軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけでため息。

「ええと、これで欲しいものは全部揃いました。エクドイクさん、私も少し持ちましょうか?」

「聖騎士であるお前に言うのもどうかと思うが、この程度の食材を重いと感じることはない。それよりも他に入用となるものが売られていないか、視野を広げる方に専念してくれ」

「必要な分は買いましたから、これ以上は無駄遣いになっちゃいますよ。それに今は視野を狭くしたいというか……」

現在はメリーアと共にメジスの市場で買い出しを行っている。適当に食事を作るだけならば、俺一人で買い出しは可能なのだが……こうしてメリーアの買い物を見ているだけでも学べることは多い。

全ての露店が異なる物を売っているわけではなく、値段や質の違いも様々だ。メリーアはそれらを確認しつつ、更には交渉し金銭の節約を行っている。人間社会に適応しているメリーアと比べ、俺の金銭感覚はかなり鈍いのだなと実感できる。

それでいて食事を作ってもらう側のことまで考え、献立の方も余念がない。日常的なことも意識を割けばこれほどまでに広がるものなのだなと感心する。

「ん?向こうに妙な人集りがあるな」

「本当ですね。あそこは商人が露店を広げられない場所ですから、特価販売とかではないと思いますけど……あ、ユグラ教の告知看板ですね」

緊急事態を除けば、国からの知らせはこういった看板を経由することが多い。村々に突き立てるだけで情報共有が行え、文字が読めないものも居合わせた読める者に聞けば良いわけだからな。

ただこれだけの人集りとなると、それなりに重要な情報なのだろうか。そう思い、鎖を地面に付き立てつつ少しだけ浮く。この高さならば人集りを気にせずに読むことができるだろう。

「本当に便利ですよね、その鎖……。看板にはなんと?」

「……同胞達のことだな」

緋の魔王との一件以来、ユグラと同じ星の民である同胞の存在はこの世界の住人の耳に届きつつある。金の魔王に紫の魔王、そして『蒼』と協力する上で、その三人の魔王を制御できる特別な人物であるとユグラ教は発表している。

今回の看板には同胞がセレンデで蘇生魔法を手中に収めようとしていた犯罪者を倒したことが書かれている。ユグラ教としては同胞が人間にとって脅威ではなく、頼りになる存在であるかのように振る舞いたいのだろう。それはこの文面からでも見て取れるのだが……。

「だからといって、魔王と手を組むだなんて……冗談じゃないよな」

「そうね……。特に紫の魔王を野放しだなんて……」

長い年月の間、ユグラの教えと魔王の生み出した魔物の実害によって、禁忌や魔王に抱くイメージは非常に悪いものとなっている。国が執り行っている法としても、禁忌に手を出す行為、それを欲する言動などは死罪に値する罪とされているほどだ。

彼らに降り注いだ緋の魔王の脅威を退けてはいるものの、魔王軍による被害は放棄した村や、戦いに赴いた兵士達に留まっている為にその活躍への実感が上手く与えられていないのだ。

「同胞さんは上手く立ち回っていると思うのですが……」

「当事者としてならば、微塵も文句はないがな。人づてではどうしても結果だけが評価の優劣を決めてしまうものだ」

ラクラの名誉を高める活動を行っていた時も、人々はラクラの行ってきた結果だけを比較の要素として汲み取っていた。そこにラクラの人格に対する評価などは殆ど関与していなかったことを幸いと思っていたのだが……今回は逆となっている。

「でも仕方ないと思う気持ちと、もどかしいと感じる気持ちは別物です」

「俺達が焦る必要はない。少なくともユグラ教の同胞に対する接し方は、非常に友好的なものだ。後はこの姿勢をゆっくりと民にも浸透させていけばいい」

その間に色々とトラブルが起きる可能性はある。だがそういったものは同胞の得意とする案件のはず、俺達が動くのは同胞にとって好ましい形のみで構わないのだ。

少し前の俺ならば、あの看板の元へと近づき同胞の活躍を説いていたかもしれない。だが今の俺は魔族、彼らが嫌悪している魔王側の存在だ。髪の色や肌の色は意図的に人の姿に抑えられるが、何の弾みで魔族の姿になるか分かったものではないからな。そうなれば話が拗れるどころの問題では済まない。

「……凄いですね、エクドイクさんは」

「そこでどうして俺が評価される?」

「だって、あれだけ尊敬している同胞さんの悪態をつかれても、しっかりと考えて堪えることができているじゃないですか」

その点については、俺個人の表情が乏しいというのが理由だと思うのだが……。正直嫌な気持ちであることには違いないが、母さんの立場を理解した身としては今更他人のことで深く悩むのも……と言った感じだ。

「彼らが抱く嫌悪にも理由がある。それを個人的な意見だけで否定したいと思わないだけだ。少なくとも脅威とならない限りはな」

「同胞さんの言う無難に生きたいって感じですか?」

「――そうだな。そんな感じなのだろう」

昔の俺ならば、このように考えることはなかったのだろう。気づけば同胞の思想に染められていたということだろうか。だがまあ……身の回りに大切な人間ができればできるほど、この思想の必要性が理解できる。

きっと俺だけではなく、イリアスや他の者達にもその思想は伝播しているのかもしれない。……同胞の影響力はいつだって侮れないな。

「ところでエクドイクさん。私もちょっと持ち上げてもらえないですか?」

「ん、構わないが、看板の内容が気になるのであれば覚えたから書き起こせるぞ」

「そ、そこまでしていただかなくても、ぱぱっと見るだけですから!むしろ持ち上げてもらいたいことの方が……いえ!とにかくお願いします!」

ふむ。これは純粋に鎖で持ち上げられたいということなのだろうか。メリーアは俺のする様々な行動に対し、興味を持つ傾向にある。好奇心や探究心が強いのは美点ではあるが、こんな経験がなんの役に立つのかは全く見当もつかない。

しかし鎖で持ち上げられたメリーアだが、平常時の数割増しで機嫌が良くなっていた。こんなことで機嫌が良くなるのであれば、いくらでも構わないのだが……『蒼』にも通用するのだろうか。

「そうか、ユミェスの手の者が探りを入れていたか。この様子ではチサンテの方も近くにいるかもしれないな」

ワシェクトにトッパラの話をすると、だろうなって顔をした。ワシェクトの周囲も常に監視されているのだろうが、ここまで平然としているのもなかなかに強かだ。

「ワシェクトは『俺』の周りに人は置かないのか?」

「気になったら聞けば良いだけだろう。貴公は隠す必要がないことは隠さずに話す人種だ。隠しごとをするということは、隠した方が良いと判断した内容なのだろう?ならばそれを無理に知る必要はない」

「気になる案件だってあるだろうに」

「その時は『知りたくて困っている。私の為に話してくれ』と交渉するだけのことだ」

ほんと竹を割ったような性格をしてんな。ガーネでマリトに睨まれて怯んでいた時の方がレアケースだったのだろうか。まあマリトは国の王だし、下手な言葉が今後の外交に関わると考えたら慎重にもなるんだろうけども。

「一応ミクスの報告だと、つかず離れずな距離で潜伏している奴が数人いるって話だ。捕まえたところでトッパラと同じように大した情報はないだろうけどな」

「貴公がよほど目につかない限り、害はないだろうな。不満ならば今度王子達を紹介した時にでも直接苦情をいれると良い。もう少しくらいは気配も大人しくなるだろう」

止めるつもりはないのね。まあここは奴さん達のホームだし、あまり高慢な態度は取りたくはない。適度に笑い話として利用する程度にしておくとしよう。

「ぼちぼち行動を開始したいところではあるんだが、あいにくと監視役の連中が休暇でセレンデにいないんだよな」

「監視されていないとやる気がでないとは、中々に特殊な性癖だな」

「ユグラ教の中には何かしらの理由を欲している連中もいるからな」

セラエスの身柄を確保しようと、勝手に聖騎士を動かしたオムサム大司教の例もある。監視の外で動く様子が報告されようものなら、それを口実にまーた変な事をしてくる可能性も出てくる。

まあやらかす奴ってのは何もしなくてもちょっかいを出してくるんだが、あくまで第三者目線でこちらに非がないことを示すことが重要なのですよ。

「私としては頼まれたことをそのまま、ワシェクト王子として対応するだけだ。あまり期待はしないように」

「他の王子達との架け橋になってくれるだけでも十分だ。あと遺跡の案内役もな」

「遺跡のことならば任せてもらおうか。しかし正直意外ではあったがな。遺跡に本気で興味を持つとは」

「その様子じゃ社交的に興味を持ったフリをする連中は多そうだな」

「私に取り入るのであれば、それが最も効果的だと勉強しているのだろう。尤も、採点が厳しいことだけは理解してもらえないようだが」

こと遺跡に対する態度だけならば、『俺』の理解に近いレベルで相手を見極められるのかもしれないな。まあそれだけ遺跡が本気で好きなのだろう。王になれなかったらミクスのように冒険者、もといトレジャーハンターとかになるのだろうか。いや、遺跡の保護をする活動家の方かな。

「それで、今日は誰かを連れてくるって聞いたんだが」

「そろそろ来る頃だ。ここは病室だからな、一緒に来た時に貴公が着替え中だったりしては目の毒だ」

「その様子じゃ妹君か――っと」

扉をノックする音、それに部屋の主ではないワシェクトが『入れ』と返事をした。いやまあ王子だし、この建物もある意味では自分のものなのかもしれないけどさ。

入ってきたのは随分と可愛らしいエルフの女の子。散々自慢されたワシェクトの妹であるヒルメラ王女であることは間違いない。

「紹介しよう。私の妹のヒルメラだ。ヒルメラ、この男が話していたユグラの星の民だ。目つきは悪いが、中身は普通の人間だ」

「お兄様、その言い方はちょっとどうかと思いますよ!?コホン。初めまして、ヒルメラです。この度はセレンデでの罪人討伐、ありがとうございました」

ワシェクトの溺愛っぷりから、もう少し箱入り娘な印象を抱いていたが……割としっかりしている感じだな。

「ああ、よろしくヒルメラ王女。ちゃんとしたおもてなしも出来なくて悪いね」

「怪我人にもてなされては王族の恥ですので、お構いなく。ええと……事情は聞かされておりますが、なんとお呼びすればよろしいのでしょう?」

「好きに呼んでもらって構わないよ。役職らしい役職もないし」

「では御使い様と。御使い様は異世界からいらしたのですよね?異世界の方から見たセレンデはいかがでしょうか?やはり田舎な印象ですか?」

結構ぐいぐいくるな。好奇心は強めではあるが、距離感としては絶妙な匙加減を感じる。これは意図的に調整しているな。十四歳でこれだけ相手の顔色を伺えるのはなかなかいないぞ。

「いい意味で幻想的かな。お伽噺で聞いたような光景ばかりだからね」

「それは現実にもないような古めかしいと言う意味でも捉えられますよね?お兄様、やっぱりもう少し他国の文明も取り入れるようにお父様に進言なさってはどうかしら?」

「ご覧の通り、妹は新しいものに心を奪われやすい年頃でな。だがなヒルメラ、ちょっと油断をすればチサンテ辺りが遺跡の景観を損ねる開発計画を便乗で持ちかけかねん」

「もう、チサンテお兄様でもセレンデの歴史を尊ぶ心くらい持ってますよ!」

溺愛している割に、妹に対する態度は結構フランクなワシェクト。ヒルメラの方も似た感じではあるが……その奥にはワシェクトに対する強い信頼を感じる。この二人は他の王子達よりも強い絆があるようだな。

「他の国もそう変わらないよ。ガーネはちょっと時代が一つ先に向かってるけど、この世界じゃ浮いているし。保護されている遺跡の多さはセレンデの個性としては申し分ないしね」

「御使い様も遺跡に心を奪われた方なのですね。私も嫌いではないのですが、お兄様と比べると流石に……。もう少し女の子らしい趣味を持ちたい年頃ですし」

兄妹揃って遺跡マニアだったら、それはそれでこの国での立ち回りに気をつけることになりそうだが、その心配はなさそうだ。

ヒルメラ王女との対談は特に可もなく不可もなく、互いに適度な質問を投げかけ、互いに納得の行く答えを貰うといった感じで終わった。個人的にはもう少し仲良くなれるとも思ったが……まあワシェクトの目もあるしな。

「そろそろ良い時間だな。ヒルメラ、私はもう少し残るがお前は帰りなさい。部屋の外にいるムールシュトもそろそろ痺れを切らしている頃だろう」

「それが仕事なのだから、そこまで気を使う必要はないでしょう?ムールシュトだって王女にいちいち気に掛けられたら、そっちの方が疲れちゃうもの」

イリアスが時折部屋の外に意識を払っていたが、どうやらヒルメラ王女の護衛が控えているようだ。ムールシュトか、一応覚えておこう。

「ムールシュトのことは正直どうでも良い。この部屋には別に患者もいるからな、気を回しただけだ」

「え、あ……。そうですね。それでは御使い様、また今度に異世界のお話を聞かせてくださいね?」

ヒルメラ王女はこちらと、ヨクスのいる方に軽く会釈をしてから去っていった。軽く話して見た印象としては、明るく誰とでも仲良くなれそうな感じではあるが……。

「どうだった、ヒルメラは。ちょうど良い判断材料だっただろう?」

「ああ、色々と参考になった」

十四歳であるヒルメラ王女でさえ、本当の自分を偽っている傾向が見られた。他の王族も皆仮面を被るのが上手いのだろう。ワシェクトが竹を割ったような性格の理由が分かった。

「兄姉が軒並み面の厚い連中だからな。それに感化されてしまっているのだろう。本来はもっと内向的な子だ」

「そうっぽいな。他の王子はもっと曲者揃いってことか。お前だけが異端と」

「同じ母親を持つ者として、私くらいは本当の味方でありたいからな」

リティアルを相手にするよりは大分楽だと思っていたが、どうやら今回も骨が折れそうな案件のようだ。