軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36.エントール国 第3騎士団 団長2

-エントール国 第3騎士団 団長視点-

「やはり森の中だけでしたね」

副団長の言葉に後ろを振り返るが、眷属の魔物の姿はどこにもない。

それを寂しく思っている団員達は、何度も後ろを振り返っては残念そうな顔をしている。

眷属の魔物は、森を出るまでずっと一緒に行動をしてくれた。

そのお蔭なのだろう森の中に8日間もいたが、魔物と戦うことなくエンペラス国に着くことが出来た。

森の中には、かなり強い魔物がいる。

遭遇を避けるため、俺達が歩いて来たのは森の開けた部分だ。

比較的強い魔物が出にくい場所だ。

とは言え、森は森。

遭遇しない可能性が高いだけで、ないわけではない。

かつて森には、隣国に行くための道があり眷属の魔物たちが守っていた。

が、森を覆い尽くした呪いのせいでその道は消え去り、眷属の魔物達は姿を消していた。

ここ数百年の間に森は獣人にとって、危険な場所へと変貌した。

幼い俺は、眷属の魔物の事を書物で読んで、精霊同様に憧れた。

魔力を増やして精霊を見てみたい、眷属の魔物と共に森を歩きたい。

魔力は頑張れば増やすことが出来るが、眷属の魔物は諦めていた。

それが、まさか叶うとは。

気を抜くと顔がにやけてしまいそうだ。

「でも、すごかったですよね。あの咆哮。聞いた瞬間、体中が震えました」

補佐の言葉に、3日前の事が思い出される。

眷属の魔物が少し威嚇するだけで、魔物は逃げていくのだが、3日前の夜。

それを破る魔物が8匹も現れた。

俺達もすぐに武器を持ち、戦う準備をした。

8匹の魔物が一斉に俺達に向かって走った瞬間、重低音が森の中に響き渡った。

それは眷属の魔物が出した咆哮。

その迫力に、俺達も魔物たちも動けなくなった。

森の中から現れた、もう1匹の眷属の魔物にも驚かされたな。

2匹になった眷属の魔物は、体中に魔力を纏わせて威嚇した。

その後ろ姿は勇ましく、俺達全員の目に焼き付いた。

魔物たちが尻尾を巻いて逃げたのにも納得だ。

今でも鮮明に思い出せる、あの咆哮と後ろ姿。

団員達もその姿を思い出すのだろう、森から抜けてもまだその話で盛り上がっている。

とはいえ、いつまでもそれでは駄目だな。

ここは既にエンペラス国なのだから。

「気を引き締めろ。エンペラス国だぞ」

『ハッ』

部下達はすぐに隊列を整えると、綺麗な行進を始める。

この辺り、副団長に感謝だな。

訓練してくれたのは彼なのだから。

少し視線を遠くへ向けると、旗を持った騎士達の姿が目に入った。

「出迎えですね」

副団長の言葉に頷くと、後ろに並ぶ部下達を見る。

先ほどの興奮はなりを潜め、しっかりとした顔つきをしている。

問題ないな。

「行くぞ」

俺の声に少し歩みが速くなる。

通常、団長、副団長等は馬に乗って移動するが、森の中が危ないため今回は俺達を含めて全員が歩きだ。

それを馬鹿にされる可能性があるかもな。

まぁ、そんな奴は俺から言わせれば愚か者だが。

「楽しそうですね? 馬鹿な振る舞いはしないでくださいね」

副団長の言葉に憮然とする。

他国の者を相手に、そんな事するわけがないだろうが。

いったい副団長は、俺をなんだと思っているのだ。

一度じっくり聞く必要があるのか?

……いや、やめておこう。

なんとなく立ち直れなくなる予感がする。

「長旅ご苦労様です。エンペラス国、第4騎士団団長ミゼロストと言います。王城までご案内させていただきます」

「ありがとうございます。エントール国、第3騎士団団長ダダビスです。こちらこそよろしくお願い……します」

あれ?

合ってるよな?

まぁ、大丈夫だろう。

「森の中は大変だったのではないですか?」

「覚悟はしていたので。それに眷属の魔物が守ってくれましたので」

「えっ! 眷属の魔物ですか? それはまた、すごいですね」

なんだ?

まだ、眷属の魔物に会った事は無いのか?

森に守られた王がいるから、もう会っているかと思ったのだが。

そうか、俺達の方が早かったのか。

やばい、顔がにやける。

「くっ」

「どうされましたか?」

「ぃ、いえ、なんでもありません。ハハハ」

副団長、いきなり肘鉄とかやめろ。

睨み付けると、睨み返された。

にやけたのがばれたようだ。

少しぐらい大目に見てくれてもいいだろうが、肘鉄で悶絶したらどうするんだ。

それにしても、エンペラス国の畑って広大だな。

見渡す限り畑だが……この時期に何も植えていないのは混乱が生じて手が回っていないからか?

あれ、おかしいな畑から魔力を感じる。

気のせいか?

「団長。畑から魔力を感じるのですが、どうしてでしょう?」

補佐が小声で聞いてくる。

エンペラス国では、畑に魔力を使用しても問題ないのだろうか?

もしそうなら、少し話を聞きたいものだ。

エントール国ではここ数年、畑の実りが減ってきていた。

今年は実りが良いと聞いたが、どこまで増えたのかはまだ調査中だ。

川の復活で実りが増えたと考えられているが、他の対策も考えておいた方が良いだろう。

聞いてみようかな。

「な、何だあれ!」

「団長! 上! 上を!」

考え込んでいると、いきなり周りが騒がしくなる。

他国なのだから、騒ぐなと言っておいたのに!

部下に視線を向けると、全員が上を向いて口を開けている。

見事な馬鹿面だ。

「あれは、フェンリル?」

えっ、フェンリル?

エンペラス国の第4騎士団、ミゼロスト団長も上を向いているので視線を追う。

「はっ」

上空にフェンリルと思われる存在が1匹、その後ろにはおそらくダイアウルフが1匹いる。

本で勉強したから間違いないだろう。

そしてその後ろには先頭を走っているフェンリルより、少し小柄なフェンリルが4匹。

「先頭のフェンリルは大きいな、もしかしてフェンリル王か? しかしどうしてここに?」

ミゼロスト団長の声にハッとして口を閉じる。

やばい部下の事を馬鹿に出来ない。

あれ?

先頭のフェンリルの上に誰か乗っている。

しかも、止まってこっちを見ているような気がする。

「団長、どうしますか?」

「「どうするって……ん?」」

ミゼロスト団長と声が重なる。

視線があうと、お互いに苦笑いしてしまった。

「すまない。フェンリルについて何か知っているか?」

「書物の情報ぐらいだ。それより、フェンリルの上に誰かが乗っているように見えるのだが」

「ちょっと団長、言葉、言葉遣い!」

あぁ、素で話してしまった。

「問題ない。こちらも素で話させてもらう。どうも畏まった話し方は苦手でな」

「ミゼロスト団長もなのか、俺もなんだ。よかった安心した。って話は戻るがあれは人か?」

「人の姿はしているが。フェンリルと言えば森の王の一角。森の王の上に人?」

「人ではありえないな。森の王が乗せる存在……神か?」

フェンリル王だと思われる存在に乗っている者は、手を翳し何か魔法を発動したようだ。

畑の上で魔法を発動する事に驚くが、もともと畑からは魔力を感じている。

もしかしたら、森の神が畑に魔力を?

「すごい、何が起こっているんですか?」

補佐の言葉も当然だろう。

見渡す限りの畑が光り輝き、しばらくすると光の粒が空に舞い上がっていく。

そしてその光の粒が、フェンリルの上にいる者に集まって吸収されていく。

いや、吸収されているわけではない。

手に何かを持っている、そこに消えていっているようだ。

「畑から魔力が消えているようです」

「えっ、あ、本当だ」

呆然自失の副団長の声に、畑に視線を向ける。

確かに、先ほどまで感じた魔力が綺麗さっぱり消えている。

どういう事だ?

「なぜ?」

ミゼロスト団長が呆然と畑を見ている。

やはり意味があって畑に魔力を施していたのだろうか?

「この国では畑に魔力が触れても問題なく作物が育つのか?」

「え? どういう事だ?」

「えっ? いや、魔力を含んだ土だと育ちが悪くなって、最後には何も育たなくなるだろう?」

「そうなのか? 前王からの命令で畑にはかなり魔力が注がれたと思うが……そうか、それで」

ミゼロスト団長が何か納得した様子を見せた後、空に視線を向ける。

しかし、そこには既にフェンリル達の姿も、森の神だと思われる者の姿もなかった。

……使者になってよかった。

森の神にまさか会えるとは。