軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゆえに死なず。

「そんなわけで、ラクラ=サルフ復活です!」

ガーネとガーネ魔界の境界線、その遊撃隊に新たに加わったラクラは以前通り……いやいつにも増してやる気に満ち溢れている。

ラクラはウルフェと共に碧の魔王相手に交渉し、それぞれが失っていたものを取り戻すことに成功した。碧の魔王と一度でも相対した者ならば、あの魔王との交渉がどれほど絶望的か嫌というほど思い知らされるというのに。

「常時不機嫌で、不敬は即処刑してくるターイズ王みたいな奴相手に、よく交渉できたもんだぜ」

本当にそれ。ハークドックが気持ちを言葉にしてくれた。騎士としてその発言は決してできないからな……。

「逆ですよ。陛下みたいな人だからこそ、交渉できたんですよ」

「よく分かんねぇ魔王だぜ。なんかついでに俺も治してもらえたしな」

「うう、私達はしっかりと交渉したのに……」

ハークドックはその場で軽く跳躍をしてみせる。セレンデでムールシュトと戦った際に負傷した足は、しっかりと完治していた。ザハッヴァ相手に受けた傷などもほとんどない。

なんでもハークドックがエクドイクの処置の様子を見に行った際に、ちょうど碧の魔王が帰るタイミングだった。その時の碧の魔王は相当機嫌が良かったらしく、ハークドックの足をあっさりと治療し、去っていったそうだ。

「ツキのなさならギリスタの方がアレだけどなぁ」

「それが普通なんだと思いますよ?」

ギリスタは治療のために安静にしていたため、その場に居合わせることはできなかった。

生きてさえいればどれほどの怪我人であっても治療ができる碧の魔王。彼はこのような状況であっても、自らの力を安売りすることはない。だがそれは必要なことなのだ。

私やラクラがマーヤやレアノー卿、ウッカ大司教のことを案じているように、この戦いでは多くの者達が傷つき、命を落としている。

誰もが碧の魔王の力に頼るようになってしまえば、かの魔王は勝たねばならない戦いに満足な状態で挑む事ができなくなるだろう。

「ま、あいつの分も暴れてきてやるって約束してきたからな」

ハークドックはギリスタから魔剣を預かってきている。悪魔の腕がなければ振り回せない超重量の大剣、これを扱うためにハークドックは右腕の治療は行わなかった。

「良かったのか、ハークドック。ジェスタッフに腕を返すまたとない機会だっただろうに」

「ハン、俺が弱ぇことくらい、誰よりも俺が知ってんだよ。戦う力を捨てる馬鹿をするかっての。それにお情けで戻された腕なんかを兄貴に返してみろ。殴り倒された挙げ句に目の前で燃やされらぁ」

「……光景が容易に想像できたな」

「しっかし、ラクラが加わってくれたことは嬉しいんだが……代わりにアークリアルが抜けたってのはなぁ……」

ザハッヴァと戦った時、私が善戦できたのはアークリアルの活躍が大きい。どれほどの脅威が相手でも臆さずに斬り込める覚悟と実力を持ったあの男の背中は、初めての共闘だったのにもかかわらずとても頼もしく感じていた。

「うぅ、何も言い返せないです……」

「あー……悪ぃ、気にすんな。アークリアルと比べられたら、誰だってそうだろうよ。つい愚痴っちまった俺の落ち度だ。すまねぇ」

ハークドックもザハッヴァと戦い、魔族の強さを肌で感じている。だからこそアークリアルのような頼もしい仲間が外れたことに、焦りを隠せないのだろう。

「心配するな、二人共。ザハッヴァと戦って、私も感覚を掴むことはできた。前衛は私一人でも成し遂げてみせるとも」

「姐さん……」

人と戦い続けることで対人技能が身につくように、ザハッヴァとの戦いの中で私は確かに何かを掴んだ。その感覚はこの剣を握りしめてから、より鮮明に体の中に馴染んでいった。

この聖剣にそのような力はないはずなのだが、それでもこの剣が私に力を与えてくれているのだと受け止めよう。その方が私自身嬉しく感じる。

「――っ、巨大な飛行物体がこちらに向かっているとの報告です!」

「陛下の予想が確かならば、ラザリカタと魔族の成れの果て……」

陛下は魔族の動きを推測し、私達の配置を変更した。まだ戦場に現れていない怪物とラザリカタの関係を見抜き、ここに現れるだろうと断言したのだ。

その時の陛下の姿に、一瞬だけ彼の姿が重なった。それだけで信じるには十分だった。

「――ふぅん、あたしがこの道を選ぶことも、貴方達を見て止まることも、読んだ人間がいますのね」

巨大な烏。その背に乗って現れた女の姿は、報告にあったラザリカタに間違いない。

ザハッヴァの眼には、一つの目的のために全てを捧げようとする狂おしさがあった。それに対しラザリカタの眼からは、傲慢の裏に隠された一つの事実に意地でも縋り付こうとする執念深さを感じる。

陛下は言っていた。ラザリカタは我欲のために生きているのではなく、そう演じるために生きていると。

だから挑戦的な相手には、必ず足を止める。進路上に明確な敵がいれば、それを排除するために向き合ってくるだろうと。

「へん、読まれた自覚はあるんだな。それでも誘いに乗るってのは魔族としてのプライ――」

「脳よ、弾けろ」

「危ねぇなぁ!?」

周囲にラザリカタの魔力が届くと同時に、彼女の口が開いた。その言葉が口にされるよりも速く、ラクラを担いだ私とハークドックは同時に距離を取った。私はラザリカタの魔力の流れと口の動きに、ハークドックは自身の本能に任せた反応だ。

ラザリカタの力については既に把握済み。その魔力の範囲内では口を開くだけで私達を殺すことができる。目に見えないむき出しの刃が常に周囲に漂っているようなものだ。

だがこの何もない場所ならば、相手の魔力が充満することもないし、いざとなれば吹き飛ばすことも可能だ。都度距離を保つことを意識できれば、十分に立ち回ることもできるだろう。

「忌々しい。あたしの力を分析して、対策でもしているつもりですの?」

「させてくれよ。そうじゃなきゃ、相手にもならねぇんだからよ」

「見くびられたものね……メラビス!」

ラザリカタは巨大な烏……メラビスから飛び降り、同時にメラビスが私達の方へと襲いかかる。速度は変身したザハッヴァほどではないにせよ、それでも十分に速い。私なら問題なくとも、ラクラやハークドックでは回避もなかなかに大変――

「魔力が届く範囲が攻撃の間合いなのは、私も同じですよ!」

滑空してくるメラビスの胴体が半分に切断される。ラクラの結界魔法、既に特定の間合いで展開する用意を済ませていたようだ。

それでも初見の敵、それもユニーククラスを超える相手を前に、これほどの攻撃魔法を精確に当てることができるのは流石としかいえない。

本来ラクラは対人戦ではなく、魔物を相手とした殲滅戦を得意としている。こと直感的に動いてくる相手ならば、私よりも実戦経験が豊富なのだ。

「――見えたぜ、ラクラ!喉の少し奥!そこにコアがある!」

さらにこちらには探知能力に秀でたハークドックがいる。人型を残し、頭部にコアを維持していたザハッヴァが相手の時では振るわなかったが、ハークドックは紫の魔王の協力の下に魔物のコアの位置を探知する術を学んでいた。

ネクトハールとの戦いで、コアを的確に狙う術が必要だと学んだ紫の魔王は、戦闘時におけるコアの探知法を模索していた。

コアは相手の体の中、それも魔力に包まれた状態だ。直接肉体に触れて魔力を探れば可能でも、距離のある状態での補足は容易ではない。それでも紫の魔王は相手の魔力の中にある独自の流れから、ある程度までの位置を特定する方法を見つけ出した。

しかしその方法はかなり繊細であり、対峙している状態でも至難の業。ましてや戦闘中ともなれば、ラクラやエクドイクでも確実性は得られなかった。

だがそんな中、ハークドックだけはその方法を身につける事ができた。本人曰く『本能様の感覚に、自分の体を乗せる感じでやればなんとかできた』と謎の発言を残している。

「わかりました!そこですね!」

ラクラが追撃の結界魔法を展開し、さらなる斬撃がメラビスに直撃する。メラビスはそのまま地へと落ち、苦しそうな鳴き声を上げる。

全身の肉体が崩れ始め、残骸が塵へと還ろうとしている。コアを的確に破壊することに成功したようだ。戦闘が長引く前に敵の主力の一つを落とせたのは大きい。

「いよっし!なかなかにでけぇ烏でビビったが、蜘蛛になったザハッヴァほどじゃねぇな!」

「――そうね。メラビスは要領の悪い男。完全覚醒することができたザハッヴァと比べたら、全体的に劣るのも当然ね」

ラザリカタは崩れていくメラビスを見下ろし、小さくため息をついている。だがその表情にはなんの感情も湧いていない。陛下は言っていた。メラビスはラザリカタにとって特別な存在であると。それ故に、彼女は碧の魔王との決着よりもメラビスと共に戦える場所を選ぶことになるのだと。

事実ラザリカタとメラビスはここに現れた。ならば陛下の考えは間違えていないはず。なのにそのメラビスがコアを砕かれ、消えようとしている現状で眉一つ動かないのは一体どういうことだ。

「お前の方もザハッヴァほど脅威を感じねぇ。確かにその力は厄介だが、対策できりゃそれまでだぜ」

「そうね。あたしは正直そこまで強くないですわ。ザハッヴァとオーファロー、どっちと殺し合っても、あたしが殺されますわ」

「……なんだよ、もうちょっと自分に自信を持てよ。なんか俺が悪ぃことを言っている気分になんだろーが……」

「別に事実を言っているだけでしょう?あたしは口だけの女、メラビスは口ほどにもない男。ええ、それで良いの。それが良いの」

ラザリカタが顔を上げ、私達を見る。その眼には諦めなどの感情は微塵もなかった。そこにあるのは傲慢さも油断もない、揺らぎのない覚悟。

ザハッヴァと戦った時、最後に感じた不吉な予感。それに近いものが背筋を刺激する。

「……姐さん、撤退する前のザハッヴァの時と一緒だ。よく分かんねぇが、これはアレだ。魔王達を前にした時と近い感じだ。本能様がめちゃくちゃ俺の背中を蹴ってきやがる……っ!」

「ハークドックさん、それハークドックさんの本能だけじゃなくて、私でも感じてますよっ!?」

ラザリカタの周囲に流れる魔力が目に見えるほどに濃くなっていく。それは色を持ち、景色すら塗りつぶす黒い液体のよう。

その魔力の中、ラザリカタの体にも変化が現れる。露出している肩や腕、それらに奇妙な突起が現れ始めた。額、首、胸、腰、脹脛、全身のいたるところで、同じ突起が増え続けていく。

それは唇だった。現れていたのは無数の口。ラザリカタの全身には口が現れているのだ。嘘を真実に改変する怪物、それを体現しようと彼女の体を創り変えている。

そこに居るだけで世界がネジ曲がりそうな異物感。これがラザリカタにとっての完全覚醒なのだと直感する。

「別に恐れる必要はありませんわよ?完全覚醒したところで、所詮あたしは嘘つきの女。自我すら失えぬ愚物。だから、ただ愚直に、心を込めて、くだらない嘘を真実にしますの」

全ての口から、ラザリカタの声が響く。一人の声のはずなのに、無数に重なり合う声の気持ち悪さに思わず鳥肌が立った。

変異したラザリカタは崩れ散ったメラビスの塵に対し、手を差し伸べる。

「さぁ、メラビス。起き上がりなさい」

「――っ!?」

これまでに死者が生き返る光景は何度か見たことがあった。ドコラやラーハイト、ヒルメラの扱った死霊術。人の尊厳を無視した外法の力、その光景を目の前にして湧いてきた感情は怒りや嫌悪だった。

だが目の前で再び形を思い出し、塵から戻ろうとしているメラビスの姿を見て、私は一種の高揚感すら感じていた。

死霊術の先、蘇生魔法の域。いや、死者を魔王とする呪いがないのであれば、それこそ真の蘇生とも言えるだろう。

主が望み、従者もそれを望む。不変を望む二人が叶えた因果、ありはしないという現実を嘘で塗り替えた奇跡。死の先から主の呼びかけに応え、不死の鳥が顕現した。

「おいおい……コアを完全に破壊されたんだぜ……。しかも、なんか強そうじゃね……?」

ハークドックの所感は間違っていないだろう。今のメラビスはただ復活しただけではない。ラザリカタの想いを形として纏っているのだ。

ラザリカタが蘇ったメラビスの背に飛び乗り、その頭を優しく撫でると、メラビスは猛々しい鳴き声を放った。

「何度でも死んで良いのよ、メラビス。貴方は要領の悪い男。だけどあたしはそんな貴方の無様を許すわ。貴方があたしのためにしてくれたように、今度はあたしが貴方のために真実を捻じ曲げてあげるわ。貴方はあたしを守る完璧な従者。貴方は死なない。あたしのために戦い続けるの。あたしが満足するまで、永久に!」