軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まずこんばんわ

エクドイクに不可視の魔法を掛けてもらい街中での移動を行う。

精神干渉や回復系の魔法などは当人の魔力に関与するのだが、この魔法は生み出された魔力が物質の色素を周囲に溶け込ます云々の効果らしく、使用され体に付着した魔力が徐々に消費されていくタイプだ。

ちなみに透明な布を被せられたかのような感じ、足にも感触があるためうっかり踏んでしまわないかとか考えてしまう。

「城を無断で抜け出したことでそう遅くないうちに捜索の手は入るだろうな」

「そうだな、同胞は気づいていたと思うが城にいる兵士の中にメジスの騎士が混ざっていたぞ」

「まじか、やっぱりいたのか」

「その様子だと気づいていなかったが考慮はしていたと言うことか」

「まあな」

臆病者だとばれており、いつ逃げ出すかも分からん人間だ。

オマケに魔王に対して寛容な態度も見せている、監視を付けるのは自然の流れだ。

城に置いているから大丈夫だろうと油断するエウパロ法王ではない。

暗部でも使って監視を潜ませていると思ったが、変装の方だったか。

そういや見ない顔がいたような、いなかったような。

この分だと街中にも潜んでいる監視がいるかもしれんな。

可能ならば人払いの結界を使用してもらいたいところではあるが、外から熟練者に感知されれば却って居場所を知らせてしまう。

紫の魔王の宿周辺は迂闊には近寄らないだろうが富裕層のいる地域にはある程度見張りがいると考えるとしよう。

ついでに真っ先に向かうであろう場所も予測されているかもしれない。

うーん、でもエウパロ法王の性格を考えると先に国外逃亡を防ごうとするか?

確信して行動することに意味は無い、両方の可能性を考慮して行動するとしよう。

幸いにもこちらにはエクドイクと言う隠密のプロがいる、メジスにも暗部はいるが変装をして監視を置いていたという事は暗部がいる可能性は少ない。

ターイズでやらかしてくれた暗部を再び持ち込む真似は国交的にもよろしくないだろうしな。

いたとしても、そいつらの癖はもう理解している。

慎重に移動するよりも、先手を取った優位を活かして迅速に行動しよう。

見つかったならエクドイクに任せりゃ良い、他力本願って楽でいいな。

「到着っと」

最初の目的地、それは数日振りに戻ってきたイリアス家である。

流石に無策で紫の魔王に勝負を挑みに行くというわけではない。

勝機を見出す為にはそれなりの準備と言うものがある。

さて、鍵は――流石に掛かっているか。

合鍵で鍵を開け、内部にこっそりと侵入。

一階には誰もいない、どうやら全員自室に戻り寝入っているようだ。

「よし、今のうちだ」

「何をこそ泥の様な真似をしているんだ君は」

暗闇の中から部屋着姿のイリアスが姿を現した。

手には抜き身の剣、すっかり侵入がばれていた模様。

おかしいな、不可視の魔法を掛けて貰っていて姿は見えない筈なのだが。

「良く分かったな、盗賊とかの可能性もあったろうに」

「合鍵を使って入ってくる賊がどこにいる」

「それもそうだな」

「足音も全く消えていない、傍にいるであろうエクドイクを見習ったらどうだ」

「無茶言うな」

部屋の灯りを点けられる、暗闇で行動した影響でやや眩しい。

「エクドイク、一旦魔法の解除を頼む」

「ああ」

「全く――どうしたのだ、その顔は」

「マリトに殴られた」

「陛下に? 何をやらかしたんだ」

「あーうん、まあ説明はします」

「あ、ししょーだ、ひどいかお」

「なんじゃ、誰かと思えば御主か、ぷふっ、なんじゃその面は」

「尚書様が戻ってきたのですか? わぁいつもより良い顔ですね」

気配を感じてか他の面々も降りてきた模様、いつもなら寝ているラクラまでもがばっちり起きていた。

ただし最後の台詞は後々問い詰める必要があるな。

とりあえずイリアスに隠し事はなしとの約束を守り素直に事情を説明、他のギャラリーがいる中での失態の報告とは実に気恥ずかしい。

「なるほど、私がするべきことを陛下が先にしてくださったのだな。私が陛下でもそうしただろう」

イリアスなんかに殴られたら歯が折れるどころの話ではない、首の骨ごとへし折られる。

そう考えればマリトで良かったのかもしれない。

「マリトはあえて何も言わずに突き放してくれた、『俺は関与してないとエウパロ法王に証明できるから気にせず好きにやれ』ってな」

ユグラ教の者達は相手の嘘を見破れる、マリトが入れ知恵をして関与したことが判明すればターイズとメジスの関係にも問題が発生する。

それを見越しての行動だ、ただし『全部の責任は自分で背負うこと』とも取れるがそれはそれ。

「それで君はどうするつもりだ?」

「紫の魔王のところに行って来る、勝負を終わらせるためにな」

「それでここには何をしに戻ってきたのだ」

「忘れ物をな、本気で紫の魔王と勝負するには欠かせない人材がいるからな」

「……そうか、わかった」

納得のいったイリアス、どうやら今のところお咎めはないらしい。

ならば言うべきことを言ってついて来て貰うことにしよう。

「だから付いてきてくれ、金の魔王」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

顔を見合わせる三名、金の魔王はわかるが何でイリアスまでそんな顔しているのか。

「妾か?」

「おう、お前の助けが必要だ。いくぞ」

「うむ、求められるのならば応えるのが良い女よな!」

「ちょっと待て」

金の魔王の手を引いて立ち去ろうとするとイリアスに肩を掴まれる、久々に痛い。

「なんでしょうか」

「ここは私を頼る場面ではないのか」

「いや、イリアスはターイズの騎士だろう。お前に頼っちゃ不味くないか?」

「……そうだった、いやでもな、この場面は私を頼らないで誰を頼るのだ」

「そりゃ金の魔王とエクドイク」

イリアスはターイズの騎士、ラクラはユグラ教の司祭、ウルフェはイリアスが保護者だ。

ターイズやメジスに迷惑の掛からない協力者と言えば金の魔王とエクドイクくらいなものだろう。

「そうかグラドナもいたか、ありがとなイリアス」

「ちょっと待て」

「なんだよ、城逃げ出したから早く行かないと追っ手がだな、あと肩が痛い」

「ここは、私を、頼る、場面、だよな?」

「……はい」

背筋の凍る笑顔を見たのは久々だ、マジ怖い。

「とは言ってもな、相手にはラグドー卿と同格に近いデュヴレオリだっているんだぞ?」

エクドイク曰く刺し違えればどうにかなるとも言っていたがそんなことはさせられない。

戦闘にならないように立ち回るようにした方が無難ではある。

しかしその言葉を聞いてイリアスは自身ありげに胸を張る。

「ならなおのこと好都合だ、私は既にラグドー卿から一本取っている」

「まじで?」

「本当だ」

あのラグドー卿から……信じられないがイリアスが嘘をつくとも思えない。

「でも一本だけだろ?」

「ラグドー卿には私の剣筋は完全に覚え込まれ、読まれている。その上での一本だぞ」

「なるほど、凄い進歩だ。でもなぁ」

「既に君はターイズとメジスの監視から逃げた身だ、今更誰に迷惑を掛けようと変わらないだろう」

「そうは言うが、この件が終わったらイリアスが処罰されるんじゃないのか?」

「大丈夫だ、私は君の巧妙な話術に唆されただけだ。君が逃げてきたなんて話は聞いてない」

「随分と狡賢い騎士になったもんだな」

「柔軟になったと言ってもらおうか」

――とは言え、イリアスが来てくれるのはありがたい。

いや、全力で紫の魔王と決着を付けるのだ、得られる戦力はいくらあっても足りない。

「わかった、頼りにさせてもらう」

「ししょー、ウルフェもいきます!」

「ウルフェは……今回はグラドナを連れて行こうと思っているからな、できれば留守番が良い」

ウルフェも成長しているだろうが、ここはやはりラグドー卿と同格であるグラドナを頼りたい。

「グラドナせんせーはバンさんのところでねこんでいます」

「まじかよ」

「まじです」

「グラドナさんなら今日ウルフェちゃんとの特訓の最中に腰を痛めて今は安静にしていますよ」

なんつータイミングの悪さ、砕けてもいいから明日になってからにして欲しかった。

「だいじょうぶです、ウルフェもつよくなりました! いまならカラじいもほふれます!」

「ほふるなほふるな」

うーむ、ここまでの自信だ、虚勢ではないだろう。

大悪魔の下位層や『駒の仮面』を与えられた上級悪魔ならどうにかなるか?

「連れて行ってやれ、君が負けたらもう二度と会えないのだぞ。今を最後の時にしてはウルフェとて悔やみきれん」

「そうは言うがなイリアス……」

ウルフェの瞳を見る、ウルフェはいつだって本気だ。

いつもはその目の輝きが眩しくて頭を撫でることで遮っていたが、これ以上背けるわけにもいかないか。

「わかった、お前が望むようにしろウルフェ」

「はいっ!」

元気な返事をするウルフェ、その後ろでうんうんと頷くイリアス。

保護者がこれではどうしようもないな。

そんな中、そのさらに奥で恐る恐る挙手をするラクラ。

「あのー、尚書様。私はいかなくても大丈夫ですよね?」

「イリアスとウルフェが来なきゃ連れて行く気は無かったが、こうなりゃついでだ、来い」

「扱い酷くありませんかっ!?」

「ならラクラ、お前の力も必要だ。助けてくれ」

「うっ、……それはそれで抵抗感じますね」

「うるせー、どうせお前ユグラ教追放されても問題ないだろうが!」

「問題ありますよっ!? どうやって食べて行けば良いんですか!?」

「それくらいの責任は取る、行くぞ」

「……仕方ありません、ご一緒します」

できれば巻き込まず済ませたいとも考えたが、結局この三人との縁はこちらの力では切れないようだ。

心配を掛けているにせよ、信用されているにせよ、こうして協力してくれることは正直嬉しい。

「時間が無い、急いで支度を整えてくれ。寝巻きや部屋着で構わんと言う奴はそのまま連れて行ってやる、ラクラはもうそのままで良いぞ」

「流石に着替えますよっ!?」

「いそいでしたくします!」

「妾も流石に寝巻きで『紫』の所へは行きたくないからの」

「では私も鎧を――」

「イリアス、お前には準備の前に一つ話がある」

支度のために2階に上がっていく者達の中でイリアスだけを呼び止める。

ここに来た理由の一つは金の魔王の回収だが、もう一つある。

「なんだ、鎧は着るのには地味に時間が掛かるのだぞ」

「先に一つ頼みがあってな、アレを使う許可をくれないか」

アレとは言わずもがな理解行動である、相手を分析し、相手の立ち位置へと自分を移し行動を予測する方法。

その過程で自己の存在、価値を無かったことにしてまっさらな状態で行う必要があり、自身を蔑ろにする行動は許せないとイリアスに使用を禁じられた『俺』の数少ない得意技の一つだ。

「それは……」

「本気で紫の魔王と戦うのに出し惜しみはしたくない」

「……承服しかねる、君にとって最も勝率の高い方法と言えど自身を蔑ろにして良い理由にはならない」

「蔑ろにはしない、今回行う相手への理解は敵を謀るためのものじゃない。彼女の心を理解し、同時に『俺』自身が向き合うために使いたい」

相手の立場にさえなれれば罠に嵌めることはできる。

だが向き合うためにはそこにさらに自分と言う存在を加える必要がある。

互いに本気で勝負をするのならば相手を良く知ることは勝つために必要不可欠となる。

「……いいだろう、だが目に余ると判断した場合はたとえ君の勝利を逃すことになろうとも私は君の尊厳を優先して護る。それと使っていいのは一度だけだ、紫の魔王以外には使わないと約束してくれ」

「ああ、分かった」

これで現在に於ける用意はほぼ万端、グラドナはもう知らん。

各々が手際よく準備を済ませ、再びエクドイクに不可視の魔法を使用してもらいイリアス家を出る。

道中は静かだ、捜索が行われている気配は――ああ、ほのかに遠くで照明石の光が移動しているのが見える。

あんなに堂々と探し回るということは騎士団の方々だろう。

動きを見ながら遭遇しないように進んでいく。

富裕層へ到着すると周囲の捜索がやや多く感じる。

全体の捜索はターイズ騎士団が行い、紫の魔王への接触も懸念してメジスの聖騎士団も動いているといった具合だろう。

メジス聖騎士団の動きは上手く読めないが彼等もこの夜のターイズに詳しいわけではない。

路地裏をせっせと通り、進んでいくとエクドイクが全員の動きを制止させた。

「待て同胞、誰かいる」

目を凝らしてよく見ると確かに誰かが灯りを持たずに路地裏の中に立っている。

「――ミクス=ターイズか」

判断が付く前にエクドイクが答えを教えてくれた、確かに良く見ればミクスである。

「どうする?」

「静かに通り抜けするしかないな、足音って消せねぇの?」

「可能だ、少し待て」

エクドイクがそれぞれに使用している不可視の魔法が込められた魔力に手を触れ、しばらくして手を離す。

「一歩動いてみろ」

それを確認し、一歩進んでみる、足音が全くしない。

「器用だよな本当」

「あまり過信するな、大きな音を出せば気取られるからな」

「了解」

息を殺し、そっとミクスの横を通り過ぎようとするが――

「む、そこですな!」

ガバッとミクスがこちらに正確に飛びついてきた。

掴むだけでいいだろうに飛びつく意味とは。

ゴリラ騎士であるイリアスの万力程ではないがミクスの力も地球人程度では逃げられません。

「まじかよ、なんでわかるんだよ」

「冒険者を甘く見てはいけませんぞ、ご友人の血の匂いくらい嗅ぎ分けられます!」

「犬かお前は」

「ウルフェもできます!」

「張り合うな」

仕方なくミクスと対峙することとなる。

でもこれってマリトの手配だろうなぁ、そういうことなんだろう。

「マリトの差し金か」

「はい、兄様にご友人を探しに行け、そして逃がすなと言われております」

「そうか、じゃあ仕方ない、一緒に行くぞ」

「うん? どういうことでありますか?」

「マリトから逃がすなとは言われているだろうが捕まえて来いとは言われてないだろ、一緒に行動すれば何の問題も無い。マリトもそのためにお前を寄越したんだろうよ」

イリアスが素直にこちらにつくとは分からなかった、そうなるとウルフェやラクラを連れ出すことも遠慮していただろう。

そうなった場合、エクドイクと二人きりと言うことになる。

その辺の保険としてミクスを寄越したのだろう。

「おお、そういうことでしたか。何か違和感があるなとは思っていましたが」

「傍にエウパロ法王もいたんだろう、もしくはユグラ教の関係者か」

「ご明察の通り、前者ですぞ」

ミクスから大まかな城の様子を聞くことができた、国内がだいぶ手薄なのはマリトが担当しているからのようだ。

とは言えエウパロ法王も当然のように国内にも捜索隊を回しているあたり抜け目はないな。

「全く、大切な妹を魔王に向かっていく馬鹿についていかせるとはな」

「それだけご友人のことも大切と言うことなのでしょう」

「それで、ついてくるのか?」

「もちろん、お供させていただきますぞ!」

「そうか、じゃあ改めて――力を貸してくれミクス」

「はい! 喜んで!」

「大所帯になってきたのう」

「流石にもう増えないだろ、ノラが出てきたら流石に追い返す」

「ノラ殿はもう眠っている時間ですからな」

そしていよいよ目的地である紫の魔王の宿まで辿り着く。

周囲は暗く、照明石の設置してある街灯すら点灯していない、恐らくは光を好まない大悪魔達が意図的に故障させたのだろう。

この周囲一帯はマリトが地盤調査だの言い訳を用意して民衆を一時的に避難をさせている。

照明の点灯にケチを付けるものはいないだろう。

扉の前に接近すると影の中から人影が湧き出てくる、デュヴレオリだ。

「こんな夜更けに何用か、人間」

「昼過ぎまで寝ていたんだ。まだ紫の魔王も起きているだろう?」

「用件を尋ねたのだ」

「決着をつけに来た、伝えてくれ『最後の勝負をしよう』ってな」