軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12.マスタード作り2

引っ越ししてすぐの春の日、ふと見ると牧草地の一角に黄色い花が咲いていた。これがからし菜だった。

花が散った後、びっしりと種が詰まったさやが出来る。この種がマスタードの素になるのだ。

種の収穫タイミングは茎も葉も茶色く枯れ果て、夏の太陽光にカラカラになった今時分だそうだ。

前の住人が育てたのか勝手に育ってしまったのかは不明だが、牧草地のかなりの面積がからし菜畑になっていた。

たっぷりマスタードが作れそうだということで、今日は総勢十名の少年達が集まった。

「あら、マスタード作るの? うちにも分けて」

マスタード作りのことを話すと、肉屋のおかみさんは前渡しで報酬のソーセージをくれた。

プリプリの美味しそうなソーセージを受け取ってしまったため、頑張らざるを得ない。

少年らも同様に家族の期待を背負っている。

マスタードは種のままなら年単位で保管出来る。

ご家庭で消費するもよし、お裾分けにもまたよしと、大変便利な調味料なのだ。

マスタード作りは、まずからし菜を刈るところから始まる。

要領は麦刈りと同じで下の方からざくっと刈りとり、出来るだけ揃えた状態で並べる。

少年達は刈ったからし菜のさやを見つめ、真剣な表情で何事か話し合っている。

ジミー達は何度かマスタードを作ったことがあるそうで、作業は彼らが主導する。

「これ大丈夫かな?」

「よく乾燥してるし、大丈夫じゃない?」

振り返って少年らは私に言った。

「リーディアさん、今日、全部は無理だけど出来るやつは種取りする。脱穀機出して」

からし菜も小麦粒同様、ある程度乾燥してないとうまく採種出来ないが、一部の良く乾燥しているさやは、すぐに採種に入れるようだ。

「あー、分かった」

それを聞いて私は納屋に向かう。

「よいしょっと」

私は納屋に保管されていた脱穀機を持ち出した。

色々タイプがあるらしいが、うちの納屋にあった脱穀機は鉄製の歯が櫛状に付いたでっかいローラー式で、中に穂を入れ、ローラーを回すことで穂と実を切り離し、重量の重い実のみを下に落とす仕組みだ。

本来は小麦の脱穀に使う農具なのだが、からし菜から種を取り出す採種も脱穀と似通った作業なので使い回せる。

脱穀機は高価な農具だが、購入の際、領主から補助金が出るそうだ。おかげでゴーラン地方ではこうした便利な農機具が普及している。

ゴーランで一番稼げる仕事は冒険者だ。農業はあまり人気がなく、なんとか生産性や労働環境を向上させて、農業人口を増やそうとお役所も四苦八苦しているらしい。

色々大変だろうが一住民としては、いい農機具が使えてありがたい。

皆で手分けして作業をするうちにあっという間に昼が来た。

十二時になったので、私は少年達に呼びかけた。

「おーい、皆、お昼を食べよう」

肉屋のおかみさんは長さ二十センチくらいの大きくて食べ応えのありそうなソーセージをくれた。

そこで私は同じくらいの長さの細長いパンを焼き、ホットドッグを作った。

パンに切り込みを入れ、焼いたソーセージとレタスを挟んでケチャップをかけたら出来上がりというシンプルな料理だが、これが少年達の心を鷲づかみにした。

「うひょー、うまそう!」

元々食べ物を前にするとテンション高めな子達だが、踊り出しそうな勢いである。

確かにソーセージ、パン、ケチャップと少年達が好きなもののみで構成されている。

夢中で食べて、食べ終わった子から、

「リーディアさん、おかわりある?」

「俺も」

「俺も!」

と大合唱になった。

「はいはい、あと一本ずつあるからね。でも先にサラダを食べなさい、サラダを」

そう言うと少年達は慌ててサラダを食べ始めた。

さて、この間にホットドッグを用意しよう。

昼食が終わったら作業の続きだ。

脱穀機から落ちたからし菜の種はそのままでは小石だの茎などが混じってしまっている。幾度かふるいにかけ、余計なものを取りのぞく。

取り出した種は雨風にさらされ汚れているので、丁寧に洗い、数日間よく乾燥させるとからし菜の採種は完了だ。

種をワインビネガーに漬けて一週間おき、塩、砂糖を加えてすりつぶすとマスタードになる。

ソーセージにも合うし、ポトフに添えたり、マスタードソースにもなる、なかなか重宝な調味料だ。

ただ採種にはいくつもの工程があり、それぞれ結構な重労働である。十名の少年が集まっても今日一日で全体の三分の一が終わったくらいだ。

夕方に作業を終えて、夕食を作る。

今日は頑張ってくれたので、少年らが好きなクリームシチューだ。

彼らはまた「うひょー、すげぇ」と歓声を上げた。

***

少年達はうちのまかないが気に入ったらしく、それからよく手伝いに来てくれた。

小麦の脱穀もあるし、畑仕事も大わらわなので、彼らの存在はありがたかった。

まかないにプラスして低ランクの冒険者の賃金相当を報酬として渡したが、これはジェリーと相談して決めた。

こういう賃金はあんまり高くても低くてもよろしくない。周囲の相場と釣り合いを取らねばならない。

そんなわけで私は少年達をとても頼りにしているが、今日の作業は「テストの日」とやらで彼らが絶対に来ない日を選んだ。

理由は少し危ないのと、魔法を使うからだ。

私が魔法使いなのはなるべく秘密にしておきたい。

「さて」

私はもう一度魔法書『緑の魔女達』を読み直し、手順を確認する。この本は手元に置いておきたくて結局買ってしまった。

そして向かったのは蜂の巣箱である。

我が家の牧草地や畑などところどころで大きな木箱が放置されていた。

引っ越し直後から「何だろなー?」と思っていたその正体は前の住人が残していった養蜂用の巣箱だった。

引っ越してすぐに一度中をのぞいてみたが、越冬中に世話をする者がいなかったせいか、蜜はほとんどなく、蜂の数も少なかった。

餌のない冬の間は花粉を補充してやったり、寒くないように巣箱を布で覆ったりと世話してやる必要があるのだ。

そうした世話を欠いたため、蜂達はかなり数を減らし、生き残った蜂も弱っていた。

そこで春の蜂蜜採りはしないでおき、しばらく巣が元気を取り戻すのを待つことにした。

季節が変わって、夏。

再びのぞきこむと、春になって餌となる花粉も増え元気になった蜂達が集めた蜜が、巣箱いっぱいに詰まっている。

「うん、いけそうだな」

とある夏の日、私は蜂蜜を採ることにした。