軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15.冬至の夜のお客様2

冬至祭りの掟は二つ。

一つは、見知らぬ者が来ても決して邪険に追い払ってはいけない。

――相手が魔女かもしれないから。

一つは、暗くなった後は家の中に入って外に出てはいけない。外にいるなら決して火の側を離れていけない。

――冬至の夜は悪霊が一年で一番力を増す日だから。

私とノア一家はこの掟に従い、日が暮れるまでに家に戻ることにした。

冬至の日は日が落ちてから移動することを誰もが避ける。

そのため、我が家に泊まる客もおらず、私達はのんびりと夕食を取ろうとしていた。

だが、その時、トントンと玄関のドアが叩かれた。

「はい」

相手が悪霊でも泥棒でも困る。

用心のため私はドアを開けずに返事をした。

かえってきた声は老婆のしゃがれ声だった。

「一晩泊めてくれんかの」

私は玄関のドアを開けた。

立っていたのは、杖をついてローブを着た老婆で、肩に大きな鳥が止まっている。

私はすぐには彼女を中に入れず、片手を上げ、太陽への感謝の言葉を口にする。

「太陽よ、あなたの輝きがこの地を照らし、闇を追い払い、希望と癒しをもたらしますように」

これは悪霊か否かを判別する言葉で、悪霊は太陽を嫌うので、この言葉を口に出来ないと言われている。

老婆はおかしそうに笑って、

「おやまあ、しっかりしたお嬢ちゃんだね。『太陽よ、あなたの輝きがこの地を照らし、闇を追い払い、希望と癒しをもたらしますように』」

と私の言葉を復唱した。

「どうぞ、お入りください」

と私は彼女を招き入れた。

「外は寒かったでしょう。暖炉の側にどうぞ」

と私は彼女を暖炉の側の椅子に腰掛けるよう、すすめた。

「ありがとさんよ」

彼女はどっこらしょと椅子に座り、肩にとまった鳥も「くわぁ」と鳴いた。

でっかいカラスに似たあまり見かけない鳥だが、鳥の種類にさして詳しくはないので、私が知らないだけかもしれない。

「この子は頭がいいんだ。綺麗好きで決まったところ以外で糞もしないから一緒にいさせておくれ」

老婆はそう言うし、鳥も言葉が分かっているみたいに「クー」と哀れっぽく鳴く。

「この寒空に追い出したりはしませんよ。鳥もご一緒にどうぞ」

「親切なお嬢さん、ありがとう」

鳥を見ていると我が家の動物のことを思い出した。

今日は夜の見回りには行けないので、うちの裏庭の動物達のことは魔法かかしのジャック・オー・ランタンに任せている。

「寒かったら皆で納屋か牛小屋か馬小屋に入ってなさい」

と言ってあるので彼がなんとかしてくれるだろう。

「それより、お客さん、お食事は?」

と私は老婆に聞いた。

「食事をさせてもらえんかね。祭りで食べた果物とナッツの入ったパンプディングはあんたが作ったそうじゃないか」

「はい」

「あれはまだあるのかい?」

「材料はありますから、お時間をいただけたら作れますよ」

「じゃああれを食べさせておくれよ。あれを食べに来たんだ。お礼は弾むよ」

なんだか子供みたいなことを言い出した。

「甘いものだけじゃあ体に毒ですよ。野菜や肉も食べていってください」

メニューは豚肉のグリル、豆と野菜の具沢山スープにパンだ。それと作り置きの副菜、キャロットラペにハムとチーズの盛り合わせ、田舎風パテ。

今日はどの料理にもハーブとスパイスを入れている。

飲み物はカモミールティー。こちらにもスパイスが入っている。

老婆は「一緒に食べようじゃないか」と誘ってくれたので、暖炉の前に皆そろって食事をした。

老婆は私とキャシーが知らぬ人だった。

引っ越してきて半年以上経つが、フースの町は結構栄えているので住人は多い。

キャシーも長わずらいのせいで近所の人達しか交流がないという。

「フースの町か近隣の方ですか?」

私は老婆にそう尋ねると彼女は首を横に振る。

「いいや、私らは旅のもんだ。ここにはたまに来るのさ」

老婆はそう言って笑い、肩の鳥にパンをあげた。

老婆にとってその鳥は大切な相棒らしい。

自分の話はそれだけで彼女はノアとミレイの話をニコニコと笑って聞いた。

ノアもミレイも今日のスケートがよほど楽しかったらしく、興奮気味に話す。

スケート場は今日だけではなく、冬の間、開いている。

「じゃあまた行こうね」

二人にそう言うと、

「本当!?」

「やったぁ」

とこれまた大騒ぎになった。

スケート場は町の子供は誰もが使えるが、代わりに使用する子供の親が持ち回りで監視する決まりだ。

病弱なキャシーが寒い冬、野外に出て子供達を見張るのは不可能で、兄妹は遠慮してスケート場に行けなかったそうだ。

「今年は私がいるからね。また行こう」

食事が終わった頃、パンプディングが焼き上がり、皆で食べた。

「これだよ、これ」

と老婆はお目当てのパンプディングを美味しそうに食べた。

食べながら老婆は私とキャシーに向かって、

「あんたら、好きな人はおらんのかね」

と質問をしてきた。

「私は亡くなった夫がおりますから」とキャシー。

「私は独身ですが、別に……」

と私は答えた。

「おや、勿体ないね、まだ若いのに、恋をしないなんて」

と老婆にからかわれる。

その後は風呂に入って就寝。

寝る前に私はふと、老婆のことを考えた。

「あの人、多分魔法使いだな」

なんとなく、魔法の匂いを感じる。

自分と同じくらいのあまり能力の高くない魔法使い……だと思うがなんとなく妙な気もする。

「そういえば大昔の魔法使いは魔法の痕跡を消したりも出来たらしいな」

彼らは自由自在に姿を変えられるという魔法を使えて、気配を消したり、偽装したりもお手の物だったらしい。

そこまですごい魔法使いになると現世に関わるのが面倒くさくなるのか、人里離れた山奥などでひっそりと暮らす『魔女様』がほとんどらしい。

あとはあるんだかないんだか分からないが、『賢者の塔』という大魔法使いだけが入れる魔法の塔の存在も伝わっている。

「まあ、悪い人ではなさそうだし、いいか」

祭りの準備に疲れた私はすぐに寝てしまった。

翌朝。

私は目を覚まして、朝食の準備をする。

だが、用意が出来てさあ食べようという時刻になっても老婆は起きてこない。

夜のうちに何かあったのかもしれないと私は階段を上がり、老婆の部屋のドアを叩いた。

「お客さん、朝食が出来ましたよ」

トントンと客室のドアを叩いて呼びかけるが返事はない。

「失礼します」

私がドアを開けて中に入るとそこに老婆の姿はなかった。

「おや?」

ベッドは使われた形跡があるが、他は綺麗に片付いている。

そしてベッドの上には巾着袋と一枚の紙が置かれていた。

そこには、

「昨日の晩のお礼だ。アンタにやるのでアンタが使いなさいよ。それで男を籠絡したらいいい――魔女より」

と書かれていた。

巾着袋の中身はぎっとりとシナモンの皮、シナモンスティックが詰まっている。

シナモンは魔女が好むスパイス。

そしてその魅惑的な香りから古くから媚薬の原料として使用されていた。

世界のどこかにシナモン鳥と呼ばれる鳥がいる。

彼らはシナモンを採る名人でどこからか見つけてきたシナモンを巣に蓄えるという。

魔女はこの鳥を使役してシナモンを集めると言われている。

「ああ、あの人、魔女様だったのか」

シナモンスティックは一財産になりそうなくらいたくさんあったので、ジェリーに渡して町で使ってもらおうと思ったが、魔女様に釘を刺されたので、ありがたく私が使わせてもらうことにした。

料理に入れて使おう。

残念ながら、媚薬には多分、使わないなぁ。相手がいないから。