軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゆえに不敵に。

決着を付ける最後の侵攻。つっても兵力にはまだまだ余裕があるんだが、まあ事実上最後って意味じゃ間違えてはいねぇ。

人間陣営最強の男、碧の魔王。それに挑むは黒姉軍最強の男、この無色の魔王。俺の勝敗がこの戦況を分かつ最大の戦いになるんだが……その割には俺自身のモチベーションがそこまで高くねぇ。

いやな、死ぬ覚悟とかはとっくにできてるんだ。普段よりも気が入っているのも実感しちゃあいる。だけど、なんだろうな。黒姉のために死ぬのなら、もっと心の奥底から湧き出る何かがあって然るべきなんじゃねぇの?って感じ。多分あの『地球人』のせいなんだろうけどよ。

『おう、死んでこいよ。負けるしな、お前』

オーファローに素敵な顔をさせてくれた礼でもと、最後にあの『地球人』のところに顔を出した時、あの男はサパっと俺の敗北を宣言してくれやがった。

俺自身、碧王とやりあって絶対に勝てる保証はねぇが、それでも俺の方が強ぇって自信はある。それを伝えてもなお、俺の敗北は濃厚だとか。とりあえず理由を聞いてみたんだが、

『お前の強さはそこまで重要な点じゃない。決めては指し手の差だ。まあ、すぐ解るさ。その時の顔は特等席で見とくから、精々頑張れよ!個人的に負けろとは思っているが、健闘は祈っててやる』

とケラケラ笑ってやがった。誰だ、あのクソムカつく男を特等席に座らせたバカは。俺が発端じゃねーかよ、クソが。はいはい、終わり終わり。俺の勝敗なんざ、俺がテメーの手で勝ち取りゃいいんです。

しかしまあ、この戦いが終われば勝者はおのずと決まることになる。そこは間違いねぇはずなんだが……あの男、ほとんど何もしなかったな。

つってもあの分析力は健在のままで、正直ドン引きだった。あの男、見たこともねぇくせにラザリカタとメラビスの関係まで見抜いてやがったからな。このままで終わるわけもねぇか。

戦いが始まれば俺は黒姉につく。そう断言した俺に対し、勝手に全力で協力してろとあの男は言った。俺じゃユグラを止められねぇのは事実だが、何か一つくらい協力を求めりゃ良いのによ。

「なにを呆けているのよ、テドラル。ビビってるの?」

「――ビビれるくらいに若けりゃ、もうちっとは本腰も入れられたんかね」

横で口を挟むザハッヴァについつい返事をしちまった。こいつもどうせ死ぬことになるんだし、妙な情が湧かねぇように無視しとくのが一番なんだがな。

もう間もなくザハッヴァが指示を出した魔物共がターイズ魔界へと侵入する。それを迎え撃つために碧王の魔物共が動いたら開始の合図。転移魔法を使って碧王のところへ殴り込む。

そうなりゃもう逃げ道はねぇ。前回のように隙を作ってくれると期待するのは無駄なこと。完全に決着をつけるまではあの城からは出られねぇ。

「なにそれ、ガキのままなのになに年寄りぶってるの?なんならあたしが碧王を殺そうか?」

「テメーは黒姉に言われたろ。碧王の周りにいる雑魚から殺していけって」

前回乗り込んだ時にも、近くにそれなりの猛者がいたのは把握している。連中の加勢なんざ大したことはねぇんだが、邪魔であることには違いねぇ。

ザハッヴァは俺が円満に戦うための護衛。むろん向こうは自由にザハッヴァにぶつける面子を選べるんで、全部が全部引きつけることは無理だろうが……女騎士くらいの奴でも出さねぇ限りはこいつに次々と殺されるだけだ。

「全員同時に相手にしても構わないもの」

「その時まで碧王が生きてたら、首をとる許可をくれてやんよ。せーぜーがんばえー」

「なにそのクソムカつく応援」

「なんだよ、感動する応援でもしろってのか。腹下すぞテメー」

「そうね、唾を吐きたくなるくらいが丁度良いんだったわ、あなた」

こいつ、碧王ぶっ殺した後に隙みて殺しても良いんじゃね?使い魔の死角とか、俺完璧に把握してるし、いけんじゃね?とりあえず殺さなくても、蹴りの一発は許されるよな?よぉし、やる気でたぞー!

「――おらいくぞ、蜘蛛女」

「女は余計。あなたに女って意識されるだけで吐きたくなるわ」

「うるせー、いくぞ馬鹿蜘蛛!」

転移魔法を発動し、碧王の魔力反応があった部屋へと飛ぶ。俺が現れることは既に承知の上だったのか、ご丁寧にも広くて暴れやすい部屋で待っていてくれたようだ。

まずは探知魔法で周囲の状況を把握。部屋に居るのは碧王とニールリャテスのみ。案の定内から外への転移魔法には阻害の仕込みがあるが、この部屋にそれらしい罠はなし。ただ気になるのは魔力隠しの陣を城全体に張ってやがるって点か。誰がここにいるのか、悟られたくねぇって感じだな。あとなーんか、違和感があったが……まあいいや。

「どうした『色無し』。そんな風に身構えずとも、貴様なら使い魔で我々の動向くらいつかめているだろう」

「よく言うぜ。そっちに飛ばした使い魔、全部弄ってんだろ」

緋獣の時のことを忘れちゃいねぇ。遠隔で得る情報に過度な信頼を持つことは、身の破滅を招くことに繋がるってな。

連中の協力者の中にゃ、あの『真眼』リティアルがいる。見えねぇ感じ取れねぇの俺の使い魔でも、俺の性格さえ知っていれば設置方向を絞り込んで破壊することくらいはできる。

ものは試しにと使い魔を監視する使い魔も混ぜておいたが、見事に使い魔共は利用されていた。紫姫の悪魔共に弄られ、俺の方には偽の情報がわんさか。

多分だがバラストス辺りに使い魔を分析されて、他の個体を簡単に見つける方法でも開発されたんだろうな。あーあー、だから天才は嫌いなんだよ。凡人の努力に簡単に追いついてきやがるんだから。

「ふん、それくらいは気づくか。だがそれで良い。それくらい頭が回って貰わねば、貴様相手に慎重過ぎた我々が愚かに映るからな」

「へぇ、慎重にご対応頂いていやがるんで?ま、どうせいるんだろ、アークリアル」

「おう、いるぜ」

壁を斬り裂き、奥からアークリアルが現れる。お前、味方の城を斬るなよ。いや、すぐ戻るから良いかも知れねぇけどな?ほら、碧王もちょっと眉ピクピクしてんじゃん。

まあこいつがいるのは当然っちゃあ当然。碧王の戦闘スタイルは遠隔型、正面で戦える駒は欲しいところ。簡単にゃ死なねぇニールリャテスはいるが、そいつじゃ俺の動きは止められねぇだろうからな。

「ちょっと、アークリアルさん!?ここは我が王の城なんですよ!ちゃんと扉から回り込んできてください!」

「へっ、悪いな。こんな登場の仕方、やってみたかったんだ!」

「清々しい!?そりゃ無限に再生できる城ですけどぉ……」

状況としちゃ、想定内。ザハッヴァとニールリャテス、魔族としてはザハッヴァの方が格上。アークリアルをザハッヴァの方に付けなきゃ、制限時間がつくのは向こうの方。こっちは二対一でもどうにかできるしな。

「――では私めも。いやぁ、一度やってみたかったんですよね」

アークリアルが斬り崩した壁が、更に大きく切断されて崩れていく。それがただの斬撃でないことは、素人でも解る。玄人なら俺のように固まるだろうよ。

「……いやがるか」

「ええ、いますとも。名乗りは不要でしょうが、なにせ初陣なもので。ハイヤ=ユグラ、最初で最後の顔合わせですが、なにとぞよろしくお願い致します」

碧王が慎重なんて言葉を使った時点で嫌な予感はしてたんだが……。マリトめ、契約魔法を破棄しやがったか。

各国の協調が必要とされる中、頭脳の中枢となるマリトは失ってはならない立場。こちらが暗殺を狙っている可能性だって十分承知だったはずだ。魔族の連中が好き勝手に動く点からも、ハイヤはマリトの側に置き続けるだろうと思ったんだが……。

ま、向こうもそれだけ本気ってわけだ。いいね、やる気がようやく望んだ感じに湧いてきやがった。

「へぇ、ユグラと似た顔。殺しがいがありそう。ねぇ、テドラル。この男、あたしが殺して良い?」

「やめとけやめとけ。そいつ俺と同格な」

「なら大丈夫でしょ?」

「よっし、死んでこい!それまでに碧王と決着つけとくわ!」

これは割と冗談抜きでの判断だ。さすがの俺でも自分と同格二人、それとアークリアル込みともなれば面倒どころの騒ぎじゃねぇ。元々ザハッヴァは捨て駒、こんなのでも理に干渉できるまで成長した魔族だ。ハイヤ相手でもボロボロに負けても瞬殺されるこたぁねぇだろう。

俺の方が短期決戦を狙わねぇといけなくなったが、それもまた一興。なぁに、数少ない出番ってやつだ。張り切っちゃ――

「――っ!?」

「お前の相手は――私だっ!」

天井を破壊して現れた何かが、ザハッヴァを地面へと殴り倒しながら床を破壊した。俺としたことが、完全に意表を突かれた。それが誰かを認識した時には、ザハッヴァはその誰かと階下へ落下していったあとだった。

つか下の階広っ!?ぶち抜きで何階層分あるんだよ!?さっき城調べた時の違和感ってこれかー!いやいや、それ以上に今ザハッヴァを連れ去った奴だ。

「――黒狼族の亜人ちゃんじゃねぇの。腕治しちゃったわけ?未熟なガキを戦いの場に引き戻すたぁ、お優しいこった」

「この戦いに臨むことを求め、対価を差し出したのは向こうだ。俺はその対価を認めたに過ぎん。……天井の修理費は別途請求するがな」

「それは流石に可哀想では、碧の魔王。アークリアルや私だけ免除とは、差別が過ぎます」

「ド阿呆。貴様らにも請求するに決まっているだろうが」

「マジか……」

「なんと……」

あ、やっぱり壁や天井を壊されたことは予定外だったのね。この万年不機嫌男、怒ってる時とそうじゃねぇ時の顔に違いがねぇんだもんな。いくらぐらいふっかけられんだろ。俺も壁壊してっからなぁ……。殺して踏み倒すしかねぇな。

「それでは我が王、私もウルフェちゃんと共に戦って参ります!ではでは!」

ウルフェの空けた穴に敬礼をしながらニールリャテスが飛び込んでいった。そしてその穴は碧王の魔力で瞬く間に修復されていく。……おいおい、マジかマジですか。ここに居る全員を同時に相手にしろと?

ユグラの代わりとして創り出された『理に干渉する才能』を持った次世代勇者の落とし子、近接戦だけならユグラと対等の最強の剣士、そしてユグラを除いた現最強の魔王……。

「言っただろう。慎重過ぎたと」

この碧王とは多少なりの付き合いがあるが、こいつが自分からウルフェの腕の再生を持ちかけることは絶対ねぇと断言できる。そして要求する対価も相当なもんのはずだ。あの『地球人』が動かない限りは脱落したままだと踏んでたんだが……てことはあっちの女もか?

なるほど、他の魔界での布陣も読めた。ラザリカタとオーファローの二択はあるだろうが、ザハッヴァの相手にウルフェを選んだ賢王なら、全てを読んでいると考えて間違いねぇな。

指し手の差か、なるほどね。なあ黒姉、だから脳筋特攻じゃダメだって訴えたじゃん、心の奥底でだけど。

「いやいや、まだまだ軽率だぜ碧王。なんつったって相手はこの俺、何色にも染まらねぇ無色の魔王だ。たかだかお前ら三人が揃ったところで、誰よりもユグラの側にいた俺に勝てると思ってんのかね?」

「何色にも染まらぬ……か。『黒』にどっぷりと浸かっている分際で良く口の回る男だ」

「あーうん。そこは嘘だった、すまん。真っ黒だよな、俺。でもこの口上も何回か練習したことあったからさ、使っておきたかったんだよ。んでもよ、後半の方には嘘はねぇぜ」

ハイヤはユグラの持つ才能の中で最も優れたものを継いでいる。碧王もこの世界でも屈指の頭脳を持つ男だ。

それに比べ俺は凡人。素敵な才能だって与えられちゃいねぇ。素質で負けてりゃ性格でも負けてやがる。ついでにルックス的にも差があるような気がしないでもない。

だがお前らの力、その全ての発端となった男から、誰よりも長く学んだのが俺だ。その事実だけがあれば十分、俺が笑って戦いに挑める理由になる。ま、ルックスもきっと俺の方が好みな女もいるだろうから気にしねぇ。

「こいよ、雑魚共。世界最高の努力家の底力、見せつけてやるよ」