軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.戦いの後

私は竜に変化した後のことは曖昧にしか覚えておらず、王妃を倒した後に至っては、そのまますぐに気を失ってしまった。

丸三日も眠り続けていたので、その後のことはほとんど人から聞いた話だ。

まず竜の攻撃を受けた王妃だが、生きていた。

近くにいたレナード卿の分析では、私が吐き出した『何か』は「光属性のものだったことは間違いないが、攻撃ではなく浄化魔法だったのではないか?」ということだった。

現に竜は王妃を殺すことはなかった。

そしてサーマスを始め、あの時に負傷した者の傷は治っており、心配された元魔法騎士達やヨリル公爵のクララドの後遺症も今のところ問題ない。

魔石ベガは元の明るさに戻り、再びシャンデリアに戻された。

……壊したらどうしようと思っていたので、個人的には大変ほっとした。

王妃は度重なる大魔法行使で極度に弱り、その姿はまるで老婆のようになっていたという。

とりあえずは様々な事件の容疑者として尋問を受けることが決まり、その後はおそらく前王妃殺害の罪で死刑になるだろうと言われている。

しかし衰弱著しく、刑が執行される前に死亡するかもしれないそうだ。

次に宰相だが、彼も尋問中だ。

すでに死罪が決まっていた宰相だが、余罪ありということで、厳しい取り調べを受けているそうだ。

王の温情で眠るように死ねるといわれる毒を呑んで死ぬ『毒杯』を賜る予定だったが、そうではなく、罪人として処刑される。

ギール家は取り潰し、一族の者も連座となる。

我が国では最高に重い刑が下された。

王妃派と呼ばれた貴族達も軒並み余罪を追及されているそうだ。

王は自ら退位を決めた。

王曰く、王とキャサリン妃は前妃エヴァンジェリスティ妃との結婚前は納得の上きちんと別れていたらしい。

だがフィリップ様が生まれ、エヴァンジェリスティ妃の産後の肥立ちが悪かった頃、「親身に慰めてくれた」のがキャサリン妃、いや罪人キャサリンだったらしい。

エヴァンジェリスティ妃が夜会に出られない時にキャサリンを伴ったのも、王にとっては寵愛を移したのではなく、「代わりを務めてくれた」という認識だった。

さらに王とキャサリンは王妃存命中に『深い仲』になっていたが、それもエヴァンジェリスティ妃に「無理はさせられないため」だったそうな。

「それは裏切りであり、浮気である」

と息子のフィリップ様を含め全員から指摘された王は非常にショックを受けた様子だったそうだ。

「宰相もキャサリンもそれが良いと言っていた」と言う彼は、相談する者を間違っていた。

ただ、アルヴィンは、

「王はもしかしたらエヴァンジェリスティ妃のことをそれなりに愛していたのかもしれないな」

とアルヴィンらしからぬ同情の声で言った。

「そうですかぁ?」

私が非難丸出しで言うと、彼は苦笑いして続けた。

「愛する妻が死ぬかもしれない時、平常でいられる男はいないよ。楽な逃避先があれば、それに逃げてしまうくらいに」

「では、アルヴィンも私が死にかけたら浮気すると?」

ちょっと意地が悪い問いかけかもしれないが、思わず聞くと彼は少し考えた後、こう答えた。

「リーディアが死んでしまうというなら、俺も一緒に死ぬと思う。もうギール家もないし、ゴーランは心配いらないからな」

真顔で言われて、私は「別の意味でマズイ男だな」と思った。

結局、王は弱い人だったということだろう。

王はエヴァンジェリスティ妃がキャサリンに暗殺されたこともまったく知らなかった。フィリップ様に対する度重なる暗殺未遂についても、直言した臣下もいたのに「悪い噂」だと耳を貸さなかった。

王は自分を褒めてくれる人を好んで、厳しいことを言う者は嫌った。

自分を甘やかし、常に肯定してくれるギール家の兄妹達を王は手放せなかったのだろう。

それは、愚かとしか言い様がない。

すべてを悔いた王は、この後は王家の小さな離宮で、エヴァンジェリスティ妃やギール家の者達に殺されてしまった人々の冥福を祈って暮らす。

俗世と関わらないように幽閉に近い環境を自ら望んだという。

王とキャサリンの間には第二王子ロバートと第一王女がいるが、その二人の子供のどちらも幽閉される。

母が罪人であっても王の子であるため、王位継承剥奪は免れずとも臣籍降下し貴族として生きていくはずだったが、母のキャサリンは強烈な負の感情からライカンスロープに変化した。

魔法使いは親の魔法を継承しやすい。そのため闇のライカンスロープとして覚醒する条件を備えた二人は生涯子供を持つことを禁じられるという厳しい処置になった。

逆に元セントラル騎士団の騎士達は王太子殺害未遂のため、死刑が決まっていたが、王妃達にクララドを投与された事情を加味し、罪を減じられ死罪は免れた。

決して許されぬ罪だが、副団長のように自らギール家の権力にすり寄った者もいるが、脅されて仕方なく罪を犯した者もいたのだ。

ただ副団長はギール家の手下として様々な犯罪に手を染めていた。現在尋問中でその後は極刑となるだろうと言われている。

残りの元騎士達は戒律の厳しい修道院に行く。

戒律の厳しい修道院というのは、刑務所が生ぬるく思えるほど厳しい修練に明け暮れるという。

信仰のため自らの意思でその身を神に捧げた者ならともかく、そうではない者にはかなりきつい生活になるだろう。

また彼らに恩赦はなく、修道院の中で暮らすことを条件に減刑されたため、一生を修道院で送ることになる。

せめて信仰に喜びを見つけて欲しいと思う。殺されかけたので「少しだけ」だが。

ヨリル公爵はやはり隙を見てクララドを投与されてしまったようだ。

よって王太子暗殺未遂は不問となったが、これを悔いたヨリル公爵は自身の王位継承権を放棄し、フィリップ様に終生の忠誠を誓った。

ヨリル公爵がクララドを投与されたのは、「最後に一度だけ」と王妃に請われ、二人だけの話し合いをした時だそうだ。

何故、ヨリル公爵が王妃と二人、会ったのか?

アルヴィンの見立てでは、「フィリップ王太子を殺したら、次の王にするとかなんとかそそのかされたんだろうな」ということだった。

ヨリル公爵の中に野心があったのは本当だろうが、その胸の内に秘めた小さな灯を甘言でたぶらかし、大きな炎にしたのは王妃達だろう。

ヨリル公爵が弱いというより、王妃達が狡猾だったと私は思う。

それからノアだが、あの日、彼はフィリップ様の小姓として、大広間近くの王太子の控え室でフィリップ様の退出を待っていた。

だが予定の時間に彼もお付きのガイエン達も戻ってくることはなく、その後、大きな悲鳴まで聞こえてきた。

ノアの不安が頂点に達した時、バンシーも青い顔をさらに青ざめさせてノアに言った。

「ノア、リーディア達が死んでしまう……」

ノアはバンシーに尋ねた。

「どうすれば、リーディアさん達は助かるの?」

だがバンシーは人が死ぬ運命を見ることが出来るだけだ。どうすれば助かるかはバンシーには分からない。

しかし、不思議なことがあった。

バンシーの見る未来はいつもならひとつだけ。

なのにその時バンシーが見た未来はいくつもあったのだという。

バンシーは戸惑いながら、いくつもの未来の中、皆が死なない方法を探した。

すべての未来で、私やアルヴィンやフィリップ様が死んだ。

全員死ぬこともあれば、私だけ生き残ることや逆にフィリップ様やアルヴィンだけが生き残る未来もあった。

王妃を倒せることもあれば、倒せず国中が混乱する未来もあった。

共通するのは、たくさんの人が死んでしまうこと。

あまたの未来でたった一つ。

皆が死なない未来があった。

だがその未来のすぐ近くには、ノアやそしてバンシーが死ぬ未来が見えた。

のちにバンシーはこう語った。

「何故、あんなにたくさんの未来が見えたか、その時、分かったの。見えたのは誰かの未来じゃなくて、私の未来だったの。私の選択で未来が変わるからなのよ」

バンシーは目を輝かせて、続ける。

「私が勇気を出せば、未来は変わる。でも私だけでは駄目。ノアも、そしてたくさんの人が勇気を出した時に、初めてその未来にたどり着く。もしフィリップ王子様が魔石ベガを使わないことを選んだらその未来は閉ざされてしまったでしょう。そして彼一人でも駄目。皆が魔石に力を込めるのに協力しなければ、リーディアは竜に変身出来ない。そうすれば私達が行っても死ぬだけ。でも私達が行かないと皆が死んでしまう」

バンシーはノアに言った。

「大広間に行きましょう。リーディア達を助けられるのは私とノアだけよ。ノア、魔石をリーディアに渡して」

二人は運命を変えるため、部屋を飛び出し、大広間に駆けた。

……私はそれを聞いてあきれた。

「危ないじゃないか、二人とも。助けてくれたのは感謝するけど、君達は危うく死んでしまうところだったんだぞ」

小言を言うと、即座に二人に言い返された。

「皆が生きている未来を掴むためならなんだってするわ。リーディア達が死んじゃうことより怖いことなんてないもの。だって私達は、家族でしょう?」

とバンシーが言えば、ノアからは、

「リーディアさんも同じことをしたでしょう」

と言われ、ぐうの音も出ない。

私は彼らを抱きしめて、言った。

「……ありがとう、二人とも。皆を助けてくれて。勇気を出してくれて。君達は私の誇りだよ」

ぎゅっと私に抱きつく彼らはとても小さい。

でも、その心には勇気が詰まっている。