作品タイトル不明
そんなわけで、知らぬふり。
ヒルメラ王女の護衛、ムールシュト。以前扉越しにその気配を感じていた時に、これでもかとこちら側に意識を向けていたことから、この人物は我が強いタイプの人物だろうと思ってはいたのだが……ここまで強い個性があるとは思わなかった。
「それでラッツェル卿、これはどういう展開で?」
「それが――」
情報収集から帰ってきたミクス様達にこれまでの経緯を簡単に説明した。
突如現れ、彼に告白の様な真似をしたムールシュトに対し、彼は色々な情報を聞き出そうとしたが『そういう話は君の仲間が戻ってきてからで良くないかな?』と流された。
彼は少しだけ思案し、その言葉に同意した。そして今の時間に至るまで暇潰しの余興として彼の世界にある遊戯をしていたのだ。
「ウルフェの番です!……ならず者が人を襲っている……ならず者の背後から近づいて、『タライ』を被せ、『金貨の入った袋』で殴打!仕上げに『笛』で警邏の人を呼びます!」
「まあ満場一致でありだな」
「割と楽な組み合わせだよね。じゃあ次は僕だ。えーと、空腹で倒れそうか……。『馬車』を壊して、馬を『剣』で捌いて焼いて食べる!今までありがとうってことで『大きな石』を使ってお墓を作ってあげよう!」
日常品がランダムで書かれている木の板が三枚配られ、それとは別に問題が書かれている山から一枚をめくる。その問題を配られた手札を使って解決する方法を模索する遊戯らしい。
楽しそうではあるが、正直そんなものでどうやってこの問題を解決するのだ?と首を傾げざるをえない状況の方が多かったりする。
「『俺』か。魔物の襲撃、兵士はいない……か。『使い物にならない盾』と『ハサミ』を握りしめ、勇敢に立ち向かう」
「それだと厳しくないかな?相手は魔物だろう?」
「ここで三枚目のカード、実は『近所のおばさん』は過去に伝説とまで呼ばれていた格闘家だった。しかしおばさんは同じ冒険者仲間だった夫と死別してからというもの、現役を引退していた。だがこの使い物にならない壊れた盾はかつてその夫が使っていたものだったのだ。盾を持ち、勇気を振り絞って立ち向かう『俺』の姿に触発されたおばさんは、再びその拳を握りしめたのだった」
物凄く設定を生やしまくっているが、それはありなのだろうか?実際にそうだとしたらなんとかなるとは思うのだが……そう都合よく物事が進むとは思えないのだが。
「あー……いけそうな気がしてきた。うん、ありで!」
「ありです!」
ありなのか。やはり私には敷居の高そうな遊戯だ。遊ぶのならば勢いのつく酒の席が良さそうだな。
「っと、全員揃ったな。じゃあ遊びはここまでだ」
「ついに本気を出すのかい?」
「遊び自体終わりだっての。ここからは純粋な質問の時間だ。ムールシュト、お前はどうして『俺』に会いに来たんだ?」
彼は遊戯道具を片付けつつ、ムールシュトの正面に座る。周りは既に私達が見守っているし、拠点に上がりこんできた段階で彼の剣は私が預かっている。下手な真似はしないだろうが、それでもこの状況で楽しそうに笑っていられるのはなかなかに強かだ。
「もう少し遊びたかったけど……仕方ないか。最初に言ったけど、ヒルメラ様から見守るように言われてたんだよね。王子達の秘密を暴こうとすれば、君は邪魔者として妨害を受けることになる。だけど君の身の回りの者達は熟練の腕利きが多い。そうなれば王子達は普段使わないような強力な手駒を利用せざるを得ない」
「王位継承争いでの優位を取ることが目的ってわけか」
「そうだね。君が王子達の邪魔者として目障りになればなるほど、僕の仕事は捗ることになる」
彼はムールシュトの背後に陣取っているラクラに視線を向けた。ラクラは小さく頷き、嘘は言っていないと伝えた。
「ああ、王子達が使っているメジス対策の技法だね?僕みたいな男には不要でしかないさ。わざわざ自分を偽るなんて、無意味でしかないからね。でもまあ、王子達にとっては意味があるのだろうけどね」
「そうか。それで、あの――」
「ご友人に一目惚れとは本当のことですかな!?」
「おいミクス」
ミクス様が彼の言葉を遮って、一気に踏み込んだ質問をした。確かに驚いた発言ではあったが、そこまで興味津々に尋ねるようなことなのだろうか?
男性の多い騎士団の中でも、同じ誰かに憧れを持つようなことは珍しくない。一目惚れと言っても、それは恋愛感情とかではなく――
「本当だよ。純粋に一目惚れしたんだ。抱きたいと思っているよ、性的な意味で」
「ま゛」
誰か変な声を出していたが、それが誰だったか確認できない程度には私も驚いた。いやいや、ムールシュトが男性であることは本人が既に言っている。
憧憬ではないのか?恋愛とは同性同士で成り立つものなのか?以前彼の世界では同性愛も珍しくはないと聞いたわけだし……むむぅ。
「そ、それはどちらが攻――」
「おうミクス、それ以上は追放案件な」
「はひ」
「君はそういうのは受け入れられないのかい?僕はどっちでも受け入れられるんだけど」
「同性愛自体を否定するつもりはないさ。向き合うこと自体も検討はできる。だが同性だろうが異性だろうが、白昼人前で盛っている奴は遠慮したいね」
紫の魔王の目が泳いでいた気がするが、そこは気にしない方が良いだろう。それよりもラクラが一切嘘のサインを出してこないことから、ムールシュトは全て本心で言っているということになる。
「うん、わかった。君は純真な関係が好みなんだね?ならそう接するとしよう。君に対して邪な想いは持たないことにする」
「……あの、最後の一言は嘘が……」
「あちゃー。精度高いんだね、メジスの秘技ってのは。まあまあ、表には出さないってことでなんとか」
ラクラの目を掻い潜っているわけではないと証明できたのはありがたい。ありがたいのだが、どうしてこうなんとも言えない気持ちになるのだろうか。
「……節度を守ってくれるならそれでいい。話題を変えよう。単刀直入に聞くが、ヒルメラ王女は十年前、ラーハイトや魔族であるネクトハールに協力していたか?」
「――」
周りの者達が息を呑んだのが分かる、私だって同じ状況だからだ。彼はヒルメラの側近ともいえるムールシュトに迷いなく質問を投げかけたのだ。ラクラの嘘を見破る技が機能すると分かったからとはいえ、彼にしては些か慎重さが欠けているようにも感じる。
「僕がヒルメラ様に拾われたのは今から八年前だ。だから僕は知らないし、知らされてもいない。ただ……可能性は十分あるかな?」
「……否定はしないんだな」
「皆が思っている以上に、いや君が思っている通りにヒルメラ様の野心は弱くはない。僕が拾われた時には、ヒルメラ様は既に聡明だったからね。その二年前なら十分有り得る」
ムールシュトの発言には正直驚かされ続けている。自分が命を捧げてまで守らねばならない存在を疑っている彼の発言に対し、ムールシュトは迷いなく有り得ると断言した。
主が疑われていることに対し、微塵も怒りを見せておらず、それどころか疑いを増すような発言……忠義が低いのか?
「庇わないんだな」
「詭弁で庇うことに意味なんてないからね。もしもそうだとしたら、その時は単純に僕が君達の敵になるだけだからね。違うのならば味方だ」
いや、違う。この男の目は本気だ。ムールシュトは主であるヒルメラ王女の向かう道にしか進むつもりがない。これはヒルメラ王女を善悪としてではなく、絶対的な中枢として据えている者の言葉だ。
「……そうか。ならヒルメラ王女以外の王子について調べる間は味方ってことで良いんだな?」
「いや、そうとも限らない」
「おい」
「理由は単純だよ。ヒルメラ様は王位を継承するつもりがないんだ。その要因はもう分かっているだろう?」
「――ワシェクト王子か」
その発言にムールシュトは満足そうな笑みを浮かべた。そこに卑しさはなく、ただ純粋に彼との会話が心地よいのだと言わんばかりの表情だ。
「そう。ヒルメラ様はワシェクト様に王位を継承して欲しいと考えている。当人は諦めているようだけど、ヒルメラ様がサポートするのなら可能性はまだ十分にある」
「ワシェクト王子の地位を脅かすようなら、『俺』はヒルメラ王女の敵になるってわけだな」
「ヒルメラ様本人を責めること以上に、確実に敵と見なされるだろうね」
ワシェクト王子は今のところ王子達の中では最も潔白に見えているので、そうなる可能性は限りなく低いと思うのだが……。
「そうだな、そっちの事情は把握した。ムールシュト、お前は邪魔をしない範囲でなら自由にここに行き来してもらって構わない。ただこっちの情報は基本伏せさせてもらう」
「それで構わないよ。僕個人としては、君に会えるだけで十分だからね。それじゃあ僕はこのへんで。本当はもう少し長居したかったけど、君以外の人達はまだ君が僕をどのように分析したのか分からないだろうからね?」
ムールシュトは立ち上がり、こちらの方へと歩み寄ってくる。私は預かっていた彼の剣を渡し、彼の瞳を覗き込んだ。
意思の強さは確かに感じる、きっとこの男は敵に回したら厄介な存在になるだろう。だけど彼を守ろうとしている私とは違う、何か異なる空気を感じる。
単純な力量なら、きっと私が勝つ。なのに、その気持に疑念を抱きそうになる。そういう意味では異質な相手だ。
「凛々しい顔だね。名前を聞いても良いかな?」
「ターイズ騎士団ラグドー隊所属、イリアス=ラッツェルだ」
「イリアス、か。彼と最も距離が近いのは君のような気がしたけど……まあ、うん。大丈夫そうだね」
「それはどういう意味だ?」
ムールシュトは屈託のない笑みを浮かべる。その姿は王女を護る騎士というよりも、花畑に囲まれている少女といった印象を受けた。
「当然恋敵としての品定めさ。可憐さならまだ僕の方に分があると見たね」
「……そ、そうか」
男性からそんな言葉を言われたことは生まれて初めてだ。悔しさなどは一切湧かないが、戸惑いの気持ちだけは隠しようがない。やはりよく分からないな。
ムールシュトが帰ったあと、彼はエクドイク達から情報を聞いてまとめる作業へと移った。誰もが彼にムールシュトをどのように思っているのか、その本心を確認したいと思っているのは私でも分かった。
「初日ならこんなものか。引き続き情報収集をよろしくな」
「ああ。ところでムールシュトの件だが、同胞はどのように思っているのだ?」
ここでエクドイクがムールシュトの件について踏み込み、周囲にいる者達の動きが少しだけ止まった。
「ガチで好かれているのは分かった。あとお前らが合流するまでにやってた遊びで、大まかな性格も把握できたな。ムールシュトはワシェクトと同じで裏表がない。思考と行動が完全に連動しているタイプの人種だ。ヒルメラとワシェクトの結果次第では本当に敵になるだろうし、本当に残念がりながら『俺』を殺しにこれると思うぞ」
あの遊びにはそういった意図もあったのか。確かに限られた状況下でどのように行動をするかを分析するには便利な遊戯なのかもしれない。だからといって近所のおばさんを要素に取り入れる事態などそうそうないと思うが。
「ふむ……。実力的には贔屓目に見ても俺と同等程度と感じたな。イリアスやウルフェが常に同胞の側にいれば問題はなさそうだ」
「そうだな。まあヒルメラの意図は伝わったから、暫くは自由にさせるさ」
「ヒルメラ王女の意図?」
「ヒルメラがワシェクトに王位を継がせたいと考えていることを、ムールシュトが話した件についてだ。あれは伝えても良いと判断した情報なんだろうな。色々端折るが、ヒルメラは『俺』にチサンテ、ヌーフサ、ユミェスの三人の秘密を暴くことを先にして欲しいと願っているんだ」
絶対に味方になるとは言わないが、条件を満たせば敵対させてもらう。確かにムールシュトの言葉がヒルメラ王女の意図を汲んでいるのであれば、ヒルメラ王女とワシェクト王子に不利になる行動を取らない限りは安全だとも言える。
現段階で他の王子達に目障りだと思われている以上、ここでヒルメラ王女とワシェクト王子まで敵に回すのは芳しくない。順番としては後回しにするべきではある。
「だがヒルメラ王女やワシェクト王子が黒だったとすれば、それは相手の思惑に合わせた妨害ということにならないか?」
「これはヒルメラなりの交渉なんだろう。ワシェクトから聞いたが、ヒルメラの護衛はムールシュト一人しかいないって話だ。その護衛がいなければ、ヒルメラは満足な外出だってできないだろう」
「ヒルメラ王女にそこまでする利点はあるのか?」
「ある。それこそヒルメラがワシェクトの為に取っている行動だ。他の王子達の秘密が明るみになれば、それは王位継承を争う上での切り札が判明することにもなるんだ」
なるほど。ヒルメラ王女がワシェクト王子に王位を継承してもらうには、他の王子を出し抜く必要が出てくる。彼らの切り札や秘密を暴こうにも、当然ながら相手も警戒をしている。
ヒルメラ王女には三人の王子を同時に敵に回すことができない。下手に事を荒げては彼女を守ろうとしているワシェクト王子にも飛び火することになる。だから三人の王子達の敵意を一身に引き受ける彼の存在は非常にありがたいというわけか。
「全ては王位継承の争いで有利を取る為か。同胞を狙う刺客の情報、王子達の秘密、それらを全て知り得ることができれば、ヒルメラ王女にとってはこれ以上のない見返りだろうな」
「今後ヒルメラはムールシュトに対し、何かしらの命令を飛ばして暗躍させてくるだろう。ただそれは王子達の秘密を暴く上で利用できるものだと判断できた。そんなわけでヒルメラ王女の提案に乗ろうってことにしたわけだ」
彼は目の前にいたムールシュトではなく、その背後にいるヒルメラ王女の思惑を見越した上で判断を進めていたのか。あの踏み込んだ質問の仕方も、ヒルメラ王女の協力的な姿勢を感じ取ったからなのだろう。
「それにしても可愛い顔でしたよね、あの人」
「そうね?喉が見えていなければ、裸にするまで男って分からない容姿よね?」
「私としてはもう少しはっきりとした感じの殿方の方が良かったですな」
ミクス様達の反応も、随分と柔らかい。冷静に分析をしていたエクドイクにも、どこか問題がなさそうだといった感じの雰囲気を感じる。
理由は簡単だ。ムールシュトには毒気がないのだ。恋敵だのと言われた私でさえ、あの男を嫌いになりきれないでいる。恋敵ではないのだが。
◇
ヒルメラ様に今日起きた出来事を報告する。僕がいない間、ワシェクト様が顔を出してくれていたのだろう。ヒルメラ様は終始ご機嫌な様子で報告を聞いていた。
「御使い様は私の意図を汲んでくれたようね。でもムールシュト、いきなり告白はないんじゃない?」
「そうは言いますがね、僕だってあんな人を見たのは生まれて初めてなんですよ。いやあ、あれだけ儚い人は初めて見ましたよ」
「あー……そうね。貴方はそういう趣味の男だったわね」
「ええ、ですから貴方も好きですよ?でも彼には敵いません」
「ありがと。その方が嬉しいわ」
僕には人の心の強さを感じ取れるといった、生まれつき奇妙な才能があった。物心がついた時には既にまともとは言えない環境で生きていたけど、僕はその力で擦り寄る相手を正しく選んで生き抜いていた。
優しさ、厳しさ、激しさ、大人しさ、様々な要素が複雑に絡み合ったのが人の心の強さだ。それは一人ひとりが芸術品のようであるかのように独特で、僕は幼い頃から人を観察することが大好きだった。
ヒルメラ様に拾われたのは偶然だったが、その時のヒルメラ様の心は美しかった。最も愛していた母親を失いながらも、新たに見つけた光、ワシェクト様の為に生きようと幼い感情を押し潰している姿。弱くても強くあろうとする意思、その脆さ、儚さに僕は人の美しさを感じていた。
「――ああ、本当に逢えて良かった。今日まで生きてきた意味を知れました」
「よっぽどなのね」
彼は臆病だ。あらゆるものを恐れている。あれだけ魔力がなく、脆弱な肉体なのだからこの世界はよほど暴力的に映っているのだろう。
だけどその中でも守りたいものがある。その為に自分の心が削れていくことにも躊躇いがない。だけどその生き方で耐えられるほどの強さを持ち合わせてはいないのだ。
「覚えていますか?巣から落ちた雛鳥のことを。衰弱し、間もなく死に絶える運命だというのに、それでも懸命に巣に戻ろうとしていたあの健気さ。あの胸を締め付けるような感覚、それを更に暴力的に味わったかのような気分です」
「一応その雛鳥は助けたのだけれどね。覚えている?」
「忘れてました。でも彼の心はよく今まで保ってましたね。普通ならとっくに壊れていても不思議じゃないほどだったんですけど……」
そう、僕が見た彼の心は奇跡を体現したかのような状態だった。他者との関わりで削れに削れ、様々な出来事に辟易とし、普通なら世界に見切りを付けて自死を選んでいても不思議じゃない。それでも大切な誰かの為に、傷つくことを受け入れようとしている。
あの状態を維持するにはただ強い心を持つだけでは不可能だ。致命的な傷を肩代わりするような、そんな存在でもあったのだろうか。だけどそれを生み出したのも彼自身、その負荷は確かに残っている。それが彼の心の儚さをより一層引き立てているのだ。
「あんまり貴方の嗜好を話さない方が良いわよ。引かれるだけだから」
「そうですかね?女性って男性の弱さとかに惹かれたりしません?僕は人の心の儚さに美しさを感じているだけなんですけど」
「そこは否定できないわね。でも貴方はそこに全部の感情を込め過ぎなのよ」
心が強い人間が嫌いなわけではない。彼の護衛であったイリアス、彼女の心は弱い場所と強い場所との差がとても大きく、はっきりと分かれていた。強い心を見ると安心感が湧いてくる。きっと彼もそんなイリアスの強い部分に安心を求めているのだろう。
だけど人として最も美しいと感じられるのは生きようとする姿だ。弱く儚い者が生きようとする姿ほど、生命の価値を感じられるのだ。
「今のところは庇護欲が掻き立てられている感じですね。ただ周りに綺麗どころな女性陣が結構いましたから、独占欲もそのうち湧きそうですね」
「ふーん、そう。貴方が粗相したら処断は全部御使い様に委ねるから、せいぜい自粛しなさいね」
「彼に折檻……イケますかね」
「私に聞かないでよ」
「ヒルメラ様がワシェクト様に折檻されるイメージでどうぞ」
「お兄様はそんな事をしないわよ!ありかと思うけど!」
意外と似た者同士だったりするのがこの主従。結局本当に好きになっている相手からならば、何をされても平気に感じちゃうわけで。
「それで、今後僕は彼の元に通い続ける形で?」
「ええ。御使い様ならアイツが魔族連中と関わった証拠を見つけられると思うし」
「……え、証拠ってあるんですか?それ教えた方が早くないですか?」
ポロっと出てきたけど、その情報こそ彼が最も知りたがっているものではないのだろうか。その情報を与えれば……ああ、いや違うか。ヒルメラ様にとって、大切なのは彼の目的が達成することではない。彼が他の王子達の秘密を暴いてくれることなのだ。
「言うつもりはないわ。貴方が御使い様と接触したことはもう知られているし、突然御使い様が対象を絞れば私が告げ口したことになるでしょ?私が敵視されたら、私を護ってくださるお兄様にも迷惑が掛かるわ」
「まああの王子達なら気づくでしょうね」
「ただ一つ懸念していることがあるのよね……。アイツと接触していたのはラーハイトって奴なんだけど、その時もう一人側にいたらしいのよ」
「ええと、他の主犯格は魔族のネクトハールで、あとは『真眼』のリティアル=ゼントリーでしたっけ?」
今回彼がセレンデで解決した出来事についての報告書は一応読んでいる。世界的に名の知られた冒険者が魔王を生み出す蘇生魔法に手を付けていたとは世も末だ。
「いえ、その二人じゃないの。しかもその人物は今回の騒動で死んでいなくて……今その足取りを追わせているわ」
「どうしてまた」
「お兄様から聞いた話なのだけれど、御使い様とリティアルは休戦関係にあるの。既に接触して情報交換も行っていたそうだけど、御使い様の行動からして多分その人物についての話は聞いていないはずよ。わざわざ接触してまで情報を伝えないのはおかしいでしょう?」
「単純にリティアルが知らなかった?」
「そう考えられるわね。取引をしたのはラーハイトであって、その人物はただの付き添いだった。だから報告をしていなかったと考えられるわ」
その説が本当ならば、リティアルがその人物から情報を聞き出すことは簡単だろう。ただそうなるとリティアルが答えを手に入れることになる。ああ、だから足取りを追っているのか。余計なヒントが彼に伝わる前に、口封じを狙っていると。
「もしかしてですけど、口封じの担当って……」
「貴方しかいないでしょ。私の部下って諜報はそこそこだけど、戦闘能力は貴方以外絶望的なんだから」
「僕もそんなに強いわけじゃないんですけどね……死ぬ時は死にますよ?」
「でしょうね。でも安心しなさい、貴方が死ぬのはまだ先の話よ」
まだが一個減ったことにツッコむべきなのか。いやぁ、死期が迫っているなぁ。