軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まずお見舞い。

紫の魔王が倒れ、勝負は延期となった。

四体の大悪魔を倒し、恐らくは年度におけるユニーク討伐の最高記録に届くだろうという現状ではある。

とは言え喜ばしいことばかりではない。

紫の魔王の懐刀であるデュヴレオリの強さがメジス最強の騎士を容易く凌駕してくれたのだ。

分析班のカラ爺曰く、『ありゃラグドー卿と互角じゃね?』とのこと。

この事実は二カ国のトップ周りの空気を一層重くするのには十分であった。

なおヨクスは現在安静にしている、戦闘ダメージだけでなく体内の魔力を構築する器官にも深手を負ったらしい。

そういや最後あたりに感電していたような気がする、ぶっちゃけ速すぎて見えなかったのだが。

タオルを投げる担当のミクスでさえ目で追えないのだ、常識に捕らわれている地球人には無理な話である。

「これで尚更紫の魔王に対して強攻策が取れなくなったな」

「流石にラグドー卿クラスともなると難しいだろうね」

デュヴレオリは一騎打ちに勝利したことで次回からの勝負の一騎打ち対象から外される。

つまるところ、残りを全勝したとしてもラグドー卿に並ぶ強さの大悪魔が残ることになる。

それだけならまだ対処のしようはある。

現在この国にはラグドー卿とグラドナがいる、同格ならばこの二人を同時投入すればどうにかなるだろう。

だが重要なのはそこではない、一番の問題は紫の魔王が大悪魔達をメジス魔界から呼び出し、短期間でラグドー卿クラスの存在にまで強化してしまったということだ。

デュヴレオリに勝てれば自らの一騎打ちを承諾するという特例を持ち出した辺り、その辺が上限であると信じたい。

とは言えその数や工程の難易度が不明な時点で総合力は未知数なのだ。

大悪魔との一騎打ちを提案したことさえ、こちらに勝機のあるように加減をしていた可能性もある。

仮にデュヴレオリを倒したとしても残った悪魔を強化すれば同等の戦力をすぐに用意できるかもしれない。

数で圧倒し、質すら並んでくる、なるほど湯倉成也が真っ直ぐ紫の魔王を倒しに行ったはずだ。

無論その方法もデュヴレオリを始めとする大悪魔達によって難易度はさらに上昇している。

「まさかヨクスがこうもあっさりと敗北するとは……応援を呼ぶべきか……いや、ヨクスが歯が立たないともなればこちらで使える人材は……」

最もため息が深いのはエウパロ法王だ、何せメジス最強を謳っていたヨクスが完敗なのだ。

メジスだけでは紫の魔王を追い詰めることは困難極まっている。

「エクドイク、お前が見た感じデュヴレオリはどうだった」

「厄介だな、刺し違えて構わんのなら手段はあるが」

「んなもん却下だ」

刺し違える覚悟があればどうにかなると言うのも凄い気がするがそこはあまり触れないでおこう。

「とは言えあれほどの強さの兵を無数に作れるということは無いだろう、当面は大悪魔の数を減らす他無いのではないか?」

「そこはそこでやや面倒な感じになってきているんだよな」

紫の魔王の一番目的は言うまでも無くこちらの身柄だ。

だが勝負の内容には自らが満足するような形を取っている、そこに勝機はほぼ介在していない。

後半にもなれば本腰を入れて勝負を仕掛けてくるだろう、いや今回の一件で冷静になられる可能性だって否定できない。

「可能性があるとすれば君が上手く紫の魔王を孤立させ、ユグラのように奴の首を取れば――」

「それは悪手です。成功したとして次に復活した紫の魔王は確実に人間を信用しなくなるしより明確で強大な敵になります」

「では殺さずにどうにか封印を――」

「エウパロ法王、その辺にしてもらおうか。友を使って活路を見出そうと画策するのは結構だがターイズの国民を巻き込む可能性がある手段を私は許容するつもりは無い」

マリトが苛立った口調で割り込みエウパロ法王も静かになる。

ヨクスが奇襲を仕掛けるべきだと言ったのをターイズに迷惑を掛けられないと諌めたのはエウパロ法王自身だ。

彼にも事態の深刻さに余裕が無くなり始めている。

「……そうだな、しばらく頭を冷やしてくるとしよう。ヨクスが動けぬ以上こちらの現存の戦力では上級の悪魔までしか対応ができん。完全に裏方に回ることになるだろう、彼の復活を待つ間こちらはメジスとの連絡を行うとしよう」

そういってエウパロ法王は去っていった。

「どうしたものかな」

「どうしたもんだろうな」

「君の得意技で何か妙案でも浮かばないものかい?」

「生憎封印中だ、それにできたとしてもそれは紫の魔王の裏を掻くような真似ばかりだぞ」

相手を理解する手法は相手の立場になり行動を予測し罠に嵌めるための物だ。

それこそ紫の魔王を孤立させ湯倉成也のように暗殺することは可能かもしれない。

だがそれで終わりだ、『俺』の人生ではもう会うことは無いだろうがこの世界にとっては人を信じなくなる凶悪な魔王が増えることになる。

デュヴレオリが報復をしないとも限らない、下手な行動を取ればメジスからも危険視されターイズとの国交にも影響が出る可能性がある。

「……君がそういうなら仕方ない。大きな動きが無い限りは勝負を継続してもらうしかないね」

「ああ、やれるだけやってみるさ」

特に相談することも思いつかず城に用意された部屋に戻りベッドに倒れこむ。

何と言うか、息苦しい。

紫の魔王を騙したままでいるのが嫌で素性を明かしたのは事実だ。

だがその結果彼女は慣れない勝負を受け、過労で倒れた。

ターイズにもメジスにも迷惑の掛からない方法を考えようとしていたのに、今は無難な着地点を模索しているだけだ。

異世界に来た筈なのに、この焦燥感はなんだろうか。

まるで地球での生活の繰り返しじゃないか。

無色の魔王は言った、『俺』には地球への未練があると。

あんな所だってのに、未練なんて――

「あー山の石ころになってカビ生やして余生を過ごしてぇな……」

「随分と独特な願望を持っていますね尚書様」

首だけを動かすとラクラが部屋に顔を覗かせていた。

いつからいたのか、ああマリトの部屋から出た後付いてきてたのか。

今の言葉を聴かれたのは多少恥ずかしさもあるがラクラだしいいや。

「なんだ、今は悪ふざけに付き合う気は無いぞ」

「そんなこと言わないでくださいよ、最近尚書様の周囲にはあの人がいるものだから近寄りがたかったんですよ?」

ああ、そういえば城に泊まることになってから城内部での護衛は無くなったんだったな。

一応エクドイクにも部屋はあてがわれている、有事の際には飛んでくるだろう。

部屋に入ってきたラクラの手には酒、そしてグラスが二つ。

「どうせ寝るなら一杯付き合ってくださいませんか?」

「あー、そうだな」

どうせこの後寝るだけだ、寝つきを良くするには丁度良いだろう。

無言でグラスを受け取りお酌をしてもらう。

一口飲むと良い酒なのがわかる、どこから持ってきたのかは聞かないでおこう。

「尚書様は最近大変そうですね」

「肉体的には平気だけどな」

「私の方は精神が平気ですけど肉体的に辛いです」

山で悪魔狩り、ここ最近も有事に備えてすぐに動けるようにエウパロ法王から指示を受けている。

普段だらけているラクラからすれば確かに緊張の抜けないこの日々は堪えるだろう。

「金の魔王さんがうちに来て寝心地は良くなりましたけど、尚書様が家に居られなくなったから皆さん寂しそうにしていましたよ」

「イリアスはともかく、金の魔王やウルフェはそうだろうな」

「いえいえ、イリアスさんも寂しそうでしたよ。ラグドー卿の特訓から疲れて帰って来た時とか尚書様を見てやる気を出していたんですから」

そうだったのか、毎日ちらりとだけ姿を見せていた気がしたのがそんな理由だったのか。

護衛対象を見て初心に帰っていたとかそんなところだろうか。

「ミクスさんやノラちゃん、ルコ様だってそうですよ」

「ルコ様って言うとルコ様怒るぞ」

「もちろん私だってそうです、お酒一緒に飲める人少ないんですよ!?」

「グラドナいるだろう」

「グラドナさんは好き勝手に飲んで勝手に潰れるんです、私の愚痴をしっかり聞いてくれて満足して飲めるのは尚書様くらいなものです!」

「愚痴聞かされるのかよ」

「尚書様が私にしてくれることなんてそれくらいじゃないですか」

「酷い言い草だな、おい」

とは言え、自分がラクラにしてやれることなんてのはたかが知れている。

地位向上こそやっているが個人でやっているわけじゃない。

多くの人達の協力を得ているだけに過ぎないし、そもそもラクラにとっては望んでいることではない。

ラクラの望んでいるわがままに応えていることなんてほんの僅かだ。

それすら放棄していちゃ、そのうち愛想もつかされそうだ。

「それに料理だって約束してもらってから作ってもらっていませんよ!」

「バターは仕入れたんだがな……レシピは教えるから自分で作れよ」

「嫌ですよ、尚書様が作って、私が楽をして食べるご飯が美味しいんです」

「こいつ……まあ約束は守る、早い所ひと段落しないとな」

その後他愛の無い話をして、酒を飲み干したラクラはふらりと帰っていった。

いつまでもマイペースな奴である。

とは言え良い気分転換にはなった、明日は少し動くとしよう。

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今の私は魔王、だから今見ているこの懐かしい光景は夢に違いない。

遥か、遥か昔の記憶、人間と亜人との争いは元より人間同士の争いすらあって当然の時代。

私はある王国を治めていた王の娘だった。

私が生まれた日、父は戦争に勝利した。

私が初めて立った日、言葉を喋った日も父は戦争に勝利した。

毎日戦争に明け暮れていればそんな偶然も珍しいことではない。

だが人は偶然を大切にする生き物だ、何かしらにすがって生きる生き物だ。

私は繁栄の象徴として担ぎ上げられた、幸運をもたらす姫君として。

戦争に連れ出されたのはいつだったか思い出せない。

馬に乗せられ、戦場を見た。

その時は一体どこに連れて来られたのか分からなかった。

ただ煩くて、煩くて、泣いてしまったことだけは覚えている。

それも最初のうち、物心がはっきりとついた頃には慣れてしまっていた。

父は私を重宝していた、私を戦争に連れ出せば快勝できると。

戦争に勝ち続けた国が力を得るのは当たり前だ。

そんな国が弱小国に対して戦争を行えば快勝するのは当然だ。

それでも私と言う存在を重宝するようにしたのはきっと負けるのが怖かったからなのだろう。

私が戦うことは無かった、ただ戦場に連れ出され、弓矢の届かない場所で戦場を見続けることが私の責務だった。

だから見かける敵は死体だけ、生きていた者もいたかもしれないがそんな些細な違いなんて分からない。

唯一言葉を交わしていた父は戦争の時以外私に話しかけてきたことは無かった。

多くいた兄弟は皆、強大な父にのみ視線を向けていた。

母親は物心ついたときからいなかった、私の様な幸運の象徴を生み出した母体だからと、次に男を産めば後継者になってしまうと言う理由で別の妃達に殺されてしまったらしい。

自分のせいだとか思ったことは無い、母親を奪われたことの怒りも無い。

誰もが私に興味を持っていなかったから、私は何もされなかった。

王の傍に備え付けられているシンボルに話しかける物好きなどいなかった。

何かを欲した時、私は父のように誰かに命じた。

命じられた者はただ粛々とその命令に従った。

命令をすれば動く、だけど何も言わなければ誰も何もしてくれない。

父や兄弟達のように一部の者達には命令をすることができなかった。

怪訝な顔をされ、無視された。

時折世話をされることがあったが、いつも言葉の最初には『お父上の命令で』とついていた。

彼等は私に何かをする時には対価を得て行動していた。

でも自分が予想しないタイミングで何かをされるのは嫌いではなかった。

これが世界、こういう世界、不思議に思うことも無く私は生きていた。

ある日、私はいつも通り戦場に向かう最中だった。

気づいたら胸に矢が刺さっていた。

幸運の象徴である私のことを知り、私の命を狙った者がいたのだ。

物陰から現れる刺客、それを見ても私は特に恐怖することは無かった。

私なんかを狙った所で意味の無い行為だというのに、そう考えながら私は馬から落ちて意識を失った。

気づいた時には見知らぬ場所で目覚めた。

治療こそされていたが体は弱りきっていた、自分の余命があと僅かなのだと自覚できた。

『良かった良かった、同意が無いと上手く発動できないからね』

そこで出会った人物、それがユグラだった。

彼は偶然通りかかり、刺客の手から死ぬ寸前だった私を救ったのだと言った。

『このままだと死ぬだろうけど人間の君を助けるつもりは無い。生かしたところで惨めに死ぬことに変わりないなら助ける意味無いよね?』

惨めな死、その言葉だけが気になった。

私の人生は惨めだったのか、

『惨めだろー、泣きも笑いもしない、彩りのない人生のまま終るんだろう? 君の立場だったら――いやぁゴメンだね!』

否定されたことに不快感は無かった、思ったのは疑問だけだ。

ならば良い人生とはどう言うものなのだろうかと問うた。

『そんなこと今から死ぬ相手に話しても無駄な事だよ。ああでも君が望むならば君には第二の人生を与えよう。そこで探してみるのはどうだい?』

疑問を残したまま死ぬのは何かが違うと思い、私はユグラの提案に乗った。

第六の魔王、『紫の魔王』となった。

与えられた力はとても強力だった。

今までにはできなかったことができるというのは新鮮だった。

『序列の呪い』の不快さや他の魔王の恐ろしささえ、新鮮だった。

力を与えられた後、ユグラは私たちを解放した。

特に行く当ての無かった私は魔王であることを伏せ、国に戻った。

父は私の帰還に驚いたが、運よく助けられ治療を受けたという話を信じた。

私は元通り王の娘としての日々に戻った。

しかし私を一度失ったことで彼等には僅かながらに変化があったのだ。

もう誰も私を幸運の象徴として見ていなかった。

父すらも、私を戦場に連れ出そうとはしなくなっていた。

私がいなくても快勝できることに気付いたのだ、一度私を失ってようやく気づいたのだ。

戦場へ赴くと言う変化すらなくなった日々は以前よりもまして味気ないものだった。

これほどの力を得たのに、何も変わらないのかと。

これでは疑問は解けない、何かをするべきなのだろうか。

だが何を、私ができることなんてたかが知れている。

今私の手元にある力と言えばこの『籠絡』の力だけ。

だから特に深く考えず、私は父に『籠絡』の力を使ってみた。

強大だった王は突如娘に平伏し、全ての実権を分け与えてしまった。

今までに無い変化、私は驚き、新鮮さを感じた。

あの父がこんなにも変わるとはと。

しかしそれを黙っていなかったのが兄弟達だ。

一体何をした、どうやって誑かした、お前に王が務まるはずが無いと私を責め立てた。

ああ、たった一回『籠絡』の力を使っただけでこんなにも世界は変わるのか。

私に無関心だった兄弟達が今は怒りを向けている、なんて、なんて素晴らしいのだろう。

私は『籠絡』の力を何度も使った、兄弟達を籠絡させれば今度は妃達が、妃達を籠絡させればその親族や騎士達が私を責めた。

数が増えてきて処理が大変になったので籠絡した者達に何とかしろと命じ、また『籠絡』の力を使う。

気づけば国は滅んでしまった。

内乱が繰り返され、国としての機能が失われてしまっていたのだ。

一国が内乱で滅ぶことなんてこの時代では大して珍しくも無い。

残ったのは傀儡だけ、彼等は今までと同じで何も変わらない。

これで終わりなのか、もっと変化が欲しい。

そう思っていた時、『黒』が世界に牙を剥いた。

圧倒的な力を持つ魔王の軍勢に世界は大いに震え上がった。

私はそれを見て、私も同じようにしてみようと思った。

傀儡を増やし、魔界を生み出し、悪魔を使役する。

人間達は死に物狂いで抵抗を行った、その姿がとても胸に響いた。

だから『籠絡』の力で彼等の力を奪い、さらにさらに世界を塗り潰していった。

『蒼』を誑かし、もっと大きな、広い範囲で多くの変化を求めた。

しかし――

『快調なところ悪いけど、ちょっと元気良過ぎ』

再び会ったユグラによって私は殺されてしまった。

どうも私のやり方は過激すぎたらしい。

確かにあのままでは人間はそう遠からずに全て滅んでいたかもしれない。

でも邪魔をされたことは凄く悔しくて、印象に残った。

蘇った世界にはユグラは既にいない、しかし私と同格の魔王達も徐々に蘇っている。

邪魔をされたくない、今度は上手く立ち回ろうと思い至った。

クアマに身を隠し、自分にできる力をよりよく活かし、力を蓄えた。

悪魔を増やし、ユグラから与えられた知識を昇華し、更なる力を得た。

それらが順調で、単調で、ついガーネにいる『金』への攻撃を考えてしまった。

私と同等の相手を苦しめるのはさぞかし気分が良いだろうと、久々に『序列の呪い』を受けてみるのも良いと。

それらがあっさりと破られ、私は彼に興味を持った。

抵抗する人間達のように、私の心を響かせてくれるかもしれないと。

それを『籠絡』の力で支配すれば一体どれほどの反応が待ち構えているのかと。

まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。

力も何も無い、感情すらろくに見せない彼に声を掛けられ、手を差し伸べられた。

たったそれだけ、それだけなのに、世界に色があることを思い出させてくれた。

街を歩く人々の騒がしさが耳に心地よく響いてくる。

自分は寝ていたのだろうか、体を起こす。

久しぶりに体が軽く感じる。

そうだ、私は――

「デュヴレオリ、いるかしら?」

「ここに」

声に応じて即座に現れるデュヴレオリ、私が気を失った際に彼がここまで連れてきたのだろう。

あらゆる恩恵を与えたのだ、隙を見て私を殺せば良かったろうに。

忠義を尽くすと言ったが、どうやらその意思は今のところ本当のようだ。

「あの後どうなったか教えてもらえるかしら?」

「主様の体調を気遣った人間の提案により勝負は延期、平等に勝負ができるようになったら再戦を受けるとの事です」

何て無様、大悪魔の醜態を言える立場ではない。

まさかこの不老不死の肉体がここまで体力がないとは知らなかった。

いや、体力の限界は感じていながらも彼との勝負、彼との時間が楽しくて仕方が無かったのだ。

幸いにも彼は勝負をまだ受けてくれる、せっかく貰った時間は有効活用しなければ。

「そう……心配を掛けたわね?」

「そんな、勿体無い言葉にございます」

私は何を言っているのだろう、デュヴレオリを気遣う気なんて微塵も無いのに。

きっと彼が私を気遣ったことが嬉しくて、それをつい真似したくなったのだろう。

「今日はゆっくりと休むとするわね?」

「はっ、では人間には帰ってもらいます」

「待ちなさい、彼が来ているの?」

「はい、果物を持参し見舞いと称してやって来ています。主様はお目覚めになっていないと伝えたのですがしばらくは待ちたいと」

気の利かない悪魔だ、過去の報告よりも今のことを真っ先に報告すべきだろう。

しかし彼が来てくれている、それだけでとても嬉しい。

「すぐに通しなさい、お茶の用意も――いえ、先に鏡と櫛を用意なさい?」