軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゆえに恋しい。

ナリヤに与えられた力を使い、敵の心の中を覗いた時があった。

私達を殺し尽くした者達にも納得のいく大義名分があるかもしれない。私達を裏切った者達にも一抹の後悔があるかもしれないと。止まる理由を求めようとしていた。

だが結果は二度とその力を人間には使うまいと、自らの憤怒は正しかったのだと証明するだけに終わった。

人間には欲がある。欲は争いを生む種だ。その種が育ち、根付き、欲に染まった心の森のなんと醜いことか。

「……ここは」

ここには欲の臭いが漂っている。つまりは心の中、何者かの心象風景。

だが私が見たことのあった光景とは明らかに違う。これが人の心と言うにはあまりにも殺風景だ。

床も壁も天井も、全てが単調な石造りの部屋。いたるところに欲を具現化した蔦が張っている。しかしその欲は日陰に生えた草のように、それ以上育とうとはせずに鳴りを潜めている。

「そうか、ここは貴様の心か」

部屋の中央には来客のために置かれた椅子と、その正面に置かれたヒビだらけの姿鏡が一つ。

私はその椅子に座り、鏡の中と向き合わされている。その鏡の中にいる私ではない誰かは、私に向かって言葉を投げかけた。

「なるほど。居心地の良さそうな部屋だとは思ったが、これって『俺』の心象風景か何かなのか?自我が全部奪われるかと思ったんだが、こういう感じになるのな。そして初めまして、だな。黒の魔王」

かつてのナリヤと同じ。黒い髪に黒い瞳。ナリヤより年齢を重ねているようだが、歳よりも幼く見える風貌。

私が異世界から呼び出した者。異世界の者はこの状況を新鮮に感じていながらも、どこか余裕のある表情で私を見つめている。

まずは現状を把握。私はテドラルと共にセレンデ魔界へと向かおうとしていた。しかしテドラルのいた空間から元の世界へと転移するにあたり、魔力を持たない体にはそれ相応の負担が掛かると説明を受けた。

つまり私はその移動の過程で意識が途切れた。肉体が負荷を受け止めやすいよう、意識との接続を切断したのだろう。

「――私の夢か」

「みたいだな。こんな光景を見たことは一度もない。大方アンタの捉え方で再現された『俺』の心の中って感じか。夢の中でこんなにも思考がクリアなのは不気味なんだが」

おそらくはナリヤの仕業だろう。ナリヤがこの男の肉体の支配権を私に与える際、私の自我に塗り潰されないようにこの男の自我を隔離したのだ。

「本能のみでの干渉ではあったが、世話になったことは覚えている。一方的に利用される立場でありながら、あそこまで反撃してくるとはな」

「意図的じゃないんだから、文句は受け付けないぞ?そもそもアレは『俺』にとってはアンタらにとっての魔法みたいなものだからな」

この男は他者の心を映し出す鏡。自らの自我を虚空へと溶かし、その体の中に他者を形成する。それにより相手にとっての一人称視点で理解を深めることができる。

だがその行為は自らの存在を希薄化させ、自己を見失いかねない諸刃の剣でもある。事実、私はこの男のその行いによって干渉を滞らせられた。

この男が受けた悲しみや怒りを糧とし、私の思念を増加させた矢先から、それを分解させられていた。この男は自らに諸刃の剣を突き立てる過程で、私をも突き刺していたのだ。

「ナリヤもそうだったが、貴様もまた狂った存在だったようだな」

「別に非常識ってわけでもないさ。時代が進めば、この世界にだって普通に浸透するような手法だ」

「――そうだろうな」

この男がこのような狂気じみた技を身に着けたのは、才能があったからではない。その技を身につけることが生きる上で必要だったから。それが必要とされる世界だったからだ。

この男の世界は私のいる世界よりも遥かに文明が発達した世界。私達の世界の成れ果てとも言える。ああ、なればこそ、私は迷わずに世界を滅ぼせる。このような男が当然のように存在してしまう世界など、嫌悪しか湧かない。

「人を恨むことでしか世界を愛せなかった奴が、上から目線で同情してくれるなよ」

「……貴様に何が理解るとは、言えぬか」

この男はこれまでに何度も私の干渉を受けてきた。それこそこの男が普段から行っている理解行動と同じように、奴の心の中に私を形成している状況と同じだ。

たった今言葉を交わした相手ではあるが、恐らくはこの世界で最も私の心情を理解している男なのだろう。

「ま、せっかく体を譲ってやったんだ。好きにしろよ」

「何故止めない。貴様が私のことを理解しているのと同じように、私もまた貴様を理解している。貴様にとって私の行いは止めなくてはならないもののはずだ」

この男はこの世界を愛している。この世界に住む人間達を救いたいと心の底から願っている。だからこそ、その願いと行為が矛盾している。

「止められる相手なら止めたさ。言葉が通じる相手ならば言葉を使って、手段が選べる相手ならば手段を駆使してな。だがその程度で止められるのなら、ユグラナリヤがとっくにアンタを止めている」

「……道理だな」

私を理解しているからこそ、私を説得する言葉がないことを、この男は理解している。どのように言葉を並べたところで、私の中にある泥を掻き出しきることなどできはしないと。

私は何故この男にこのような質問をしているのだろうか。所詮は滅ぼすべき人間だというのに。

生まれた世界が異なるからか。住むべき世界が違うからなのか。きっとそうなのだろう。私は私を裏切ったナリヤを捨て置いて、この世界を滅ぼそうとしている。

「今は気にしていても時間の無駄だろ。『俺』が指し合っているのはユグラナリヤだ。アンタじゃない」

「確かに無駄だな。貴様は私に何かを隠しているが、それを明かすつもりはないようだ」

夢の中だとしてもそれを自覚しているのならば、目を覚ますことはそう難しくない。明け方に夢を見るのと同じ、既に意識が存在している時点で元の世界での移動は済んでいるはずだ。

強く自覚することで世界が揺らいでいく。現実の世界にいる私が目を覚まそうとしているのだろう。

「それじゃあおはようだ、黒の魔王。良い現実を」

「ああ、貴様の愛する世界を蹂躙してくるとしよう」

男は寂しそうに笑った。その表情に込められた思いに対し、私はただただ不快だった。

本体ならまだしも、最弱の肉体で俺の空間から移動するのは負担が大きいってことで、黒姉には少しの間だけ眠ってもらった。ちょっとばかし誤魔化したいこともあるわけだが、実際に負担を軽減するわけだからセーフセーフ。

「たーだいまっと。これ言うの何百年ぶりだっけか」

とりあえず言われたことを済ませたんで、黒姉を寝かせている懐かしの城へと帰ってきた。

かつて俺達を裏切った人間共の城を下地に創り変えられた場所。セレンデ魔界における黒姉の拠点。

到着時は随分とボロがきてたし汚かったんだが、ユグラが一晩も掛けずに昔のままの状態に戻しやがった。

黒姉の魔力が浸透し、城内の情報を全て把握し続けられる結界のような城だ。本来なら黒姉にしか直せないはずなんだが、よくもまあここまで完璧にできたもんだ。

「おかえりテドラル。こっちもそろそろ目を覚ましそうだよ」

そのユグラはというと、玉座の間に腰掛けて眠っている黒姉を眺めている。こいつ、俺がお使いしている間もずっと黒姉の寝顔を見てやがったのかよ。ま、寝顔だけは昔のまんまだからな。飽きねぇのも分かる。

「目を開けてお前さんが正面にいたら、また殴られるんじゃね?」

「それはそれで大歓迎さ」

「ドン引きしてぇのに、ちょっとだけ分かるのが辛ぇ」

なんせ今の黒姉のパンチはどれだけ本気を出しても甘噛み以下。掠っただけで脇腹が吹き飛ぶような威力は山に残されたまんまだからな!

なんて思っていると黒姉がゆっくりと目を開く。視界に俺達がいるのを確認すると、不機嫌そうな目つきで息を吐いた。俺じゃねぇよな?ユグラがいるからだよな?

「おはよう『黒』。夢の中で彼とは楽しく話せたかな?」

「あの悪趣味はやはり貴様か、ナリヤ。なぜあの男の自我を守る」

「理由ならいくらでもあるさ。同郷だし、君が巻き込んだ人物だ。君の数少ない協力者でもあるわけだしね?それとも、魔法すら使えないただの一般人の心が君の障害になるのかな?」

話の内容的に、黒姉の肉体が眠っている間はあの男と意思疎通ができる状態にあるって感じか?

ユグラ的にはあの男の自我を消す必要性はねぇ。ただ意思疎通をできるようにした理由にはちょいと含みがありそうだ。

ユグラが警戒しなくちゃならねぇのは、時空魔法を使ってこの世界をやり直そうとしていることを黒姉に知られることだ。そうなっちまえば黒姉は間違いなく妨害しようと動く。

今の黒姉にユグラの妨害ができるとは思えねぇが、ユグラからすれば黒姉が障害になるって事自体が嫌なことだからな。

「……テドラル。皆は集めたのか?」

「あ、ああ。セレンデ魔界にいる魔族達には全員招集を掛けておいた。それとこれが今の黒姉の戦力だ」

作成した資料を黒姉に渡す。今の黒姉は魔王としての力を何一つ発揮できない状況だ。つまりは魔界を生み出すことも、配下の魔族や魔物に自分の意思を伝達することもできねぇ。

だから俺がひとっ走りして、セレンデ魔界中にいた魔族連中に声を掛け、魔物の種類や数やらを集計しておいたってわけだ。

声を掛けたつっても、捕捉している魔族のところに分身体を飛ばして『よぉ、久しぶり。黒姉が復活したから城に顔出しな』って一方的に呼びつけただけだが。

資料には他にも、現在の大陸の状況や各大国のおおよその戦力などを記載してある。敵の数を知らなきゃ、自分らの戦力が多いか少ないか分からねぇしな。

「数は十分のようだが……テドラル。お前は何に対して不安を抱いている?」

「……バレた?いやそれがさ――」

「ああっ!魔王様っ!ついに復活されたのですね!」

どちゃり、と周囲の空気が第三者の魔力によって濁るのを感じる。

強者と相対する時、何かしら相手の本質を感じ取ることがある。腹に響くような地響きだったり、喉が乾くような空気の張り詰め具合だったりとか、そんな感覚をだ。

今感じているのはそんな感覚の一種なのだろうが、率直な感想を言えば気色悪いの一言だ。

そこに感情による要因は一切ない。なのにまるで濃厚な殺意に晒されているかのような不快感が胸の奥から滲み出てくる。延々と張り巡らされている蜘蛛の巣に飛び込んだような気分だ。

それがこの魔族、ザハッヴァという女の狂気の顕れということなんだろう。

「ザハッヴァか。その姿……無事に覚醒できたようだな」

「ええっ!魔王様の力になるために、ずっと、ずっとずっとずっと!想い続けていました!」

ザハッヴァの格好は肩や首、腹がガッツリ見える長袖とかいう謎のトップスのセンスはどちらかと言えばチキュウより。そんなちらほら見える肌のあちこちには痛々しそうに糸が縫い付けられている。

だがそれよりも異質なのは魔族でありながら、肌の色が人間の時と同じ薄いベージュ色だということ。

魔王が自身のあり方に影響され肉体が変化することがあるように、魔族にも段階的な変化がある。

魔王の魔力には色が含まれており、肌の色はその色の影響で浅黒く、髪はその色が混ざった感じになる。これが初期段階、未覚醒状態と呼ばれている。

そしてその先の覚醒状態。魔王の魔力に完全に順応し、さらにある条件を満たすことで成り果てる。仮初の肉体の姿だけは元々人間だった姿に近しくなるが、中身は完全に別物だ。

ザハッヴァは黒姉が封印された時、未覚醒状態を示す黒髪に浅黒い肌だった。それがこうして変貌しているということは、魔族として完全に成り果てた。魔族の本質へと辿りついてしまったということだ。

「本当に復活していたんですね。『黒』様」

「オーファローとラザリカタか」

感極まった声を出しながら現れたザハッヴァとは対極的に、ボソボソと喋りながら俺が一番嫌いな男、オーファローが部屋へと入ってきた。その隣には二番目に嫌いな女、ラザリカタもいる。

オーファローは筋肉の薄い華奢な体を強調するかのような、肩や腕を見せた服装。肩や胸には焼印のような痣が刻み込まれている。

ラザリカタはジャラジャラとアクセサリーたっぷりでかなりブカブカな服を羽織っていて、内側はよく分からない。こいつらの服のセンスって未来的だよな。俺も人のこと言えねぇけど。

二人共魔力は意図的に収めているのか、ザハッヴァのような肌で感じる不快感はねぇ。だがこいつらは見ているだけで無性にムカついてくる。単純に俺とはウマが合わねぇんだよな。

オーファローもラザリカタも覚醒していることを示すかのように肌の色が白い。

「ハハッ、問題児が綺麗に揃ったものだね」

「魔王様っ!どうしてここに裏切り者がいるのですか!?」

ザハッヴァは警戒するようにユグラを睨んでいる。まあ、その反応が正解なんだよな。ユグラのせいで黒姉は封印されちまったし、それを止めようとした魔族連中の半数近くは殺されちまったわけなんだし。

少なくともオーファローやラザリカタのように、黒姉を品定めするように見つめることはしねぇよな。

「些事だ。こいつはもう私の邪魔をしない」

「そうそう。僕は『黒』の邪魔はしないから、安心していいよ」

「信用できるわけないでしょ!?お前が裏切ったせいで魔王様が――」

「ザハッヴァ」

鋭くなった黒姉の語気に怯むザハッヴァ。黒姉がいる時なら、こいつを御することは難しくはねぇ。ザハッヴァは魔族になる前から黒姉に懐いていた。碧王のとこのニールリャテスのように、黒姉のためなら死地にだって喜んで向かうような奴だ。

「魔力をまるで感じない。まるで死人だ」

「随分と無様な姿ですわね。『黒』」

「ちょっと!オーファロー!ラザリカタ!魔王様に向かってその言い草はなに!?」

問題があるとすれば、オーファローとラザリカタの二人。こいつらも同じ村の生き残りだ。人間達へ復讐を誓った仲間達に便乗する形で加わり、魔族としての力を得ちゃいるが、本心から黒姉に忠誠を誓っているわけじゃねぇ。

「この肉体はナリヤの創り出した魔物……魔喰から逃れるために用意した仮初のものだ」

「あら、なんですの?それでは完全に復活したわけではないのですね」

「そうだ。……ザハッヴァ、イドラクやウカワキはどうした?あの二人が招集に遅れるのは――」

「死にましたよ。二人共」

「――なに?」

ザハッヴァは不思議そうな顔で首を傾げる。ああ、こっから頭痛タイムだ。頑張れよ、黒姉、あと俺。

「ていうか、今生き残っているのは私達三人だけです。他は皆死にました!あ、ちょっとだけ語弊がありますね。二人くらいは生きているのかな?」

「……説明をしろ」

「ええと、魔王様がそこの裏切り者に封印されてから、皆それなりに立て直そうと頑張っていたんですけど……なんか気付いたら皆覚醒の途中くらいで壊れちゃいました!」

これがセレンデ魔界の現状。最初は三十六人いた黒姉の仲間達は、ユグラの裏切りによって十六人が死に、残った二十人のうち十五人が精神崩壊し、自死か仲間による処分を受けちまっている。

完全に覚醒した状態で自我を保っているのはここにいる三名のみ。残り二人はネクトハールの最期のように、自我を失った怪物となってセレンデ魔界を放浪している。

「ぷっ、あはははっ!だから言っただろう、『黒』。君の意思は絶対でも、君に扇動された者達の心には限界があるって。人として付き従う連中じゃ、魔族として生き長らえることはできないってさ」

ユグラは目に涙を浮かべながら大笑いをしている。その空気の読めなさはさておき、状況はひたすらに最悪だ。

イドラクやウカワキのような真っ当な性格で、黒姉の進む道を共に歩もうとした連中は皆、長い年月による精神の摩耗に耐えきることができなかった。

これは碧王の配下と同じ。魔族の体に人の精神が順応しきれなかった末路だ。人としてマトモな奴ほど、この結末は避けられねぇ。

事実こうして生き残っているのが、魔族の中でも精神的に異常なこいつらしかいねぇんだもんな。

「――そうか。他の皆は先に逝ったか。ザハッヴァ、彼らの墓はあるか?」

「ありませんよ?皆死んだら塵になりましたし。埋める事もできませんでしたし」

「……テドラル。頼めるか」

「お、おう。用意しておくよ……」

黒姉は笑っているユグラに対し、眉一つ動かさないまま生き残った魔族の三人を見る。過去に見た光景と重ねているのか、それとも既に先を見据えて考えを張り巡らせているのか。

この三人は性格こそ難ありだが、魔族というカテゴリーでいえば頂点にいる連中だ。単純な戦闘能力だけならば、緋獣にすら匹敵するだろう。

生き残った連中が皆覚醒状態なら、ワンサイドゲームで終わる戦いだったろうに。こうなると負けの可能性だって見えてくる。

「魔王様、魔王様!また人間を殺すんですよね!?皆、皆、殺して良いんですよね!?」

「ああ。ナリヤの邪魔はもう入らない。今度こそ全てを――」

「不服ですわね。どうしてあたしがそんな無様なあなたに従わなければならないんですの?」

ラザリカタは侮蔑的な視線を俺達に向けている。ザハッヴァは表情が固まり、オーファローはどうでも良さそうに全体を眺めている。

やっぱりこうなったか。こうなるよな。ラザリカタは人間の時から黒姉を嫌っていた。周りの連中が上手く彼女をなだめたことで、渋々と傘下に加わったような奴だ。

黒姉の力が絶対的だったからこそ、不満を隠しながら従っていたが、今の状況となっては――

「ラザリカタ!あなた、魔王様に向かって!」

「ザハッヴァは黙りなさいな。『黒』の元に巣食う蜘蛛風情が、私を諌める資格があるとでも?」

「――そう、食べられたいのね?この欺瞞者が!」

ガチの殺気が部屋に充満していく。ザハッヴァはラザリカタを本気で殺すつもりで力を解放しようとしている。ラザリカタもその殺気を受け、臨戦態勢になろうとしている。

あー、やっぱこいつら沸点低過ぎるんだよ。そりゃあ人間を何百何千とぶち殺してきたんだから、命を奪う行為自体に抵抗がないのは分かるけどさー。少しは身内意識とか、そういうものを持てませんかね?無理?知ってた。

「はーい、そこまで」

ザハッヴァ達魔族組が全員、見えない壁に押し潰されたかのように地面に叩きつけられた。使われたのはユグラ教とかでポピュラーな重力魔法だが、その魔法陣の展開速度と威力がえげつねぇ。

何よりユグラの魔力を何一つ感じ取ることができなかった。これはエクドイク、いや大悪魔ベグラギュドの『盲ふ目』の原理か。自分だけが認識できる空間に魔法陣を展開させて、発動状態の魔法陣を直接転移させやがった。こんなん避けられねぇよな。

「ユグラ……っ!」

「僕は『黒』に復讐する機会を与えたんだ。始まる前からその手段である君達に勝手に自滅されたらさ、流石に可哀想でしょ?『黒』が戦力を整える過程くらいは僕も手伝うさ。構わないだろう?『黒』」

「……好きにしろ」

ユグラは重力魔法に捕らわれているラザリカタの方へと歩み寄る。重力魔法の範囲内にいるくせに、当人はまるで影響を受けちゃいねぇ。

そしてそのままラザリカタの髪を掴み、無理やり頭を引き起こして目線を合わせた。

「ぎっ……!」

「選択肢くらいは与えるよ?黙って協力するか、黙って協力できるようにされるか。どっちが良い?」

おっかしーな。黒姉の元で頑張ろーって思ってたんだが、もう向こう側の方が恋しくなってきやがった。マジでマトモな奴がいねぇんだけど、こっちの陣営。