軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まず、宣戦布告。

翌朝自宅にてエクドイクからの報告を聞かされる。

洞窟内の悪魔一掃の手段を実行することにより中級、上級の悪魔が出現し戦闘に入った。

結果としてはこちら側の圧勝、騎士達のレベルの高さが目立つ戦いとなった。

レアノー隊の騎士達の強さは上級悪魔に一対一では苦戦するかどうか程度、中級がそれなりの数で現れたところでさしたる苦戦は無かった。

それにエクドイク、ラクラ、マーヤさん、レアノー卿と言う強者の存在により悪魔達は一網打尽にされていった。

数千万を超えそうな下級悪魔に対し中級上級はあわせて千もいなかったとのこと。

それでも大概な数ではあるのだが、殲滅戦に特化したエキスパートは流石といったところ。

エクドイクは随分と上機嫌、ラクラががっつりと活躍したことに気を良くしていた。

当のラクラはエクドイクタクシーにて家に戻ってからの休息を取っている。

戦闘力は一流でも持久力はさほどではないラクラにとって夜通しの戦闘は疲労が溜まっているのだろう。

現れた悪魔の増援を処理している間に洞窟の下級悪魔達の行動が変わったらしい。

より細かい指示に切り替えたのだろう、現在のパターンは『黒狼族の村側から通ろうとする者達の妨害』がメインとなっている。

つまり紫の魔王は遠くからでも状況を理解できるし、指示も自在に変更できるというわけだ。

これ以上裏を掻いた殲滅行動はその都度に対策が行われると見て攻撃は一時中断。

隠密スキルで往復のできるエクドイクに向こうとの連絡を任せることになった。

目的が時間稼ぎならば下手に刺激をしなければ膠着状況の維持は容易い、とは言えこのままでは黒狼族の村の面々にも迷惑が掛かる。

しかし現状では紫の魔王を国外に連れ出す口実がない。

デートと称して森林浴と言う手段も悪くはないのだが、比較的安全なはずの黒狼族の村に繋がる森に悪魔がいると言う現状誘い難い。

現段階で信用を失えばどうなるか分かったものではない。

「悪魔が完全に消滅したわけでもない、レアノー隊は当面森に缶詰だろうな」

「悪魔が相手ならば俺も力にはなれるが紫の魔王と対峙する際には俺が護衛をした方が良いのだろう?」

「そうだな、紫の魔王は実力行使を行っている。いつこちらに対しての『籠絡』の力の制限を解除するかも分からない」

「むう……」

不満そうなイリアス、尾行をする以外はラグドー卿との鍛錬くらいなものだが現状では身も入らないだろう。

「イリアスが手持ち無沙汰になるのは我慢してもらうしかないな。悪魔の数が多いせいで数の多いレアノー隊が主軸にならざるを得ない、森に送っても揉め事が起きそうなんだよな」

「私は平気だがな」

「イリアスの成長は分かっている、レアノー卿も理解が無いわけじゃない。だが他の面々も考えると連携が取れないだろう」

「それは……」

「イリアスの出番はもう少し強力な魔物が出現した際になる、それまで剣が抜けないと言ったトラブルが無いように支度しといてくれ」

上級悪魔とてラクラやエクドイクからすれば圧倒できる程度でしかない。

特にラクラからすれば下級も上級も一緒、瞬殺できるのだ。

単純な実力で言えばイリアスはラクラよりも上とは思うのだが殲滅戦にはあまり向いていない。

魔力をゴリラのような馬鹿力で圧縮した範囲攻撃もあるが確実に魔力の無駄遣いだ、それだけの魔力があればラクラがその数十倍の悪魔を処理できる。

イリアスの出番があるとすればそれこそ大悪魔レベルの登場だろう。

まあラクラもその辺までは大して苦戦もしないらしいのだが……。

伝令の帰還を確認すると言う体裁のために城に向かう、当然ながら伝令は未だに黒狼族の村に缶詰だ。

執務室でマリトもどうしたものかと頭を悩ませている。

「国内での戦闘は避けたいが、これだと言う打開策が浮かばないね」

「向こうは下級悪魔を湯水のように使っているからな、上級悪魔もそれなりに動員してきたがあっさりと処理できたことを考えるとまだまだ戦力に余裕はありそうだ」

「メジスから連絡があった、どうもメジス魔界の様子がおかしいらしい。魔物の気配がぐっと減っているとか言っていたよ」

「それって多分こっちに流れてるってことなんだろうな」

「だろうね、恐らくは潜伏していたクアマで用意していた悪魔も動員しているはずだよ」

「警備がザルな国だな」

「そうは言うけどさ、影に潜んで侵入してくる悪魔を防ごうものなら領土全域に結界でも張らないと無理だってば」

悪魔は次々とこのターイズに集結して来ている、ひょっとすればユニークとも呼ばれる大悪魔まで呼び寄せてくる可能性もある。

マリトは既にエウパロ法王に事情を説明、メジスはターイズに聖職者のチームを派遣することを決定したそうだ。

悪魔対策としては悪くない援軍だが、根本的な解決には程遠い。

紫の魔王にとって良い時間を与えられているうちは平和かもしれないがそれがいつまで続くかも分からない。

それにあまり長い時間黒狼族の者達を缶詰にしてしまえばトラブルも起きるだろう。

現在彼等には洞窟内に魔物が出たとだけ連絡している。

その規模やらは伏せているが、潜伏している魔物の調査を行うためにしばらくは村に留まって欲しいとお願いはしている。

だがこの国に既に来ている黒狼族の者達が村に戻る際に新たな情報を持ち帰ってしまうだろう。

現状こちら側から村への移動は容易である、そのことを伝えれば彼らは不審に思ってしまう。

そして再びこちらに向かおうとしてその異常さを完全に理解してしまうのだ。

評価すべきは最初の伝令の立ち回りの上手さだろう、彼は最初悪魔に襲われ村に戻ったときに不穏だからと一泊して状況の打破に向けて一人で行動していた。

その後は調査隊と合流、彼等もまた村には多くの情報を落さないようにしていた。

今はまだ魔物が現れたから国で処理すると言う話を伝えているだけに過ぎない。

「ターイズへの脅威を払うってだけなら紫の魔王と一緒にクアマに行くと言う手段もあるがな」

「冗談を言ってくれるなよ友よ、一時的な解決のために君を失ってどうする」

「――まあ、そうだよな」

紫の魔王と共にクアマに行くと提案すれば紫の魔王は快諾し、ターイズは何事も無く済むのかもしれない。

しかし紫の魔王の脅威は依然残ったまま、気休めの休息の為だけに身を捧げるのは馬鹿げている。

命がけで魔王を倒すとかなら格好も付くのだろうが、そんな生き方はごめんだ。

「仕方ないな、こっちもやれる範囲で色々試していくことにする」

エクドイクを護衛としてトルトさんとの商談、別れてからの紫の魔王との時間となる。

買い物をし、広場で静かに語り合う。

前日までとほとんど一緒の流れ、これと言ったアプローチはない。

現状で満足しているのか、こちらの行動待ちなのか……。

ユカリさんは穏やかな表情で語りかけてくる、こちらはそんな彼女の様子を窺いながら――

違うな、これは望んだ生き方とは違う。

相手の様子をおっかなびっくり探りながら、好意に警戒し、神経を減らしていく。

仮にこのまま上手く誘導が成功したとして、その結果はどうなる、それに満足できるのか?

いいや無理だ、こんなやり方なんて性に合わない、一体何様のつもりなんだ『俺』は。

「随分と難しい顔をしているけれど……どうかしたのかしら?」

「……エクド、頼みがある」

「なんだ?」

「髪と眼に集まっている魔力、お前なら取り除けるよな?」

エクドイクは驚きの表情を見せるがやがて真顔になってこちらに問いかける。

こちらの冗談とは思っていないのだろう。

「良いんだな?」

「ああ、頼む」

「一体どうしたと言うの?」

エクドイクはこちらの頭に手を置き、自らの魔力をこちらに流し込み、そして回収する。

その際にノラによって注がれた魔力も同時に流されていく。

それによって今まで変色させていた髪と眼の色が元に戻っていく。

変化を見た紫の魔王は眼を丸くして驚いている。

「――貴方」

「ご覧の通り、『俺』はあんたの探していた湯倉成也と同じ地球人だよユカリさん、いや紫の魔王」

こちらの身を案じてくれているマリトには悪いが、ここは『俺』らしくいかせて貰うとしよう。

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思考が追い付くのにしばらく時間が掛かった。

彼の黒髪、その黒い瞳、それは紛れも無く『緋』の報告にあった話と一致する。

そして何よりもユグラと同じ星の民、そして自分のことを紫の魔王と呼んだ。

つまり、彼はこの国に来た目的の人物。

『金』に協力し、私の計画を打ち破った男。

――驚きこそしたが、逆にしっくり来た。

私を理解してくれる、私に何かを与えてくれる彼がただの人間だと言うことには違和感があった。

しかしそういうことならば納得がいく、運命を感じられる。

だが一体、いつから気づいていたと言うのだろうか。

自分はこの国に来たのは気紛れだ、どの魔王とて知らない情報だろう。

だと言うのに最初に出会ったときから彼はその髪と眼の色を変化させていた。

「――いつから気づいていたのかしら?」

「気づいたのは質問された時だ、『俺』の風貌を知っていて世話になった相手ともなれば範囲は絞られたからな。髪と眼の色はあんたに会う前にちょっとした魔法の実験の事故で変わっていたと言うだけだ、ただの幸運だよ」

なるほど、それらの情報を共有し彼にしてやられたのは自分だけだ。

そして運よく彼は姿が変化した状態で私との邂逅を済ませた。

自分が探していることを知れば警戒を持っただろう、それ故に立場を隠したまま自分と接触した。

最初はトルトと接触するつもりだったのだろう、私のことを調べるために。

だけど自分が運悪く一緒にいて、再会した。

合点は行く、だが納得がいかない点がある。

「どうして今正体を明かしたのかしら?」

だが今正体を明かすと言うことはただの自殺行為、失策でしかない。

今まで国内で攻撃を仕掛けられなかったのはこちらの力量が測れていない、そして国内での争いを避けたいと言う意思が見え隠れしている。

こちらに仕掛けるタイミングとしても名乗る意味が無い、奇襲の機会をみすみす捨てている。

敵として自分を排除するのが目的ならばそれこそ黒狼族の村へ案内する際などの場を利用すべきだろう。

いや、その可能性はあった、初日に彼は確かに誘っていた。

しかし自分がその手段を潰した、彼との時間を長引かせるために伝令の妨害を始めたからだ。

自分の存在を知っていた彼ならばきっと山に悪魔を配置した情報も知って当然だろう。

時間稼ぎが目的であることも気づいていたに違いない。

膠着状態を嫌ったと言う理由も考えられるが今敵対宣言をすることは国内で争いたくないと言う前提条件を無視している。

「そりゃお互い素性を隠していたらまともに話ができないからだ」

彼は長椅子の背もたれに体を預ける、隙だらけだ。

護衛のエクドと言う男は正体を明かしたことで明確な警戒心を見せていると言うのに彼にはそれが無い。

実力があるのか、いや魔力はほとんど感じない。

隠していると言う次元ではない、純粋に魔力がないのだろう。

「あら、私と話がしたかったのかしら?」

「いや、話をしたくなったんだ。最初はこちらを狙った報復か何かかと警戒し、居座られた以上どうにか排除できないものかと考えていたんだけどな」

「気が変わったということかしら?」

「そんなところだ」

「どうして?」

「一つ目はあんたの目的はどう転んでも『俺』個人であると分かったから、二つ目はそれに黒狼族やこの国の人達を巻き込みたくないと思ったからだ。三つ目は――あんたの好意をこれ以上利用したくなくなったからだ」

そんな理由で、彼は自らの優位を捨てたと言うのか。

なんて甘い、温い、それこそこの場で戦いになれば他者を大勢巻き込むというのに。

「私を騙していたのだから、今この場で戦いになるとは思わなかったのかしら?」

「思わなかった」

「あら、私が貴方への想いから攻撃をしないと?」

「いや、その可能性は覚悟していた。でもそれだけだ、こちらは反撃するつもりはないから 戦(・) い(・) に(・) は(・) な(・) ら(・) な(・) い(・) 」

「私を裏切った償いに命を捧げると言うのかしら?」

「それもない、攻撃をされたら全力で国外に逃げるつもりだった。死ぬのは嫌だからな」

その黒い瞳でこちらを真っ直ぐに見つめてくる、そこに嘘は感じられない。

自分はどうすべきか、彼との時間を維持する為の布石は既に用意してある。

だが彼の今の行為によってそれらの意味が失われてしまった。

いや、使おうと思えば使えばよいのだ。

彼は自分を騙していた、裏切られた――そうだろうか。

今彼がしたことは裏切りと呼べる行為なのだろうか、分からない。

「今私は混乱しているみたいね? 貴方をどうするべきか悩んでいるわ?」

「当初の目的に戻れば良い。紫の魔王、あんたは何をしにこの国に来たんだ?」

「私の目的――そう、貴方よユグラの星の民。私の目的を潰した貴方に興味があって、そして――貴方が欲しいと思ってこの国に来たのよ?」

「それで、今はどうなんだ?」

「今は……変わらないわ、私は貴方を欲している」

「それなのに『籠絡』の力を使わないのか」

彼は私の力のことをどこまで知っているのか、少なくとも『金』は詳細を知らない筈。

だけど彼は私がその力を使っていないと断定している。

「それは……貴方の言葉のせいかしらね? 強大な力を使えば容易いことかもしれないけどそれで得た物に価値を感じられるか不安なのよね?」

「だから自力で自分の物にしようとしていたわけだ」

「ええ、そうよ? だけどそれも終わりよね?」

正体を明かした以上、彼との穏やかな日々はもう存在しない。

彼が終わらせたのだ、自分一人で続けることはできないのだ。

「いいや、あんたが『籠絡』の力に頼らないと言うならば『俺』は向き合うよ」

「どういう意味かしら?」

「単純な勝負さ、あんたは俺を欲している。あんたが自力で『俺』をモノにできるならばあんたの勝ちだ。だがあんたが『籠絡』の力に頼ればあんたの負けだ。これはそういう勝負だろ?」

――ああ、彼はまだ自分に与えてくれると言うのか。

機会を、可能性を、そして自らの心を。

これが彼の策略だとしても構わない、人である彼が魔王である自分に対等な勝負を与えてくれたのだ。

『籠絡の紫』に籠絡して見せよと勇敢に立ち向かって来てくれるのだ。

力を使えば容易く終わる児戯なれど、それはとても魅力的に感じるものだ。

彼に価値を求めたい、価値あるものとしてこの手にしたい。

黒いはずの瞳なのに、それは何色よりも鮮やかに見えたのだ。

「――良いわ、とても良いわよ貴方?」