作品タイトル不明
そんなわけで会えなかった。
ワシェクト王子達が帰った後、ご友人は私に過去の話を聞かせて欲しいとお願いをしてこられました。先程の様子からして、王位を競い合う者達に対する意識などを知りたいのでしょう。
私自身に興味を持ってもらえるのであれば、喜びつつ茶化しつつの楽しい一時になるのでしょうが……どうも冗談を挟んで良い感じではなさそうです。
「真面目な話ではあるが、そう気負わなくていいぞ。ターイズの場合、マリトが一強過ぎたって感じだからな。一時期対抗心を燃やしていたと言っても、成長した頃にはもうミクスは一歩引いていた位置にいたんだろ?」
「ええ、まあ……。母上や、その取り巻き達は多少の未練は残していましたが……」
私が兄様に負けないようにと自分を磨いてきたのは、最初こそ競争心でしたが途中からは妹として恥じたくない一心からでした。ですがその努力のせいで、母上達は私にターイズの王位を目指せる資質があると期待を持ってしまったのです。
兄様と王位を争いたくないと思った私はターイズを離れ、冒険者として生きていくことにしました。ターイズを遠く離れても、兄様に恥じない妹である為の努力を続けていく内に、気づいたら物騒な二つ名まで貰うことに……。
「当時の母上は私の判断に、とても失望しておられました。ですが時が経ったことで、その問題は解消されましたな。兄様が実際に国を治めてからは、その才がはっきりとわかりましたので」
「あの若さで賢王とか呼ばれるほどだしな。熱が入っていた王妃様も冷静になっちゃったか」
「今は文通程度ではありますが、交流もありますな。いずれはご友人も紹介するつもりとは伝えてありますが、まずはもう少し仲良くなってからでしょうかな」
母上もご友人のことは耳に届いているでしょうし、悪い印象は持たれてはいないでしょう。ただご友人を利用して私に王位を再び……なんて考えを持ったりしたりと思うと気が引けるのです。
「ミクスの父親、先代のターイズ王の時の話とかは聞いたことあるのか?」
「父上の時は順当に長男である父上が継ぐ結果になったそうですぞ」
「ふーむ。そうなるとセレンデとはちょっと違いが大き過ぎるか……」
悪いことを考えている顔も好きですが、真面目に考えを巡らせている姿もなかなかに捨てがたいですな。どうにかこっそり写真を撮れないものか……流石に鈍感が過ぎるご友人でも私が堂々とカメラを構えては気づかれますよね。もっとこう、小型化して衣服とか鞄などに仕込めるようにできれば……。
「ししょー。ゼノッタ王はどうですか?」
「そうですな。他の大国の中ではクアマが最もセレンデに近い感じではあるかもしれませんな」
ぽっと出の金の魔王殿へと王位が継がれたガーネ、ユグラ教の法王が実質的な権力を持つメジス、亜人の民によって担ぎ上げられた人間の王が君臨するトリン、これらの国は王子達による王位争いとはほぼ無縁と言っても良いでしょう。
「そっちはもうエクドイクに向かってもらうように伝えてある。本当ならマセッタさん辺りが適任なんだが……まあ、メジス側の監視って立場もあるからな」
「おや、手早いことで」
「王族経験なんて皆無だからな。深度を下げる為にも少しでも多くの経験を耳にして、『そういうもの』って感覚を取り入れておきたいんだ」
「客観的事実から推察する第二段階の理解には多くの情報が必要なのでしょうな」
「第三段階を使う場合でも必要なんだけどな。ほとんど何も知らない相手にやると、かなーり時間掛かるし」
ラッツェル卿の視線がやや気になりますが、それを強要するつもりはないのでご安心を。私としてもご友人にアレを何度も使われるのは気分的によろしくないので。ガーネでアレを疑似体験した者達からすれば、本当に洒落にならない所作ですからな。
「ご友人が第二段階の範疇で問題を解決できるよう、情報を集めることが当面の課題となるわけですな」
「今回は制限時間とかがあるわけじゃないからな。せいぜいマリトが寂しがる期間が伸びる程度だろ」
「兄様を寂しがらせるのはどうかと思いますが……」
懸念すべきは藪をつついてからの相手の出方。魔族に手を貸していた事実を探られる側とすれば、ご友人の踏み込む行為は目障りでしかないでしょう。相手が動き出してからは迅速な解決が求められることになるでしょうから、その時までの備えを万全にしなくてはなりませんな。
「それはそうと、三人はヒルメラの護衛、ムールシュトって奴には気づいてたんだろ?」
「ええ、まあ。部屋の外からアレだけこちらの方に意識を向けられていれば、嫌でも気づきますぞ」
戦う技術のないご友人は終始気づいていなかったようですが、あの時はいつ飛び込んできてもおかしくないほどの圧力がありましたからな。私達がヒルメラ王女に粗相を働かないようにと、威圧していたともとれます。
「かなり強い人だと思います。でも、ウルフェは負けません!」
「ウルフェちゃんなら問題はなさそうですな。私の方は少々気をつけたいと思いましたが」
「腕利きの冒険者に負けず劣らずって、結構な強さじゃないか。ヒルメラの護衛にそのレベルってことは、他の王子達の身の回りにも結構な手練がいるって考えた方がいいな」
正直なところ、アークリアル殿相手に負けなかったラッツェル卿がいる時点でこちらの戦力が劣ることはないと思うのですが……まあ慎重になってくださるのはありがたいことではありますが。
いくらラッツェル卿やウルフェちゃんが人として最強の頂にいる存在でも、この二人は護衛としての経歴は短いですからな。かくいう私も護衛の専門家ではありませんし。
「動くにしても、まずは傷をしっかりと治してからですな。遺跡帰りの馬車を降りた時、少しだけ顔をしかめていたのを見逃してはおりませんぞ!」
「三人に見逃されなかったことなら自覚してるさ。なにより諜報役としてはエクドイクやデュヴレオリ辺りがいないと心細いしな。ここで頭を回す程度に留めるさ」
そこは私も頼ってほしいところではありますが、ターイズの王族が他国の王族の身辺で諜報活動するわけにもいきませんからな。籍でも入れてターイズの名前を捨てれば……うーん、この話題はちょっとご友人好みではなさそうですな。
「街で聞ける程度でしたら、私でも情報収集はできますからな。もっと頼っていただいて構いませんぞ!」
「欲を言えば果物好きな事情通辺りを見つけておいて欲しいところだ」
「ヨクス殿のところに報告に来る騎士、あの辺りが狙い目ですな」
既に自分達で消費しようとすら思わなくなった果物の山。こちらも当面の問題になりそうですな。
「世界規模の問題を解決しておきながら、こんな問題に躓いているとはね。少しくらいならば、貰っていっても良いのだが」
「――ッ、リティアル!?」
ラッツェル卿、ウルフェちゃんと共にご友人の前へと飛び出し、武器を構える。目の前にいるのは間違いなくこれまでの最大の脅威、リティアル=ゼントリーその人。その横にはモラリの姿もある。
「ん、お見舞いに来てくれたのか?果物は持ってきてないだろうな?」
「この現状を知っていれば、山程持ち込む計画も考えたのだがね。残念ながら手ぶらだ」
「流石の『真眼』も予想できなかったか」
「何が悲しくて果物に埋もれる宿敵を予測しないといけないんだ」
ご友人曰く、そう遠くない内に接触してくるとの話でしたが……まさかこんな昼間から堂々と現れるとは……。隠密能力に長けたツドァリがいるのであれば、問題はないのでしょうが……なんともはや。
ご友人が気の抜けた会話をしていることで、ラッツェル卿やウルフェちゃんの警戒心はある程度落ち着いてきていますが、落ち着いていられない方が一名おられますな。
「貴様……よくもこのような場所に顔を出せたな!」
「ヨクス。その体で無理をするものじゃない。手負いの君を相手に捕まるようなヘマはしないし、そうなれば折角の情報を得る機会も失われる。それくらい分かるだろう?」
ヨクス殿は側に置いてあった剣に手を掛けているも、リリサ殿が横で抑えております。万全の状態ならばまだしも、傷の癒えていないヨクス殿ではリティアルの相手は流石に分が悪いですからな。
「試してみるか」
「試さないとも。挑発的に返したのは私の落ち度だが、君も落ち着くことだ。ユグラの星の民、君も果物を籠に入れてないで、ヨクスを宥めて貰えないかな?」
ご友人……。一触即発の空気の中だと言うのに、空気を読む気がまるでないですな。二人が殺し合うことよりも、少しでも多く籠に果物を押し込もうと躍起になっておられます……。
「別に。あんたが勝手にメジスの聖騎士とやり合う分には勝手にやってくれって感じだしな。どうせこっちが欲しい情報は持ってないんだろ?」
「セレンデにいる誰が我々に遺跡の情報を与えたか、かな?確かにそのことについて私が語れることはない。このセレンデに我々の拠点を用意したのはラーハイトだったからね。しかも――」
「協力者は自分の素性を明かすような真似をしなかった。分かるのはセレンデ国内における有力者であるということだけ、だろ?よくもまあそんな相手を信用して拠点を設けたもんだ」
「もしもセレンデの罠だったとして、その場合はラーハイトの死霊術を利用して混乱を引き起こしつつ逃亡を行う算段だったからね」
セレンデにいる協力者はラーハイトだけが知っていた。しかしそのラーハイトは既に死んでしまっています。蒼の魔王殿の力で魂を呼び戻すことは可能かもしれませんが、ラーハイトの落とし子の才能を考えれば避けたいところです。
「でも分析してないわけじゃないんだろ?」
「物資を運んでいた商人やら、片手間に足取りは追っていたのだがね。私なりに探りを入れていたところ、ラーハイトに釘を刺されてしまったのさ。協力者は下手に刺激すれば危険な相手だ、貴方は関わるなとね」
中核を担っていたはずのリティアルでさえ知らないというのは、正直信じられないのですが……リリサさんの態度を見る限り、リティアルの言葉に嘘はないようです。
「あんたはモルガナのギルドマスターとして活動していたわけだし、セレンデの方はネクトハールやラーハイト辺りが管理してたんだろ。そんな予感はしてたさ」
「まるで情報がなかったというわけではないがね。だが私の野望を打ち砕いてくれた君に協力する義理もない」
「それだけ聞けりゃ十分だ。それで、今日来たのは今後のあんたらの立ち位置についてだろ?」
「そうだ。私は当面の間、蘇生魔法に手を出すことを止める。ただし、本来の目的は変わらずに果たすつもりだ」
リティアルの目的、それは特異な才能を持つユグラの落とし子の存在を世界に周知させた上で、彼らが迫害されることを避けること。蘇生魔法に手を出した理由は、人間に対する脅威を生み出し落とし子の存在を世界にとって必要なものとする為……。
「『俺』にその目的を手伝えってことか」
「強制はしないとも。これは私の寿命が許す範囲内でその目処を付けるつもりだ。他に方法がないと判断した場合、私は従来の方法を用いて世界を変える」
「そりゃま素敵な脅し文句だこと」
「脅しではないさ。私の残り人生の計画を話しただけだとも」
「断るつもりなんてないけどな。こっちにも守りたい連中はいるし、同じ境遇に合わせたい奴はいないわけだからな」
ご友人の意識が僅かにウルフェちゃんの方へと流れたのを感じました。元よりご友人にとってもユグラの落とし子である者達が、その才能を疎まれ忌避されることは避けたいところですからな。
「色好い返事を聞けて何よりだ。暫くは君達の動向を観察しつつ、穏やかに活動を行うとしよう」
「最初からそうしてくれてりゃ、こんな怪我を負うことはなかったんだがな」
「私が穏やかでも、ラーハイトやネクトハールはその限りではなかっただろうがね」
ひとまずは休戦、といったところでしょうか。新たな魔王が生まれる心配は先送りとなり、ご友人の働き次第では未然に防ぐこともできる。正直放置して良い相手ではないのですが……容易に決着を付けられるわけでもないですからな。
「この程度手紙で送っても良かっただろうに。こっちは果物を押し付けられるから助かったが」
「こちらにも色々と事情があってね。ところでハークドック君はいないようだが、ジェスタッフのところに戻っているのかな?」
「休暇と報告がてらにな。あいつに用があったのか?」
「私としてはあまり会いたくない相手ではあるがね。会いたい子が……いや、なんでもない。それでは失礼するとしよう」
リティアルはそのまま病室を後にしていきました。去り際にモラリが私に舌を出してきましたがそれはさておき、ハークドック殿に会いたがっていた人物とは……はて?