作品タイトル不明
そんなわけで四面楚歌。
リティアルが見舞いに来てから数日後、彼の怪我の回復も悪くない状態にまで落ち着いた。なので今日はワシェクト王子が主催する食事会に呼ばれることとなった。
ネクトハール討伐の礼や親交を深めるなど前置きは色々とあるが、一番の目的は王子達との顔合わせである。ここでしっかりと誰が敵なのかを見極め、今後の対策を練りたいところではあるのだが……。
「あまり気を張り詰めるなよ、イリアス。警戒されちゃ相手の素を見極めるのが難しくなるんだからな」
「む、うむ……」
彼はワシェクト王子の用意した礼服に着替えている。服装一つまともになるだけでも、感じる印象はガラリと変わる。ただミクス様が恍惚の表情で見ているが、そこまでではないと思う。
「むう、ウルフェも行きたかったです……」
「獣系の亜人向けの服がなかったのがなぁ。ターイズならサイラにでもお願いできたんだが」
セレンデは亜人の多い国ではあるがそこに獣系の亜人はほとんどおらず、エルフやドワーフといった非獣系の亜人で占められている。尻尾のあるウルフェが着れる服がまるでないわけではないのだが、格式高い場所に相応しい礼服ともなるとそうはいかない。
「いっそウルフェちゃんにラッツェル卿の鎧を着せ、ラッツェル卿はドレスを着ては?」
「身長差を考えろよ、ミクス。外側の鎧はともかく内側の方は一回りサイズが違うぞ」
彼が否定してくれて良かった。ウルフェなら彼と一緒にいけるのならばと着る選択をしただろうし、ミクス様の性格だと本当に私にドレスを着せてくるだろう。ターイズの食事会の時にもドレスは着たが、剣を装備した状態で動く場合少しでも引っかかればドレスが破けそうで困るのだ。やはりヒラヒラした服は戦闘に向いてない。
「ウルフェは外で待機してます……。何かあったら適当に大きな音でも出してください」
「そういうことが起こらないことを祈らなきゃな」
彼の護衛は私とミクス様。ミクス様は見た目麗しいドレス姿に着替えているものの、歩いた時に服の内側から金属同士が擦れる音が聞こえた。恐らくは暗器を大量に仕込んでいるのだろう。ターイズ王家の方の装備としては複雑な気分にはなるのだが、今のミクス様は彼の護衛を最優先としている。素直に頼もしいと割り切ろう。
案内された館へと入ると同時に、多くの参加者の視線が私達へと向けられる。人間としての参加者もそうだが、黒い髪と瞳はどうしても悪目立ちしてしまうのだろう。それでも彼は動じる様子もなく、周囲を眺めつつワシェクト王子の姿を発見したようだ。
「王族主催とは言え、随分と多いな」
「他の王子達にも貴族達との付き合いはある。こうしたついでくらい用意しなければ王子達を一同に集めるのは骨が折れるのでな」
「ついでにその協力者にも見当をつけろってことか。ありがたいこって」
ネクトハールに遺跡の情報を提供したのは王族の誰か。だが物資の協力などは王子達自らが行ったわけではなく、息のかかった貴族が行っていると考えられる。この場にその人物がいるのであれば、彼にとっては好都合なのだろう。
これらのことを見越して手配を行ってくれているワシェクト王子、味方としては非常に頼りになるのだが……まだ彼が完全に味方であるという確証はない。その判断が付けられない私としては、どうしても身構えてしまうのだ。
「暫くは貴公を適当に紹介して回ろう。頃合いを見て他の王子を紹介するとしよう」
「ああ、助かる。だけど良いのか?ヒルメラがこっちを見てたが」
「良くはない。良くはないさ。だが貴公を一人にしてしまえば、ユミェスに連れ出されかねん。それでは他の王子に合わせることができんのでな」
連れ出されかねんって……。ユミェス王女は一体どのような女性なのだ?彼が女性に誑かされるようなことはないとは思うが……いやどうだろうな。
「王女にお持ち帰りされるってのは悪い話じゃないんだがな」
「ご友人、私がお持ち帰りしても良いのですぞ」
「はい、すみません」
流石のミクス様も彼の軽薄な発言には怒ることもあるようだ。私としてもその逢引に付いていかなければならないので遠慮してほしいところである。
まずはセレンデで有力な者、土地を管理している貴族や流通に関わっている商人などを紹介された。探りを入れつつ、ターイズとの商いをより活発化させようと振る舞っているのは流石である。
「どうですかな、ご友人」
「臭いはしないな。仮に今まで紹介された商人のいずれかが関与していたとしても、相手が魔族だとかは知らされてはおらずに淡々と依頼をこなしただけって感じだ」
「隠し事をしている様子はないと?いくらなんでもそれはないだろう」
「言われなくても分かってるさ、ワシェクト。商人は守秘義務を守る連中だ。土地を管理する貴族だって秘密の一つや二つ握り締めているもんだ。ただその秘密をこちら側に漏らしてなるものかと身構えている様子はなかった」
「秘密を抱えていることは嗅ぎ取ったのですな……」
臭いと言われても、誰も彼もが香水の匂いしかしないのだが。そういう意味でないことくらいは分かるが、それくらいしか感想がでないのだ。
「ただ四番目に紹介された貴族だが、今回の件とは別に調べは入れておいた方が良さそうだな」
「ほう、それは何故だ?」
「こちらが視線を逸している間にイリアスやミクスに対して値踏みをしていた。商品になりそうだって感じでな。手慣れてる印象だし、人間の娼婦の売買辺りに関わっているんじゃないか?」
確かに視線は感じていたが、その意図までは読み取れていなかった。彼が言うには経験則らしいのだが、そんな連中を見慣れるような場所にいたということでもある。彼の出自は聞いているが、詳しくは話したがらない。気になるには気になるが、怖いもの見たさなのだろうか。
「今度折を見て調べておくとしよう」
「それと七番目の商人、恩を売っておきたいなら適当な用事を作って早めに帰らせてやってくれ。理由までは分からないが、多分家に何かしらの気がかりを残している。家族が病気か身重で出産間近なんじゃないか?」
「……手配しよう」
今言えることは、彼は絶好調であるということだ。あの眼ではないにしても、相手を分析する精度が極めて高い。敵を探しているのだから集中しているのは当然なのだろうが、それにしてもだ。
「絶好調ですな、ご友人」
「いきなり襲われるような状況じゃなけりゃ、観察することに専念できるからな。ミクス、仕込んだ武器が擦れて気になるならトイレかどこかで直してきたらどうだ?」
「……ははは。それでは少々お花摘みに……」
太ももの内側でちょくちょく音が聞こえていたが、やはり位置が悪かったのだろうか。ミクス様はやや赤い顔でその場を離れた。
今の彼はミクス様や私の方にも意識が回っている。いや、これはワシェクト王子の観察も兼ねているからなのだろう。それこそ武芸の達人にも引けを取らないほどに神経を尖らせている。それを上手く隠しており、普段の彼を知っていなければ気づかないくらいだ。だがこれほどまで淡々としている姿は、まるで以前によく見た……。
ミクス様が戻ってから再び貴族や商人との対談を進めていると、ひときわ艶っぽいエルフの女性が姿を現した。その風格から間違いなく、王族の誰かなのだろうと直感する。
「あらー、ワシェクト。その方って、そうよね?そうなのよね?」
「……紹介しよう。第一王女、ユミェス王女だ。ユミェス姉さん、こちらがそのユグラの星の民だ」
きらびやかな格好もそうだが、それ以上に大物が纏っているような独特の雰囲気が肌を圧迫してくる。自身が王族であることを強く自負し、それを隠そうとしていない。それでいて自我も強く押し出している……と彼のように分析をしてみた。
「思った以上に若々しい子なのね?目つきは悪いけど愛らしい顔ね?お名前は?この後のご予定は?」
「名前は諸事情で明かせませんが、年はこれくらいですよ」
彼はぐいぐいと距離を詰めて迫るユミェス王女に対し、少しだけ戸惑っているかのような様子を見せつつも、指で自分の年齢を示してみせた。
「あらー?エルフとの混血……じゃないわよね?少しも特徴が現れないのはおかしいもの。でも十分に大人なのね、ならそこまでリードしなくても良いってことかしら?」
「ユミェス姉さん。王族として盛んなのは悪いとは言わないが、せめて弟の目に映らないところでお願いしたい」
「異性に対し、公の場で積極的にアプローチすることは悪いことではないのよ?誰が王族の寵愛を受ける人物なのか、それを知らしめることで下の者達は身の振り方を選ぶの」
「熟知しています。姉弟として食欲の失せる光景は控えてほしいと言っているのです」
ワシェクト王子の言葉にはところどころ毒が混じっているが、そんなことはお構いなしにユミェス王女は彼の腕に抱きつきながら絡んでいる。多少酒の臭いはするが、酔っ払っているのとは少し感じが違う。どちらかといえば自分に酔っていると言うべきか。
「私の密偵の一人を見つけ出したそうね。そのまま自由にさせるなんて懐が深いのか、それとも……用心が足りないのかしら?」
「ちょくちょく周囲の人間が顔代わりするのが嫌なだけですよ。それに自分の腰を痛めてまで近づこうとした人がただクビになるのは哀れだ」
「知られて困ることはないってことかしら。良いわね、もっと貴方のことを教えてくれないかしら?」
「今の案件が片付いたのなら、その時にでも」
ミクス様がやや膨れっ面なのはさておき、彼はユミェス王女の色気に揺れている様子はない。紫の魔王と比べればずっとマシではあるのだろう……それもどうなんだ。
「私達王子の中の誰が、魔族と内通していたか……だったわね?私でできる範囲でならいくらでも手伝ってあげるわよ!だって、そうすれば一人王座を競う相手が減るものね?」
「ユミェス姉さん。そこで私を見るのは自由ですが、客観的視点で見れば私よりユミェス姉さんの方が怪しいと思うのですがね」
「あらー?誰よりも遺跡に詳しいワシェクト王子?貴方なら遺跡の書類を盗み出さなくても情報のやり取りくらい可能よね?」
そこは彼も気にしていた点だ。王族くらいしか自由に閲覧できない各遺跡の資料だが、ことワシェクト王子だけはその資料を必要とせずに、ネクトハールに遺跡の情報を提供できるのだ。明確な証拠が見つからない場合、最も可能性が高いのがワシェクト王子となりうる。
「可能ですね。ですが私ならもう少し隠れ蓑として有益な遺跡を提示できた。わざわざセレンデ本国の直ぐ側の遺跡を紹介するはずもありません」
「そんなこと、どの王子だって一緒じゃない?お父様に気取られることを恐れない王子はいないわよ。反論としては下の下ね」
「それは何より。向上心を持って挑めるというものです」
もしも陛下とミクス様がこのような会話をしていたら、ターイズの騎士達は皆ハラハラしてしまっていただろう。だがこの二人にとってはこのやりとりが普通なようで、怒気を含む様子はない。強いて言えばその間に挟まれている彼の辟易としている表情がちょっと良い感じだ。
「小言の多いワシェクトが側にいたら、ムードもへったくれもないわね。それじゃあユグラの星の君、また逢いましょう?」
ユミェス王女は彼の頬を軽く撫でると、艶美な笑みを浮かべながら去っていった。彼女がいなくなっただけで周囲の温度がいくらか下がったようにすら感じる。
「ユグラの星の君、か。面倒な女の目に留まってしまったようだな」
「ワシェクトの小言がありがたみを増すな」
「今日の為に喉の調子を整えておいたからな。感謝すると良い」
そして暫く貴族や商人への挨拶を進めていくと、ワシェクト王子が部屋の隅に誰かを見つけたらしく私達を案内した。
そこにいたのは一人の男性。独特の雰囲気があり、その肌がユミェス王女よりも白い。いや、これは白いというより青白いと表現すべきなのだろう。まるで長いこと陽の光を浴びていないかのような感じだ。
「こちらが第一王子、ヌーフサ王子。ヌーフサ兄さん、こちらがユグラの星の民」
「……多少顔色を伺うのが上手そうなだけで、他は凡夫だな」
「顔色を伺う方も凡夫だけどな。運は良い方だぞ」
先程のユミェス王女とは違い、ヌーフサ王子はじっとりとした視線を彼に向けている。王族として気品のある姿を見せようとはしておらず、ただ純粋な我を通している印象だ。これが第一王子……?まだワシェクト王子の方が王子らしいが。
「ワシェクト、顔見せは済んだ。もう帰っても構わないな?まったく、こんな場で紹介せずとも、自分の部屋に連れてくれば良いだろうに」
「ヌーフサ兄さんはいつも居留守を決め込むだろう。客人を連れて部屋の前に張り込むのは気が引ける」
「ふん……。だがまあ、確かに珍しい見た目ではある。黒い髪に黒い瞳……まるで伝承に聞く黒の魔王じゃないか。ここまで不吉な人相が担ぎ上げられているとはな」
ユミェス王女には愛想があったが、ヌーフサ王子にはそれが微塵も感じられない。礼を欠いた人物だとは聞いているが、ここまでとは……。しかし彼は嫌な顔を見せる素振りはなく、むしろユミェス王女よりも楽な様子で接している。
「目つきの悪さは指摘しないのな」
「自分と大して変わらないだろう。自分に言葉の刃を突き立てるつもりはない。問題を起こすのは自由だが、対応に追われるのはこっちなんだ。後始末が楽になるように動くことだ」
「問題は起こしても良いのか」
「ユミェスにしろ、チサンテにしろ、そこのワシェクトにしろ、証拠を押さえた程度で素直に反省する連中は王族の中にはいないからな。個人的にはユミェス辺りに引導を渡してもらえると助かる。あいつが顔を見せに来る都度に、香水臭さを取り除くための換気をしないといけなくなる。その度に窓を開く手が日に焼けるんだ」
彼にだけ素っ気ない態度を取っているわけではなく、誰にでもそうなのだろうか。ユミェス王女について愚痴っている様子も本心から言っているように思える。
「いっそ地下にでも住めば良いだろうに」
「そんなことをしてみろ。工事の事故を装って、チサンテやワシェクトに沈められるだけだ。チサンテは生き埋め、ワシェクトは水責め辺りか」
「ヌーフサ兄さんを亡き者にしようとする前提なら、確かにその選択は選びそうですね。ですが私は遺跡にかまけていたいのでね」
「遺跡馬鹿め。そんなだからいつまでもチサンテの雑用ばかり押し付けられるんだ。……ち、噂をすれば喧しいのが来たか」
ヌーフサ王子が視線を向けた先に、こちら側に歩いてくる男性の姿がある。周囲には数名の護衛らしき人物がいて、当の本人も礼服ではあるが腰に剣を携えている。
歩き方からして、日常的に鎧を着ている人物なのだろう。体の作りも周辺の者達に比べれば随分と逞しい。
「おー!ヌーフサ兄さんにワシェクトではないか!ヌーフサ兄さんがこんな場所にいるのは珍しい。ワシェクトにでも呼び出されたか、ダハハッ!」
「想像の通り、第二王子のチサンテ王子だ。チサンテ兄さん、こちらが例のアレです」
もはやまともに紹介する気すらなくなっていないか、この王子。
チサンテ王子の王族としての威圧感はユミェス王女にも負けておらず、近くにいるだけでも何かしらの圧力を感じる。豪快な笑みが似合いそうな御仁ではあるが、それだけではないだろう。
「ああ、例のアレか!随分と細いではないか!もっと鍛えた方が良いぞ!力は何でも解決してはくれんが、色々と無理を可能とさせてくれるからな!」
「この筋肉馬鹿に付き合ってたら頭まで筋肉になるぞ。自分はもう役目は果たした。帰る」
「む、せっかくヌーフサ兄さんと酒を飲み交わす機会と思ったが、やはりこの様な場では興が乗らぬか」
「蝋燭の火が静かに揺れる個室が好みだが、お前がいては蝋燭の火すら騒がしく感じる。場所と日付を違えて飲むのであれば付き合ってやる」
それはもう一緒に飲むとは言わないのではないか。いや、ヌーフサ王子なりの冗談なのだろうが……冗談なのか?
ヌーフサ王子はそのまま去っていく。ユミェス王女の時もそうだったが、王子達が移動する時に合わせて移動する者達が数名見受けられた。あれが彼らの護衛なのだろう。チサンテ王子のように堂々と近くに侍らせてはいないものの、王子としての用心はしっかりとしてあるようだ。
「あいも変わらず、ヌーフサ兄さんは詩人だな!ユグラの星の民よ、君も同じ口かな?」
「詩はあまり嗜んでないかなぁ」
「ダハハッ!どうせ他の王子達はまともに礼も言っておらんのだろう?魔族討伐の件、この場を借りてセレンデの代表として礼を言わせてもらおう」
「父上の立場を無視して代表とは強気ですね、チサンテ兄さん」
「どうせ父上が分かりやすい礼を言うはずもなかろう。礼とはズバっと相手の耳に届けねば意味がないのだぞ!」
上半身裸で鍛錬をしていたターイズの騎士達が側にいても、これほど暑苦しいと感じたことはなかったな。しかし吹き付けてくる熱風のような性格、裏表があるようには感じないのだが……このような人物が極秘裏に魔族と手を組むような真似をするだろうか?
「礼ならヒルメラ王女から既に。この場ではなく今滞在している場所でですがね」
「ほう、ヒルメラがか!大方ワシェクトに紹介されたついでなのだろうが、ワシェクトの教育はしっかりと行き届いているようだな!ダハハッ!」
チサンテ王子は彼の肩を抱きながら笑う。ユミェス王女に負けないくらい距離感が近いが、その力強さにより彼の体が浮きかけている。護衛として動くべきか悩んだが、敵意はないのでここは少しだけ様子をみよう。
「時に、魔族に協力していた人物の見当はついたかな?癖の強い者達だ。中々尻尾は出さんだろう?」
「チサンテ王子を含めて、そうですね」
「ダハハッ!俺はまだ分かりやすいと自負しているのだがな!だがまあ、その目ならば期待は持てそうだ。せいぜい余計な問題を引き当てることなく見極めると良い!」
自分も疑われているというのに、チサンテ王子は意に介さない様子で笑い続けている。無関係だからこそ笑っていられるのか、それとも余程の自信があるからなのか……それは私には判断が付けられなかった。
チサンテ王子が去った後は特にこれといった出来事もなく、食事会は無事に終了した。ワシェクト王子は一口も食事を喉に通してはいなかったが、この後ヒルメラ王女と一緒に食事に行くとのこと。仲の悪そうな王子達だが、この二人の仲の良さだけは純粋な気持ちで見守りたいとも思えた。
外で待機していたウルフェと合流し、帰路へと着いたが彼は無言で歩き続けている。今日出会った王子達との記憶を頭の中で繰り返して分析を進めているのだろう。私達もその邪魔をしまいと、小さな声で話していた。
「しかしなんとも……あくが強い方々でしたな」
「そう……ですね……。ですがヌーフサ王子以外は皆、彼に対しては親密な印象を受けました。他の王子の協力も得られれば、今回の件は早期に決着するかと」
「ねぇ、イリアス。そのヌーフサ王子って人、ししょーにとても酷い事を言ってたの?」
「多少は失礼な物言いだったが、彼が気にするほどではないと思うぞ。どうかしたのか?」
ウルフェの視線は彼へと向けられており、その表情はやや険しい。心配と恐れが入り混じっているかのような、そんな顔だ。
「ししょー、凄く不機嫌。多分怒ってる」
「なんと……。ラッツェル卿、出番ですぞ!」
ミクス様に背中を押され、彼の近くへと。まあミクス様に言われずとも、気になったので尋ねるつもりではあったのだが。
言われてみればいつもの彼とは少し何かが違うように感じる。ほんの些細な違い、亜人であるウルフェの感覚でようやくそうであると感じ取れる程度のものだ。
「どうした。何か不満な点があったのか?」
「ん?ああ。ヒルメラ王女と最初にあった時から一筋縄ではいかないと思っていたけど、他の王子達もやっぱりなって感じだ」
「そうか……。私からすれば、確かに何か奥がありそうな印象は受けたが……。ウルフェが言っていた。君が怒っていると」
「怒って……まあ近い感情は抱いているかもな。あれだけ敵意を向けられるとな……」
敵意。今日出会った三人の王子達の何れかが向けていた?考えられるのはヌーフサ王子だが、悪態こそつかれてはいたものの敵意と呼べる程ではなかったはずだ。
「ヌーフサ王子か?」
「いや、全員だ。ヌーフサ王子、チサンテ王子、ユミェス王女、三人揃って『俺』を邪魔者として敵視してやがった」