軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とりあえず降ろして。

「嘘はついていないようだね」

「……」

地球のある世界からこの世界へとやってきたこと。山を下り、この王国にやってきたことを話す。

原因は何も分からない。突然のことだ、何も証明できるものはない。

ああ、そういえばこの騎士はイリアスと言い、隣の女性はマーヤさんだとさ。名前教えたときに教えてもらいました。

「にわかには信じがたいが……マーヤを疑うわけにもいかないからな」

「こっちに来てから大変だった。いきなり山の中でな、熊にも出会った」

「あら、大変だったわね」

「一般人には熊でも脅威だろうからな」

割と大事ではないらしい。なんだろう、この家にゴキブリが出たんだよ、へぇ~くらいのリアクション。

「その熊はスライムに食べられたけどな。襲われたときは死ぬかと思った」

「「!?」」

こっちは大事だったらしい。

「あんた、山って『黒魔王殺しの山』から来たのかい!?」

なにその銘酒ごちゃ混ぜな名前。ちょっと飲んでみたい。

「最初の山はなんだか透き通っている幹、夜なのに光っている葉が生い茂っているそんな感じの場所だった」

「何で生きてるんだいあんた」

状況説明するだけで存在意義を問われた。少し悲しい。

「生きててすみません」

「そういう意味じゃないわよ、あの場所はドラゴンだって近寄らない場所なのよ」

ドラゴンがいるらしい。見たいものリストに追加されます。スライムやドラゴンが通じる理由として、この身に掛けられている憑依術の恩恵なのだろう。

実際はそういった名前ではないのだが、こちらが伝えようとした存在を精霊様が彼女達に分かるように翻訳してくれているのだ。

だから『黒魔王殺し』というのも強引な変換機能によるものだと信じたい。

というかあのスライム魔王も殺してるの? この世界のパワーバランス大丈夫?

「でも熊は入ってきてましたが」

「それはライの実を食べたせいね。スライムの魔力が周囲に霧散することで一般の地形にも育つ魔草でね。その実を食べると精神を支配され、スライムの巣へ導かれるのさ」

うわぁ、恐ろしい。撒き餌的な奴だろうけど、食べたら操られるとかなんだよ。その辺の木の実適当に食ってたけど当たらなくて良かったわ。

「ちなみに君が沢山抱えてたこれがそうだ」

うわぁ主食だったわ。ひょっとしてアレか、道中なんか妙にあの場所に戻りたくなったのってそういうことなのか。えらいあの場所居心地よく感じたし、戻ってあの辺でサバイバルとかしたくなったんだよな。

「人間には効かないと言うことなのか」

「そんなことないわよ。距離が遠ければ影響はほとんどないけどね」

「近くで食べてましたが」

「たぶんあんたの内在魔力が少ないからよ。ライの実はスライムの魔力で作られていて、摂取することで対象の魔力と結びつき精神支配を行うの。あんたの魔力は微々過ぎて精神支配の効果がろくに発動しなかったのね」

なるほど、MP1の雑魚で助かったって事か。悲しむより喜ぶことにしよう。

「そう考えると生き延びれたのも魔力の少なさが原因かしらね。たしかスライムは魔力の高いものを優先して襲うという話だったし」

「音にも反応してましたね」

「そうね。虫も食べちゃうからそういう機能もあると思うわ」

なるほど。つまりあのスライムは魔力探知をしながら魔力のある生物をがんがん襲い、ついでに動く者も捕食すると言う雑食様であったか。

魔力をほとんど持たないこの身は虫相当であったから、本気で食べることも無かったと。

「生きてるって素晴らしい」

「うちの教会に属するかい? 毎日祈らせてやるよ」

「コホン、それで近隣の山まで移動し、森に下りた後はこのターイズに来たと言うわけか。装備もなしで大変だったろうに」

「装備なら立派な木の枝という相棒がある」

「あれか、すまない。折られて薪になってたぞ」

共に山を過ごした相棒は炭となったようだ。脳内に流れる盟友《木製》との思い出が懐メロと共に再生される。

「――神は死んだ」

「勝手に人を失職させるんじゃないよ」

「だが山賊に出会わなくて良かった。今この国の領土内では山賊が多発していてな。森の中で遭遇していたら命も無かっただろう」

そういえばそうでした。あの時は道を見つけただけでハイテンションになって進んでたけど、冷静になればあの辺が一番襲われやすいポイントじゃないのさ! うかつ!

「そうだな、山の中だけで良かった」

「ああ、なにより――は?」

イリアスさんが固まった。凄い、めっちゃ面白い顔してる。

この人こんな顔できるのって顔だ。

「山の中で……出会った?」

「物騒な連中だった。人の腕を持ち歩いていたり――」

「どこだっ!? どこで見たんだ!?」

スライムの突進以上の速度で詰め寄られ、胸倉を掴まれぐらんぐらん。

ちょっと、やめて、脳が、ゆれ、力やば、死ぬ、このゴリ――

「イリアス、坊やが死んじまうよ」

「はっ! す、すまない」

「げっほ、げほげほっ!」

涙目で咳き込み、この世界で一番死に掛けたのが今です。断言できる。

過去酔っ払ったボディビルダーに絡まれ、胸倉を掴まれた事を思い出したがそれよりも力があった。

人はシェイクされるだけでも死ぬ。覚えた。

息を整えた後、川に辿りついてからロープの切れ端を見つけたこと。そこから洞窟にたどり着き山賊と出くわしたこと。

そして下山途中も何人もの山賊とすれ違ったことを話した。

イリアスさんはワナワナ震えている。

聞けばこの山賊達は山中に拠点を構えていて、その動きを掴むことが非常に困難であり、つい先日イリアスさんにその対策を任じられたとのことらしい。

「こうしてはいられない! 早急に討伐隊を組んで出向かなければ!」

「お待ち、坊やはほうほうの体でここまで来たんだよ? そんなに詳しい場所を覚えてられないだろ」

「そういえば森に出たときに木に目印つけてあった」

「都合よすぎて感動だよ。抱きしめて良いかい」

「できれば優しく」

「仲いいなお前達」

その後、山賊の住処らしき洞窟まで案内を請け負うことになりました。

時刻は夕暮れ。城門前にイリアスさんと、彼女に担がれた袋詰めの可哀想な異世界トラベラーは集めた人員の前に立っていた。

同じ部隊の騎士達を集めたのか、その数はこちらを含めて十名。全員がそれなりの高齢ではあるが現役の熟練者達である。

いや、それよりもこの扱いおかしくない? 実はこの子米俵とか担ぐの好きだったりしない?

「諸君、本日とある旅人の情報により、山中に山賊が潜む洞窟があったとの報告を受けた。我々はこれより速やかに山に攻め入り山賊達を捕縛する!」

『応ッ!』

「何たる僥倖か! いや我らが正義に与えられる必然の奇跡よ!」

「ラッツェル卿の天命よな!」

宣言するイリアスの声に、騎士達の士気も上がっているのが感じ取れる。あいにく袋に詰められて見えないんだけどさ。

「急な召集のため部隊としては満足の行く数は得られなかった。だが貴公らの武勇を前にするのであれば足りないのは山賊の方であろう!」

『応ッ!』

「先に成果を挙げられなかった傲慢な騎士達の分など残すなよ! 我らで山ごと薙ぎ倒すつもりで行くぞっ!」

もうね、イリアスさんがゴリラだなって思ってたんだけどさ、多分こいつら全員ゴリラ。

多分テンションあがって武器とか振ってるんだろうけど音がおかしい。

今誰かが地面に武器をあてたっぽいんだけど大地揺れてます。

あいにく袋に詰められて見えないんだけどさ。

「よし、では行くぞ!」

「あの、イリアスさん」

「うん? どうした」

「出発前にこの待遇の改善を願い出たいのだが」

「?」

「人のように扱ってもらえないだろうか」

「……はっ!」

「なんだ、兄ちゃん肩に担がれるのが好きだったんじゃないのか」

かくしてイリアス率いる騎士隊は、山賊拠点への襲撃を試みるのであった。