軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08.春の嵐

私は大急ぎで畑を突っ切った。

それが牧草地に向かう最短コースだ。

ピョョョーン。

変な音がしてそっちを見ると、魔法のかかし、ジャック・オー・ランタンが一本足で横をぴょんぴょん跳んでいる。

「誰かが助けを呼んでいる! 手分けして探してくれ!」

私は右手に、ジャック・オー・ランタンは左手に別れ、声の主を探す。

「助けてー!」

また声が聞こえた。

私は嵐のような風に負けぬよう大声で問いかける。

「おーい、助けに来たぞ! どこにいる!?」

「助けて助けて助けてー。お願い! 早くしないと食べられちゃう!」

なんだか小さな子供のような甲高い声だ。

牧草地にいるようだが、ここは広く、背の高い草も生えている。さらにこんな風の強い夜だ。月も雲に隠れてしまってあたりは暗い。

私は声の主を見つけ出せずにいた。

その時。

吹きすさぶ風の中、「カランカランカランカラン」と気の抜けたベルみたいな音が聞こえた。

何だ?

見ると、ジャック・オー・ランタンが激しく頭を振って私に居場所を知らせている。

「今行く!」

私が駆けつけた時、でっかい猫みたいな魔獣がねずみのような生き物を口に咥えていた。

「助けて!」

ちいさな生き物は私に向かって手を伸ばす。

ねずみじゃない! ブラウニーだ。

私は木剣を横に構え、思い切り魔獣の鼻を強打した。

「みぎゃん!」

と悲鳴を上げて魔獣はブラウニーを口から落とす。

「ぐるる……シャー!」

魔獣は私に向かってきた。だが、猫として見たらかなり大きいが、魔獣としては小さい部類だ。

魔物の中には俊敏なやつもいるが、動きも私程度で対応出来る早さだった。

難なく攻撃は当たり、すぐに魔獣は動かなくなる。

「大丈夫か?」

赤茶色の髪に赤茶色の目をしたブラウニーはねずみよりは大きいが、小型犬くらいのサイズだ。

今まで見たブラウニーの中では一番小さい。

私はブラウニーに回復魔法を掛けてやった。

幸い、ひどい怪我はしてなかったようだ。

「う、うん、ありがとう、ニンゲン」

「君、よその家のブラウニーかい?少しうちで休んでいくといい。うちにはブラウニーがいるから安心しなさい」

「そうだぞ」

「そうだ」

いつの間にか、ブラウニー達が来ていた。

「よいしょっと」

私は魔獣を両手に抱きかかえた。

魔獣は私がボコボコにしたせいで気を失っているが、できる限り手加減した。骨は折れてないだろう。

外見は猫に似ているが、かなり大型で紫色の体毛、おまけに額には魔石のような石が付いている。どうみても普通の猫でない。

「おい、そいつをどうする?」

ブラウニーが尋ねてきた。

「怪我しているから連れて帰って手当してやるつもりだ」

「ひっ」

と助けたばかりのブラウニーが悲鳴を上げる。

「こいつは」

とブラウニーは魔獣を指さし、次に小さなブラウニーを指さした。

「そいつを食べようとしたんだぞ」

このブラウニーはいつも不機嫌そうだが、今の彼は本気で怒っている顔だ。

「テイムして従属させる。うちにいる間は妖精も家畜も食べさせない」

「なんで、リーディアは魔獣を助けるの?」

と灰色のブラウニーが聞いた。

「ごらん、こいつはとても痩せているだろう。本物の魔獣じゃなくて多分どこかの猫と魔獣の交雑種だ。お腹を空かせてここに来て、ブラウニーを食べようとしたんだ」

牛と魔牛の交雑種、ミルヒィ種というのは、放牧中の雌牛が魔牛と交配して生まれるケースがほとんどだ。

我が家の牛、ケーラは普通の牧場で飼われているただ一匹のミルヒィ種で、他の牛と馴染めていなかった。

この魔獣型の猫も普通の猫のようには暮らせない。だが、魔獣のように強くもないからダンジョンでも暮らせない。

「……私と同じだ。どこにも居場所がないんだよ」

もう魔法騎士には戻れない。でも普通の女性のようには暮らせない。

私もこいつもどっちつかずの中途半端な存在だ。自分を見ているようで、見捨てられない。

「だから、怪我が治るくらいまではここにいさせてあげたいんだ」

「居場所か」

とブラウニーが呟いた。

「俺だってここ以外居場所はない」

何故か彼は威張って言った。

「僕だってないよ」と二番目が。

そして三番目のブラウニーが言った。

「僕だって」

「家を追い出されたのか?」

と一番目のブラウニーが聞く。

「うん、しゃべっているところをニンゲンに見られて、気持ち悪いって言われて……」

住処を追い出されたらしい。

なかなかブラウニーも大変だ。

「じゃあ、ここで暮らせばいい」

私は彼に言った。

「いいの?」

「ああ、お前達がいいならね。ずっといればいいよ」

こうして我が家に暮らすブラウニーがまた一人増えた。

魔獣型の猫は衰弱していたがすぐに元気になった。

私が掛けた従属の魔法は、この家に住む限り、妖精と家畜は襲わないこと。

家から出て行ったら解除されるから、出て行くことを選ぶかと思ったが、この雌の魔獣猫は我が家に居着いた。

だが彼女は家猫にはならず、野外にいることを好んだ。よく、ジャック・オー・ランタンの足下で寝ていて、牧草地や森でも見かける。

餌は自分で採っていて、家の中でねずみを見かけることがなくなった。

ちなみにジャック・オー・ランタンのおかげなのか、この魔獣猫のおかげなのか、うさぎも見かけなくなった。

よってせっかくレシピを教えて貰ったが、うさぎのフォンは作れていない。

そういえば肉屋のおかみさんの続報によると、フースの町の春の祭りに領主が来たらしい。

しかし彼は着飾った娘さん達には見向きもせずに町長と町の冒険者ギルド長と熱心に仕事の話をしていたそうだ。

フースの町は二つのダンジョンのちょうど中間にあり、さらに国境の近くだ。冒険者向きの仕事はいくらでもあるので、多くの冒険者がフースの町を拠点にしている。

ゴーランはダンジョン経営も産業の一つなので、商売熱心という領主はこの機を逃さず情報交換にいそしんだのだろう。

だがそれでは女性陣はさぞかし落胆したのでは? と思いきや。

「あの方、ちょっと女性嫌いらしいのよ。そこがストイックでカッコイイーって娘さん達がもう大変」

と何故か好感触だったらしい。

おかみさんの話では、領主は「切れ長の瞳のイイ男」だそうだ。

モテるんだろうなー。関係ないからどうでもいいけど。