軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけで観光です。

「ん、よし、と」

とりあえず日中は歩いても問題のない程度には回復した。ただこれは傷が治っていなくても動ける程度の問題で、痛みはまだまだ抜けていない。痛み止めを飲めば問題なく日常生活は送れるだろうが、調子に乗れば傷口が開いたり化膿したりするだろうとお医者さんに念を押されてしまった。

ミクスからの報告によると、ハークドックはクアマ魔界で傷が開いて再治療だとか。怪我の治りが早いんじゃなくて、稼働可能な範囲が広いだけだったようだ。マセッタさんが一緒で良かったよ、うん。

「準備は済んだか。では行くとしようか!」

「随分と張り切ってんな、ワシェクト」

セレンデで活動するほどではないが、ある程度回復したとのことで、ワシェクトプロデュースの遺跡観光ツアーに参加することになった。ちょっと前に約束したことを即実行する行動力は感心なんだけどな、そのやる気に満ち溢れている顔はなんだ。

初めてガーネで出会った無愛想な表情とは裏腹に、体育会系お兄さんのようなオーラすら感じる。こいつも中身が入れ替わってたりしないよな?

「張り切る?当然のことだ。自分の趣味の尊さを他者に思い知らせること、これは決闘にも等しい行為なのだぞ。私の差配一つで高尚な趣味に目覚められるかどうかが決まる。その責は並の執務よりも重い!」

「単純に好みの違いもあると思うんだがな」

「そんなものは言い訳に過ぎない。推めるからには必ず引き込む。それくらいの決意を持たねばならないのだ」

ワシェクト、こいつ本当に趣味に生きてるな。マリトも園芸にはうるさかったけど、こいつの遺跡好きはそれ以上だと断言できる。それで良いのか第三王子、王位継承を争う男。

護衛はイリアスとウルフェ、そしてミクスの三人が付いてきてくれる。ワシェクトの方の護衛は何故かいない。その理由を尋ねると酷い答えが返ってきた。

「私と同等以上の案内が出来る者以外は連れて行くつもりはない。セレンデ国内にある遺跡の全ての構造を把握する程度、初歩だと言うのに」

護衛達はゴネたようだが、ターイズの騎士でも指折りの存在であるイリアスの一人でもいれば十分だとあしらったそうだ。イリアスは複雑な顔で照れていたが、そこは呆れて良いところだぞ。

馬車に乗って暫く移動する。いつも馬車はターイズ製のものばかりだったが、セレンデ製の馬車はほとんど揺れない。馬が大人しいのもあるが、馬車の方にも何かしら衝撃を和らげるような仕組みが施されているようだ。ターイズ製は速い移動に耐えられる頑丈さを優先していただけに、相手をもてなす為の馬車は非常に新鮮に感じる。

「馬車の移動も結構楽じゃないと思ったが、これならほとんど寝ている状態と変わらないな」

「これらの技術はこの国が出来る遥か昔から残っていたものだ。熟練の職人がいなければ再現もできんほどのものだ」

セレンデが出来る前ってことは湯倉成也が魔王を倒すよりも前ってことか。湯倉成也が最初に動いた国は隣のメジスだ。ひょっとすればこの辺の土地で色々な技術を広めていたのかもしれない。

「この馬車があれば、ご友人も問題なくターイズに帰れるでしょうな。まあセレンデでもう少し動きたいとのことですし、それまで私もお付き合いしますとも!」

「ミクス、マリトから何か言われたか?」

「『セレンデに恩を売っておけば今後活動もしやすいだろうからな、友の好きにさせると良い』と」

ガーネを含めれば現在は三人の魔王が人間に対して友好的な態度を取っている。だがその事実が明るみになったばかりの現状では、当然のように排他的な考えが湧いてくる。

だがセレンデ王に借りを作れれば、この大陸にある全ての大国の王達とのコネクションを得ることができる。上を抑えたからと全てが解決するほど甘くはないだろうが、少なくとも国としての方向性は無難な感じに持っていけるはずだ。

「魔王……か。好ましく思わないのは当然だが、セレンデはメジスと違ってそこまでユグラの忠告を真に受けてはいないからな」

「隣国なのに仲が悪い感じだな。いや、隣国だからこそか」

「隠すことでもないので言うが、メジスとはある小国の件で険悪な関係となっている。スピネと言う小国の名は聞いているか?」

「ああ。メジスとセレンデの国境付近にあったって言う」

ラーハイトが各地を転々としていた際に滅ぼしたとされる国。死霊術によってアンデッドが増殖を続け、最終的にはマーヤさんを含めた聖職者達がラーハイトを追い詰めて解決したと聞いている。

「スピネは元々メジスから別れた国だ。大国から小国が生まれる意味は分かるな?」

「――まあ、隣国ってことはそう言うことだろ」

国が違うと言うことは、何かしらの違いがあると言うことだ。言語の壁もあるが、それよりも明確な壁となるのは思想の違いだ。

「スピネはセレンデに影響を受けて独立した者達の国だ。ユグラ教の教えに頼らない生き方を目指した人間達のな」

「セレンデ側で受け入れはしなかったんだな」

「セレンデはトリンと同じで亜人が統治する国だ。思想は同じでも人種が違えば諍いの種になる。先人達も線引は必要だと判断したのだろう」

「メジスはスピネの独立をよく許可したもんだ」

「当時のメジスはメジス魔界から襲い掛かってくる悪魔の処理で必死だったからな。余裕のある者達が比較的被害の少ない地域で余力を作ってくれるのであれば、と渋い顔をしながら受け入れていたらしい」

メジス魔界の悪魔と言う明確な敵がいる状態で、内部での争いを生んでいる暇などないってことだな。思想の違う者達を一挙に隔離し、富ませることで恩も売りながら援助の蓄えも狙った感じか。

「その話だけだと、メジスもセレンデもスピネに対しては友好的な印象を受けるな」

「友好的だったとも。あの日まではな」

「……死霊術によるスピネの崩壊か」

「そうだ。スピネは最初、セレンデの方に助けを求めた。だが斬っても死なぬアンデッド相手に我々は苦戦した。国境を越えてセレンデに侵入しようとするアンデッドの相手だけで手一杯だったのだ。最も有効的であった浄化魔法はユグラ教の秘技だ。戦力の差はなくとも、相性の差ばかりは……な」

セレンデはユグラ教の影響を受けていない国。多少の活動は許されていても、国教となるようなことはない。戦闘に回せるような聖職者の数も非常に限られていたのだろう。

他国で発生し、パンデミック状態になっている死霊術を国境で食い止められただけでも凄い話である。

「でも最終的にはメジスが解決したんだろう?」

「そうだな。再三の助けを無視し、手遅れになってからようやくその重い腰を上げた」

「……なるほど。だが他国よりも自国を優先するのは当然のことじゃないのか」

「否定はせん。セレンデも自国に被害が生まれないよう、及び腰で助けを送っていたわけだからな。だがメジスならばスピネを助けることはできた。いや、メジスだけがスピネを助けられたのだ。我々はメジスがスピネを守る間だけでも、悪魔の侵攻を食い止める役割を代わるつもりだった。だがメジスは我々が領土に入ることすら拒否した。結果として我々は思想を同じくした友好国を失い、救えなかったという恥を刻まれ、救える者であったメジスに怒りを抱く結果となった」

メジス側にも理由はあるのだろう。絶えず襲いかかる悪魔達に対抗する為には魔界側に戦力を集めておかなければならない。スピネを助ける為に穴を作ってしまっては、自国の民が魔物に襲われることになる。

その間に防衛を代わると言ったセレンデの言葉も、人としてならば信じたい内容ではあるのだが、国としては安易に受け入れられる話ではない。その提案を受け入れた場合のリスクを考えなければならないのが国なのだ。

「恨んだと言うより、恨むしかなかったんだな」

「ああ。セレンデの者達はそのことも理解している。それでも国という壁を意識せざるを得ないと言った具合だ」

一度生まれた溝は簡単には埋まらない。対話を続ければいつの日かは埋まるのだろうが、思想の違う国同士ではその席を用意するだけでも大変な労力が必要なのだろう。

ラーハイトは落とし子を探すことを目的として暗躍していた。国同士の溝を深めておけば、互いの連携も弱くなり活動が楽になる。そこまで考えて行動していたのかもしれないな。

「ま、慰めになるかは分からないけどな。ワシェクトの協力のおかげで、そのスピネを滅ぼした張本人を倒すことができたんだ」

「いっそのこと公にしてしまいたいところではあるんだがな。それはそれであの時メジスは元凶を取り逃がしていたのかと、口が悪くなる者も出てくるだろう」

「国ってのは面倒臭いな」

「まったくだ。私が遺跡を愛する道を選ぶ理由も分かるだろう?」

国というものは人の集まりだ。人の集まりにおいては正論よりも雰囲気が大きな影響を与えることがザラだ。国を治めるにはその雰囲気を読み、より良い方向へと国民達の意識を誘導しなければならない。だが正しい行いを選ばなければ、そのしわ寄せは必ず現れる。その両立ができてこそ、集団を正しく導くことができる。

先人達が作り出した雰囲気を自分でどうにかしなければならない。その手間は考えるだけでもゾッとするものだ。心が折れないように、柱となるような支えが必要となってくるだろう。ワシェクトにとっては遺跡がそれなのだ。

「遺跡を愛してるなら、遺跡に逃げる真似はしないこったな」

「言われるまでもない。さて、そろそろ良いか。そこの三人、尾行などはいないか確認できるか?」

「――っ。おりませんな。探知魔法も使用してみましたが、少なくとも声の届く範囲には誰も」

「有能で助かる。そら、これが欲しかったのだろう?移動の最中に読み終えるようにしろ。帰る前には燃やしておくように」

ワシェクトは羊皮紙の束をポンと放ってくる。これは……セレンデ王族に関する資料か。それ以外にもある程度の権力者についても書かれている。よくもまあこれだけの短期間で揃えたものだ。

「助かる。ただこれを今日だけで暗記ってのは……」

「頑張れ。貴公なら出来ると信じている」

「本音は?」

「私に不利益にならないように努力しろ。それができないのであれば、自力で頑張ってもらう他ないぞ」

「その方がやる気が出るな。ミクス、覚えるのを手伝ってくれ」

ワシェクトとしてはこちらに全面的な協力はしたいが、セレンデ内で敵を作るような真似はしたくないのだろう。こうして他の王族の情報を用意するだけでも『お前も下手人の候補な』と喧嘩を売っていると捉えられてもおかしくはない。

だからこそ、あらゆる者達に知られている『病的なまでの遺跡好き』と言う自分の立場を利用して情報提供を行なっているのだ。

いっそのこと書き写す手段もあるが、これらの資料があることを知られること自体避けたいのだろう。これだけやってくれたのだ、大人しく暗記するとしよう。

「本来ならば道中は遺跡の知識を前準備として叩き込むのだが、貴公はそれなりに見識も深そうなのでな。だが遺跡についた時は遺跡を見るように」

「遺跡の内容も頭に入れてなきゃ、他の連中に感づかれるからな」

「それもある。だが私の前で遺跡を蔑ろにする行為は純粋に許せん」

「言われなくても、遺跡を見るのは純粋な楽しみとして参加しているさ」

最悪こっそりと隠し持ってきたカメラで遺跡を撮影し、後日復習に使う手段も考慮しておかねばなるまいな。肉体労働の次は暗記の勉強漬けか……魔法の練習とか、もう少し夢のある作業をしたかったものだ。

「以前も言ったが、第一王子のヌーフサ、第一王女のユミェス、第二王子のチサンテの三人が怪しいと私は思っている」

「その根拠は?」

「遺跡は国で保護をしている。内部の構造を記した地図なども国が保管しているものだ。そのへんの権力者程度では簡単にどこの遺跡が隠れ家に向いているなど、紹介できるはずもないからな」

元々潜伏していた場所ならばさておき、決戦の場となった遺跡は地下深くまであり、相当に入り組んでいた。ネクトハール達はその遺跡をホームのように陣取り、『俺』達を迎え撃ってきていたのだ。

確かにワシェクトが用意してくれた地図の写しでもなければ、そう簡単に利用することはできなかっただろう。

「ただその理屈だと、お前が一番怪しいんだけどな」

「何を言う。遺跡を最も愛する私が、他国の人間の根城に遺跡を明け渡すわけがなかろう」

「さいですか」

資料を読む限りではその三名は確かに怪しい。とりあえず候補に入れておいて損はないなと即決するくらいには要素がある。ただ……うん?

「どうかしたのか?」

「いや、お前の資料がないのは良いとして、お前の最愛の妹の資料がないと思ってな」

「妹の年齢は今年で十四だ」

「あー、なるほど」

ラーハイトがスピネを滅ぼしたのが二十年前、ネクトハールがターイズを襲ったのが十年前だ。ラーハイトがその後接触しようにもワシェクトの妹は生まれてもおらず、ネクトハールが即座に接触していた場合は四歳だ。流石に四歳児に協力を求める魔族はいないよな。

ネクトハールがセレンデを拠点としていたのは少なくとも五年以上と見積もることができるから……それでも九歳か。

「それでも納得ができないのであれば、後日紹介してやろう。無論手は出させんがな」

「心配しないでも、十四歳相手にも勝てる気はしない」

「……それはそれで心配になる弱さだと思うのだがな」

可能性はゼロではないが、極めて低いだろう。ただこの場合は協力者と言うより、誑かされたと言う方が適切なのだが……。

とりあえずは資料に目を通しつつ、遺跡観光ツアーを楽しむのであった。