軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まず犠牲者。

三日と言う準備期間とは短いものであっという間に勝負当日となった。

ちなみに日中は当然のように紫の魔王との団欒の繰り返しであった、せっかくなので一緒に料理道具とかも買いに行ったりもしましたよ。

紫の魔王は喜んでいたのだがイリアスからは何をやっているんだと帰ってから小言を言われる三日間。

誘惑に揺らぐ日々であったが、ラクラに酒を与えその堕落っぷりを見て堪えることに成功。

まさかラクラにこんな使い方があるとは、しばらくは役立てよう。

会場として城壁の外に簡易会場が設営されていた。

悪魔の仕業なのだろうか、詮索はしないことにした。

事前にエクドイクが機材や施設の確認を行い、異常無しと判断されいよいよ勝負開始である。

芋、そして互いの調理場の間に置かれた大きな台の上に集められた食材から自由に選んで調理を開始する。

「さ、頑張るとしますか」

てきぱきと水と芋を鍋に移し、火打石でスムーズに火をつける。

ふっ、伊達にこの世界の食卓を作ってきているわけではない。

その作業速度はゴッズにも負けない速度、料理初心者の紫の魔王にこの速度は出せまい。

「まずは火よね? ――えい、これで良いわね?」

「魔法使うのはずるない?」

「あら、個人の持てる力を使うのは自由よ?」

対する紫の魔王は魔法で火をつけ、野菜すらも風魔法で凄まじい速度で処理をしている。

包丁を握ってすらいない、酷いものである。

だが、いくら魔法が便利と言えど料理の良し悪しは別だ、負けるわけにはいかない。

「さーいよいよ始まりましたご友人と紫の魔王の料理対決、まずは作業効率において魔法を自在に扱える紫の魔王が有利とみますがどうですかなエクド殿」

「そうだな、同胞の作業速度も悪くないが魔法が使えない料理人という時点でハンデは大きいだろう」

なにやら実況解説を始めている見学者、ちなみにこちら側の見学席にはエクドイク、ミクス、ウルフェ、ラクラ、グラドナが控えている。

イリアスやラグドー卿、マリトは『籠絡』の力を警戒して今回はお留守番だ。

茶番の様なこの勝負に紫の魔王がどのような意図をもって介在しているのかを見極めるまでは慎重にとのこと。

一応念を入れてグラドナの同伴を許可してもらえたのはグッド、酒ばっかり飲んでやる気がないけどな。

「尚書様の料理はお肉を使った物ですよね、芋は付け合せにでも使うのでしょうか。他の食材がほとんど見えないのが気になりますけど」

「それに比べ紫の魔王は良い体してんなー、あんな美人さんなら籠絡されたいなー」

「グラドナせんせー、おさけきんししますよ」

「ウル坊、それだけは勘弁してください」

緊張感あるはずのエクドイクとミクスもノリが良いせいでこちら側の緊張感はゼロだ。

一方紫の魔王側の見学席には二名の人物が見える。

一人はデュヴレオリ、もう一人は初見だ。

人間に変身しているのであろうが2mを超える巨漢、所々に人間離れしたパーツが見え隠れしている。

恐らくは大悪魔、今回の審査員だろうか。

視線を向けていると気づかれたのか睨み返される、どうみても殺意しか込められていない。

そりゃこんな茶番につき合わされちゃなぁ……。

デュヴレオリは紫の魔王の召集に素直に応じたらしいが他の大悪魔はほぼ強制的に連れて来られたらしい、ユグラから教わった魔物を統べる力や『序列の呪い』の様な制約でもあるのだろうか。

紫の魔王、エプロン姿が初々しくて良い。

ではなく、調理を見る感じあちらはスープ系の料理だろうか。

普段ならこちらに熱い視線を向けている彼女だが今は料理に専念している。

本気と言うことだろう、ならばこちらも受けてたとう。

「さぁ、こちらは完成したわ? 貴方はどうかしら?」

「ああ、こっちも仕上がった。焼き物だから先に出しても良いか?」

「ええ構わないわよ?」

互いの料理にクロッシュを被せ審査席に並べる。

そして審査席に座るのだが、ラクラが手を上げた。

「はいはーい、尚書様ー! 尚書様の料理食べたいですー!」

「あのなぁ……」

「貴方自身の料理だけならば問題ないわよ?」

それもそうか、自分の料理に関しては味見でもう分かっているのだから食べる必要が無い。

こちらの料理を食べるのは紫の魔王と大悪魔の一人、あとは適当にこちらの人員でも良いのだ。

「そちらがそうするなら私の料理はググゲグデレスタフだけでなくデュヴレオリにも食べさせようかしら」

「光栄でございます」

そんなわけで最初の審査員席に座ったのは紫の魔王、ググゲグデレスタフと言う名の大悪魔、ラクラの三名である。

ラクラが不相応に見えて仕方ないのだが、こいつは大悪魔を倒した経歴もある、ある意味対等だ。

クロッシュを持ち上げる、そこからはパチパチと言う音と湯気が立ち込める。

「こちらの料理は荒挽き肉と野菜を混ぜたハンバーグ、そしてお題の芋のピュレだ」

ピュレ、フレンチでは良く見られる芋を磨り潰した物、いわゆる付けあわせ料理だ。

だが昨今では有名なレストランのシェフが一品料理として仕上げたりとシンプルながらに奥が深い。

牛乳、塩、バターを使う料理だが牛乳はこの国では生産されていないので山羊の乳を使った。

バターに関してはノラとの魔法研究の一環で温度調整を行える容器の製造をした際に試しに作ったものだ。

ピュレは味の濃い肉料理に相性が良い、悪魔の好みをエクドイクに聞いたところ肉とばっさりと返って来たのでこの組み合わせにした。

ステーキでも良いと思ったのだがせっかく香辛料が豊富なターイズなのだからとハンバーグを選んだ。

紫の魔王も肉料理は食べられることは調査済みである、ラクラは知らん。

「ほう……」

ググゲグデレスタフが匂いに興味を持ったのか、ハンバーグに手をかざす。

すると一瞬でハンバーグが6等分された。

中から大量の肉汁と香りが広がる。

ググゲグデレスタフは何も言わずにフォークを鷲掴みにしてハンバーグへと突き刺し、口へ運ぶ。

「肉自体がとても柔らかい、中に含まれている野菜の甘みと香辛料の香りが肉独自の臭みや脂っこさを強みへと塗り替えている。溢れる肉汁もまたそれらを一つの味としてまとめる要素……そしてそれらを舌の上でより明確に浮かび上がらせているのは……塩か。強大な力を持つ肉が野菜や香辛料の助けを得て塩の利いた肉汁のオーラを纏い、舌でその武勇を語ってくるか……」

何だコイツ、エクドイクの時もそうだったが悪魔はレビュワーか何かなのか。

隣で何も言わずに幸せそうに食べているラクラを見ていると審査員勝負で負けている気がする。

「次は芋か……」

ハンバーグに比べややモチベーションの低さを感じさせながら芋のピュレを一口分掬い口に運ぶ。

「これは……芋だ、だが芋なのか? 先の料理が舌の上で武勇を上げる戦士ならばこれは舌の上で儚げに最後の時を迎える乙女、まろやかさと優しい味わいを残して切なくもこの世界に別れを告げる悲劇が口の中で――いやまて、両方を口に含めば……何と言う調和、荒々しい戦記と悲劇の物語が組み合わさり一つの物語を紡いでいるようだ!」

本当何だコイツ、一方ラクラは満面の笑みで食べている。

確かに美味しそうに食べていると言う点ではラクラに軍配があがるのだが……。

「ラクラも感想くらい言ったらどうなんだ」

「美味しいです! なんでいつも作らないんですか!」

「まさか文句を言ってくるとはな」

ハンバーグってのは作るのも手間なんだよ、ピュレを作るバターだって試験運用で少量作っただけに過ぎない。

ちなみに紫の魔王は……どうやら黙々と食べているようだ。

しばらくして全員が完食した。

「――とても美味しかったわ」

「それはどうも」

「ふん、人間風情にしてはと言った所か、だが魔王様の敵ではないな」

マジかよ、アレだけのレビューでその言い方とか魔王の料理にはどんな解説がくるんだ。

とりあえずラクラを立たせてこちらが座る。

紫の魔王も立ち上がり、代わりにデュヴレオリが席に着く。

「尚書様、私も食べたいですー」

「良いからお前はもう座ってろ」

「私の料理はこれよ?」

クロッシュの下から現れた一枚の皿、やはり推測どおりスープ系の……なんだこれ。

一言で言えば……なんだこれ。

所々に芋らしき残骸が見えるのだが……スープの色が紫とはなかなかファンキーだ。

臭いは……軽い刺激臭、これは……ひょっとして毒物ではないだろうか。

「さぁ、どうぞ?」

ちらりと生贄にすべきラクラを見る、奴は既に見学席に避難していた。

許せねぇ、帰ったら覚えていろよ!?

他の大悪魔二人に視線を向けてみる、案の定困惑の表情を浮かべている。

あれだけ堂々としていたのだ、きっと美味な食事が出てくるだろうと思った矢先にこれでは……。

いや、見た目こそ悪いが味は良いのかもしれない、そうだ料理勝負を挑むくらいならばきっと――お、ググゲグデレスタフが一口いった!

さあ、はたしてどんな食レポを雄弁に語って――

「……ゴフッ!」

た、倒れた!?

やはり見た目どおりの味と言うことか。

しかも顔面から皿に……死んだのか?

「ググゲグデレスタフ、魔王様の作られた料理になんたる無礼な! 見ていろ、こうして食べるのだ」

デュヴレオリが勢い良く謎のスープを口に運ぶ、吐き出しはしない。

しかし震えている、震えている、めっちゃ震えて――いや、あれ痙攣だ!?

あ、動かなくなった。

空の青さを眺めながら沈黙したデュヴレオリ、確かにググゲグデレスタフよりは見事な姿勢だ。

「……貴方は食べないのかしら?」

大きな勘違いをしていた、これは料理勝負ではなかった。

そう、これは審査員にさせることでどんな料理でも食べなければならないと言う立場を強制する為のもの。

大悪魔ですらこうなる料理を食べさせられれば命の保障は無い、しかしこれを拒否すれば勝負放棄となってしまう。

ルールの穴を突いてきた策略……っ!

「……食べてくれないの?」

と思ったが、その表情的にどうも違うようだ。

もしや普通に作ってこの惨状なのだろうか、いやいやでもなぁ。

「一つ聞きたいんだが、味見はしたよな?」

「あじ……み?」

「……味付けを済ませた後にこれで良いかと自分で食べてみることだ」

「――ああ、そういう調理法もあるのね?」

これはダメだ、何がとかではなく全てが。

つまりこれは一切味見をせずに素人が適当に料理した危険な料理と言うことか。

いや、料理と言うよりかは加工と言うべきだろう、何に加工されたかは誰もしらないが。

しかし勝負を受けた以上は食べねばなるまい……ええい、ままよ!

スプーンを掴む、腕が震える。

一口分の液体を汲み取り、いよいよ口に……。

「そうね、ちょっと私も食べてみようかしら?」

おや、紫の魔王がどこからか出したスプーンを手に取り、デュヴレオリの残したスープを一口……そして優雅に調理場の陰に移動。

あ、戻って来た。

「私の負けで良いわ」

「えっ」

「私の、負けで、良いわ」

恐ろしく真顔、良く見るとほんのり目尻に涙が溜まっている。

……裏で吐き出すくらい不味かったんだな、本気でこの料理で勝負する気だったと言うのは恐ろしい。

「……ごめんなさいね? 貴方に手料理を食べて欲しかったのだけれど、これはあんまりだったわ」

意気消沈としている紫の魔王、さてはこの勝負の目的はこちらに手料理を食べさせることが目的だったと言うのか。

なんて無謀な――しかし、そういうことならば話は別だ。

「この料理は処分するわね?」

「いや、一応勝負は勝負だ。一口くらいは食べておく」

「そんなこと気にしないで良いわよ?」

「隣の大悪魔達も食べたんだ、それに人のために作ってくれた料理を一口も食べないと言うのは寝覚めが悪い」

そういって目を閉じてスープを口に放る。

――はっ、意識が一瞬とんだ!?

口の中に感覚がない、顎が僅かに震えている……これは恐らく口内が麻痺している。

流石に用意された食材を使っているだけあって毒はない、と思いたい。

それでもこれはヤバイ、炭を食った時よりもヤバイ。

「――す、すまん、味が分からなかったからもう一口行く」

「ちょ、ちょっと?」

二口目、うん、全身が何かおかしい。

三口目、腕が鉛のようだ。

四口目、胃が暴動を起こしている。

五口目、六口目、七口目……もはや食事をしていると言う感覚はない。

これはストイックな修行だ、きっとそうなのだ。

何口食べても体へのバッドステータスが増える一方で味がしない、そして気づけば全身が不調を訴える動悸を残しつつも食べ終えた。

「……ごち、そうさま」

「しょ、正気なの?」

「勝負は勝負だからな……そして言うまでも無く、こっちの料理の方が美味い……これで2票、こちらの勝ちだ」

相手が純粋に勝負を挑むのであれば受ける、そしてルールはしっかりと守る。

紫の魔王は両方の料理を食べて勝敗を宣言した、ならばこちらもそうすべきであるのだ。

それと本気で食べて欲しかったと言われたら断れるはずも無い。

これでまずは一勝、完勝である。

しかし勝ちを確信した瞬間に意識がふわっと失われた。

やはり味見は大事なんだよ、うん。