それに頷いて『大丈夫』と伝える。

が、不安な気持ちが顔に出ていたのか、1体の一つ目が手をギュッと握ってくれた。

「筋力が落ちているだけなので、歩けるようになりますよ。少しずつリハビリをしていきましょう」

その言葉にほっと安堵する。

良かった、歩けるんだ。

リハビリを頑張らないとな。

今日は、丁寧な話し方をする一つ目たちが俺の面倒を見てくれるみたいだ。

一つ目たちには個性がある。

「おはようございます」に「おはよう」、「おっはよ~う」、「やっほ~」など挨拶からして皆違う。

見た目が変わらないため、最初は戸惑った。

でも、よく見ているとそれぞれ仕草が異なる事に気付いた。

それからは、まだ完ぺきではないが区別が付けられるようになった。

一つ目たちも、それを喜んでくれているようだ。

「おはよう。無茶をしちゃ駄目だぞ」

部屋の出入り口から男性が入ってくる。

そういえば、この建物の中には他の人はいないんだろうか?

この男性以外に見たことないんだけどな。

それに、いまだにこの男性の名前を教えて貰っていない。

何度か教えて欲しいと伝えたが、残念ながら伝わらなかった。

主と呼ばれているので、それでいいのかもしれないけど何となく名前が知りたいと思っている。

「ずっと寝てばっかりで暇だろう? 仲間も紹介したいし、リビングへ行こうか」

嬉しい。

仲間という人たちにも会えるみたいだし。

無意識に頷いていたようで、男性は笑って俺の頭を撫でてくれた。

「頼むな」

頼む?

首を傾げると、扉から巨大な蜘蛛が部屋に入ってくる。

その大きさに体がびくりと震える。

えっ、いやいや、大きすぎる!

あまりの大きさに呆然と巨大な蜘蛛を見つめていると、いつの間にか目の前にいた。

「この子は親玉さんな」

へ?

親玉さん?

……親蜘蛛って事か?

まさか名前って事は無いよな。

そんな可笑しな名前を付けるわけないし。

「親玉さん、この子をリビングまで運んであげて欲しいんだ。まだ足腰が弱く1人で体を支えることが出来ないから」

……もしかして名前なのかな?

「わかった。よろしく頼むぞ」

こちらを向く多数の目に、無意識に何度も頷く。

というか、話すことが出来るのか。

ここはどんな世界なのか、すごく気になるな。

親玉さんという巨大蜘蛛は前足を俺に向けた。

何だろう、握手?

蜘蛛と握手ってなんだか不思議だけど……目の前にある巨大な蜘蛛の手をじっと見る。

すると前足の先から何かするすると出てくるのが分かる。

これって糸?

あれ?

蜘蛛の糸ってこんなところから出るんだっけ?

確かお尻じゃなかった?

昆虫図鑑で見た記憶があるんだけど……かなり昔の事だから間違って覚えているのかも。

そっか、蜘蛛の糸って前足から出るんだ。

「これを使ってくれ」

男性が持ってきたのは木の椅子。

座るところにはクッションが置かれている。

どうするのかと見ていると、グイっと体が持ち上げられる。

驚いて体を固くしていると、スーッと横に体が移動してクッションの上に乗せられる。

どうやら親玉さんの糸で体を持ち上げたようだ。

蜘蛛の糸って強いんだな。

感心していると、木の椅子がぐっと持ち上がり地面から15㎝ぐらい上で止まる。

俺の体はいつの間にか、木の椅子に親玉さんの糸でくるくると固定されていた。

落ちないかと不安がよぎるが、親玉さんが歩き出しても安定している。

ほっとするが、やはり自分の足で歩きたい。

リハビリを頑張って早く1人で歩き回れるようになろう。

俺がいたところは建物の2階だったようだ。

それにしても広い建物だな。

廊下がずっと続いている。

それに驚いていると、男性に頭をポンと撫でられた。

「広いだろ?」

男性の言葉に頷く。

記憶にある中で一番の大きさの建物みたいだ。

「子供たちが増えたから、岩山をもう少し大きくしてもらったんだ。まぁ、そのため畑の大移動があって大変だったんだけど」

子供たちが増えたから岩山を大きく?

どういうことだ?

もしかしてこの建物が岩山とか?

周りを見る。木の床に壁に天井。

岩山の要素など、どこにも見当たらない。

聞き間違ったのかな?

それに畑の大移動?

作り変えたって事かな?

「ここがリビングだ。皆連れてきたぞ。まだ体がもとに戻っていないから、無茶な事はさせないでくれよ」

男性の声にリビングから嬉しそうな声が上がる。

歓迎されているのか?

それだといいな。

少し緊張しながら、リビングに入る。

そして、ちょっと唖然としてしまった。

「待っておったぞ」

どう見ても凶暴な顔の犬? がいる。

それもたくさん。

あれ? 人は?

リビングを見渡す。

あっいた。

でも、人では無いかもしれない。

だって、人は空中に浮かんだりしないもんな。

あ~、やっぱり違うな。

羽を持っている者もいるのか。

ん?

ケモ耳が付いた人?

「少し強面のやつらもいるけど、皆いいやつだから。仲間思いだしな」

男性が部屋の中心に行くと親玉さんもついていく。

「ここでいいかな?」

空中に浮いていた椅子が地面に置かれると、ふわっと体だけが近くにあったソファに移動させられた。

「これで良し! 親玉さん、ありがとうな」

男性がそういうと親玉さんという巨大蜘蛛の体を撫でている。

すごい、普通に撫でてる。

そっと手を伸ばして俺も撫でてみる。

ひんやりとした冷たさが伝わる。

俺が撫でたので驚いたみたいだが、特に嫌がるそぶりもなく受け入れてくれた。

「紹介していくな。この子から……」

男性の隣にすっと並んだ、強面で大きいサイズの銀色の犬?

犬にしては体が大きい。

あっでも、この世界は蜘蛛ですらあのサイズだ、すべてが大きい……って事は無いか。

男性は俺が知っている大きさだった。

それに、浮かんでいる人の姿をした彼らもそれほど大きくない。

ケモ耳を持った彼らもだ。

「コアにその相棒のチャイ。種は違うけど夫婦だな。で、隣がえっと……2匹の子供たちだ。そっちはアイとネア。ちなみにコアはフェンリルでチャイはダイアウルフ。アイとネアはガルムと言う種類だ」

フェンリルってどこかで聞いたような気がする。

何だったかな?

伝説の生き物? って、まさかそんな事は無いか。

「親玉さんは紹介したな、隣のアリがシュリだ。親玉さんは確かチュエアレニエという種類でシュリはアンフェールフールミという種類だ。で、リスたちだ。体は青緑で角があるけどな。彼らの種は何だったかな?」

「主、我々はラタトスクです」

「そうだった。ごめん」

やはり親玉さんは名前だったのか、どういう経緯でそんな名前になったんだろう。

それにしても巨大蜘蛛に巨大アリ。

存在感がありすぎる。

それにリスには角があるし、そもそも体の色が……。

「で、今日はみんな小さいサイズになってくれているけど、右から『ふわふわ』『飛びトカゲ』『マシュマロ』『毛糸玉』『水色』だ。種は見たまんま龍」

ん?

今何か可笑しな言葉が並んだよな?

ふわふわ? 飛びトカゲ? マシュマロ? 毛糸玉? 水色?

この流れから言ったらこれが名前だよな?

えっと、本気でこの名前?

「あ~、言いたいことは分かる。だけど俺だってもっとかっこいい名前に変えようとしたんだ。なのにみんなそれが気に入ってしまって……。何度か挑戦したけど、無理だった」

なるほど、男性のせいではないのか?

いや、そもそもそんな名前はどこから発想したんだ?

ふわふわっていったいどこから?

龍の姿から毛糸玉なんて出てこないよな?

「あっ! そういえば君の名前を知らないな」

今のこの流れで名前とか訊かれるのは、ちょっと怖いな。

「自分の名前を憶えてないか?」

えっ?

名前?

………………わからない。

首を横に振る。

「そうか。ん~、何がいいかな?」

あっ、知っていると言っておいた方がよかったかも。

男性を見る。

何かを考えているようす。

って何かではなく名前だよな。

普通の名前がいいな。

「光、なんてどうだ?」

良かった。

普通の名前だ。

「気に入らない? だったら別の」

しまった。

安心して反応するのを忘れた。

隣にいる男性の腕を必死に掴む。

そして何度も頷く。

「名前……光でいいのか? もっと頑張って工夫するぞ?」

止めて!

それでいい、光でいい。

「そんなに必死にならなくても。まぁいいか。今日から光と呼ぶな」

ほっとして息をつく。

「皆、この子は光だ。仲良くしてやってくれ」

良かった。

……あれ?

あの浮かんでいる彼らの紹介がまだだよな。