軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

母への告白

学園での「お友達」についてアナから聞いた。

彼女たちは初対面でアナの容姿を気持ち悪がって 誂(からか) い、その後もずっといじめられ続けてきたのだと言う。

何年もいじめる側といじめられる側という関係が続き、それが固定化してしまい今のこの年齢になっても上下関係が変わらないのだと言う。

親に話さなかったのは、両親に心配をかけたくなかったからだとのことだ。

幼い頃なら、爵位による身分の違いがまだ理解出来ず、自分より上位の人間をいじめてしまうのはよくある。

キルベール伯爵家の二男が王太子殿下の髪を引っ張って泣かせた事件は、王宮の目立つ所で起きたため有名だ。

それでも爵位の差が理解出来ないほど幼いなら、子供の喧嘩として大きな問題にすることはない。

現にキルベール伯爵家もその二男も、何のお咎めも受けていない。

しかし、この年齢になってまでそんなことをしていては駄目だ。

この年齢になれば爵位による身分の違いを当然理解しているはずであり、理解していてなお罪を犯すならその罪に応じた罰を受けるべきだ。

私個人はそう思う。

処罰するのは簡単だ。

公爵か 義母上(ははうえ) にこのことを伝えるだけでいい。

娘を溺愛しているあの二人のことだ。

きっと厳しく対処してくれるだろう。

だがこれはアナの問題だ。

余計な口を挟みたくなるのをぐっと 堪(こら) える。

このまま耐え続けるのか、それとも両親に話すのか。

個人的には両親に話してほしいが、アナがどちらを選んでも止めるつもりはなかったし、意見を求められない限り自分の考えを話すつもりもなかった。

アナが両親に話さないなら全力で守り続けるし、アナが両親に話すつもりならそれを応援する。

私がすべきことはそれだけだ。

「わたくし、お母様にお話ししようと思いますの」

「分かった。応援するよ。

義母上(ははうえ) に話すとき、私は一緒にいた方がいいか?

それとも席を外した方がいいか?」

「ジーノ様がお嫌ではないなら、ご一緒をお願いしたいですわ」

「分かった。君の横にいよう」

お互いに想いを伝えあってから、アナはこうして私を頼ってくれるようになった。

アナが私を頼ってくれたことが嬉しくて、顔が 綻(ほころ) んでしまう。

不味いな。

笑う場面ではないのについ笑顔になってしまう。

「それにしても、よく決意出来たな」

「今までは学園でもずっと一人でしたから、わたくし一人が耐えればそれで済む話だと思っていましたの。

ですが、ジーノ様がわたくしを庇ってグラスを受けたのを見て、このままではジーノ様にも害が及ぶことになると思い知らされましたの。

ジーノ様にまで危害が及んでは、わたくしも冷静ではいられません。

放置せず解決しなくてはなりませんわ」

何だと!?

アナが解決のために動くことを決めたのは、私を思ってのことだと!?

そこまで私のことを考えてくれていると思うと、感動で手が震える。

「アナ。愛している」

アナを抱き締めるため、そう言って私は席を立つ。

「ジーノリウス様。そこまでです」

話が聞こえない位置にまで下がっていたブリジットさんが、いつの間にか間近まで来ていて私を 諌(いさ) めた。

◆◆◆◆◆

私とアナは、 義母上(ははうえ) とお茶会をしている最中だ。

お茶会の席でアナが人払いを頼むと、使用人たちが出て行き扉が完全に閉められた。

アナと二人だけのときに人払いを頼んでも扉は開けられたままだが、今日は 義母上(ははうえ) もいるので完全に密室となった。

膝の上に置かれた手をぎゅっと握りしめるのが見えて、私は手を伸ばしてアナの手を握る。

それに応えてアナが私を見て微笑んだ。

「それで、お話とは何かしら?」

そんな私たちをニヤニヤと生温かい目で見ながら、 義母上(ははうえ) が尋ねる。

意を決したアナは説明を始めた。

初めは先日のパーティで起こった出来事を。

それから過去にいじめられていた経験を。

義母上(ははうえ) は怒りと悲しみが入り混じった複雑な顔をしてそれを聞いていた。

「どうしてもっと早く教えてくれなかったの?

頼りない母親かもしれないけれど、あなたのために力を尽くす機会くらいは与えてほしかったわ」

悲しそうな顔で 義母上(ははうえ) がアナに言った。

「申し訳ありません」

アナは一言謝って、そのまま黙ってしまう。

弁解は一切しなかった。

不味いな。

このままでは誤解が生まれる。

黙っていようかと思ったけど、ここは口を挟むべきところだろう。

「 義母上(ははうえ) 。

アナは自分の容姿のせいで 虐(いじ) められていると思っているのです。

ですので、それを 義母上(ははうえ) に伝えてしまえば自分を産んでくれた 義母上(ははうえ) が傷付くと思って、一人耐えることを選んだのです」

「アナ……あなたは……」

義母上(ははうえ) はアナに何か言おうとしたが、言葉は形にならなかった。

娘が自分を守るために一人傷付くことを選んだと知って 義母上(ははうえ) は 溢(あふ) れる涙を抑えることが出来ず、涙で声が詰まってしまったからだ。

涙を流しながら抱き合う二人を見て、ここに私はいるべきではないと判断してそっと部屋から出た。

◆◆◆◆◆

学園に行くと、掲示板に退学者が出たことを知らせる公示書が貼られていた。

アナを 虐(いじ) めたあの令嬢たちだった。

これはバルバリエ家の 義母上(ははうえ) から聞いた話だ。

奇病を患う子を持ち、子育てに苦労している妹に陛下は昔から同情していたらしい。

そこに来てアナが 虐(いじ) められていると教えられた陛下は、可愛い妹を苦しめる者たちに激怒したらしい。

それから王太后殿下にとってアナは、自分の孫娘だ。

王家の権威を重んじる王太后殿下にとって、自分の孫娘を 虐(いじ) めるなど王家の血への侮辱以外の何ものでもなく、こちらも激怒したらしい。

そもそも貴族が子供を学園に通わせるのは、人脈作りのためだ。

学園に通わせた結果、王家と筆頭公爵家を激怒させるのでは本末転倒だ。

そんな訳で、アナを 虐(いじ) めた令嬢各家は、これ以上娘を学園に通わせてもマイナスが大きいと判断して退学させることを選んだのだろう。

令嬢たちは皆婚約者がいたが全員破談になったとのことだ。

当たり前だ。

王家とセブンズワース家から睨まれている人間を、自分の家に取り込もうと考える貴族はいない。

何より、十代後半にもなって陛下の姪を 虐(いじ) めるほど無分別な人間だと、自ら証明してしまったのだ。

お家断絶もあり得る致命的問題を起こしそうな女性など、どんな家だって願い下げだろう。

それから、これまで学園所属の使用人はフロロー侯爵家が派遣していたが、今後は王太后殿下の実家であるスラットリー公爵家から派遣されることになった。

フロロー侯爵家は、アナの病気が私に 伝染(うつ) るのではないかと私に言い、アナにグラスを投げ付けようとしたあの令嬢の家だ。

学園の使用人は、いじめを見たら学園本部に連絡する義務がある。

アナへのいじめに対して学園使用人たちが見て見ぬ振りをしていたのは、いじめの主犯格である令嬢が自らの管理者であるフロロー家の令嬢だったからでもあった。

学園の使用人なら簡単に口封じ出来ると思っていたからこそ、フロロー家の令嬢もあそこまで増長したのだ。

そこまでの問題が発覚しては、学園としてもそのままフロロー家に派遣事業を委託し続けるわけにはいかず、委託は打ち切りとなった。