軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

目下のところそれはどうだろう。

仮想世界にてターイズが明確に滅んだと認識できた瞬間に元の世界に戻ってきた。

疲労などもあまりなく、周囲を見渡すとウルフェの髪の匂いを嗅いで興奮している金の魔王の姿があった。

まあ、物理的な衝撃は与えていないようなのだがドン引きである。

念のため自分の服装も確かめる、大丈夫っぽい。

「そんな馬鹿な……あのターイズを、たった一回の試行で滅ぼしたと言うのか!?」

「辛くも勝利と言った感じだったがな。次の次辺りで終わらせるつもりがサクっと決まってな」

「し、信じられぬ。御主への特典はほとんど無いに等しかったはずじゃ!」

「最初はそう思ったんだがな、蓋を開けてみれば割と良い特典だった」

「……待て、今から御主の行った内容を確認して来る。何らかの不正を行ったとしか思えぬ、すぐに確認して来るから待っておれ!」

金の魔王は自らが椅子に座り、コクリと項垂れる。

恐らくは仮想世界に入ったのだろう。

……隙だらけじゃね、これ?

とは言え真っ当な大人として眠っている相手に合意の無い悪戯をするほど野蛮な本能は持ちあわせてはいない。

ラクラには何度かやった気もするが一線は越えていないから大丈夫、うん。

先程見た金の魔王の姿が良い感じに反面教師となっており、心のセーブを行ってくれている。

そういったわけで寝顔でも見ながら待つとしよう。

背は低く、黄金色の毛並みの尻尾と耳が特徴的な狐の亜人。

湯倉の残した本があれば、元はどの部族の亜人なのか知ることもできるのだろうが生憎亜人には詳しくない。

ガーネにも亜人は住んでいたがそこまで数が多いと言うほどではない。

差別こそ無いが絶対数が少ないのだ。

人間と亜人の家庭もあったがその子供の大半は人間だったことから遺伝に残り難い傾向があるのだろうか。

金の魔王の容姿は大人に近いがそれでもイリアスやウルフェより少し上かどうかだ。

ひょっとすれば同い年で魔王になった可能性もある。

若い身で命を落し魔王として復活した、その後勇者によって命を奪われ現代にて再び蘇った。

なかなかに波乱万丈な人生、多少の捻じ曲がった愉悦嗜好主義は仕方ないのかもしれない。

などと感傷に浸りながら見つめること五分、ゆっくりと金の魔王が目を覚ました。

こちらは一回に付き二時間だがリザルトを眺める分には随分と短い時間で済むようだ。

「……」

「早かったな、不正は無かっただろう?」

そもそも魔法で作られた仮想世界でどうやって不正を施せと。

そんな技能があるならもっと楽に勝利を収めているに決まっている。

「こ……」

「こ?」

「こんの外道がぁっ!」

「へぐっ!?」

玉座の間に気持ちの良い音を響かせる見事なビンタを喰らわせられた。

痛いといえば痛いが後遺症の残るような異次元の威力などではない。

「何してくれるんだ!?」

「それはこっちの台詞じゃ! なんと言うえげつない光景を見せてくれたんじゃ御主は!? ――うぷっ」

金の魔王は玉座の方に駆け寄り地面から卓と同じように何かゴミ箱の様な物を湧き上がらせた。

そしてそれを持って玉座の裏へと隠れた。

おろろろと吐く音が聞こえる。

うわぁ、えげつない。

「って、衝撃を与えない契約じゃなかったのか!?」

「御主はもう勝負をつけたんじゃ、契約はとっくに終わっておるわ!」

遠くから叫び声が聞こえる、そういう理屈で良いのか。

言われて見ればその辺の細かい話し合いをしていなかった。

……これ今襲われたらピンチじゃね?

いざとなればラクラ辺りに蹴りを入れて起こすことも考慮に入れねばなるまい。

ふらふらと金の魔王が青い顔で戻ってくる。

目には涙を溜めている、相当酷い光景を見たようだ。

――うん、まあアレは見るべきじゃないよな。

「御主という奴は、人を、生き物をなんだと思っておるのだ!? 妾が育てたガーネをよもやあんなっ!」

「仮想世界の話だと言ったのはそっちだろう、それに直前に確認したじゃないか、『ガーネが滅ぶよりも先にターイズが滅べば良い』のかって」

「あれは他の者への助言ではなかったのか……」

「大体、あんな無茶な勝利条件を設定してきた方が悪いんだろうが。正攻法でガーネが勝てる方法なんてごく僅かだぞ」

「ぬぐ……うううっ!」

全力で怒りたいのだが自分が発端なだけに怒りのやり場の無い金の魔王の涙がボロボロ零れる。

流石にここまで思いっきり泣かれると罪悪感が重い。

「悪かった悪かった、自分でやっていて目を背けたくなるような結果にしたことは事実だしな」

正攻法で勝てないと分かって取った行動、ガーネごとターイズに滅んで貰った。

手始めにガーネで ち(・) ょ(・) っ(・) と(・) 色(・) 々(・) や(・) っ(・) て(・) 自国民の半数以上を難民化させ、ターイズに送りつけた。

先に他の隣国への道を封鎖してしまえば難民の逃走経路を誘導するのは容易い。

陸地で隣国、唯一安全な逃げ道となれば無辜の民はそちらに逃げるのは必然だ。

戦争に使えない者はほぼ全員送りつけた。

長期戦の戦争をする気がない以上、戦えない女子供を国におく必要がないのだ。

軍人も当然ながら反抗するわけだが、そこは色んな手段を幾つか。

騎士国家のターイズとしては非道なる行いの被害に遭った難民達を見捨てることができず、その大半を抱え込むことになる。

当然食料を食いつぶす難民により食料飢饉が発生、ついでに工作員も送り込みゲリラ戦よろしく内乱騒ぎを起こさせる。

そうなると危険性を考慮して難民の排除へと移るターイズ。

国一つ分の大虐殺をターイズ国内で行った騎士達の士気はガタ落ちとなった。

とまあ、これが序の口である。

この勝負が終わった後のガーネの未来など知ったことかと身を切る行動を取り続けたのだ。

最初こそ悪逆非道の王を倒さんと奮起する騎士達であったが戦う相手は決して目の前に現れない。

目に映るのは凄惨な光景と虚しい殺戮の繰り返し。

最終的にターイズの騎士団がガーネの軍と剣を交えることは一度たりとも無かった。

これらをさらに助長させたのがターイズで暴れていたドコラの存在である。

異世界の誰かさんが偶然拠点の一箇所を見つけたことで解決の糸口となった山賊同盟は仮想世界でも健在だったのだ。

異世界人がおらずとも解決はできただろうが当然早まることはない。

これがターイズにとって強烈なハンディを背負わせることになった。

ドコラの協力を取り付けることは容易かった、気が合う関係だと言うことは既に理解していたからだ。

ターイズの騎士達が処理したガーネ一国分の死体を死霊術でアンデッドにさせられたならばそれは悲惨な光景にもなるだろう。

結果騎士団は不敗なれど国民と領土に取り返しの付かない大打撃を受けたターイズは国として存続不可能となった。

「あの後のガーネは他国の侵略を受け完全に瓦解、ガーネ国王は無残な最期となるだろうが勝利は勝利だろう」

「三日後に八つ裂きにされて晒し首になっておったわ! しかも妾の姿でな!」

思ったよりも早かった、やはり結構ギリギリな勝利だったようだ。

二周目にはもう少し丁寧に立ち回ろうと思っていたところだった。

金の魔王は再びその光景を思い出したのか口元を押さえ始める。

ここで吐かれては困るので背中を撫でておく。

「魔王のくせに、虐殺の耐性くらいあると思ったんだがな」

「妾とて元は清らかな小娘なのじゃぞ!? 真っ当な心とて在るに決まっておろう! むしろなんで御主は平然としておるのじゃ!」

「そりゃあ、見ないようにしてたからな」

虐殺の歴史は現代社会でも多くの伝聞が残されている。

イヴァン雷帝に、ヴラド三世、ヒトラーにポル・ポト、西太后。

青髭や血の伯爵夫人と言った存在も考え始めたらきりがない。

その光景を直接見た者はほとんど生きてはいない、だがそれらは文章として残っているのだ。

それらを実行しろと命じるだけで凄まじい効果があった。

仮想世界と言えどそこはリアルに行われているのだ、目の当たりにしてしまえば精神的ショックが大きいだろうと地域の様子は極力見ないようにしていた。

仮想世界とは言え知人から本気で憎まれるだなんてそんな光景は味わいたくない。

「妾だけがあの惨劇を直視してしまったと? ええい、御主も見て来るが良い!」

「それはできない相談だな、それにここでお前を監視しないと仲間に何をされるかわかったものじゃないからな」

「ぐぬぬ……」

異なる生命体が行う殺戮とは質が違う、人同士の争いと言うのはそれほどまでに黒く汚い。

画面上での操作で済ませていたが、もしもそれらの詳細をこの目に焼き付けてしまっていたのならば……真っ当な人間には戻ってこれないだろう。

理解してはいけない闇もある、禁忌魔法よりもよっぽど近く、理解に明るいものだとしてもだ。

「御主が真っ当に勝負に勝っておれば、その記録を元にターイズに攻め込むなどと言った脅しをしてやったものを。まさか食べた菓子を吐かされ、泣かされるとは思いもせんかったわ!」

「それは悪かったって。あとそういうことも考慮して参考にならない勝利を狙ったつもりだぞ? そもそも正攻法での勝利なんて大抵はマリトに覆されるだけだ」

落ち着いたようなので椅子に座る。

手持ち無沙汰のため枕で手遊びをしながら正攻法での攻略法を考える。

……うーん、難しい、ふかふかだな、これ欲しいな。

戦術で競うことになるとマリトに勝てるビジョンが浮かばない。

十回そこ等のループで勝てるだろうか、いや無理じゃね?

「……」

金の魔王もこちらにとてとてと歩みより、膝の上で弄んでいた枕の上に飛び乗ってきた。

重さは大したことはないが上半身よりも大きな黄金色の尻尾が視界中に広がる。

「……邪魔なんだが」

「五月蝿い、妾にした無礼を詫びるなら奉仕せぬか!」

尻尾で顔を叩かれる、モフい。

他の皆はまだ仮想世界で攻略中だ、ここで契約が切れた攻撃可能状態の魔王の機嫌を損ねるのはよろしくない。

溜息混じりに尻尾の中央付近と耳と髪の付け根を優しく撫でる。

「んんっ、良い所を撫でるではないか」

「仮想世界でのお前の縮小版で色々試したからな」

仮想世界では表舞台で戦えないと言うハンデがあり、様々な悪さの反応を見るためにほとんどをガーネの城で過ごしていた。

後半は城に騎士が決死の覚悟で乗り込んで来たため、城を放棄して逃げて時間を稼いでいたのだがそれまでは実に暇だったので色々やっていたと言うわけだ。

その中の時間つぶしに金の魔王の縮小版を散々弄り倒していた。

子供の教育に悪いことは自重していたが大抵のことは試してみた。

記憶の一部を受け継いでいるだけあって好き嫌いがしっかり反映されており、撫でられる場所もそうだが食べ物の好き嫌い等も判明した。

魔王についての情報などは流石に吐かせられなかったが現代日本で販売できればきっと大人気商品になるだろう、大きなお友達辺りに。

「ほう、妾の分身と仲睦まじくやっておったのかの。小さい体では妾への欲求を発散するのも苦労したじゃろ?」

「手の平サイズにどう欲情しろってんだ。それに火にくべようとしたり水に沈めようとしたらすり抜ける仕様はずるくないか? 尻尾の毛を一部刈り取るまではいけたんだがな、惜しかった」

「何をしてくれてるんじゃっ!?」

ばしばしとボリューム満載の尻尾で叩かれる。

これはこれで楽しさがあるな。

色々試したと言ったろうに、過度な攻撃を加えようとすると物理的干渉を受けなくなるのは子供向けとしては悪くない機能だ。

きっとイリアスは何度か斬り付けるだろうし、ウルフェも好奇心で一度は叩き落としそうだ。

「他には挨拶や一部の言葉にも専用の行動を設定していたな。定型文以外は百三個見つけたが全部でいくつあったんだ?」

「んっふっふっ、それは秘密じゃ。しかしの、戯れに追加しておった物をほとんど見つけるとはやりおるではないか。余程小さな妾が愛くるしかったようじゃの?」

「そのくせ愛を囁いても反応無いのは本人の性格の悪さか、それとも純真に対し初心なだけか」

「う、うるわいわ!」

ばしばしと、目に毛が入ると流石に痛い。

――こうやって膝に乗せて撫でているととてもこの少女が魔王だとは思えない。

取り敢えず膝が痺れるまでには機嫌を取り戻しておかねば。

「そういえばお前の縮小版と過ごした時の記憶は残っているんだが、他の記憶はほとんど結果しか頭に残らないんだな」

最後の瞬間などは思い出そうと思えば可能なのだが仮想世界での記憶のほとんどは結果としての知識としてしか残っていない。

金の魔王のコピー弄り以外にも将軍に剣の指南を受けて特訓したりもしたのだ。

二周目を強くてニューゲームできれば少しは楽になるだろうと思ってのことだったがそうはいかなかった。

仮想世界では一般軍人相手ならば十本中一本取れるまでに成長したつもりだったのだが、今の体の感覚は明らかに勝負前の物だ。

鍛錬したという記憶はあるのに、完全に無かったことにされている。

覚えているのは小さな金の魔王で遊んだ記憶が断片的にあるくらいだ。

「仕方なかろう、御主がターイズを滅ぼすのに使用した刻はおよそ二年。完全に記憶を保持してこちらに戻ればその二年分の衝撃が一斉に襲い掛かるのじゃ。心も体も持たんじゃろ、小さな妾との記憶がはっきりしているのはそういう仕様にしてあるからの。それでも断片的じゃ」

どこぞの漫画にある圧縮された時間の中で修行して短期間でパワーアップみたいな副次機能は望めないと言うことか。

それが可能ならウルフェには長々と居座ってもらって鍛錬に明け暮れてもらうと言うのもありだったが、残念。

とは言え試行はできるのだ、様々な武器を一年ずつ鍛錬しその結果を持ち帰ればどのような武器が向いているかは調べられるだろう。

「ところで金の魔王、イリアスとウルフェの一周目は失敗に終わったんだろう? その内容とかは見れないのか?」

「なんじゃ、残り時間ずっと撫でておれば良いではないか。寝床が欲しいなら一緒に入っても良いのじゃぞ?」

「そんな光景をイリアスが見てみろ、意地でも斬られるぞ」

「つれないのー、結果として汲み取り確認することは負荷もさほどないからの、なんなら一緒に見に行くか?」

それは興味深いのだが、先程の例もある。

これは仮想世界とは言えリアルな描写で再現される戦争なのだ。

「いきなりショッキングな光景は見たくないんだがなー」

「御主じゃあるまいに、騎士や田舎娘があんな真似をするわけなかろう」

「イリアスについてはな、だがウルフェは違うぞ?」

金の魔王がこちらの顔を覗き込む、そこから向けられるのは意外な言葉を聞かされたことによる好奇心の瞳だ。

「それは興味深いの、あの白き黒狼族は御主の様な真似ができると?」

「そりゃあ弟子だからな、弟子は師匠の真似をするもんだ」

善悪の教育こそ行ってはいるが今のウルフェに基づいているのは正誤の判断だ。

ウルフェは純真で真っ直ぐだ。

それ故にイリアスの誇らしい騎士道も、こちらの惨たらしい外道も身に付けることができる。

善悪よりもその行動が正しいか、誤っているのか、そこを重視しているのだ。

師匠のすることは大抵正しいと妄信している節があるが知恵が身に付けばその取捨選択にも個人の癖が身に付くだろう。

それに過去は完全には拭えない、ウルフェの始まりは闇だったのだから。

「……では戦場を避けて見に行くとしようかの」

「それが良いな。――だが先に言っておくことがあった」

「なんじゃ、急に真面目な声になりおって」

金の魔王の頭を軽く撫でる、この魔王はきちんと知っているんだろうか。

「――君が仮想世界で仕掛けている戦争も、今イリアスが行っているであろう戦争も、『私』が行った戦争もどれも等しく 戦(・) 争(・) に(・) 過(・) ぎ(・) な(・) い(・) 。君の娯楽は仮想世界だからこそ許されていると言うことは自覚しておくんだよ」

「……そんなこと、言われずとも分かっておるわ。 一度滅ぼされた身であること、忘れてはおらぬわ」

「そうか、話の通じる魔王で良かった。金の魔王、今の君に感謝する」

――仮想世界とは言え戦争を行ったのだ、 こ(・) っ(・) ち(・) 側(・) に引っ張られるのも仕方ない。

だがこの金の魔王が相手ならば過ぎることはなさそうだ。

「よし、じゃあ行くか。お前はどっちから見に行きたいんだ?」

「――そうじゃの、ウルフェとやらの行動は後の楽しみとしたいからの。無難に苦戦しているイリアス=ラッツェルからが良いの」

「分かった。それで、どうやって一緒に見るんだ?」

「このまま意識を既に終了した世界に移すだけじゃ、同調するから暫し待て。……うむ、魔力がからっきしで楽じゃの。では行くぞ!」

最初と同じような感じで精神が体と離れていく感覚に包まれる。

というか膝の上に魔王を乗せたままなんだがそれは――

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一周目の世界が終了し、二周目に入る。

一周目の記憶はほとんどが結果としてのみ残っている。

「(イリアスさん、これもう二周目ですよね?)」

ラクラの体はここには無い、ただ声だけが耳に届く。

本人も体の実感はなく、私の眼や耳を通して情報を仕入れているようだ。

非常に快適らしく、このままの生活も悪くないと言っているのだが体の無い生活など恐ろしいだけだろうに。

「そのようだな、しかし参ったな」

確かにガーネの統率力は見事だ、数も申し分ない。

だがその訓練光景を見た感想は『この程度か』と言うものだった。

そして実際にターイズとガーネの戦力差は明確過ぎた。

「(宣戦布告の制限時間まで軍備を最大限拡張して負けちゃいましたからね。ターイズの騎士様は本当にお強いです)」

可能な限り準備を進めての戦争開始であったが結果は惨敗。

私がターイズにいないというメリットは確かに大きく、私が先陣を駆ければ騎士団相手でも戦えた。

だが騎士団長が相手となるとそう甘くない。

レアノー隊と遭遇した時はレアノー卿と一騎打ちになった。

私の方が圧していたが気付いた時には周囲の兵は全滅、敗走を余儀なくされた。

フォウル隊を初めとする他の隊も私を倒し難いと見るや兵を確実に削いでくる。

こちらも兵を狙いたいが騎士団長相手ともなるとそんな余裕は無い。

兵と騎士の戦いでは比べるまでも無い。

私一人が有利になったところで戦況は変わらないのだ。

そして本来私の居る場所であるラグドー隊、ターイズ最強の騎士団は私一人が欠けた程度ではその地位は揺らがない。

手合わせならば強引に倒すことも可能だが殺し合いともなると話は違ってくる。

カラ爺一人を倒すこともできずに気付けば単身に追い込まれしまった。

それでも何とかするしかないと奮起していた所にラグドー卿の到着だ。

「(ラグドー卿も怖かったですっ、今でも首が繋がっていない気がしますっ!)」

私は一対一でラグドー卿と戦えたと言うのに、敗北して死亡した。

一瞬の隙を作らされ、首をスパッと。

細かい記憶が残っていないのが口惜しい、きっと今でも感動できていた妙技だっただろうに。

体を失った後は指示のみでの操作となったが程なくしてガーネは陥落した。

正直陛下の采配に全く勝てる気がしない、同じ立場に並ばれたらその時点で詰みなのだ。

「正攻法で勝てる気がしないな……ターイズの騎士としては喜ばしいことこの上ないが……この勝負においては絶望するしかない」

駒の強さも、指す相手の格も上なのだ。

稽古で十本中一本取るのと、殺し合いで十回中一回取るのとでは難易度が全く違う。

「んっふっふっ、二周目スタートじゃの」

この小さな金の魔王も再び湧いてきた。

基本最低限の情報を得る以外は視界の外に置いているが苛立って仕方ない。

剣を振るうが斬ることができない、触れられないようになっている。

「危ないのう、妾の玉の様な肌に傷が付いたらどうするのじゃ?」

この言葉も何度聞いたか、中身が無いのは一目瞭然だ。

話を聞きだすこともできはしない。

「(そういえば尚書様やウルフェちゃんの方はどうなったのでしょうか?)」

ウルフェにはミクス様という優秀な指し手が付いているがそれでも難しい問題だ。

ウルフェの戦闘力の有無はこの勝負においてさして影響を与えられない。

ラグドー隊を除く騎士団、さらに騎士団長を抜いた場合に効果がでる程度だ。

ミクス様が頭脳に専念すれば陛下の采配と互角に渡り合えるとしても戦力差が一方的過ぎる。

彼に至っては戦力として数えることすらできない。

だが彼は指し手としてならば優秀、正攻法以外の奇策で活路を見出せるかもしれない。

……いや、奇策でこの状況を打破なんてできるのか?

「……他の者達の仮想世界での状況を知りたい」

「他の仮想世界の途中結果を知りたいのかの? 良いぞ、ではこの本から気になる項目を選ぶと良い!」

小さな金の魔王は本を取り出す、開かれたページには私とウルフェ、そして彼の名前が書かれている。

どうやら他の二人の様子も見れるようだ。

私の名前を指定する。

「選択した仮想世界は今二周目じゃ、戦争一年目でガーネが滅んだようじゃ。戦争一年目で体が死んだようじゃ」

「ふむ」

ウルフェの方を指定する。

「選択した仮想世界は今二周目じゃ、戦争三年目でガーネが滅んだようじゃ。戦争三年目で体が死んだようじゃ」

「(ウルフェちゃんの方は三年も持ったんですねぇ、ミクスちゃん凄いです!)」

こちらは半年の準備期間、そして一年の戦争で私が死亡、次ぐ一月の合計一年と七ヶ月でガーネが滅び終了した。

ウルフェ達はその倍の期間、戦争を継続できている。

この情報は大きい、やりようによってはあれほどの相手との戦争でも倍以上の時間を稼げると言うことだ。

それもウルフェの世界には私が敵にいての結果なのだ。

「ミクス様は流石だな。ラクラも何か良案があったら言ってくれ、試す機会はまだまだあるだろうからな」

「(そうですね、体が無い以上王様として楽しめないですし早く終わらせたいですからね)」

欲望に素直な点は褒められる場合と褒められない場合がある。

ラクラの場合は褒められないが憎めない。

しかし相談役に徹している彼女は内政だろうが戦闘中だろうが突発的に良い案を出してくれている。

一周目でも彼女が撤退を指示していなければあと半年は早く終わっていただろう。

「(それで尚書様はどうですか?)」

「ああ、確認してみる」

彼の名前を指定する。

果たして彼の奇策がどれだけの効果を出しているのやら。

「選択した仮想世界はもうないぞ、戦争一年目でターイズが滅んだようじゃ」

「……は?」

「(……はい?)」

もう一度指定する。

「選択した仮想世界はもうないぞ、戦争一年目でターイズが滅んだようじゃ」

「(うわぁ……)」

「……そんな馬鹿な」

仮想世界がないということは勝負が終了したと言うことだ、それくらいは分かる。

彼がターイズを滅ぼした、それも一人で、二年掛からずに。

眩暈がして思わず玉座に座りなおす。

「(さ、流石尚書様ですね! 向こうにはイリアスさんも敵な筈なのに)」

そう、彼の世界には私も敵としているのだ。

仮想世界のラグドー隊の面々と戦っているのだから分かる、この仮想世界の強者の実力は現実のそれとなんら代わりが無い。

彼は私も、ラグドー卿も、陛下も敵に回してターイズを滅亡させてみせたのだ。

いやいや、無理だろう。

今までのような相手の心理を突く妙技などが役立つ勝負ではないのだ。

圧倒的過ぎる戦力差を覆し勝つことなどできるはずも無い――のだが、彼はそれをやってのけたと言うのだ。

十度と言うチャンスを必要とせず、たったの一回で。

「ラクラ、彼はどういう手段を取ったと思う?」

「(そうですねぇ……多分酷い手段だと思います)」

「そうだな、きっと褒められた方法は使っていないだろう」

彼は一人、ならばきっと 染(・) ま(・) っ(・) て(・) い(・) た(・) はずだ。

外道も容赦なく選択し、前提すらも覆すような方法で。

「(うーん、尚書様が始まる前に言っていた言葉はなんでしたっけ?)」

「そういえば金の魔王に窘められていたな、助言と取られたのだろうか」

勝利条件はガーネが滅ぶよりも先にターイズが滅べば良い、滅ぶと言う条件が気になって、陛下を暗殺……いやこれは勝利条件にならないと言っていた。

……ん?

「そうか、滅ぶ条件か」

「(どういうことですか?)」

「国が滅ぶ条件は一つではない、城が落とされた時、国王が降伏し国を明け渡した時、国として機能しなくなった時と様々だ。彼は恐らく戦闘による勝利以外の方法でターイズを滅ぼしたのだ」

「(なるほど、戦闘で勝てないのならば他の方法で……どんな方法ですか?)」

「……例えば陛下がガーネ国王と結婚し、国が統合され名前が変わった場合にターイズという国は滅んだとされるかもしれない」

「(でも半年したら宣戦布告しちゃうんですよね、半年以内で結婚するのは無理があるのでは?)」

そんなことは分かっている。

そもそも陛下の好む女性は既にターイズにいるのだ。

これから宣戦布告する国から送り込んだ女性になびくとも思えない。

「いや、ラクラの魅了魔法があれば……」

「(むーりーでーすー! やりたくないとか言う前にあれは長続きしないのですよ! 奇跡的にマリト陛下を口説けても国を取り潰す案が半年以内にまとまるわけないじゃないですか!)」

「それもそうか……」

珍しく本気で嫌がっている、彼との間の失敗が未だに傷として残っているのだろうか。

しかしそうなると戦争中に陛下に降伏させるか?

勝てない相手にどう降伏してもらうのだ。

だがきっとこの発想は悪くない、戦争で全く勝ち目の無いターイズを滅ぼすにあたり『ひょっとすれば』と思えたのだ。

そう、戦争と言う方法で勝てないのならば勝てる方法を探せば良いのだ。

『それじゃあ気楽に行くとしよう、これも良い経験だ』

彼の言葉を思い出す、気楽に行けと言うことは意固地になるなと言うことだ。

そう、私の頭が固いことを知っている彼からの助言だったのだ。

「よし、ひとまずやることが決まった」

「(本当ですか?)」

「息抜きがてら少しガーネを見て回る、それでも案が思いつかなければターイズに旅に出る」

「(えぇー……)」

よくよく考えれば私はこの世界ではガーネ国の王として君臨しているがその姿を知っているのはガーネのごく一部の者だけだ。

ならば第三者としてターイズを見に行くこともできるだろう。

本に書かれている情報も悪くないがやはり直接この目で見るのが確かだ。

時間を早送りしなければ半年も自由に動きまわれる、それを利用しない手はない。

どこを回ろうか……そうだ、一周目ではウルフェの姿は見えなかった。

今ならば閉鎖された黒狼族の村で悲惨な立場にいる時期だ、助けに行くのも良いだろう。

……あ、そうか、その手があった。

「ラクラ、予定変更だ! 必勝法が見つかった!」

「(本当ですか!?)」

「ああ、彼は一周目でターイズを滅ぼせた。つまりはそういうことだ」

「(どういうことですか!?)」

「簡単なことだった、彼はまだターイズに現れていないのだ。彼はまだ敵にすらなっていない、つまりは こ(・) の(・) 世(・) 界(・) の(・) 彼(・) を(・) 仲(・) 間(・) に(・) 引(・) き(・) 込(・) め(・) ば(・) 良(・) い(・) !」