軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18.天使の捜索 1

アレは土蔵に帰ってから、焦ってジンロン帝国の有職故実を勉強した。

とりあえず、龍と皇帝に関する礼儀だけでも見つけなくちゃ、殺されちゃう!

龍の怒りに触れアレは実感したのだ。

きっと、皇帝の前で失敗したら、そのまま処分を受けるんだわ。

そしてループ前から教わっていなかった礼儀作法を見つけて頭を抱えた。

こんなに難しい礼儀があったの? ループ前には知らなかった。今度はちゃんと覚えよう!

難しい顔をして、木札を使って古い本とにらめっこするアレの膝に、リュウホは乗り上がった。

そして、本に覆い被さり邪魔をする。

(つまんない)

「リュウホ、少し我慢して」

(ナデナデしろ)

「でも本が」

(俺の背中に本をおいていいから、ナデナデしろ)

「リュウホって、さびしんぼ?」

アレは甘えられて嬉しくなる。人から頼りにされる経験がそう多くはなかったからだ。

(さびしんぼ?)

不愉快そうに耳をひくつかせるリュウホ。そしてアレのおなかに頭突きをした。

「いたい!」

(さびしんぼはおまえだろ? だから俺が甘えてやってるんだ)

アレは諦めてリュウホの背に本を置き、リュウホを撫でながら勉強することにした。

(俺の背中を書見台に使うなんて、どんな姫でもできないんだからな!)

「うん、そうね」

アレは笑ってリュウホの額を撫でた。リュウホはうっとりと目を細める。

(分かればいい)

リュウホはそう言って静かになった。

その翌日。

アレは老騎士ともに北斗苑の木陰に隠れ息を潜めている。リュウホももちろん一緒である。

皇太子キリルが護衛騎士を連れて北斗苑の中を歩き回っているのだ。キリルはミオンが不在の内になんとしてもアレを保護したいと考えていた。

騎士たちは大きな声で呼びかけている。

「皇宮は天使様のご降臨を喜んでおられます」

「我々も天使様には手を出さないよう命じられました」

「天使様は吉兆の証し」

「皇太子殿下も待ちわびていらっしゃいます」

……。何の罠?

アレは頭を悩ませる。せっかく龍に本を持ち出してもらったのに、あのまま置いてきてしまった。結局、目的を果たせなかったのだ。

もう一度図書館へ行かねばならない。そう思っていた矢先のことである。

老騎士もキリルの意図がわからず困惑していた。

何しろ、皇帝の目に触れたら処刑されるアレなのだ。相手が皇太子でも同じだと思っていた。だから何があっても皇族には会わせないようにしていたのだ。

アレはダラダラと汗をかいた。

昨日の件で探しに来たの? どうしよう、処罰を受ける?

昨日、図書館へ行ったことは騎士には秘密だった。北斗苑にも金龍の噂は流れてきていたものの、子どもと猫までの情報はきていなかった。それでアレは油断していたのだ。

「天使様~!」

「天使様、どこにいらっしゃいますか?」

キリルとともにやってきた騎士たちが、北斗苑の中で声をかけて探し回る。

「天使様とは、姫様のことですよね?」

アレを守る老騎士がアレに尋ねる。

アレは顔を真っ赤にし、目を逸らした。

「し、しらない……」

(お前のことだろ? 昨日、そう呼んでた)

リュウホが突っ込む。

「北斗苑で天使と見間違えるようなものは姫様しかいないと思いますが」

老騎士が真面目な顔をしてアレに言う。

そんなばかな。天使とか、そんなわけないでしょう!

アレは恥ずかしさのあまり顔を覆った。

「天使様~!」

「白いドレスの天使様はいずこだ」

「天使様、お姿を見せてください」

騎士たちは声を張り上げる。

キリルは小さくため息をついた。

「私の可愛い天使はどこへ行ったんだ? 怖くないから出ておいで?」

(ばーか! おまえのじゃねーよ! な? 天使)

リュウホが少し不機嫌そうにアレの背中を尻尾で叩いた。

やめて、恥ずかしいわ。

アレは震えながら膝に頭を付けた。

そこへ騒ぎを聞きつけたマルファがやってきた。

「久しぶりだな。マルファ。ずっと会いたかった」

マルファはアレが生まれる前まではキリルの乳母だったのだ。

キリルは恋しそうに目を細めた。マルファも喜びで目を細める。

「私もお会いしとうございました。しかし、こちらに来た者が会いに行っては迷惑が及ぶと思い」

「そうか、妹を選び私は捨てられたのかと思っていた」

「まさか!」

マルファが顔を青ざめさせる。キリルはそれを見てホッとして笑った。

ミオンから「マルファには殿下とアレのどちらが良いか聞いたところ、アレが良いと言った」と伝えられてきたが違ったのか。マルファは嘘がつけないからな。

今までモヤモヤとしていた胸のつかえがおりていく。

「キリル殿下、このようなところへ何のご用です。このような場に来たことが皇帝陛下に知られてはお咎めがあります。早くお戻りください」

マルファは切実な顔をして、キリルを心配した。キリルの乳母だった頃とはちがい、お仕着せの女官服ではない。粗末な服だ。荒れた手は自らメイドのような仕事をしているのだと想像できた。

キリルの側にいたときよりもきつい仕事をさせられていることが一目瞭然だった。

少し前まではマルファを連れていった妹を羨んでいた。しかし、今朝、実際の妹を見て、疑問が溢れてきた。ミオンから聞かされていた現状と違う気がしたのだ。

ミオンからは、妹は北斗苑に別棟を与えられ、マルファと自由気ままに暮らしていると聞いていた。厳しい教育も受けずに、マルファの愛を独占している妹がうらやましかったのだ。

しかし、妹は皇族とは思えないほど質素な素材の服を着ていた。北斗苑はうち捨てられたように荒れ果てて、別棟らしきものは見当たらない。あるのは昔の皇女が幽閉されていた不吉な土蔵だけだ。

幸せだと聞いていたマルファも疲れているように見えた。

見に来て良かった。ミオンは私に配慮して嘘をついていたのだろうか? 私が思っていたのとは様子が違う。

「皇太子殿下は天使を迎えにきたのだ」

護衛騎士がマルファに告げた。