軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけで、プランを練る。

「こっちの方角で間違いはないのですが……」

魔封石があると思われる方角へと急いでいるのですが、方角が分かっても距離が分かりません。以前は大きなお風呂を使い、尚書様が地図の上で何かしら書きながら距離まで算出していたのですが……私にその知識はありません。

「そう悩む必要はない。魔封石を剥き出しで置いていた場合、空を飛べる紫の魔王の悪魔が見つけているはずだ。未だに発見されていないと言うことは、どこか大きな建物の中に隠されている。この方角でその条件に見合う建物は資材保管庫だ」

「ヤステトさんって、セレンデの地理にも詳しいのですね」

「ラクラさん、俺達がどこを拠点にしていたか覚えているか?」

「あ」

そうでした。リティアルさん達はここセレンデにある遺跡を本拠点としていたのでした。物資の補給をするにはここに来る必要性もあるわけで、何度も訪れていれば覚えますよね。

「敵だったことを忘れてくれているのはありがたいが、それだけ印象が薄かったということかと考えすぎてしまいたくなるな」

「だ、大丈夫ですよ!私はもう二度とヤステトさんとは戦いたくありませんし!」

「そうか。それは嬉しい評価だ。俺の方も人情的ではあるが、戦いたくないのは一緒だ」

「人情的には?」

「話せる相手と殺し合いはしたくないからな。単純な実力勝負という意味でなら、負けっぱなしは少し……といったところだ」

ヤステトさんも殿方なのですね。エクドイク兄さんも私が鍛錬している姿を見ると、『ラクラ、たまには手合わせでもどうだ?』とちょくちょく言ってきますし……。まあ付き合う気はありませんけども。

道が分かるヤステトさんに先を譲り、暫く進むと大きな建築物が見えてきました。あれが資材保管庫なのでしょう。

「あそこが……」

「どうやら当たりのようだな。見ろ」

ヤステトさんが指した方向には、微動だにしないアンデッド達がちらほらと。まるでこの場所を守るように命じられているかのようです。

「護衛を置いているということは、護りたい何かがあるということですね」

「それもあるが、その先に大量の燃えカスがあるだろう?」

アンデッド達の奥には、大量の何かを集められまとめて燃やされた痕跡が見られます。周囲で火災が起きているので、臭いはあまり分かりませんが……おそらくは資材保管庫の中にあった資材なのでしょう。

「国の大切な資材を燃やして場所を確保するなんて……もったいないです」

「人が物に見出す価値は異なる。リティアル様が俺達に言い聞かせてくださった言葉だ。たとえそれが人の生きる上で必須なものだとしても、人によっては道端に転がっている石と変わらなかったりする……。共感はできずとも、そういうものがあると理解しておくことは大事だ」

リティアルさんって本当に尚書様に似たことを言いますよね。やっぱり人心を掌握するような人は考えも似ているのでしょうか。まあ私は尚書様の方が一緒にいて力を入れずに済むので好きですが。

「あの数のアンデッド……処理できますか?」

「問題はない。ただ少しでも楽をするために、ラクラさんにも手伝ってもらおう」

ヤステトさんは簡単な作戦を伝え、一人迂回するように保管庫の入り口へと向かいました。私は正面からゆっくりと近寄り、アンデッド達が反応する距離まで詰めます。

アンデッド達は近くに人間が現れたことで反応を示し、私の方へと接近してきます。しかし、そこで回り込んでいたヤステトさんが飛び出し、いつの間にか手に入れていた槍で複数のアンデッドを背後から突き刺していきます。

そしてその勢いのまま、近くの壁に槍を突き刺して固定しました。まるで鳥のはやにえのようですね。動いているのが人の姿をした存在なので目を背けたくなりますが。簡単に抜けられないように槍の握る方向を曲げてあるなど、余念もありません。

突如後ろからの奇襲にアンデッド達は対応しきれていないようで、ヤステトさんは手際よくアンデッド達を無力化していきます。

「よし、こんなものか」

「うわぁ、夢に出そう……。何本もありますけどその槍は?」

「すぐそこの兵の詰め所から拝借してきた。国の施設だからな、兵士が待機する場所があるのは自然なことだろう?」

壁に突き刺された大勢のアンデッド。自分が拘束されていることにも気づけず、もがもがと動き続ける光景はなかなかに不気味です。

「早く行きましょう……」

「そうだな。いつ拘束が外れるかも分からないからな。早くやることを――ッ!?」

ヤステトさんが資材保管庫の扉へと近づき、手を掛けようとした瞬間。その扉が勢いよく破壊され、中から大きな獣が現れましした。

トカゲやドラゴンのような形なのに全身に体毛があり、いたるところにアンデッド特有の腐食が見られます。

ヤステトさんは咄嗟に槍を突き出すも、獣のアンデッドはその刺突をまったく気にしておらず、その爪をヤステトさんへと振り下ろしました。

巨体である獣の一撃は重く、ヤステトさんの体は地面へと叩きつけられ、そのまま跳ねるように後方へと転がっていきます。

「ヤステトさん!?」

「ぐっ、問題ない」

ヤステトさんは起き上がり、獣のアンデッドと向き合います。問題ないと言っていますが、肩の肉が抉られているほどの重傷です。

獣のアンデッドは唸りながら、一直線にヤステトさんへと襲いかかります。ヤステトさんは突進を躱し、取り落した槍を拾い上げ獣のアンデッド相手に戦闘を行います。

ですがヤステトさんの攻撃はまるで通用しておらず、下手な攻撃は危険と判断してか護りに徹しているようです。

「ラクラさん!こいつは倒すのも拘束するのも無理だ!俺が引き付けている間に、中の魔封石を!」

「は、はい!」

ぎりぎりまでヤステトさんを視界に入れながら、破壊された扉の中へと向かいました。あれが他にもいないかと警戒しつつ様子を伺いましたが、どうやらあの一匹だけのようです。

奥へと進んでいくと、それはすぐに見つかりました。民家ほどもある大きさの黄緑色の石、魔封石が。

「これを破壊すれば……うん?」

魔封石はその大きさに比例して影響範囲が伸びるので、砕くことができればその範囲は大幅に狭くなります。半分にするだけでも街中で戦っている人達の多くが魔法を使えるようになるでしょう。

ですがこれはもう石というより大岩です。私にはイリアスさんのような剛力も、ウルフェちゃんのような爆発力もないのです。魔法が使えない、ちょっとばかり魔力強化ができる程度の女の力で壊せるものではありません。

戻ってヤステトさんと役割を交代するべきでしょうか?いえ、私じゃあの獣の足止めなんて無理ですし、あの獣が私に狙いを変えるとも分かりません。

近くにあった金槌で思い切り叩いてみましたが、表面がほんの少し割れただけです。これを繰り返していても、時間が掛かり過ぎます。

「ええと、ええと……」

資材保管庫の中には様々なものがあります。これらを使えばどうにかなるかもしれないと、周囲を見渡しながら考えます。

尚書様は複数の道具を組み合わせることで、人はより多くの事ができると言っていましたが……その組み合わせを思いつけるかどうかはまた別の話です。

途方にくれそうになりましたが、ここでこの魔封石を破壊しなければこの国が被る被害はより一層大きなものとなってしまうのでしょう。

時間と重圧、それらがさらに思考の邪魔をし、気づけば使えないと分かっているはずの魔法を使おうとさえしていました。

「……どうしましょう」

そうしている間にも、時間は無慈悲にも過ぎていくのでした。

主様と共に安全圏への移動が完了した。途中魔法が使用不可能になった時は奇襲などの警戒を必要以上に強めてしまったが、何事もなく魔封石の範囲外へと移動することができた。

今回の事件を引き起こしたものは、あくまでセレンデ城近辺の魔法を制限したいだけのようだ。

「もう十分ね?避難活動は悪魔達で十分サポートできているから、悪魔達の再編成が終わり次第、貴方はアンデッドの処理をしてもらえるかしら?」

「御意に。……魔封石の捜索はしなくても?」

未だ向こうで戦っている者達にとって、魔法が使えない状態はかなり不便な状況のはず。それこそイリアスやウルフェのような魔力強化に長け、魔力を込めた一撃だけでアンデッドを消し飛ばせるような強者以外は苦戦を強いられているだろう。

「見つけた場合は破壊してしまっても良いのだけれど、魔法が使えなくてもまともに戦える貴方には頑張ってもらわないとね?」

「そうですね。魔法での調整が必要な『焦がす角』以外は比較的問題なく使用できます」

大悪魔としての特異性は魔封石の影響下でも失われることはない。ただその特異性を強めるための魔法の補助がない以上は、やはり私でも弱体化はする。

「魔王や魔物の力は、魔封石の影響下でもそこまで変わらないよう、調整されているものね?」

「調整……?」

「ユグラ、ユグラね?以前あの男が私達に魔王としての力を与える際、ちょっとだけ話していたのよ?『君達に与える力は、旧き時代を変えるための力だ』とね?」

その言葉の真意は分からないが、たしかに勇者ユグラが関わった魔法や力は魔封石を以てしても完全には防ぎきれないようなものばかりだ。

主様が魔王となり、私が生まれた当時では既に魔法そのものの存在は魔封石によって衰退を始めていた。それがこの時代でも残っているのは、ユグラの残したものが魔法に対する期待を残しているからなのだろう。

「死霊術も、発動さえすれば魔封石の影響は関係ありませんね」

「そうね?『蒼』もなりふり構わないのであれば、『殲滅』の力で一気に解決できるもの?アレは死霊術で作られた魔力の特異性そのものを生み出す力だし?」

「人間の顔色を窺っている以上は、使わないのでしょう……」

それは主様も同じこと。あの人間に嫌われたくない、見捨てられたくないと願っている限りは、あの力を自分のものとして奮うことはないのだろう。

魔王としての力を抑えていることについては、色々と複雑に感じることもある。しかし、主様はその対価を十分以上に得ているのだ。

「顔色は変わらなくても、黙っていれば思うところがあるのはすぐに分かるわよ?良いのよ、これで。便利な力を使えないことは、不便だと感じる時もあるけど、あの人に誰にでも誘惑していると思われるよりはマシだもの。それとも『籠絡』の力を失った私は惨めかしら?」

「いえ、そんなことはありません。少なくとも昔以上に活力に満ちておられます」

「当然ね?恋は生きる糧にもなるもの。貴方も誰か良い相手でも探してみたら?」

「御冗談を。悪魔に性別はありません」

そう言いつつ、最近蒼の魔王の陣営に加わったベラードという悪魔の姿が頭の中に過ぎったが、アレは特例だ。本来存在しないはずの女型の悪魔として創り変えられた存在なのだ。

「これ、本格的に私が面倒見なきゃ進まない感じなのかしら?まぁ、そのへんはこの騒動を片付けてからね?」

「……?それでは私は戻りますので、主様は細心の注意を払って――」

「心配するのであれば、さっさとアンデッドを片付けて戻ってきなさい。あんまり遅いと様子を見に顔を出すくらいはするわよ?」

「……可能な限り最速で事態の収拾にあたります」

私のせいで主様が危険に晒されるなどあってはならない。それが主様一人でどうとでもなるものだとしても、だ。まずは臭いを辿り、何れかの者と合流して情報を得るとしよう。