軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけでどうしたものか。

「同胞に報告する内容はこれで良し、と」

ゼノッタ王に彼が王位継承までにどのような経験をしたのかを聞き出し、その内容を一言一句漏らさずに羊皮紙に書き写す作業が終わった。

今度の敵は王族の中にいる。だからこそ王族の視点が必要なのだと同胞が言っていたが、この資料がどこまで役に立つのだろうか。

それはそうと、話をしている時のゼノッタ王の嬉しそうな顔がやや気掛かりだ。内容としては兄弟間で複雑な因縁があったと感じ取れるものだったのにも関わらず、ゼノッタ王は終始笑顔だった。

「どうしたのエクドイク?」

「ゼノッタ王があのような顔で話をしていたことが気になってな」

「久々に執務以外の用事で客が来たから喜んでただけでしょ」

「そうなのか……『蒼』は賢いな」

「そんなことで褒められると逆に恥ずかしいからやめて」

俺のような来訪者でも喜ぶとは、ゼノッタ王の日常は余程過酷なのだろうか。マリトの執務などを見学したことはあったが、確かに王国の未来の為複雑な案件の行く末を考えていく難易度の高い作業ではあった。

今回の件で協力してもらったことだし、またクアマに立ち寄るようなことがあれば何かしらの差し入れでも持ち込むべきだろうか。

「次はマセッタ達を迎えに行くんでしょ?ほら、急ぐわよ」

「あ、ああ。しかしジェスタッフのところに行くのに、土産などは必要ないのか?」

「ジェスタッフにとっちゃクアマは地元でしょ。メジスで用意するのならまだしも、今更じゃない?」

「そうか……」

いつでも手に入り、馴染みのあるものではありがたみがないと言うことか。今度同胞の世界ではどのような土産が喜ばれるのか、相談してみるとしよう。

俺と『蒼』はゼノッタ王に話を聞くのと、ハークドック達を迎えに行く依頼を同胞から受けている。ラクラとメリーアは先にセレンデに戻り、そろそろ同胞と合流している頃だろう。

「クアマでの用事は済んだのか、エクドイク」

「ああ。待たせてすまないな、ベラード」

クアマ本国を出てダルアゲスティアを待機させている場所へと向かうと、ベラードがダルアゲスティアの体の上で寝転がっていた。『蒼』とは違い、ベラードは自分が人外であることを上手く隠すことができない為に待機してもらっていたのだ。

「別に、待っていたつもりはない」

「寝転がっていたのはどうしてだ?」

「ここは魔物にとって居心地の悪い空間だ。いるだけでも魔力を失うからな。無駄な体力を使わないように横になっていた」

人が魔界で生活できないのと同じで、魔物も人の世界では生活することは難しい。一応ベラードの体は『蒼』の魔力を受け入れられるように弄られている為、『蒼』と一緒に行動していれば魔力が枯渇する恐れはない。

「ダルアゲスティアから漏れる魔力も十分にありがたいものね」

「そういうことだ。この上ならば魔界で寝るのと変わりはない」

「なるほどな。ところでダルアゲスティアの方は大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。この子よりも魔力量を持つ魔物なんて、『碧』のところの規格外だけよ」

あの山のようなドラゴンか……。あの時は冷静に戦力を分析することもできないまま、ニールリャテスが現れたからな。もしも戦っていたのならば、双方無事には済まなかっただろう。

ダルアゲスティアに乗り、クアマ魔界へと移動する。かつてはクアマ魔界の魔物の侵入を防いでいた巨大な壁、それが今では関所として機能している。

「魔界に人間が堂々と行き来するような時代がくるとはな。人間を食用としてしか見ていなかった私としては信じがたい光景だ」

「こっそり食べたりするのもダメだからね?」

「必要ない。生きる為の力なら貴方から貰えば済む。舌の飢えならば、あの料理と言われた食事で十分だ」

「気に入ったのね」

ググゲグデレスタフも同胞の料理には舌鼓を打っていたからな。味覚だけは人間に近いものがあるのかもしれない。

そう考えると悪魔達は人肉などと到底食とは呼べない物ばかりを食べてきたと言うことになる。……この思考は止めておこう、気が滅入る。

「エクドイク、貴様はあの味を作れるのか?」

「あまり自信はないな。母さんやメリーアに比べれば腕は落ちる」

「……蒼の魔王様、貴方は?」

「負けたくはないと頑張っているわ」

「……エクドイク、貴様はあのメリーアという女を蒼の魔王様の傘下に加えるように尽力すべきだ」

「ちょっとっ!?」

俺が驚くよりも先に『蒼』が大きな声を出した。俺もまさかベラードの口から聖騎士を傘下に加えろと言われるとは思ってもみなかった。

「理由を聞いても良いか?」

「私の食事を用意するのに、蒼の魔王様のお手を煩わせるわけにはいかないだろう。そして貴様の務めは蒼の魔王様の護衛、私に割いている時間などないだろう」

「……一応考えてはいるのね」

「自分で料理を覚えるという発想はないのか?」

ベラードは暫く考え、手をポンと叩く。どうやら今その考えに至ったようだ。

「だが上手くいく確証もない。やはりあの女だけでも貴様のものにしておくべきだ」

「貴方、実は『紫』から入れ知恵されてないわよね?」

「……いや?何か入れ知恵があるのであれば、すぐに行動しているが」

「ベラード、人間は悪魔同士のように力で支配できる関係ではない。協力を願うことはできるが、本人の意思は尊重しなくてはならない」

ベグラギュドは力で支配し、悪魔達を物のように扱っていた。だが人間の関係は力が全てではない。そうならばイリアスがターイズの王にでもなっているだろう。同胞なんて……どこまで下になるのだろうか。

「ふむ……言い方がおかしかったか。あの女を娶れと言えば良いのか?」

「ちょぉっ!?」

「それこそメリーアの意思を尊重しなければならないことだ。ベラード、お前だって一生付き添う相手は自分で選びたいだろう?」

「貴様ならできそうな気もしたのだが……複雑だな、人間は」

俺はレイシアに人間社会のことを学び、冒険者として生計を立て、同胞達から様々なことを学んできた。それでも世間知らずであると自覚することができるほどにものを知らないのだ。ベラードに至ってはついこの前まで魔界で生き抜いていただけで、人間に関する知識はベグラギュドが与えた最低限のものしかない。これは暫く骨が折れそうだが……俺も多くの者達に世話になった立場だ、頑張るとしよう。

「……できるでしょうけど、できたら困るのよ」

「何か言ったか、『蒼』?」

「ナンデモナイワヨ」

クアマ魔界に作られた集落は、既に小さな村よりも大きなものとなっていた。大賢者バラストスの調べた魔界でしか採取できない植物や鉱石の情報が世界へと広まったことで、クアマ魔界を新たな市場の開拓地として見据えた商人や富豪達が動いたのだ。

人はいかなる言葉で夢を説いても動かすことは難しい、しかし益があるのならばそれを囁くだけで人は動いてくると同胞は言っていたが……今ならその意味がよく分かる。

「人間の手がここまで回っているとはな」

「クアマはジェスタッフが魔王と共にこの場所を開拓することを認めたからね。そりゃあ魔物の手を借りれるなら、肉体労働の大半は必要なくなるもの」

現段階で魔物の脅威がなくなったのはメジス魔界とクアマ魔界の二箇所。クアマとしても時間を掛ければ、未開拓である魔界の資源を独占することはできた。

しかしゼノッタ王はより早く楽に結果を得る道を選択した。そのついでに自国内の開拓等も勝ち取ったのだから、国としてはこれまでにない程の益を生んだ。これが賢い選択かどうかは、百年後くらいにはっきりとするだろう。

ダルアゲスティアが着陸する場所は事前に決められており、その場所へと着陸する。既にジェスタッフの配下の者が待機しており、こちらを馬車へと案内する。

「豪華な馬車に運転手付きか。まるで来賓のような気分だな」

「元々私の魔界なんだけどね」

馬車で暫く移動すると、ジェスタッフが拠点としている館へと到着した。新築であることもそうだが、建築には魔物の力も借りている為か人間の町並みで見る建物とはどこか毛色が違うように感じられる。

「あぁ!エクドイクです!スマイトスーッ!エクドイクが来ましたー!」

大きな声で俺の名を連呼しているのはコミハ、これほど声量の大きな人物だっただろうか。その声に反応してか、すぐにスマイトスとマセッタが姿を現した。

「ダルアゲスティアの姿が空に見えたから分かってたけど、本当に早かったわね。二人共わざわざ迎えに来てくれてありがとう。本当はハークドックを置いていこうって話だったのに、どうしても兄弟に合流するんだーってゴネて……」

「馬車の移動でも傷が開きかねないって、縛り付けたほうが良いんじゃない?」

「少し目を離したら屋敷の掃除とかやってるのよ……。『血も止まったんだから平気だって!』って言った瞬間に傷が開いてたわ」

マセッタは憔悴しきった顔で遠くを見ている。ハークドックは痛みに鈍いのか、負傷の身ではありえない動きができる男だからな。今回はそれが裏目に出ているのだろう。

ハークドックとの戦いを思い出していると、マントの上からコミハがしがみついてきた。自重を殆ど預けられているが、そこまでは重くない。

「エクドイク、ハークドックなんて置いて私を連れて行ってください!」

「ちょっとコミハ、エクドイクにしがみつかない。鎖ジャラジャラで痛いでしょ」

「正直に言えばちょっと痛いですが、これはこれで心地よい痛みと言いますか……」

「そうなの?じゃあ私も」

「止めなさい二人共。わざわざ火に油を注がないの」

マセッタがコミハとスマイトスを引き剥がし、ふとベラードの方へと視線を移す。そうだ、ベラードとこの三人は初対面だったな。きちんと説明しておく必要があるだろう。

「紹介がまだだったな。こっちはベラード、今後行動を共にすることになった悪魔だ」

「……そのベラードだ」

それだけでは足りないだろうと、ベラードとの経緯を簡単に説明していく。同胞はよく言葉が足りずにイリアス達に叱られているからな。俺はしっかりと説明していかなければ。

「また……増えた……?」

「だからそれ、貴方が言う?」

「誰かに言われたんですか?」

「言われたのよ」

メリーアがそんなことを言っていたような気がする。メリーアの時は確か食事の用意が増えると言っていたな。

もしかして俺達をもてなす食事でも用意していたのだろうか。飛行するダルアゲスティアの姿を目撃していたと言っていたから、その可能性は高いな。俺もなかなか推察する能力が上がってきている気がする。

「話を戻すが、コミハ。俺に同行するのは構わないが、そうなるとスマイトスはどうなる?」

「勿論一緒に連れていきます!大丈夫です、文句は言いません!」

「言うよ?そりゃあエクドイクと一緒は別に良いけど、あの男と一緒は嫌って言うよ?」

「じゃあ置いていきます!文句は聞きません!」

「聞いてよ。あんたそんな子じゃなかったでしょ?もうちょっと私と向き合って?」

魔界での生活でコミハに何かしらの変化が訪れたのだろうか。積極的になるのは悪いことではないが、長い付き合いであるスマイトスのことを考慮しない発言は少々問題があるように感じられる。

「二人が揃って来ると、ここに残された落とし子達の面倒は誰が見る?スマイトスを一人残したとしてもその負担はスマイトス一人に伸し掛かることになるだろう?」

「大丈夫です。スマイトスは強い子ですから!」

「そろそろこの毒手使っても良い?」

「どちらかと言うともっと私のことを気にかけてください!スマイトスばかりずるいです!」

「うん、使うわ。毒手使うわ」

怒気はあるが、敵意や殺気は感じられない。ギリスタとパーシュロの会話が脳裏にチラついた。あの二人も口は悪かったが、互いに認めあってはいたからな。

「人手については同胞に相談しておこう。コミハを呼ぶことになった場合は、世話を見る人材を手配しなければならないからな」

「むぅー。わかりました……色好い返事を待ってます……」

「あの男が私を呼ぶことになっても、私は断固拒否するよ。……まあ、あの男抜きであんたと一緒に行動するなら考えてやらないでもないよ」

「そんな半端なスマイトスなんて必要ないです。私一人入ればエクドイクのサポートは十分です!」

「よぉし、コミハ表に出ろ!」

「もう表です!」

なんだか二人が模擬戦を始めたが……まあ殺意も何も感じないのであれば、いい運動にはなるだろう。そんなコミハ達の様子を『蒼』とマセッタは疲れた様子で見ていた。

「蒼の魔王さんは止めないんですね」

「メリーアと比べると、大分安心できるというか……ね」

「やっぱり強そうですものね、あの子」

「うん?マセッタ。メリーアは聖騎士ではあるが、実力で言えばコミハやスマイトスの方が上ではないか?」

俺を見るマセッタの表情がなんとも言えない複雑な顔をしていた。機嫌を損ねたわけではないようだが、こう、どうしたものかと言わんばかりの表情だった。