軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけで再治療。

「そんな経緯で今後行動を共にする悪魔、ベラードだ」

「また……増えた……?」

「それ貴方が言う?」

メジスにあるナトラさんの家でラクラ、メリーアと合流し、つい先程エクドイクによって命名された悪魔ベラードの紹介が行われた。

その反応はそれぞれが異なっており、ナトラさんは驚いた顔、ラクラは呆れた顔、そしてメリーアは困惑した顔をしている。なお全ての元凶の『紫』はどこかに消えていった。メジス魔界を生み出した立場としては、メジスの村々に姿を現すのは気が引けるわよね。

「うん?メリーア、増えたとはどういうことだ?」

「い、いえ、その……、しょ、食事の用意を少し増やさないとなぁと思いまして!」

「そのことなら気にしなくて構わないぞ。ベラードは魔物だからな。俺や『蒼』の魔力を与えれば食事の必要はない」

「そうだな。それに、私は悪魔だ。メジスの人間からすれば、近くにいるべきではないだろう」

ベラードはナトラさんを一瞥した後、この場を離れようとする。メジスの住民にとって悪魔は恐怖や憎悪の対象だものね。しかもベグラギュドの配下ともなれば、ナトラさんの住んでいた村を襲った張本人である可能性も高い。ただその気遣いができるのって、結構優秀なんじゃ?

「ベラードさん、だったわね。……貴方はゼアット村を知っている?」

「エクドイクを拾ってきた村の名だったか。その村を襲ったことはある。五十年ほど前になるがな。だが直接の関与はなくとも、お前の血縁を手に掛けた可能性は否定できん。余計な気を回すな。互いに距離を取ることも、必要な場合もある」

こいつ本当に魔物なの?随分とこう……中身の出来が良いっていうか……うん。あーそっか、非道な大悪魔ベグラギュドの配下だったから世渡りは意外と上手なのね。

「……そう。それじゃあお弁当だけでも用意するわね。メリーアさん、手伝ってもらっても良いかしら?」

「はい、分かりましたお義母様!ぱぱっと用意しちゃいますね!」

ちょっと、そこ。何どさくさに紛れてお義母様呼びしてるのよ!?エクドイクと一緒に魔界に同行せず、ラクラと一緒に先にこの家に向かってたのってナトラさんに取り入る為じゃないわよね!?……いや、冷静になりなさい私。確かにメリーアは思った以上にぐいぐいとエクドイクに近寄っているけど、だからといって私が過剰反応を示す意味はないのよ。

「それくらいは良いでしょう?」

「……好きにすると良い。エクドイク、私は村の外で待機しておく。何かあれば呼べ」

ベラードは自らの影の中へと溶け込み、そのまま姿を消した。ナトラさんはエクドイクの味方だからと、気を使おうとしている。だけど内心はかなり複雑なはずよね。

「すまないな、母さん。気苦労を掛けさせた」

「気にしなくて良いのよ。そりゃあ悪魔だって紹介されたら苦手意識は持っちゃうけど、私に隠し事をしたくないって思ってくれたんだもの。驚かされはしたけど、『蒼』さんが魔王だって紹介された時に比べたら、ね?」

息子に上司が魔王だと紹介されたのだから、今更部下に悪魔が増えてもそこまでのショックはないってことかしらね。そりゃそうだわ。

「でもエクドイクが別の女の子を立て続けに紹介したことについては、ちょっと悩ましいところでもあるわね……」

「む、そうなのか?今度他の部下を紹介しようと思ったのだが……」

ナトラさんが私の方に視線を向ける。『え、その部下も女の人なの?』と言わんばかりの顔である。頷いている私の顔は相当疲れたような表情だったに違いない。

「お父さんの血かしら……。まあいいわ。それで、今日は泊まっていくの?」

「ああ。もう少しメジスでやることがあるからな」

「そう、良かった。……ところで鎖で寝床って作れたりするのかしら?」

やや困り顔のナトラさん。一人暮らしの家に、突然四人も押しかければ部屋とかも色々足りないわよね。別に私とエクドイクは野営をしても構わないのだけれど……。

「問題ない。その気になれば部屋の増築もできる」

「鎖の壁ってのはちょっと嫌ね……。布団はこっちで用意するから、寝床の用意だけ手伝ってもらえるかしら?」

「分かった」

鎖のベッド……普通に考えたら眠れるような代物じゃないのだけれどね。ただエクドイクの鎖は変幻自在で、その硬さすら自由に弄ることができる。この前野営をした時にエクドイクの鎖のベッドを使ったんだけど、下手なベッドより質がよくて複雑な気分だったわ。

「お義母様!お弁当の用意ができました!ってあれ、ベラードさんは?」

「村の外でダルアゲスティアと一緒に待機している。食事前にさっと渡してこよう」

「それが良いわね。それじゃあ私は食事の準備を済ませるわね。ラクラもお手伝い、よろしくね」

「はーい」

メリーアと入れ替わりでナトラさんとラクラが家へと戻っていった。ナトラさんの料理……これの出来次第で今後の私に求められる料理スキルが決まる……!

「エクドイクさん。今から行くのでしたら、私も一緒に行っても良いですか?」

「いや、メリーアにはこっちの箱を家の中に運んで欲しい」

エクドイクは魔界から運んできた木箱とお弁当を交換する。メリーアは木箱の重さを確認しつつ、首を傾げた。しかしエクドイクがその木箱の中身を告げると、僅かに震え、そして静かに涙を溢した。

「――ようやく、帰ってきてくれたんだね。おかえり、お姉ちゃん」

木箱を抱きしめるメリーアの姿を見て、エクドイクは私の肩を叩いて移動しようと促してきた。私も素直に応じ、一緒に村の外へと向かった。

「泣かせてしまったな」

「嬉し泣きなんだから良いじゃない。事前に伝えておくくらいはしても良かったと思うけどね」

「魔界に埋めた人骨が今日まで残っているか、正直不安だったのでな」

「あーそりゃ仕方ないわね。でも悪いことをしたわけじゃないんだし、胸を張りなさいよ」

エクドイクの背中を強めに叩く。痛い。こいつ、背中にも鎖巻いてたんだった。

正直ちょっとメリーアが羨ましい。彼女の境遇とかを考えれば、羨ましいなんて思っちゃいけないのだろうけども、それでもやっぱり羨ましいものは羨ましく感じてしまうのだ。

できることならその優しさをもっと私に、私だけにと、考えてしまう自分に嫌気が差す。自分がこんなにも欲張りだとは思ってもみなかった。

一体何様なのかと、お前にそんな権利があるのかと。幸せな光景をイメージする度に、それらを受け止められる自分が想像できない。

悲観的に生き永らえ続けた私の心は、幸せを求めながらもそれを受け入れることに恐怖してしまっているのではないだろうか。

「難しい顔をしているが……怒っているのか?」

「別に。ちょっと考え事をしていただけよ」

「俺に出来ることがあれば、気兼ねなく言ってくれ」

貴方にして欲しいことなんて、沢山あるに決まっている。して欲しくないことだっていっぱいあるんだって、大きな声で言いたい。

だけど私は貴方から貰い過ぎている。本来ならば得られなかった素敵なものを、こんなにも沢山。もしも貴方がいなければ、私はラーハイトのように消されていただろう。私を恨む者達に死霊術で無理やりこの世界に戻され、慰みものにされていたかもしれない。

って、何真面目に悩んでいるのよ。馬鹿らしい、こんなこと考えていてもロクなことにならないわよ。多分ドコラのせいね。意志のあるアンデッドから、私の力の残酷さを再認識させられたんだと思う。

「……そうね。とりあえずは寝心地の良いベッドを頼むわ」

「了解した。……前のは寝苦しかったのか?」

「悪くなかったわよ。でももっと良い物を求めたくなるのは人の性でしょう?」

「そうだな。欲は生きる糧だ。だからもっと欲張っても構わないんだがな」

「あら、欲張る気も起きないくらいに満たしてはくれないの?」

あああぁっ!何を『紫』みたいなことを言っているのよ!?ほんっと、こいつは一言多いんだから!

「――それはおいおいと目指していきたい目標だな。もう暫く不便を掛けるが、その内には……な」

「……そう、なら我慢するわよ。怒りはするでしょうけどね」

「お手柔らかに頼む」

そりゃあ惹かれる子が増えるわけよね。これだけ真っ直ぐに向き合ってくれる奴なんて、そうそういないんだから。

兄弟がセレンデで安静にしている間、俺はマセッタと一緒にジェスタッフの兄貴の元へと戻っていた。ぶっちゃけ俺一人で良かったんだが、マセッタがそんな怪我で無茶をして死なれたら夢見が悪くなるとか言って聞かなかった。

一通りの説明も終わったんで、コミハとスマイトスにも説明しようと二人の元を訪れたのは良かったんだが――

「どうしてエクドイクがいないんですかぁ!?」

「いや、だからエクドイクはお袋さんのいるメジスにだな」

「どうして私がその場にいないんですかぁ!?」

「そりゃここにいるからだろ」

「どうしてぇ!?」

うおう……エクドイクの奴、かなり慕われてるんだな。つかコミハってこんな奴だったんだな。大人しい奴だって聞いていたのに、すげぇ圧力だ。本能様が『ちょっと離れた方が良いよ、君』って言ってくる。

「コミハの奴、エクドイクに会いたがってたからな。代わりにお前が来たんじゃ不満の一つや二つぶつけたくもなる」

「俺何も悪くねぇよな?」

「ところで、あの男はセレンデにいるのよね?実はそこらに潜んでないわよね?」

「兄弟をなんだと思ってんだよ、スマイトス。軽い怪我でも絶対安静なんだぜ?」

そして兄弟は兄弟ですげぇ怖がられようだ。こっちは理解できっけどな、俺も敵だったし。とりあえずコミハを宥めつつ、リティアルとの一件について話す。こいつらにとってリティアルは恩人だしな、生きていると知れば少しは安心するだろ。

「ぐすっ……リティアル様相手に、よく生きてましたね」

「しかもツドァリも倒したのか。やるじゃないの」

「生きてるのが奇跡みてぇなもんだけどな。兄弟からの伝言だが、『リティアルがまた動く可能性はある。もし接触してきた場合は好きにしろ』だとさ。んで、どなのよ?寝返んの?」

「そこで寝返るって答える馬鹿はあんたくらいでしょ。まあそうね。リティアル様に説得されたらどうなるか分からないけど、今のところは断るつもりよ」

「わ、私もです……。リティアル様には恩義がありますけど、私達は他の子達を守らなきゃいけませんから」

恩義はあれども、か。優先すべきことをしっかりと考えてるってのは凄ぇもんだよな。

「ジェスタッフの兄貴だって信用できるって分かったんだろ?そこまで固執しなくてもいいんじゃね?」

「ジェスタッフさんは確かにいい人ですけど……顔が怖いので」

「子供達が怖がっているからな。もう暫くは慣れに時間が掛かるだろうさ」

あー、うん。そればっかりは擁護できねぇ。あの渋い顔が良いんだが、確かに子供にゃおっかなく映るだろうからな。今の俺でもたまにビビるし。

「今の子供達がもうちっと大人になったら、ってとこか。でもそれまでずっと魔界に籠もりっきりってのも辛くねぇか?」

「一応交代で休みは貰ってるよ。同伴者つきだけど、クアマにも買い物とかにいけますし」

「魔界と言っても、この辺ってもうほぼ完全に浄化されてるじゃない。魔界なのに魔物の脅威がないなんて、おかしな話よね」

「それどころか労働力として利用してっからな。すげぇもんだよ」

何もなかった荒野だったのに、今ではそこそこの建物が増えている。魔界で取れる資源をこの場所に集め、加工や管理、運搬する商売人達が施設を作ったからだ。さらにはそいつらが住む為の家や、生活に困らないような小規模な市場まで、こうして人が集まって、街ができて、国になるんだなって思うと、すげぇワクワクするもんだ。

「今は魔物を怖がらないような連中ばかりだけど、そのうちもっと増えるだろうね。護衛として冒険者も増えるんじゃないの?」

「どうだろう?この魔界は蒼の魔王の管理下で、襲ってこないから必要ないんじゃ?」

「魔物のせいにして悪さをする小狡い奴とか出てくるでしょ。それこそ冒険者に悪さをさせるような奴だって出てくるでしょうし」

「あー、いそう」

こいつらも中々物騒な話をしてくれるな。だけどありえねぇ話でもねぇか。物を言わない魔物を、便利な労働力として利用しようとしている商人は結構いるらしいし。それこそ蒼の魔王の評判を落とす為に罪を被せてくる可能性だってあるんだよな。ま、兄弟とジェスタッフの兄貴ならそんなこととっくに承知してんだろうな。

「あ、こんな所にいた!ハークドック!貴方安静にしてなさいって言ったでしょ!?」

「よう、マセッタ。コミハ達にリティアルのことを話してただけだ。きちんと安静にしてるぜ?」

ちょっと息が荒れてんな。どうも俺を探し回ってたっぽい。

「それのどこが安静よ!貴方ね、セレンデで大量に出血して瀕死だったでしょ!傷口も外側だけは塞いであるけど、まだちゃんとした治療終わってないのよ!?」

「そりゃまあ、全身痛いからな。治ってねぇのはわかるぜ?だけど歩くくらいは平気だろ?」

「歩くくらいでも傷が開くから怒ってるのよ!」

「え、そなの?」

「二度は説明したわよ!?」

あー言われてみればセレンデやここに来るまでの道中でそんな話を聞いたかもしれねぇ。でも兄弟が目を覚ましたって聞いて、急いで見舞いにいかなきゃって思ったり、兄貴に会いに行くってんで、どんな報告をしようかってずっと考えてたりで聞いてなかったな。

つってもさっきコミハに掴みかかられても平気だったし、意外と傷って塞がってんじゃねぇの?

そう思って上着の中を覗いてみると、肌着がすげー赤く滲んでた。やべ、これ傷開いてるわ。あ、意識すると急に血の気が……。

「お、おい、大丈夫か!?って服の下から血が滲んでるぞ!?」

「え、え、えええ!?わ、私のせいで!?い、急いで縫合しなきゃ!」

「あーもう!担架!この馬鹿をベッドに括り付けるわよ!」

あー、本能様がコミハから離れろって言ってたのはこう言うことだったのね。てっきり軽い冗談かと思ってたわ……。こんな些細なことでも人は死ぬんだな。兄弟、しっかり療養してくれよな。