軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

目下のところ安全に。

人生とは山あり谷ありであり、緩急あるものである。

マリトからミクスの兄妹の話を聞いて少々シリアスと言うかしんみりした感じになっていたその後日はとんでもなく騒がしい一日となる。

まず大まかに説明するとグラドナがターイズに現れた、と言うか早朝にゴミ捨て場で寝ていたのを発見した。

最初はバンさんのところに案内、凄く歪な笑顔で出迎えられていた。

次にウルフェの修行場所の相談を受けることとなる。

当然ながらイリアス家の裏庭とかで修行ができるわけでもない、無難に城にある騎士達の訓練広場を使ってはどうかと提案。

その結果、騎士達がグラドナの存在に気づく。

野次馬が増えた所でラグドー卿が登場、数十秒の会話の後に決闘が始まってしまった。

「そして今に至る」

「ししょー、どうしたんですか?」

「いや、この急展開に付いていくのがきつくてな、自分の中で振り返っていたところだ」

言うまでもないがグラドナがラグドー卿を挑発、それをラグドー卿が買ったといったところだ。

うーん、人外バトルを見るのは初めてではないのだがさすがはこの世界最強人類格、早すぎて目で追えない。

時々凄い轟音とかが響いているし、その衝撃がこっちに来てるっぽい。

ウルフェが側で簡易的な魔力の壁的なものを張って凌いでくれている、久しく見ないうちに随分と器用になったものだ。

イリアスはと言うとラグドー卿の動きを見て目を輝かせている。

自分より実力が上の者達の戦いだ、胸躍るなと言う方が無理な話だろう。

しかし時折聞こえるラグドー卿の掛け声とかを聞く限り、多分殺す気でやってるんじゃなかろうか。

そろそろ止めに入るべきなのだろう。

「ウルフェ、止められる?」

「むりです」

「だよなぁ……仕方ない。ラグドー卿だけでも止めるか」

「む、できるのか? 私でもあのラグドー卿は止められないと思うのだが……よもや陛下を呼ぶのではないだろうな?」

「いや、もう少し簡単な方法だ……リアエちゃん」

ポツリとラグドー卿の孫の名前を呟く。

すると今まで打ち合っていたラグドー卿が素早くこちらに移動し周囲を探している。

「今孫の気配を感じたような……」

「ラグドー卿、これ以上暴れられると困ります」

「……これは一本取られたか」

名前の単語だけでこの反応速度、実はラグドー卿は孫を超溺愛しているのである。

一度会ったことがあるが可愛らしい子供だった、『手を出したらたとえ陛下のご友人であれど許さない』と念は押されているが流石に十歳は守備範囲外だ。

「あっれーサルベ、もう終わりかー? ぷふーざっこー」

「グラドナ、あまり騒がしくするとこの街でお前に酒を売ってくれる店が無くなるぞ」

「はい、生意気言ってすみませんでした」

グラドナも凄まじい速さで土下座、そこまで酒が欲しいか、欲しいのだろう。

現時点でも酒臭い、本当にこいつにウルフェを預けても大丈夫なのだろうか。

「この二人をあっさりと止めるとは……」

「一時的だけどな、多分放置してたらまた殺しあうんじゃないのかこの二人」

「否定はできませんな」

「してください、と言ってもグラドナの性格じゃ仕方ないか……」

「えー、そっちの肩持つのー? 差別良くないよー?」

「問題を起こされると困るのはウルフェなんだ、ウルフェに迷惑を掛ける奴は許さん」

「過保護ー」

「やかましい、ターイズ最強クラスと争うな、争いたいなら弟子でも使って競え」

「お、そりゃ良いねー、こっちがウルフェでそっちがイリアスとか?」

それはそれでこちらの身内争いになるのだが、まあ言うまい。

「いや、私はラグドー卿の部下ではあるが……」

「良いじゃん、どうせサルベの隊なんて爺ばっかじゃん。サルベもいい加減このムラの多い娘を仕上げたらどーよ?」

「ラッツェル卿か、確かにそろそろ自己の鍛錬では辿り着ける先が見えていることだろうからな。良いだろう、グラドナ、貴様の挑発に乗ってやろう」

「え、ええと、それはつまり?」

「空いた時間に私がお前の指導をする、以前とは比較にならないほどに厳しく行くから覚悟しておくように」

「は、はい!」

やれやれ、ひとまず収まったか……しかしこのグラドナ、最初からこうなることを予測してラグドー卿を挑発したんじゃないだろうな?

無論私的感情も含んでいるのだろう、ロクでもない奴だ。

「どの道ウルフェはエクドイクにも指南を受けているんだ、城壁外の方がやりやすいだろう」

「マーヤ、エクドイク、グラドナせんせー、あとししょー、いっぱいいます!」

グラドナは先生呼ばわりか、本来ならばグラドナこそ師匠ポジなのだがウルフェにとってそこは自分がしっかりと根強く居座っている模様、嬉しいといえば嬉しい。

ただ週に一回程度の休日で人付き合いに鍛錬をしなければならないイリアスとほぼ毎日特訓するウルフェではあまりにも鍛錬の量が違いすぎる。

現時点での戦力差を考えると妥当な気もしないでもないのだが……休みを増やすとそれはそれでイリアスのやる気が無くなるかもしれない。

仕方ない、こちらの休みの日兼イリアスが護衛の日はなるべくラグドー卿の鍛錬日に合わせるとしよう。

「うーむ」

「どうしましたししょー」

「いやな、ラグドー卿がせっかくイリアスに鍛錬を付けてくれるとのことだしなるべくは時間を割くつもりなんだが、そうするとウルフェの方を見てやれる時間をどう作ったものかと思ってな」

「ウルフェはだいじょうぶです」

「大丈夫だとしてもだ、こっちがウルフェと一緒にいる時間が欲しいんだよ」

「……」

「ああ、そうか、エクドイクを護衛にすれば良いのか?」

「奴をか……陛下が何と言うか」

「良いよ、ドミトルコフコン卿だけでは苦しいのは分かっていたしね」

ずずいと現れるマリト、流石にあれだけ派手に争ってりゃ耳にも入るか。

ラグドー卿は堂々と目を逸らして他人の振りをしている、流石である。

「随分あっさりだな、誘拐犯の一人だってのに」

「その点に関しては確かに思うところはあるさ、だけど君にとっては欲しい人材なのだろう?」

「まあな」

イリアスの様な純粋な強さを持つ護衛もありがたいがエクドイクのような暗躍に特化した護衛も欲しいのは事実だ。

なにせエクドイクには大抵のことは任せられる、騎士道と言う制限にも引っかからない。

暗部君には程遠いがやはり忍者っぽい護衛は憧れるよね。

「ウルフェもさんせーです。カラじいよりいいです!」

「どこまでカラ爺が嫌いなんだよ……」

多少仲良くなったと思ったはずなんだが、単純に嫌悪感を表に出すようになっただけなのだろうか……。

カラ爺からすればウルフェは哀れな境遇から共に救った娘の様なものだ。

こっちもウルフェからここまで嫌われたらショックで立ち直れないかもしれない。

理由をしっかり聞くべきなのだろうか、悩む。

「一番手っ取り早いのはウルフェに護衛になってもらえれば良いんだがな」

「戦闘能力だけで言えば悪くないんだけどね、心構え等を考えるともう少し頑張ってもらいたい」

「だそうだ、もう一息だとさウルフェ」

「はい、はやくししょーをまもれるようにつよくなります!」

「守れるように強くじゃなくて、守れるほどに強くだな。ウルフェはまだまだ上を目指せるんだ」

しかしなぁ、ウルフェがそこまで成長するとなるといよいよこちらとしてはウルフェの枷にしかならないのではないだろうか。

そりゃあ国王の友人である要人警護と言う立場は役職としては誉れ高いのかもしれない、現にイリアスだって満足そうに業務をこなしている。

だがウルフェにはもっとこう、大きなことを成してほしい。

金の魔王の仮想世界で味わったであろう世界を冒険することの楽しさとかを色々と。

ウルフェがこちらに依存しているうちは難しいのかもしれない、そうなったら一緒に冒険に出るべきだろうか……。

人生設計もそろそろ真面目に考えておくべきだろうか、そうだよなぁ。

「ししょー、うわのそら」

「思いに耽っていると言うんだ」

「ふけている?」

「……上の空でいいや」

その後グラドナを連行してバンさんのところに預けに行く、エクドイクへの連絡も兼ねて。

城に連れて行ったら早速ラグドー卿と殺しあった話をするとバンさんは深い溜息を吐く。

「もうやだこの伝説人……人の国で問題を起こすなと言った矢先に……」

「問題じゃなくない? ライバルとの久々の腕試しじゃんよ?」

「こっちは色々忙しくなるんですよ! 頼みますから問題起こさないでください!」

「バンさん、忙しくなるとは何か大入りでも?」

「クアマにいる知り合いの商人が黒狼族の森の品に興味を持ちまして、こちらに簡易的な支店を作りたいとターイズに来るのですよ。根を下ろしての商売ともなれば今のうちに色々と面倒を見ておいた方が得ですからね」

「クアマですか……その商人はどう言った方です?」

「私より一回り若い男性です、クアマで成功を収めた商人でまだまだ商売欲の尽きない御仁ですよ」

バンさんの年齢を考えると四十から五十台のおっちゃんってことか、確かにまだまだ働き盛りだ。

異国に支店を作る資金があり、決断ができるという時点で相当なのだろう。

仲良くなれればクアマの情勢なども色々聞けるかもしれない、楽しみだ。

……いやいや、あまり深くかかわっちゃ不味いでしょ。

何を自然と魔王に関する情報を集めようとしているんだ、もう満足な武器は無いというのに。

無論戦闘力が無い人間でもできることはいくらでもあるのだが、そもそも関わる必然性がないのだ。

一商売人としての立場で接しようそうしよう。

本来ならば黒狼族との交渉の場に顔を出しても良いところではあるのだが……最近は魔法研究の方も忙しい。

イリアスがラグドー卿からの鍛錬、ウルフェがグラドナからの鍛錬の日且つ自分が魔法研究とマリトとの異世界情報交換会の無い日に……へへっいつだろうな。

そろそろ欲しいスケジュール手帳、この世界で欲しくなるとは思わなかったんだがなぁ。

市販で売ってるわけでもなし、せっかくだから材料を買っておくとしよう。

「ウルフェ、少し買い物するけど何かウルフェが欲しいものとかあるか? この後魔法研究の方に向かうからそこまでの大荷物は買えないが」

「そうだな、久々にこういった場所に来たのだ。適度に彼の財布から出費させると良いだろう」

「あのなイリアス、実はラクラの酒代あたりで出費多いんだぞこっちは。まあウルフェの買い物くらいは平気だけどな」

「え、えーと、えーと……。あ、これ……」

とウルフェが指差したのは小物入れ、こちらの使っている宝箱よりもだいぶ小さいものだ。

こちらの収集癖の話をしていた時に興味を持っていたからな、触発されたのだろう。

元々私物が少ないウルフェだ、物を集めさせるには箱からと言うのも悪くないだろう。

「良いぞ、お安い御用だ」

「ありがとうございます!」

大きさの割りにこちらの宝箱とどっこいの値段ではあるがガントレット制作費に比べれば安いものである、そうそう折を見てメンテナンスにも行かないとな。

箱を買って城へと戻る、ウルフェはそれを大事そうに懐に抱えて尻尾を振っている。

こちらはごつい鍵だがウルフェのは小さな鍵が付いている、浪漫は感じないが女の子らしいといえばらしい。

どのようなコレクションを集めるのか楽しみだ。

その後魔法研究の仕事を昼から始める。

ルコが優先すべき園芸の修行はマリトお抱えの職人の空いた時間だ、今日は午前中が空いていたので魔法の研究は午後からと言った具合だ。

本来予定していた研究を進め、息抜きにちょっとしたお遊びの魔法を考える。

これが最近のルーチンワークとなっている、こう言った他愛の無いオリジナル魔法が何かの切っ掛けになることもあるからだ。

ちなみに本日はウルフェの髪の美しさを羨ましいと言ったルコの話から始まった。

わいのわいのと騒ぎ、ノラが魔法を構築。

その結果、こうなった。

「に、にーちゃんが……」

「し、ししょー……」

「言うな、あみだくじで負けたんだから文句はない」

「に、似合いますよご友人……ぷふっ」

「そ、そのなんだ、ある意味私と同じ色だ、気にすることは無いだろう」

はい、日本人特有の髪の毛が見事にイリアスと近しい金髪になりました。

髪の色を変えてみるという魔法なのだが、ぶっちゃけこれ只の脱色なんじゃねーの?

大学生時代には茶髪に染めた記憶はあるがここまで金色にしたことは無かったなー。

ちなみに目の色も黒から赤黒に変化しております、もう完全にこの世界の住人の風貌だ。

ある意味過去最高の順応っぷりである。

「しかし驚くほど似合っていないな……私も髪の色を黒にしたらもっとしっくり来るのだろうか?」

「イリアスはその色で似合っているさ……」

辛い、何が辛いのかと言うとこの魔法は色素を変化させる特質を持った魔力を髪や目に込める代物だ。

解除方法は簡単で魔力を内側から放出すれば込められた魔力が抜け元に戻るという仕組みだ。

しかしこちらにはそれを外に弾き出す魔力が無い。

つまるところ自然に魔力が消えるまで当面このままなのだ。

この年で大幅なイメチェンはいかなものと思うのだが、別に顔が変わったとか坊主になったわけではない。

元々目つきの悪い男が金髪のカラコン男になってチンピラ感が増しただけに過ぎない。

これはこれで楽しむことにしよう、アロハシャツとサングラス欲しいなーちょっとバンさんに作ってもらおう。

なお、この姿をマリトに見せたら大爆笑、ターイズ国王の貴重な抱腹絶倒シーンが見られた。

朝からドタバタドタバタと目まぐるしい変化だが随分と慣れてしまった感が否めない。

いやいや、ウルフェが世界最強クラスの格闘家に師事したり、髪や目の色が変わるのは珍しいことなんですけどね?

金の魔王辺りで色々あっただけにメンタル的に動じにくくなっているのだろうか。

なんやかんやで周囲の人物との距離も少しではあるが縮まっている気もする。

良い調子である、このまま平和な日常が続けば良いのだが。

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ターイズ本国を囲む城壁が見えてきた。

道を進むは一台の馬車、裕福な商人がよく使う上質なもの。

馬車を操る男は50代の男性、どこか目が虚ろである。

馬車の中には様々な荷物、そして一人の麗しい女性が座っていた。

「ああ、ここがターイズなのね? やっぱり馬車での移動は時間が掛かるわね? ねぇ貴方?」

運転手へと掛けられた声は反応が無い。

運転手は虚ろな目のまま馬車を進めている。

「あらいけない、少し長く使いすぎたかしら? 少しは休めないと不審がられるかもしれないわね?」

女性は馬車の中を動き、運転手の男に手が触れる距離まで接近する。

そして男の首元に手を振れ、魔力を注ぎ込む。

「さぁさぁ、起きてくださいまし? もうターイズに着きますわよ?」

「……あ、ああ! ついうたた寝してしまっていたか?」

男は突如生気を取り戻したかのように目覚め、周囲を見渡す。

女性は優しく笑い、馬車の中に座る。

「ええ、ふらふらしていましたわね? 長旅でお疲れでしょう? まずは宿でゆっくりしましょうね?」

「そうだな、君も揺られ続けて疲れただろう。バンさんへの挨拶は明日に回すとして今日はゆっくり休もうか」

馬車は男の意識の覚醒にあわせ少しだけ速度を上げる、女性は静かに馬車の中を見渡し小声で呟く。

「貴方達はしばらくお外で隠れていてね? 少しずつ、少しずつ案内させるからね?」

その声に合わせて馬車の中の闇が蠢き出す。

それは馬車の中を這い回り、やがて無数の影へと分裂し馬車の外へ、森の中へと散っていく。

「今何か言ったか?」

「いえ、独り言を少し呟いただけ……楽しみですとね?」

女性は再び笑う、その笑顔に嘘は無い。

『籠絡の紫』、紫の魔王はいつもと同じように繰り返す。

クアマのあらゆる土地を籠絡した時と同じだ、そこに悪魔の力なんて必要ない。

単身で、何食わぬ顔でターイズへと乗り込むのであった。