軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とりあえず教えて。

山を降り、国にまで帰ると捕まえた山賊達は兵舎牢に投獄された。

その後祝杯を挙げる事になったのだが、丁重にお断りすることとなった。

この異世界に来てろくに眠っていないのだ。二度目の登山は担がれていた為疲れはさほど無いにせよ、最後に眠ったのはイリアスさんにたたき起こされるまでの一時間未満である。

その辺を深刻な顔で訴えると、お爺ちゃん騎士の一人が兵舎の寝床を自由に使ってくれと言ってくれたので体を拭かせてもらった後、服を借りて颯爽と睡眠。

そして気持ちの良い昼を迎える。

牢屋でも熟睡できたが流石に用意された寝床は質が違った。筋肉痛が抜けないことを除けば体調は完璧である。

と思っていたが腹の虫が良い音で空腹を訴えていた。

「何か食べるものを分けてもらわねば……」

ベッドから起き上がり寝室から出る。

適当にうろついているとお爺さん騎士の一人と出会う。

確か槍使いの……名前なんだっけ。

軽く自己紹介はされたのだが正直覚えていない。

日本名なら辛うじて覚えていたかもしれないが、一回の自己紹介で横文字の名前を十人近く覚えきれるほど記憶力が良いわけでもない。

「おう、お前さんか。ぐっすり眠っておったようじゃの」

「はい、おかげさまで。ええと、お名前なんでしたっけ」

「カラギュグジェスタ=ドミトルコフコンじゃ」

うーん、一人ですら覚え切れる自信がないわ。確か残りのお爺さんズも長い名前でした。

「すみません、ちょっと覚え切れません」

「ふぁっふぁっふぁっ! よく言われるわ。カラ爺とでも呼べば良かろうて」

「助かります……カラ爺さん、少しばかり食料を頂けないでしょうか? ここ数日木の実しか食べてなくて……」

「おお、それはいかんな。昨日の残飯でよければまだ残ってるぞい」

正直何でもいいです。

案内されるまま食堂に行くと確かに大量の皿の上に片付けられていない食事が転々と残っている。

どれもワイルドな感じの料理だ、ジャンクフード好きには好都合。

「スープだけでも温め直すか?」

「取りあえず腹に入れば何でもいいです」

さめた肉にスープを食べる。

普段なら寂しさを感じるような味でも、今は十二分に美味しくいただける。

この世界の料理をはじめて食べたが口に合わないと言うほどではない。

多少癖のあるハーブのようなものが使用されている。香りが強めだが、肉の生臭さを上手く誤魔化しているようだ。

スープの方もシンプルに材料を煮込んだ物に、ハーブのようなものを入れてある。

ただどの料理にも塩は使われていない模様。山と森に囲まれた国だけあって海から取れる塩などは貴重品なのか、流通していないのかと言ったところだろうか。

現代人にとっては薄味だが、木の実を齧るよりずっと良い。

満足するまで食べた頃、いずこかに消えていたカラ爺が木製のジョッキに水を汲んできてくれた。

「酒でも良かったがイリアスが困っているようでな。この後顔でも出してやってくれんか?」

「ん、分かりました。でもその前にこれ片付けていきません?」

「ふぉふぉっ、助かるわい」

腕を捲くり、食器へと向かうのであった。

そしてカラ爺と雑談をしつつ、イリアスさんのいる牢横の休憩室を訪れることになる。

一応聞くにこの兵舎は城門を守る門番、そして城の周囲を警備する騎士達の駐屯地のようなものらしい。

本来カラ爺やイリアスさんは城下町の警邏を初めとする警察のような業務が仕事であり、今回の山賊退治は特別にイリアスさんが任命されたとのこと。

そうそう、この国ターイズって言うんだってさ。

「おう、イリアス。坊主を連れて来たぞい」

「ああ、そうか」

イリアスは椅子に座りながら、どこか上の空で考え事をしている。

「その様子では口を割る様子はないか」

「ああ、得意な者に任せたがそれでもダメらしい。これ以上きつくすれば死ぬと言われた」

何やら物騒な話。

「口を割る? 山賊を尋問しているのか?」

「ああ、昨日は確かに山賊の一味を一網打尽にしたが、このターイズに巣食う山賊の一味は他にもいる。山賊同士の争いは見られないことから何らかの交流、情報交換はあるとふんだのだが……」

なるほど、そりゃああの規模の山賊の一味で国一つを相手にしていると言うわけではないだろう。

「知っていることの方が少ない。今の情勢を聞かせてもらっても良いか?」

「ああ、それもそうだな」

発端は隣国のガーネの王が代わった時から。

新たなガーネの王はそれは見事な手腕で国力を強化、犯罪者達の活動を制限していったそうだ。

そうなると犯罪者達はガーネを離れて隣国へと逃れて行く。そのひとつがこのターイズだ。

ターイズ領土はガーネにも負けない領土の広さを誇るが森と山が多く、山賊達にとっては拠点を作りやすい絶好のポイントと捉えられたらしい。

そして近年多くの略奪行為が発生。騎士達はそれを収束すべく行動を開始する。

だが山賊達は騎士達との戦いを避け、巧妙に隙を突いては略奪を繰り返していた。

「なるほどな。囮とかで捕らえたりとかはできなかったのか?」

「荷台に騎士を忍ばせたり、商人に変装させたこともあったが無駄だった。奴らは探知魔法を使うからな」

探知魔法、視界内にいなくても周囲一定の魔力の持つ存在をその高さと共に知覚することができるものらしい。

なるほど、それがあれば隠れていても見つけられるし、変装していても内在する魔力が異様に高い騎士達では危険視されてしまうわけか。

熱源を感知するサーモセンサーの魔力版ってことだろう。実に便利そうだ。

「でもこちらの魔力量を確認してきているってことは、こちら側から探知魔法を使用すれば逆に相手を見つけられるんじゃないのか?」

「引っかかった時はあった。だが相手は森の中からの様子見。探知魔法に引っかかったと同時に奥へと逃げられる」

そういえば昨日も言ってたな。探知魔法は使用されれば使われた側もそれに気づけると。

「あれだけの速度なら探知魔法を使いながらでも追いかけられると思うが」

「無論だ。だが相手は逃走時に『魔封石』をばら撒いていく」

「魔封石?」

「なんじゃそんなことも知らんのか。どこの田舎出身じゃ坊主」

「これだ」

そう言ってほのかに黄緑色を帯びた透明の石を見せてくれた。

大きさはビー玉程度のサイズで特に加工された様子も無い。

宝石と言うよりガラスの石という印象を受けた。

「この石は大きさに比例して周囲に特定の魔力を纏う。その魔力に魔法が触れると石が反応し、魔法の構築を分解し魔力として分散させてしまう。言葉通り魔法を封じる石だ」

なんと言うファンタジー殺し。魔法の世界に来たことで内心ワクワクで魔法を覚えたいとかそんな願望はしっかりあったわけなんですが、魔法殺しが当然のごとくあると言う。

「ちなみにこの石は貴重品なのか?」

「これくらいなら子供の小遣いでも買える程度だな」

おう、そんなレベルですか。

「てことは魔法使いは実戦じゃほとんど無力なのか」

「魔法特化の戦士のことか? そうだな。余程の使い手ならば魔法で岩を飛ばすなどして魔封石の影響を避けることもできるが、至近距離に魔封石を放られるだけで無力化される。戦争にもなれば巨大な魔封石を持ち込むことで、戦場全域が魔法を使用できなくなる場合も多い」

「気になったんだが、こんなのを持っていたら探知魔法とか使えなくないか?」

当然ながら自分を中心とする範囲を索敵する魔法なんて、使えば魔封石も範囲に含まれ無効化されてしまうのではという疑問は出る。

「ああ、全方位に使えばな。だから方向を絞って使用するんだ。傍に魔封石を持つ仲間がいる場合、その仲間の方向への探知範囲をカットして使用する。コツはいるが難しい技術ではない。慣れている者ならば魔封石を装備しながら魔法を使うこともできるだろう。サイズは限定されるがな」

「器用なこともできるんだな」

「ああ、鍛錬しだいだ。もっとも他者がどのサイズをどこに所持しているかなどはすぐに分かるわけでもないから、やはり魔法を実戦で活用するのは難しいだろうな」

「ちなみに昨日の洞窟の一部屋にも魔封石がまとめて保管されておったぞい。周囲の探知を行う場合はその部屋の方向を避ければ十分使えるの」

ふーむ、大きさによって無力化範囲を調整できる石か。

しかもお値段はリーズナブルな為使い捨てもできる。

逃走中に投げ捨てれば追っ手側の探知魔法を効果的に妨害ができる。

ならば商人達が持っていたらどうか?

ダメだ。探知魔法をキャンセルする手段を持っているということは、何かしらの抵抗手段を持っていると判断されやはり隠れられる。

いや、逆に持たせておけば山賊も攻めにくいのか?

「通行証代わりにでも商人達に持たせれば、山賊は警戒して被害は減るんじゃないのか?」

「確かに初回の探知魔法は無力化できる。だがその場所がある程度特定され、その箇所を避ければ再び探知魔法が使える」

「大量に持ち込んだり、大きいサイズなら?」

「探知魔法を無力化して一時的には効果は出る。だがそうなると相手は一か八かで商人達を襲いだすだろう。その中に囮を混ぜればいつかは拿捕できるかもしれないが、犠牲が多数出てしまう。全員にその提案を飲ませるのは難しい」

んー致し方ない犠牲のリスクを背負いたがる商人はそうそういないよなぁ。

それ以上に元を断たねば山賊達は新たな手段を模索して、さらにいたちごっこになるだろう。

索敵をして、襲える相手だけを確実に襲う。

逆に索敵されれば魔封石を利用して逃走する。

非常に厄介な山賊達だ。

こう考えると内在魔力が少なかったがゆえに、探知魔法で人レベルと思われない異世界人が偶然山賊の拠点を発見して、その情報をリークしたというのは僥倖だったのだろう。

そりゃあテンションもあがるわけだ。

「結局は討伐をしなきゃダメってことだよな」

「ああ、だがその尻尾を掴んだと思ったのだが……情報が出そうに無い」

そしてようやく今の問題に話が戻ってくる。

捕獲した山賊達からの情報を活かせなければ、ほんの少しばかり被害率を下げただけに過ぎない。

いや、取り分が増えたと喜び、他の山賊が活発になれば被害は変わらないだろう。

「そういえば魔法の中には洗脳したり、操ったりとかするものは無いのか?」

「あるといえばある。だがそれには頭部に魔法を掛ける必要がある。そしてこいつらはどうやったのか小さい魔封石を頭に埋め込んでいる。無理に取り出そうとすればそのまま死ぬだけだろう」

徹底してんな。外科手術の技術があればいけなくも無いのだろうがこの世界の水準を考えるに難しいのだろう。魔法なら精密な摘出も可能だろうがそもそもその魔法を無効化する石が埋め込まれていてはお手上げだ。

それにしても山賊達、このゴリラ騎士達の尋問に屈しないというのは恐れ入った。

仲間意識が余程高いのだろうか、いや昨日捕らえた山賊達の一味はほぼ全員壊滅させている。

自分の身内ならともかく他の山賊の情報すら命より大事なのだろうか?

「ちょっと気になることがあったんだが、尋問役をやらせてもらっても良いか?」

「?」

イリアスさんもカラ爺も不思議そうな顔をしてこちらを見た。

そして一人の山賊を取調室――いや尋問部屋に連行し、今に至る。

特に拷問する気は無いので刑事ドラマよろしく、机を挟み互いに椅子に座る。

「あん? なんだてめぇ」

「新しい尋問役だ」

「はっ、騎士様の次はもやしのような奴か? ターイズも質が低いなおい」

「別に尋問に筋肉はいらないだろう。痛々しいのはするのも抵抗がある」

「もやしなだけじゃなく腑抜けかよ。とっとと殺せ。お前らにくれてやる情報なんざ何もねぇ」

凄まれる、怖い。

相手からこちらへのヘイトはたっぷりだ。

既に騎士からの尋問や拷問を受けたのだろう。体には新しい傷がいくつも見える。

ただまあそれ以上に化け物な連中を見たおかげでわりと肝は据わってきた。

「じゃあ何で話せないのかを教えてくれないか?」

「は?」

「今こちらはあの手この手であんたらの情報を手に入れようとしている。だがあんたらはそれを話そうとしない、その理由を知りたい」

「馬鹿か? 何で敵に話さなきゃならねぇんだよ」

「偉い人というか今回の担当者に話を聞いたが、あんたらの処刑は免れないそうだ。多くの人の命を奪ったのだからこれはどうしようもない」

「そりゃそうだろうな。だからさっさと殺せ」

「そこが気になったんだ。何でもう死ぬだけなのに頑なに拒むのかと。情報を吐いても結局は死ぬ。それにより被害を受けるのは、同じ釜の飯を食った仲間ではない商売敵の山賊達だ。普通なら拷問を受けて死ぬくらいなら、さっさと情報を吐いて楽に死なせて欲しいところだろ?」

「……」

「少なくともあんたらにとって、他の山賊の情報を売ることは死ぬことよりも怖いことが待ち受けているように思える。それが知りたい」

「それを言ってなんになるってんだ」

「こっちが納得できる」

「はぁ?」

「情報を吐けない理由でこちらが納得できれば、無駄な尋問をする必要も無い。お互い悪くない話だと思わないか?」

「……」

「別に仲間を売れという話じゃない。売れない理由を話して楽に死ねるようにするのはどうかという提案だ。それすら話せない理由があるというなら仕方が無い。後は騎士達の努力に任せるとするよ」

さて、最後のは脅しのようで逆にマイナスだった気もするがつい口が滑ってしまった。

上手くいけばいいのだが。

「……死後なんて関係ねぇ、奴は俺達に永遠の恐怖を与えることができる」

お、話してくれた。

「そのことについて詳しくは話せないんだよな?」

「ああ」

まあ何らかの手段を持っているということは、それを教えたら情報を売ることになるからなぁ。

方向性が大きく絞れる。十分価値のある言葉を聞き出せた。

この山賊は『奴』と言った。

それはこの山賊の一味に対し非常に脅威のある存在がいると言うことだ。

恐らくは他の山賊の一味にも同様の脅しを仕掛けていると見て良いだろう。

となるとこのターイズに拠点を持つ山賊の一味達はその『奴』を中心として協力、または服従関係にあるのではないだろうか。

次に死後にも後悔させる手段があると言う点。

ぱっと考え付くのは家族を殺すとかだろう。

だが目の前にいる山賊の一味は既に全滅。戦国大名よろしく妻を人質にとっていると言う手段は考えにくい。

それに永遠の恐怖というわけでもない。いやむしろ気にすべきはこの永遠の恐怖というワードだろう。

いくつかの候補は浮かんだが、いかんせんファンタジー妄想の推測に過ぎない。

ここで悩んでも仕方が無い、専門家に聞いてみるとしよう。

「よし、分かった。もう十分だ、感謝するよ」

そう言って立ち上がり移動することにした。