軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05.蜂蜜とバターのラスクとバターミルク

「よその家で食べ物をもらってはいけないとお家の人に言われている子はいるかい?」

食べ物を口にすることで体がかゆくなったり、宗教上の理由や家の方針でよその家で食事を食べてはいけないと言い聞かされている子はいる。

だが、全員そうではないというので、私は少年達にミルクを出してやった。

「ラスクがあるんだけど、食べるかい?」

と聞くと頷いたので、蜂蜜とバターのラスクを一人二枚ずつ、皿にのせた。

美味しくないパンをなんとか食べ切ろうと、ラスクを作ってみたのだ。

作り方は簡単。

蜂蜜とバターを混ぜ合わせ薄切りにしたパンに塗り、予熱したオーブンで十分ほど焼くだけだ。

初めての家だからか、彼らは緊張しながらラスクを口にしたが、一口かじると、

「うわー、うめぇ」

感嘆の声が上がる。

ふふふふ。

ふふふふふふふふ。

美味しくないパンを差し引いてもラスクはかなりよく出来た。

実は使っているバターが自家製なのだ。

朝、ブラウニー達が乳を搾ってくれる牛乳を沸騰させないように弱火に掛ける。

その後、しっかり冷ました牛乳を瓶に入れ、振る。ひたすら振る。

すると、上の方に黄色い固形物が出来る。

それを濾すとバターになるのだ。残ったバターミルクを我が家はミルクと呼んでいる。

通常のミルクに比べて若干味は薄いが、さっぱりとしていて普通に飲める。

ちなみに生クリームを作る時は振らずに置いておく。上の方に溜まる上澄みが生クリームになる。

何食わぬ顔で、「味はどうかな」と聞くと、

「美味しいよ、ありがとう、おばさん」

……少年は満面の笑みを浮かべ、言った。

告白しよう。

ショックだった。

騎士団の同僚には子や孫がいて、親御さんから重々言い聞かされていたのだろう。

彼らは私を「リーディアさん」とか「お姉さん」と呼んでいた。

しかし初対面の少年は私を「おばさん」と呼んだ。

考えてみれば、私は二十六歳。

彼らの母親と同世代だ。それはもう未婚でも「おばさん」だろう。

あれは忖度のたまものだったのだなぁと今更元の同僚達とそのご夫人に感謝した。

おかげさまで二十六年も自分が「おばさん」であることを直視せずに生きてこれた。

「うん、美味しいよ、おばさん」

「美味い美味い」

と他の子も美味しそうに食べている。

彼らに遅れて少年達の一人、ノアと呼ばれた少年が遠慮がちに言った。

「あのう、リーディアさん? 美味しいです」

おそらくジェリーから私の名前を聞いていたのだろう。

「そうかい、ありがとう。おかわりが欲しい人!」

尋ねると「はい!」と全員が勢いよく手を上げた。

そこで一枚ずつラスクを追加であげたが、あのノアという子、あの子の分はバターがちょっと多めに乗ったやつを選んだ。

うん、まあ、このくらいは許されるだろう。

断っておくが大体均一になるように作っているので大きな違いはない。

だが、他の三人の子達は大変めざとく、ノアの皿を凝視した。

「「「…………」」」

「あの、リーディアさん、美味しかったです」

「うん、リーディアさん、これ最高!」

「リーディアさんのところの牛のバターなの?」

と彼らは急に私を「リーディアさん」と呼んできた。

***

「君達、これから森に行くのかい?」

「うん。森に入ってもいいんでしょう?」

とジミーと名乗った子が言った。

「もちろん構わないけど……行く前に」

私は立ち上がり、戸棚を引っかき回して、小さな巾着を四つ、取り出した。この前ポプリ入れにしようと町で買ってきたものだ。

そこにラスクを二枚ずつ入れる。

「何してるの?」

少年達から不思議そうに問いかけられた。

私は銘々にラスクが入った巾着、それから四人分の水が入った大きめの水筒を渡して、彼らの目を見て言った。

「いいかい? まず森の奥に入ってはいけない。入りたい時は大人の人と一緒の時にしなさい。それに二時間後には必ずここに戻りなさい。鐘を鳴らすからね。鐘が聞こえなくても太陽の位置が変わってしまったと思ったら戻ってきなさい。皆が戻ってきたら昼食を食べよう。四人、離れないで一緒に行動するんだよ。でももし迷子になってしまった時にこれを食べて待っていなさい。出来るだけ動かず、じっとしているんだ。迎えに行くからね」

ここでは普通のことらしいが、私としては子供だけで森に行かせるのは心配だ。せめて非常食と水くらいは渡しておく。

私の心配をよそに、彼らは二時間後に無事戻ってきて、私にきのこや薪やハーブをくれた。

少年達は昼食に卵のサンドイッチとハムとチーズが挟まったサンドイッチ、それから野菜とチキンのスープを食べると、

「お礼に畑仕事してあげる」

ぱーっと畑に走って行き、雑草を摘むとか、支柱を付けるとか、いらない葉っぱを剪定するといった高度なことまで、パッパッと手際よく済ませてから、

「じゃあねー、リーディアさん!」

と帰って行った。

嵐みたいな少年達がいなくなって、静かな我が家に戻る。

「さてと」

少年達は クマニラ(ラムソン) を摘んできてくれた。

ラムソンのスプレッドを作ろう。

よく洗って乾かしたラムソンの葉っぱをみじん切りにしてすり鉢ですりつぶしてペースト状にする。松の実を加え、オリーブオイルと塩で味を調えればスプレッドは出来上がり。

ラムソンはベアラオホなどとも呼ばれて、冬眠から覚めた熊が好んで食べるという。ニンニクとニラのちょうど中間の味わいで、春そのものという香りだ。

早速、パスタソースにして食べてみることにした。

これはじゃがいもに付けたり、クリームスープに混ぜても美味しいらしい。

もう一品はベーコン、玉葱、じゃがいもに畑でとれたグリーンピースを入れたチーズのオムレツ。

ちょうどパスタが出来た頃に、

「風呂を洗ってやるから飯を食わせろ」

「ランプを磨いてあげるから、お願い」

とブラウニー達が顔を出す。

「ああ、頼むよ。そういえばブラウニー達はチーズ作りがとても上手いそうだな、お前達作れるのか?」

「作れるぞ」

とブラウニー達が頷く。

「そのかわり、ラスクをくれ」

「くれ」

ブラウニー達は意外と甘い物が好きらしい。

少年達もラスクを喜んでいたし、今度町に行ったらお菓子の本でも読んでみようか。

そんなことを思いながら、ラムソンのパスタを食べた。