軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17.アルヴィン9

一年ぶりか。

そう思いながら、アルヴィンは王都の大門を見上げた。

一年に一度は王に挨拶するのが諸侯の習わしで、アルヴィンも特段別の用事がない時は渋々王都に行き、王と謁見する。

あまりいい思い出がない街なので、要件が済めばさっさと帰る。

だがどんなに中央を憎んでも王都の華やぎには驚かされたものだが、昨今は昔ほどの感慨はない。

表向きは何も変わらないが、貧民窟が一段と広がっている。

ドブのような匂いが、大通りまで漂ってきている。

衛生に関する予算が削られているのだろう。あやつらは自分らの贅沢には金を惜しまんが、他には渋いのだ。

ただ、国庫に金がないというのは事実だろう。

原因の一つに南部がある。

ここ数年、国は南部ルミノーという最大の穀物庫を失っている状態だった。

その分、他の領地の小麦が高値となるので、穀倉地帯を持つ貴族達はこれを歓迎したが、割を食うのは一般市民だ。

小麦の値が上がれば、彼らは飢えるしかない。

病気や怪我のリスクも増え、生活は困窮する。食い詰めた者達はその日暮らしの貧民に成り下がる。

国力は緩やかな坂を下るように衰えつつあった。

反王妃派は以前から自分達の利益だけ考える王妃や宰相に反対の立場だったが、最近は王妃派と呼ばれている貴族でさえ、王妃と宰相に疑問を持つようになっていた。

とはいえ散々美味い汁を吸っておいて、今更怖じ気づくとはふがいない奴らだとアルヴィンは思っている。

やりたい放題だったギール家だが、南部でついに尻尾を掴んだ。

今日、凱旋を果たし、王に謁見すれば、王妃は幽閉。宰相は死罪となる。

アルヴィンはほくそ笑む。

ざまあみろ、俺達の勝ちだ。

……と言いたいところだが、どうももう一波乱ある気がしてならない。

まあ、あの王だしな。何があってもおかしくはない。

そう考える程度には、アルヴィンは国王を信用していない。

***

舞踏会にギール家の兄妹が参加することは、さすがのアルヴィンにとっても驚きだった。

彼らはまだ諦めてはいない。

アルヴィン達も受けて立つ覚悟だ。

そうと決まれば、準備に取りかからねばならない。

「さて――――」

そして迎えた舞踏会当日。打つ手はすべて打った。

後は王妃と宰相がどう出るかだが、アルヴィンは一つ、気がかりな噂を聞いた。

ギール家の兄妹、宰相と王妃は闇属性ではないか――?

闇属性は王都ではかなり嫌われる属性だ。

そのため、中央貴族は必死にこれを隠す。

王妃達は魔法はあまり得意ではないという話だが、闇属性の魔力を隠すためではないだろうか?

そしてもう一つ。

アルヴィンは舞踏会の直前、王都に移送された元魔法騎士達三十名が行方不明になったという話を知らされる。

***

「アルヴィン、久しぶりだな」

舞踏会の最中、アルヴィンは北の辺境伯ロシェットに声を掛けられた。

貴族の中では珍しく馬が合うが、北と西と距離が離れているせいで滅多に会うこともない相手だった。

向こうが十以上年が上なので、兄のように気安く接してくる。

「弟」としては鬱陶しいと思うところもあるが、頼れる兄である。

リーディアの生家、ヴェネスカ家はこの北の辺境伯家の派閥だった。

婚約の祝いを述べられた後、

「まさかリーディア嬢をお前がさらっていくとはな」

軽い口調で言われたが、ロシェットの黄色い目は笑っていない。

かなり本気で自分のところの親戚、あるいは腹心と娶せるつもりだったんだろう。

ロシェットはサーマスと踊るリーディアに視線を向けた。

つられてアルヴィンも二人を見る。

リーディアは濃い紺色、サーマスは白の騎士服と二人の服はまるで対のように見える。

ダンスの息もぴったりでイラッとするアルヴィンだったが、その瞬間、リーディアがこちらを振り返る。

彼女はアルヴィンに向かって微笑んだ。

アルヴィンは思わずにやけた。

そんなアルヴィンを見て、ロシェットはニヤリと笑い、言った。

「まあ、二人にとっては良かったようだな」

ロシェットの用はアルヴィンをからかうためではなかったらしい。

彼は、「今後だが、北はフィリップ王太子殿下を支持する」と自らの立場を表明した。

王妃派が消えれば、フィリップ王太子は敵なし、といいたいが、この先も難題山積だ。

今は王家自体が求心力を失っている。

その上フィリップ王太子は聡明だと評価は高いが、王妃派との諍いを避けてきたその対応を弱腰だと批判する者もいる。また十六歳と若いため南部平定以外に大きな功績がなく、その政治手腕が不安視されていた。

王太子派は国内貴族の支持を集め切れていない。

王の子は王太子フィリップと王妃の子ロバート王子だけだが、王の弟にヨリル公爵がおり、先々代の王の孫達がいる。

今のままでは、貴族達はこれらの王位継承者達を担ぎ出しかねない。

だがアルヴィン同様、中央と距離を置いていた北のロシェットが西のアルヴィンと共に、王太子を支持すれば王太子派の基盤はかなり固まる。

今は国のどこにも悪党が紛れ込んでいる。

貴族、金貸し、農民、上から下まで、ギール家の下で不当に益を得ることに慣れた連中が、幅をきかせている。彼らはギール家亡き後ものさばり続けるだろう。

真面目に働き、生きる者が割を食わない世の中にしなければ、結局国自体が立ちゆかなくなる。

今は王族同士が争っている場合ではないのだ。

「恩に着ます」

アルヴィンはロシェットに心から礼を言う。

「いや、俺は勝ち馬に乗りに来ただけだ。お前が王太子に付いたなら間違いないからな。ただ……」

ロシェットは厳しい表情で、呟いた。

「王妃と宰相は大人しく退場するかな」

「させるさ」

アルヴィンは強い口調で断言した。

「ヨリル公爵ご乱心!」

リーディアが叫んだのはその時だった。

***

光属性はめんどくさい。

と闇属性のアルヴィンは思った。

死刑が決まっている元魔法騎士達三十名など、さっさと殺すのが最適解なのに、サーマスは元同僚どもを助けたいらしい。

リーディアも口には出さないが同意見だ。

まったくもって甘っちょろいが、そのお綺麗なところが、アルヴィンの目にはまぶしく映る。

自分が率先してやるかと問われれば絶対にしないが、嫌いではない。

どうせデニスがゴーラン騎士団を呼んでくるのに少々時間が掛かるのだ。

アルヴィンはサーマスに協力することにした。

サーマスの兄のレナード卿はともかく、自分と似たような性格のはずのロシェットもリーディア達に毒されたのか、協力を申し出てきた。

アルヴィンは遠慮なく元魔法騎士達から生気を吸い、バッタバッタと敵を倒す。

リーディアはサーマスと共に、王妃の腹心の部下だった副団長を倒した。

真夜中の夜の色のドレスを身に纏うリーディアは星のように美しかったが、剣を片手に髪を振り乱して戦うリーディアは地上に降り立った戦女神のようだ。輝かんばかりの美しさだった。

こんな時なので見惚れていられる時間が一秒くらいなのが悔やまれる。

そしてロシェット伯らの活躍でフィリップ王太子達も無事だ。

勝利は目前かと思えた。

だが、王妃は人面を持つライオンに変化した。

――ライカンスロープ。

アルヴィンは戦慄する。

だが同時に肚の底から闘志が湧いてきた。

相手は闇属性、生気吸収エナジードレイン使い。

同じ闇属性を持つアルヴィンならエナジードレインに対抗出来る。

自分が騎士になったのは、この日、この敵のためだと思った。

父が残したゴーラン騎士団と共に、アルヴィンは戦う。

黒騎士アルヴィンとゴーラン騎士団は闇の獣と化した王妃と勇敢に戦い、王太子フィリップは人々と共に輝きを失っていた魔石ベガを再生させた。その魔石を使い王妃にとどめを刺したのは、竜に変化した引退魔法騎士のリーディア。

彼らを勝利に導いたのは、少年と青い妖精。

マルアム国中興の祖フィリップ王の伝承で語られる友情と勇気の物語である。