軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04.梨のシロップと山葡萄のお酒

秋になると、隣国から大きな瓶詰めの「何か」が山を越えて運ばれてくるようになった。

黒に近い濃褐色で、見た目はジャムのようだがこの辺のジャムは実の形が残っているものが多く、見れば何のジャムか大体分かるのだが、それは皆目見当もつかない。

そこで休憩に立ち寄った商人に尋ねてみた。

「これ、中身は何ですか?」

「これは梨から作ったシロップだよ」という返事だった。

「梨のシロップ?」

「このあたりじゃあ、よく使う甘味料だ」

「へぇ」

私は甘味料は大体、砂糖と蜂蜜を使っているが、庶民にとって砂糖は高級品だ。

代用品として我が国で一般的なのは、甜菜糖。ビーツから出来る甘味料である。

他には麦を使った麦芽のシロップがある。

夏の始めに私が収穫した小麦はあのまま放っておくとどうなるかというと芽を出す。十分に生育した後に水を浴びると麦は一斉に芽を出してしまう。だから収穫期の小麦に雨は大敵なのだ。

その芽、麦芽を発酵させて作るのが麦芽シロップだ。

ゴーラン領でも大麦を原材料にこの麦芽シロップを作っている農家はあるのだが、決して一般的な甘味料ではない。

ゴーランは平地が少ないので、主食としての小麦やライ麦づくりが奨励されており、さらに大麦は大体庶民の酒、ビール造りに使用される。

ゴーラン領の甘味料といえば、まずは糖蜜。

糖蜜は砂糖に精製する過程で出来る糖なのだが、砂糖のように結晶化しないドロドロの液体の状態、液状糖だ。

我が国では砂糖は外国からの輸入品である。

色々なルートがあるが、隣国の西国からも輸入している。

瓶か樽詰めで運ぶしかない糖蜜は結構輸送コストが掛かるので、ほとんどが隣国内で消費されるが、一部はゴーランに入ってくる。

粘度が高く、砂糖に比べるとほのかな苦みがある。

砂糖とは少し違う風味があるので、好んでこれを使う料理人もいる。

次によく使われるのは山で採れる果物を使ったシロップだ。

梨はそのシロップ作りに良く使われる果物で、梨を四分の一になるまでじっくり煮詰めたものだ。

果物は煮詰めるとゲル状になるので、粘性の高い甘味料が出来上がる。

色は驚くほど黒い。

ゴーランでもこの梨のシロップはよく作られるそうだが、隣国の国境の町近くに大きな梨農園があり、そこで作ったシロップだそうだ。

砂糖は保存も利いて無味無臭。甘味料としては非常に使い勝手が良いので愛用していたが、このたび私は宿屋を営むことになった。

一人と妖精がどんなに食べてもたかが知れているが、小さくても宿屋になると甘味料代も馬鹿にならない。

「パンだねの中に入れると綺麗な焦げ色がつくし、ジャムを作る時に砂糖の代わりにいれてもいい。香りが良く、どんな料理にもよく合いますよ」

商人らしいなめらかな口調でそう言われると、試してみたくなった。

大瓶を一つ売ってもらう。

瓶に鼻を近づけると梨のいい香りがする。

商人のおすすめは酢と合わせてサラダのドレッシングにすること。

早速作って食べてみたが、フルーティーでなかなか良い。

ヨーグルトにかけても合うし、パンに塗っても美味しそうなので重宝しそうだ。

ただ商売人の口上にあった「どんな料理にも合う」はちょっと違うと思った。

砂糖は甘みが強く味も匂いもないが、梨のシロップは「ああ、梨だな」と分かる香りともったりとした甘さがある。

料理によってはそれが味の邪魔をするかもしれない。

とはいえ肉料理とは相性が良さそうだし、いろいろ試してみると面白そうだ。

***

山の実りが豊かな季節。

我が家の山に入ってきのこ採りをしたいという近所の人に許可を出すと、「お礼に」と籠に山盛りいっぱいの山葡萄をくれた。

山葡萄は酸味が強く生で食べるには向いていない。

おすすめという食べ方はジャムにするのと酒にすることだそうだ。

酒造りなんてハードルが高そうに思えたが、発酵の途中腐ってしまえば捨てるしかないが、発酵がうまく進まなければあきらめて山葡萄ジュースにすればいい。

また「なんか美味しくない」程度ならフルーツビネガーとして料理に使ってしまえばいいと言われて、俄然その気になった。

山葡萄についている酵母を利用するため水洗いは厳禁。ゴミやよごれ、傷んだところは綺麗に取り除き、風通しの良い場所で少し追熟させる。

完熟した山葡萄の実を蓋付きの容器に入れ、軽く潰す。マッシュドポテト用のマッシャーがあったのでそれで潰し、次に砂糖を少々加える。

「…………」

ちょっと考えた末、私は梨のシロップと砂糖を半分ずつ加えた。

後は冷暗所で保管。一日数回瓶を揺すりながら、二、三週間寝かせた後、布で濾すと山葡萄酒の完成だ。

果たして出来映えは?

おそるおそる一口飲んでみると、驚くほど美味しかった。

同じ葡萄の酒とは言ってもワインとは違う野趣あふれる味でこれはこれで愛好家が多いのは頷ける。

「もっといっぱい作れば良かった」と思うほど良い味だったが、初心者の幸運というやつでこの後十年、これほど美味い酒は出来なかった。

別の機会に カリン(マルメロ) も貰った。

マルメロも生では食べられない果物だが、ジャムやコンポート、砂糖漬けにすると美味しい。

林檎と梨の中間のような味である。

今回は固形ジャムを作った。

ジャムは普通ゲル状だが、マルメロはジャムの中でも固まりやすく、煮詰めると常温で保管出来るくらい硬く作れる。

マルメロの実はそのままだと包丁が入らないほど硬いので、水から茹でる。弱火で一時間半煮て柔らかくした後、皮を剥いて種を取る。

薄切りにし、マルメロの重量の半分の砂糖を加え、弱火で一時間。

不思議なことに黄色かったマルメロの実は煮ると真っ赤に色づく。

その真っ赤な果肉を潰してピューレ状にする。

さらに焦がさないように慎重に煮詰めた後、平たい容器に流し入れて固め、一週間ほど乾燥させれば出来上がり。

こうすると一年持つそうだ。

これはチーズと相性が良く、冬のデザートとして重宝した。