軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03.アーモンドと松の実採り

秋の木の実の収穫はアーモンドから始まった。

アーモンドは我が家近くの街道沿いに植えられており、夏にそれはプラムくらいのサイズの青い実を付けた。

果実は実を付けたばかりの桃に似て美味しそうに見えるんだが、果肉は渋く、美味しくないので食べないそうだ。

アーモンドは果実ではなく、その中に入っている種子の部分を収穫する。

果実が割れ中の実が見えると、アーモンド収穫の合図である。

街道沿いの木は近隣の住民が収穫して良いらしいので、秋晴れの日、少年達と共に採取させてもらうことにした。

どう収穫するかというと、木を思いっきり揺すり、落ちてきたのを拾う。

大半が落ちてくるが、落ちてこない実は枝に長い棒を差し込んで落とす。

さらに木に登って全ての実を収穫出来たか確認し、まだ成っている実があれば手で摘み取る。

実を残してしまうとそこから虫がつくことがあるそうだ。

そうして収穫した実からナイフで種を取り出し、一週間ほど陰干しさせたのち種をナッツクラッカーで砕いて、取り出した仁がアーモンドの可食部分である。

これはかなり大変な作業だった。

酒場などでつまみに出てきたら、何も考えずにポリポリ食べていたアーモンドに、まさかこんなに労力が掛かってるとは思わなかった。

かつての私に言ってやりたい。

「もっと味わって食べろ」と。

しかし一本の木から十キロ以上採れたので、苦労した甲斐はあるというものだ。

これでアーモンドのお菓子が作れる。

そのまま炒って食べてもいいし、アーモンド粉にしてクッキーやケーキを作ってもいい。

「リーディアさん、なんか作って!」

少年達からリクエストされて、私はアーモンドのお菓子を作ることになった。

とはいえクッキーは作れるようになったが、他の菓子作りにはあまり経験がない。

「えーと、簡単に作れそうなやつは……」

とレシピ帳をあさり、目に入ったのはフロランタンだ。

クッキー生地にキャラメルでコーティングしたスライスアーモンドを載せたもので、材料を入れて順に混ぜ合わせると出来る。

意外にシンプルなので、これなら作れるかもしれない。

まず作るのは下の部分のクッキー生地。

最初に室温に戻したバターを木べらでふんわりするまで練った後、砂糖を加え、生地が分離しないように注意しながら数回に分けて卵を入れ、均一に混ざったら最後に小麦粉を加える。

二時間ほど生地を寝かせるんだが、その間にスライスしたアーモンドを軽く焼き色がつくまでローストする。

二時間寝かせたクッキー生地を天板のサイズに合わせて四角くのばし、オーブンで焼くこと、十五分。

「うわー、すげぇ」

この時点で既に少年達の目が輝いている。

出来上がったクッキー生地はサクサク感を出すためバターが多めな上、彼らの顔より大きいサイズだ。

「このまま食べたい!」

の大合唱だが、主役のアーモンドがまだ乗ってない。

「いや、もうちょっとだから待ちなさい」

なんとか押しとどめ、鍋に生クリーム、バター、蜂蜜、砂糖を入れて混ぜ合わせ、さっと煮詰めたらアーモンドスライスを入れ、混ぜる。

出来上がったキャラメルアーモンドはすぐに固まってしまうので、熱いうちに火から下ろしてクッキー生地の上に均一に塗り広げる。

これを予熱したオーブンで二十分ほど焼く。

余熱を取った後、温かいうちに食べやすいサイズに切り分けると出来上がりだ。

「うひょー、うめぇ」

本来日持ちするのがウリの菓子なのだが、一瞬のうちに少年達の腹に収まった。

***

アーモンドの次は松の実採りである。

松の実は松の木なら何でも採れるわけではなく、限られた品種だけらしい。

「ねえ、リーディア」

と私は我が家に住む灰色ブラウニーに声を掛けられた。

彼は左右を見回した後、声を潜めて囁いてきた。

「秘密の松の木のこと、聞きたくない?」

「秘密の松の木って何だい?」

「松の実が採れる松の木だよ」

「ああ、うちの山でも松の実が採れるのか」

「採れるよ。教えてほしい?そのかわり……」

「そのかわり?」

「この前のお菓子、僕にもちょうだい!」

フロランタンは少年達が食べ尽くしたので、ブラウニー達の口には入らなかったのだ。

「わかった」

私は条件を呑んで、早速松の実を採りに行くことにした。

松の実は松ぼっくりの中の胚乳という部分で、松ぼっくりが開ききらない今頃からが収穫の時期だそうだ。

初めてだし、一人と一匹で採れる範囲でと思ったんだが。

「俺も行く」

「僕も」

とお菓子目当てに他のブラウニー達もやってきて、皆で採りに行くことにした。

だが。

「思ったよりめちゃくちゃ採れるな……」

ブラウニー達はさっと木に登り、上からどんどん松ぼっくりを落とす。

結構大きめの背負籠を持ってきたのだが、予備の袋分まであっという間に一杯になった。

「おーい、ブラウニー達、私はいったん家に荷物を置いてきていいかな?」

と呼びかけると木の上から、

「いいぞ」

と返事が返ってくる。

ちなみに収穫した松ぼっくりはまだ半分ほどかさが閉じた状態だ。虫がついてないかなどチェックし、状態の良い物だけを二、三週間乾燥させる。そうするとかさが綺麗に開き、松の実が取り出せる。

取り出した松の実は皮がついているので、それを丁寧に剥がすとようやく食べられる状態になる。

では荷物を置いてこよう。

少し山を下ると、テッテッと向こうからやって来たのは魔法かかしのジャック・オー・ランタンだ。

足下に魔獣猫といつの間にか住んでる魔獣犬がいる。

ジャック・オー・ランタンは私を見るとカラカラとカボチャの頭を鳴らした。

いつも通訳してくれるブラウニーがいないので分からんが、これは多分、

「手伝いに来てくれたのか?」

と尋ねるとジャック・オー・ランタンは返事するようにカランと一度頭を振る。

「ありがとう、じゃあ頼むよ」

思いがけない助っ人に荷物運びを任せ、私は作業場所に戻る。

その時、一瞬だが私は見た。

松の木の下に、ブラウニー達とは違う十人以上の小人がわらわらと集まっており、彼らは小さな腕いっぱいに松ぼっくりを抱えている。

「あっ」

彼らは私を見て目を丸くし、次の瞬間木や茂みの陰に隠れてしまった。

多分、森の妖精ノームだろう。

人の近くで住む小人の妖精は屋敷妖精ブラウニーと呼ばれ、森や地下に住む妖精はノームと呼ばれる。彼らは同じ小人妖精族だ。

性格はノームの方がさらに一段と用心深い。

彼らから近づいてこないなら、無理に話しかけず、見なかったふりをした方が良いと妖精の本には書かれている。

それにならって私も見なかったことにする。

「早かったね」

と灰色ブラウニーが声を掛けてくる。

「ああ、ジャック・オー・ランタン達が手伝いに来てくれたんだよ」

答えながら私は考えていた。

……なんかおかしいとは思ったのだ。

我々だけにしては作業が早すぎる。きっとノーム達もこっそり手伝いに来てくれたのだろう。

ブラウニー達と同じ種族ってことは多分ノームも菓子が好きだよな。

お礼に彼らの分のフロランタンも作ることにした。

***

山でひっそりと咲く小さな紫の花を見つけた。

野生のシクラメンだ。

栽培種はもっと大きく華やかなのだが、野に咲くそれは小さく可愛らしいサイズだった。

木々の向こうに見える隣の農家の畑ではちょうどホップの収穫中のようだ。

ホップはビールの香り付けに使うハーブで、めちゃくちゃに背が高い。八メートル以上に伸びたつるを刈り取って収穫するのだ。

あとで何か差し入れしにいこう。

夏とは違う匂いのする風を吸い込んで私は呟いた。

「秋だなぁ」

何故か唐突に両親と兄のことを思い出した。

忙しさにかまけてしばらく出していない手紙を書こうと思う。届くか分からないけれど。

打ち直した布団が完成したと聞き、道具屋に取りに行き、ふかふかな手触りに生まれ変わった布団に感動する。思わずまたガチョウの羽毛を買ってしまった。

やっぱり予算の都合で『下』のやつ。

汚れた羽毛をまた裏手の洗濯場に置いておくと、いつの間にか綺麗になっていた。

「手伝ってやるから何かくれ」

と夕食をねだりにきた三人のブラウニーに、

「羽毛を洗ってくれてありがとう、大変だっただろう?」

と声を掛けると、彼らは怪訝な顔をする。

「何のことだ?」

「知らないよ」

「僕も知らない」

「えっ、お前達が洗ってくれたんじゃないのか? ガチョウの羽毛」

「ああ、羽根は『青いの』が洗った」

「青いの?」

「最近来たやつだ」

「見たことないやつ」

「うん」

それだけ言うともうブラウニー達は食事に夢中だ。

「いまいち分からんが新人かな?」

こちらに会いたがらない妖精なら無理に会おうとしない方がよいだろう。

「ありがとう、助かったよ」

そう言い添えて私はミルクを一つ、多く用意した。

翌朝になったらちゃんとミルクはなくなっていたので、我が家の住人は知らんうちに増えたようだ。