軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.アルヴィン7

王太子が暗殺されかけ、騎士と共にリーディアを頼りゴーランに逃れてきた。

国を揺るがす大事だったが、アルヴィンにとって重要なのは、「どちらの男もリーディアに惚れている」という点である。

まず王太子の方だが、リーディアに聞けば、「まさか。あの方はまだ十五歳ですよ。年齢が違いすぎます」と一笑に付すだろうが、リーディアは男心というものをまったく理解していない。

リーディアは、王太子が孤立無援で襲われた時に間一髪で助けに来たという。リーディアは重傷を負いながら、王太子を身を挺して守り切った。

その話を聞いてアルヴィンは「そんな真似をされたら俺でも惚れる」と思った。

実際、王太子は久しぶりに再会したリーディアを眩しそうに見つめている。その瞳にはリーディアに対する思慕がにじみ出ていた。

だが聡明な王太子は自分の恋情がリーディアのためにならないことも分かっている。王太子がリーディアを望んだところで、愛妾にしか出来ない。年齢以上に二人には身分の違いがあるのだ。

王太子はリーディアを愛するが故に、決してその想いを打ち明けることはない。二人には互いを思いやる強い絆があった。

実に腹立たしい。

次に騎士のエミール・サーマスだが、こいつはリーディアの同僚だったらしい。

リーディアからは軽くあしらわれているが、交わす言葉の一つ一つが気安く、彼らが共に過ごした時間の長さを感じさせる。

王都の騎士らしくストロベリーブロンドというのか赤みがかった金髪で碧眼の優男だ。リーディアと二人並ぶと一対の絵のようにしっくりと来る。

……これまた腹立たしい。

そして向かった南部では更なるリーディアの信奉者がいた。南部ルミノー辺境伯キラーニーである。

キラーニーとリーディアの出会いは、ここ南部の戦場だった。

前に出すぎたキラーニーが仲間の騎士と共に敵軍に取り囲まれ絶体絶命の時、リーディアが数百という光の矢を放ち、キラーニー達を救ったのだという。

……だからそんな真似をしでかせば、男は高確率で惚れるだろうと。

キラーニーは自らの恩人であるリーディアを崇め敬っていた。もはや神が使わした戦天使である。

キラーニーはリーディアの退役を知り、必死に行方を探したようだが、リーディアはかなり完璧に足取りを消した。

そうでもなけば彼はリーディアに求婚しただろう。

そんな連中の前でリーディアとの婚約を発表出来たアルヴィンはとても気分が良い。

だが彼らと別れ、ゴーラン軍の陣内に戻ったアルヴィンの表情は厳しかった。

先程見た光景が、気掛かりなのだ。

同行していた副団長のヘルマンに声を掛ける。

「……どう思う?」

ヘルマンも眉間に皺を寄せて囁き返す。

「ここにも王妃派が潜んでいるようですね」

作戦会議の席で王太子フィリップは南部軍側に和平の計画を披露した。

まずスロラン軍を国境線まで追い返し、降伏させる。

スロラン軍も既に疲弊している上、冬は目前だ。スロラン軍と一口に言っても、スロラン国の辺境伯軍が中核となり、国中から応援としてかき集められた混成軍である。

スロランの辺境伯は国王寄りの戦争推進派だが、そうではない考えの貴族も混じっている。

いかに辺境伯が戦いに固執しようと、反対派の貴族軍は危うくなれば降伏や撤退を選ぶだろう。辺境伯軍だけでは戦線を維持出来ず、白旗を上げるしかなくなる。

そこで和平派のスロランの王太子にスロランが飲める程度の和平案を提示すれば、戦争は終わる。

実はアルヴィンはスロランの王太子に少なからず縁がある。

アルヴィンの母は西の国の辺境伯令嬢だったが、この母の年の離れた妹が西の国の王子に嫁ぎ、王妃になっている。

スロランの王太子は自国より栄えている西の国に留学し、アルヴィンの従妹に当たる西の国の王女と婚約関係にあった。

アルヴィンはこのルートを通じてスロランの王太子に働きかけをしている。

和平を望むスロランの王太子にとって願ってもない提案だ。それでもスロラン国王は戦争を継続するかも知れないが、その時はその時で策はある。

辺境伯キラーニーはフィリップ王太子の計画を諸手を挙げて歓迎したが、作戦会議の席で渋面を晒す者達がいた。

間違いなく彼らは王妃派だ。

問題が起こるとすれば、今ではなく中央軍が合流した後だ。戦いに勝利しても講和条約が結ばれるまでは油断出来ない。

「念のために布石を打った方がいいな」

アルヴィンの言葉に、ヘルマンが頷く。

「左様ですな」

アルヴィンの「布石」とは東の隣国ロママイを講和条約締結の席に引っ張り出すことだった。

ロママイはフィリップ王太子の母の故国である。伯父であるロママイ王は幼い頃に母を失った甥を不憫に思い目をかけている。

フィリップ王太子が願えば、外務大臣ぐらいは派遣をしてくれるだろう。

ロママイを巻き込めばさしもの王妃派も外交問題になるのを怖れて自重するはずだ。

ギール家の当主である宰相はこうした周辺国との交渉事が苦手らしく、後手に回りやすい。そこを突いた作戦だった。

そんな宰相に宰相職を任せる王も王だが、曲がりなりにも帝王教育を受けた身だ。周辺国を怒らせるとまずいことくらいは理解している。

ただその場合、フィリップ王太子の書状を渡す名代としてアルヴィン自らがロママイに行かねばならない。

リーディアを置いて戦場を離れるのは気が進まないが、これはアルヴィンにしか出来ない仕事だ。

アルヴィンは自軍の勝利を見届けると、すぐにフィリップ王太子の書状を手に東の国ロママイに向かった。アルヴィンの目論み通りにロママイ王にすぐに謁見が叶い、トントン拍子に大使派遣が決まる。

アルヴィンの見込み違いは、『大使』の名乗りを上げたのがフィリップ王太子の従兄でもあるロママイの王太子リオだったことだ。

次期国王の外遊としては異例の速さで認可が下りたが、それでもアルヴィンの出立は三日も遅れた。

アルヴィンの帰還は講和条約締結の当日となり、リーディアの窮地に危ういところで駆け込む羽目になる。