軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけで仮病します。

屋敷から戻ってきたご友人から、ヌーフサ王子との対談の内容を共有させていただきました。内容だけで考えればそこまでの収穫はなかったと言えますが、セレンデの王族周りにはユグラ教の秘術が通用しないと分かっただけでも良しと判断できます。

「それで、次は他の王子の所に?」

「いや、ヌーフサの忠告の中にはいくつか気になることを示唆している箇所があった。エクドイク達の合流を待ってから、少しこの国の全体像を調べる必要があるな」

ご友人の取る選択はいつも回り道のように見え、必要な情報であることが多いので余計なことを言うつもりはありませんが……今回私達が調べるべきことは誰が魔族と関わりを持っているかです。下手にセレンデの王族の秘密に迫るような行為は控えるべきではないのでしょうか?

「ではそれで。ちなみにヌーフサ王子についての所感はいかがでしたかな?」

「かなりの切れ者だと思うぞ。頭の回転だけならマリトと同等だ」

「なんと!?」

ご友人は兄様が王である以前に、友として兄様を評価してくださっております。そのご友人が同等と言うのであれば、間違いはないのでしょうが……。そのような人物が本気で自分を偽り、秘密を隠し続けている。それを暴くのは並大抵のことではないでしょう。

「陛下と同じようには見えなかったがな。知的ではあったが、色々と足りないものを感じたぞ?」

「そりゃ誠実さや誇り高さとか、イリアス達騎士が重んじている要素だろ。『俺』とマリトを足して割って皮肉たっぷりにしたような感じだ」

「あー、そんな感じはしましたね。目つきの悪さも尚書様に負けないくらいでしたし」

「ラクラ、今日は酒禁止な」

「ひどいっ!?」

自分に似ていると感じたからこそ、ご友人はヌーフサ王子を最初に選んだのでしょうか?ご友人は歪な鏡、他者のあり方に応じて自身のあり方さえ変えてしまえる人。それが自分自身に類似している人物なら、どのようになるのでしょう?

「お、もう話は終わったようだな!ヌーフサ兄さん相手に有意義な時間は得られたかな?ダハハッ!」

「――チサンテ王子」

少し前から何者かの接近には気づいておりましたが、ここで第二王子のチサンテ王子が現れますか。この場所はヌーフサ王子と交流をするものが足を運ぶ場所なので、他の王子が姿を見せる可能性もないわけではないのですが……。

「そう邪推するものではないぞ。ヌーフサ兄さんには日頃から世話になっているのでな。時折こうして果物などを差し入れに持ってきているのだ。あの人は人の作った料理は絶対に口にせんからな!ダハハッ!」

「人からもらったものなら、果物でも口にするか怪しそうではありましたね」

「ダハハッ!そうだな!だが花の匂いよりは果物の匂いの方が食欲は湧いてくるだろうよ!一応良いところの果物なのだがな!」

チサンテ王子は籠から果物を一つ取り出し、その皮を剥こうとする。しかし、余程力んでいたのか、果物は彼の手の中で容易く潰れてしまった。

「……ダハハッ!やはり俺につまみ食いは無理だな!どうも俺は力加減が苦手でな、筆すら特注でなければへし折ってしまう。君も一つどうかな!」

「いえ、果物でしたら店を開ける程度に送られていますので」

「ああ、そう言えばそうだったな!しかし君自身も非常に軟そうだ。うっかり抱きしめようものなら、その背骨ごとへし折れるかもしれんな!ダハハッ!」

チサンテ王子が両手を横に伸ばすと、側にいた配下達がその手を拭いて綺麗にする。同じ護衛の立場として意識は向けていましたが、向こうはまるで感情のない置物のような振る舞いですな。配下のあるべき姿ではあるのでしょうが、こうも無感情ですと不気味さすら感じます。

「それは脅しのつもりですか?」

「俺は思ったことは率直に口にする主義だ。それをどう受け取るかは君の胆次第だろうよ、ダハハッ!」

チサンテ王子はご友人の肩をバシバシと叩き、ヌーフサ王子の屋敷へと向かっていきました。まるで遠慮のない叩き方、私でさえもう少し愛情を込めて優しく叩くと言うのに。

「ご友人、大丈夫ですかな?」

「地味に痛かったな。分かりやすい警告なこって。ただあの様子だと、こちらがヌーフサ王子とどれくらいの会話をしたのか、知っているような様子だったな。ただの脳筋じゃないことは確かだ」

「私達の脳筋担当のイリアスさんだって、あんなに遠慮なしに人は叩きませんけどね」

「まったくだ。いや、おいラクラ」

そのからかいは私が言いたいところでしたが、ラッツェル卿は私相手では一歩引いた態度を取りますからな。身分を捨てたとは言え、王族の血筋であることには変わりないのですから仕方ないことではあるのですが……やはり少し寂しいです。

「……ししょー。やっぱり止めにしませんか?」

「急にどうしたウルフェ」

「ししょー、いつもよりも不機嫌です。無理してます」

食事会の日から、ウルフェちゃんはとてもご友人を心配しております。私もご友人を想う身として、その変化に全く気づいていないわけではありません。

ご友人の一人称からして、今のご友人の在り方は皆が好いている時のもので間違いありません。ですが時折感じる空気が、以前に感じた時のものに似ていると錯覚してしまう時があります。

ご友人は一人称が『私』の在り方は現在使用できないと言っていました。セラエスに捕まり、拷問を受けた際の記憶を呼び戻さないようにする為に封印せざるを得ないと。

「自覚症状はないんだがな。そう見えるのなら、少なからず影響はあるんだろうな」

「だったら――」

「大丈夫さ。昔は色々きつくて、それで失敗もしてきた。だけど今はウルフェ達がいる。頼れる仲間がいるから、『俺』はこうして前を向いていられるんだ」

ご友人はウルフェちゃんの頭を軽く撫でて歩きだします。大丈夫だから、これで話は終わりだと突き放したようにも感じられました。ラッツェル卿も少しだけウルフェちゃんの様子を見ていましたが、すぐにご友人の隣へと進んでいきます。

私達もその後に付いていきますが、ウルフェちゃんとラクラ殿は少しだけ距離をとっております。ラクラ殿はなんだかんだで気遣いができる御方、ウルフェちゃんの話を聞いてあげようとしているようです。

「……ダメなのに」

「何がダメなんですか、ウルフェちゃん?」

「ししょーはもっと楽に生きなきゃダメなんだよ。だってししょーは最初から擦り切れているんだもん……」

私もご友人の隣に移動しようと思いましたが、ウルフェちゃんの言葉が気になって足の運びがついつい遅くなってしまっております。

「尚書様は荒んでいますけど、擦り切れているようには……」

「……ウルフェはあの村で心がボロボロに擦り切れてた。ししょーはそんな私の立場をすぐに理解して、泣いてくれた」

「そうらしいですね。でもあの人ってどんな人の気持ちも理解できるじゃないですか」

「……ししょーはいろんなことを理解できるけど、感情を出すのは共感した時だけなんだよ。ししょーは私の心を理解して泣いた。泣けたんだよ」

ああ、それだけのことなんですよね。ウルフェちゃんが言葉にしてくれたおかげでスッキリと理解できました。ご友人は理解行動を行う際『理解はすれど、共感はするな』と語っていたことがありました。敵となった者にはそこにどのような物語があったとしても、決して共感を持たないように。

ですがご友人にも過去があり、感情があるのですから理解した相手の在り方に共感してしまうこともあるのでしょう。

ご友人もこの世界に来る前は人との関わりで嫌な思い出があった。ご友人の心も擦り切れていたからこそ、ウルフェちゃんの悲惨な境遇を理解するだけではなく共感できてしまった。

トリンで出会った一人称が『僕』のご友人も、擦り切れていた心が生み出した存在のようなものですからな。それでもダメだったからと、ご友人は人との関わりを最小限に抑えて生きていた……。

「……」

「ウルフェはあの村にいる全ての人が怖かった。強くなった今でさえも、ちょっと怖い。ししょーに見えている光景は、昔も今も変わっていないんだよ」

ご友人は臆病な性格ですが、熱を持ち勇気を振るうことができます。私達はその姿をいつも見てきましたが……確かに見過ぎな気もします。本当に臆病な人間が、そんなに何度も勇気を振るい続けて、平気なのかと。

「うーん。そうですね。尚書様は面倒見が良すぎますから。散々甘えちゃっている私が言うのもなんですけど、もっと自堕落に甘えて欲しいですよね」

「うん……。ウルフェにならいくらでも、好きなだけ甘えてくれて良いのに……」

「まああの人を止められるのなんて、イリアスさんのような我の強さがなければ難しいですから。私達は少しでも尚書様が楽になるように頑張るしかないですよ」

おお、あのラクラ殿が頑張るしかないとか言いますか!これはエクドイク殿が聞いたらガッツポーズを取りそうなくらい前向きな発言です!

……でもそうですね。誰かの為に尽力するご友人を止めることはそう簡単なことではありません。だって、そんなご友人の姿に私は心を奪われているのですから。

「ラクラは凄いと思う。ししょーに甘えてばかりなのに、ししょーはラクラと一緒だとすぐに力が抜けてる」

「私は甘えることにかけては才能あると自負していますからね!」

「うん。自堕落の天才だと思う」

「うーん。地味に言葉が胸に突き刺さるー」

「……でも、いてくれて良かったって思う……むぐ」

ラクラ殿がウルフェちゃんを抱きしめているようですな。これ以上耳を立てるのもあれですし、私もできることを考えていくとしましょうか。

「ムールシュト、ムールシュト。起きてる?」

耳に響く心地の良い音色。これが他の王子達の声ならばそうはいかないだろう。これだけでも僕が他の王族の配下よりも恵まれていると断言できる程の良い目覚めだ。

「ええ、仮眠を取っておりましたが、貴方の声ならばすぐに目覚められますよ」

急に起き上がるとそれだけで今日一日の体調が悪くなる錯覚を覚えることにもなりかねない。声だけはしっかりと返事をして、体の方はほぐすようにゆっくりと伸ばす。

目を開き、側に立て掛けていた剣を腰へと付け直す。ヒルメラ様も僕が今支度をしていると分かっているのか、無理に急かすような真似はしない。まあワシェクト様がせっかちな女性は殿方に嫌われるからと、至言を与えてくださったのが一番の要因ではあるのだろうけども。

ヒルメラ様の寝室への扉を開くと、そこにはいつものようにベッドの上に設置された無数の石像に囲まれたヒルメラ様の姿がある。ワシェクト様ももう少しさわり心地の良いぬいぐるみとかをお土産に持参してくれれば良いのにと思うことはよくあること。

「何か御用ですか?」

「あら、用事がなければ呼んじゃダメなの?」

「問題ありませんとも。用もないのに貴重な睡眠時間を無駄に削られたことに対する不満は持ちますが」

「意地悪」

枕を投げつけられたので、それを顔で受け止めつつ元の場所へと戻す。そのうち石像でも投げてくるかなと思いつつも、そんな日は今日も訪れなかった。

「それで、外出ですか?」

「ううん。貴方に少しお使いを頼みたいの。御使い様の様子を探って欲しいの」

「御使い様って、ユグラの星の民のことですか。なんでまた」

「今日御使い様がヌーフサの所に行ったって報告があったの」

「ヒルメラ様、ヒルメラ様。きちんとヌーフサ王子にもですね、はい」

どこで耳を立てられているかもしれないのだから、例え嫌っていても最低限の節度は持って欲しいところ。まあこの部屋なら問題はないのだけれど、それが外でボロを出す切っ掛けにならないとも限らない。

「この部屋でくらい好きに喋らせてよ。あんな引き篭もりの根暗人間なんて兄だって思いたくもないわ」

「政に対する姿勢だけは立派なのですから、それくらいの譲歩はあっても良いかと」

「チサンテやユミェスに比べればマシなだけじゃない」

「ヒルメラ様、ヒルメラ様。ですからね?やれやれ……ユグラの星の民だって御使い様って言っているじゃないですか」

「御使い様はいいのよ。あの人はお兄様が大丈夫だって太鼓判を押したのだから」

その理論ならワシェクト様に信用しても良いと言われた僕にだって様を付けても良いのではないか?言われたら言われたで鳥肌だけども。

「まあ僕からすればどうでも良いですが」

「でしょうね」

「でも教育係からネチネチ言われたくないんですよ」

「言われてなさいよ。私相手じゃその皮肉も抑えちゃうんだから」

そりゃあボロクソに反論して泣かせようものなら明日から屋根なしの地面で寝ることになるもの。喧嘩を売る相手くらいしっかりと見極めますとも。

「それで、御使い様の様子をですか。なんでまた僕に」

「だって他の人送り込んだら多分死ぬもの。御使い様はきっと王子達の秘密を調べようとするわ。ならヌーフサ達が取る行動なんて決まっているでしょ」

「僕だって死ぬ時は死にますよ」

「でしょうね。でも安心しなさい、貴方が死ぬ時はまだまだ先の話よ」

僕の死期を勝手に判断しないでもらいたい。人はいつ死んでもおかしくない、それこそさっきの仮眠の最中に突然僕の寿命が尽きる可能性だってあるのだから。

「それに僕には貴方を護るという使命がありましてね」

「必要ないわよ。私、風邪を引いたってことで三日くらいここから出るつもりないし」

ヒルメラ様は政に全く関わっていないから、多少のズルは許されますよね。でも人に雑用を押し付ける為に風邪て。

「運動くらいはしましょう?ほら、そこの椅子とかを持ち上げてですね」

「汗臭い時にお兄様が来たらどうするのよ!」

「ワシェクト様ほど溺愛してくださっている方ならば、汗の臭いでだって褒め称える歌を紡げますって」

「それを贈られた私は恥ずかしさと嬉しさのあまりに死ぬことになるわよ!」

死にはしないと思う。ついでにその悶える姿は見ておきたい。

ヒルメラ様の目的はおおよそ察している。だがそれと今回の任務には少々ズレがあることには本人は気づいていないのだろう。

まあワシェクト様がセレンデ王から御使い様に協力するように命じられたことが一番の理由なのだろう。魔族を倒すほどのやり手なら、ヒルメラ様が介入する意味はないと思うのだけれども。

「では適当に接触して、程々に見守る形で?」

「ううん。きっとあいつらの手の者が動くでしょ。貴方はその始末をお願い」

「……姿を見せたところを狙えってことですか」

「ええ。探す手間が省けるでしょ?しっかり殺しておいてね」

僕もあまり人を殺すことに躊躇う側じゃないけど、ヒルメラ様も大概なんだよな。死を正しく理解していないだけの世間知らずなら、そこまで気にする必要もないのだけれど……この御方は本物だ。人を殺すことの意味を、重さを理解した上で殺すことを良しとできる人種だ。

「僕がいない間、外出は決してしないでくださいね。来客に会うのも、ワシェクト様以外は避けてください」

「言われなくても分かっているわよ」

本当だろうか。このお姫様、思いつきで結構やんちゃするからなー。ま、ヒルメラ様が風邪を引いたと知れば、毎日ワシェクト様が見舞いに来るだろうから勝手な外出もないか。

「……むしろ看病してもらうことが本命で、そのついでに僕を遠ざけてません?」

「勘の良さは時として命取りになるわよ?」

「ひぇ」