軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3.これでループは三回目 1

アレがループをしたのはミオンと対峙する少し前だった。

また戻ってきてしまった……。

豪華とはいえない寝台の中で、小さな女の子は目を覚ました。

小さな窓から小鳥のさえずりが聞こえる。懐かしい匂い。手触り。ここは皇宮の北の端にある土蔵だ。元々は気の触れた皇女が閉じ込められていたという曰く付きの建物である。

女の子の髪は、綿菓子のようにフワフワとして薄紅色だった。盛大な寝癖がついている。

子どもには似合わない諦念を感じさせる瞳は空色で、珍しく光彩が虹色に輝いている。この虹色の光は皇族の証しであった。それなのに、麻でできた生成りの上着に、同じ素材のズボンの寝間着姿だ。今では平民すら着ることがない粗末なものだ。

幼女の名は……まだない。

彼女が生まれたとき、彼女の父ジンロン帝国皇帝フェイロンは、蔑むような憎むような、到底娘に向けたとは思えない表情で彼女を見、吐き捨てた。

「アレは処分する」

彼は愛する皇后の命を奪って生まれてきた子を許しがたく思ったのだ。しかし、皇后の側近であり、皇太子の乳母であった侍女マルファが、ひれ伏し助命を懇願しことなきを得た。

「ただし生かすだけだ。次に見たら殺す。それ以上を望むな」

彼はそう言い、娘の名を問われれば憎々しげに「アレはアレでよい」と答えた。名前を与えなかったのだ。そのため彼女は『アレ』と呼ばれていた。

アレはベッドの中で小さくため息をついた。

右の手のひらを見る。白くアーモンド型の痣が三つある。中心から扇状に並び、花のような形を作っている。あまりにも薄いのでアレ以外気付きそうもなかった。

これはやっぱり三回目のループという意味よね。

死んだ魚のような目になる。

アレには秘密があった。彼女は人生をループしているのだ。死んでは生き返る、これを繰り返し今回は三回目のループ、四度目の人生である。一度目のループ時は痣は一つだった。二度目のループで痣は二つとなり、今回は三つだ。そこから考えると、痣はループの回数を表すように思えた。

一度目の人生は、訳もわからず虐げられ、十七歳でクーデターに巻き込まれ、暴漢化したクーデター側の兵士に殺された。

皇女として扱われてなかったのに皇女だから殺されるって、 惨(むご) い。怒号で目が覚めたらいきなり刺されるんだもん。まぁ、あの頃は生きる意味もなかったんだけど。理不尽この上ないわー……。

二度目の人生は十五歳からのやり直しだった。クーデターの騒ぎに便乗し皇宮を抜けだし、身分を隠したまま下町で暮らした。酒場の主人に拾われて、住み込みで働くことができたのだ。酒場の主人たちはアレを家族のように扱ってくれた。特に娘のミンミンはアレによく懐き、アレもミンミンを可愛がった。下町での人生は慎ましかったが幸せで、逆に自分がいかに虐げられていたかを初めて知った。虐待によって失っていた表情と感情を取り戻せたのも、町での生活のおかげだ。初めて人間らしい生活が送れたのだ。

しかし、クーデター後の国内は乱れる。クーデターの成功は、魔族の力を借りたものだったからだ。ミオンはちゃっかりと魔王の妃に収まっていた。魔族と人間との共同統治は十年ほどで破綻し、魔族と人間が殺し合うようになったのだ。

そして、その状況を収めるべく、アレは生き残りの「幻の皇女」として、旧皇帝派のグループから担ぎ上げられそうになり、阻止しようとする魔族から追われるようになる。最終的には、追い詰められて崖から落ちて死んだ。

やっと人間らしい生き方してたのに、 非道(ひど) い。「幻の皇女」ってなによ。皇女の教育も受けてないのに何もできないわよ。普通に生きて普通に死にたかった……。

三度目の人生は十三歳にループした。アレは前回のループでクーデターの主犯もわかり、その後の悲惨な王国の状況も知ってしまった。そのため、クーデターが起こらないようにと勉学に励むようになる。教えてくれるものがいないため自己流だったが、その中で親切に教えてくれる男が現れた。アレは彼に淡い恋心を抱いた。しかし、死ぬ間際に彼がクーデター派の一員だと知り、引き留めようとしているところを魔族に見つかり殺された。

首謀者を知ってたからクーデターを止めたかったけど、辛い。結局、あの後クーデターは成功したのかしら? 二回目のときみたいに下町は荒れてしまったのかな。ミンミンや酒場のみんなは無事だといいけど。無力だわ……。

クーデターさえなければ……そう思わずにはいられない。

そして、今度が三度目のループである。小さな手を閉じたり開いたりしてみる。幼子のような手だ。

はぁ、さっき振られた上に、殺されたばっかりなのに……。感傷に浸る時間もないって言うの?

アレはため息をついた。虐げられても我慢して生きて、苦労して生き延びても結果死ぬ。こんな人生を繰り返すのは嫌だ。

扉の外からかんぬきが外された音がした。重い木の扉が開かれる。アレは扉に目を向けた。

朝の光とともに、清浄な空気が入り込んできた。