軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

さしあたって心苦しい。

翌日、ウルフェをお供に本捜索の手伝いをすることになった。見つからないように見つける手伝いをするとはこれいかに。

「さて、まずは結界の設置について陛下に相談したところ、一定期間のみならば街に設置をしても構わないと許可を貰えた」

「まあ!」

「ただし城には既にいくつか別の結界が張られているため、許可は出せないとのことだ」

「そうですか……」

マリトと相談した上で城に結界を張られるのは避けようとなった。

放っておけば強引に行動をしかねないので、まずは目先のことから処理させていく方針だ。

「また異常が発生された場合などは即時の撤去。それと念のため最初から街全体に使用することは避けて欲しいとのことだ。表向きの理由は結界のヒーリング効果を狙ったものだからな」

「ですが全体に使わないと確認が……」

「日数を掛けて広げていけば良いさ。ラクラ、最初はどこに設置するかは分かっているな?」

「……ンー?」

「かわいい仕草で許されると思うなよ」

普段からこれなら許していたかもしれない。

「くすん、教えてください」

「ターイズに本があるという前提で捜索するんだ。結界を広げて捜索するその過程で、本が外に持ち出されたら困る。まずは城壁の門が範囲に入るように仕掛け、そしてそこを起点に街を包囲していく」

「ふむふむ」

「ただし、中に広げる前に城壁を覆うように一周させておく。城壁を越えて持ち出されないとも限らないからな。道具は足りそうか?」

「本国の周りをぐるりとですか……ぎりぎり行けそうですけど、そうなると本国の内側の分が足りなくなりそうです……」

「どうせ一度での設置は許可されていない。用意を進めながら準備でき次第に設置していけば良い」

「わかりました。では今日は城門と城壁周りの設置ということですね!」

「結界の道具の準備が早いようなら本国の内部設置と平行して、ガーネへの移動ルートへの設置。後は山賊達の拠点跡の調査も直接やっておきたいところだな」

「山や森の散策ですか……大変そうですね」

「だがマーヤさんの疑いを晴らすためには、彼女が捜索した範囲も確認しておく必要がある。これを渡しておくから写しを取っておいてくれ」

そういってマリトから借りたドコラの地図を渡す。

「これは?」

「ドコラが使用していたターイズの地図だ。使用されている拠点、使用されていない拠点、候補になりうる洞窟などの印が刻まれている。既に騎士達が調査済みだからな。借りるのはそう難しくなかった」

「まあっ、これがあれば捜索もぐんと捗りそうですね!」

「ただ地図を借りた名目として、この国の商人であるバンさんと提携している洞窟の資源調査も兼ねてやる必要がある。拠点と洞窟を交互に回るからそれなりに時間は掛かるぞ」

「そうですね。ですが洞窟などにも隠している可能性はありますから好都合です」

「拠点跡地や洞窟なら一時的に結界を張れば問題ないだろうから、資材的には余裕は出そうだな」

とりあえずこれらがラクラに対する時間稼ぎだ。

まずは本国の周囲に結界を張らせ、長時間掛けて街の包囲を行わせる。

同時進行で山賊拠点や洞窟に向かわせて、最終的な城の調査を遅らせるというものだ。

後は空いた時間に本の解読を済ませる。解読さえ済めば本をメジスに返却しても問題はないとマリトと考えた計画だ。

ラクラとしては時間が掛かるがターイズ領土内にあるという前提上、国外に持ち出されるリスクを抑えての捜索を行わねばならない。

またメジスの真意は定かではないが、名目上は死霊術の伝播の阻止だ。この作戦を否定することはないだろう。

後の問題は裏で暗躍しているであろう別の捜索者の素性だ。こちらは上手いこと炙り出していく他ない。

「ふー、終わりましたー!」

城門前に結界を設置し、外に出る。範囲の隙間が空かないように本国をぐるりと馬で進みながら結界を設置。

午前中から始めてもうしばらくすれば夕暮れになると言う時間帯、流石に疲れた。

兵舎から借りた馬は二頭。一頭はラクラが乗り、もう一頭はウルフェと相乗りだ。

ウルフェと一緒に乗馬を習ったのだが、ウルフェだけ先に乗りこなせるようになっており、誰かさんは未だに相乗りでなければ乗れないのだ。

いや、怖いんですよこの馬。競馬場で見るような馬よりも一回りは大きいし、そのくせ速度は負けてないんですぜ?

素人がサラブレッドに乗って走るとか無理無理。原付で80キロ出して高速道路走って来いって言われているようなものだ。

兵舎に馬を返しに行くとイリアスを見かけた。

「イリアスか。普段は街の警邏なのに珍しいな」

「城壁外の兵舎はラグドー隊の管轄だからな。番兵達に任せているとは言え、時折は様子を見に来ている。そういう君はどうした?」

「馬を借りてラクラと城壁を一周していた。メジスとの違いを見てみたいって話だ」

「そうか、どうだった?」

「メジスではここまでの城壁はありません。聖地にある大聖堂も信仰者達の視野に入りやすいように壁は作らないのです」

「魔物とか多い割には無用心だな」

「いえ、代わりに結界を何重にも展開していて、余程の大型でもない限り魔物が近寄ることはできないようになっているのです」

なるほど。結界というものは色々便利なものだな。そして景観を大事にできるという点も大きい。

「そういえば明日は洞窟探検を考えているわけだが、ラクラは獣相手の通常戦闘はできるのか?」

「ええ、大丈夫です。私強いですから」

いまいち信用ができない。表情に出しておく。

「あっ、信用してないって顔ですねっ!?」

「そりゃあ今までのことを考えるとな」

「むーっ! では証明してみせますよ!」

と、ラクラは即座に周囲に結界を発生させる。

ほぼノータイムでラクラの周囲に張られた立方体の結界は、厚い半透明のガラスのようなイメージだ。

「これが自慢の防御魔法ですっ! 並大抵の攻撃じゃビクともしませんよっ!」

「じゃあウルフェ、全力でやってみろ」

「はいししょー!」

ウルフェがぐるぐると腕を回し、ラクラの前に立つ。そして息を吸い込み、地面を蹴る。

魔力放出を組み合わせたシンプルな突進攻撃なのだが、その出力の出鱈目さだけで威力は跳ね上がるのだ。

「たぁーっ!」

拳が結界に届く轟音と衝撃が空気中に伝わる。しかしその拳が結界の先に行くことはなかった。

「おー」

「ししょー、てが、いたい」

「そりゃそうだろうな」

涙目のウルフェの頭を撫でて慰める。ラクラは得意げな顔で胸を張る。

「どうですかっ! 工程なしでこの硬度!」

「確かに凄いな。イリアス的にはどうだ?」

「ああ、見事なものだ。魔法の構築が本人を主軸としているから展開を許せば厄介だ。小粒な魔封石では無力化も難しいだろう」

「大きければ無力化できる訳か」

「ええまあ。流石に軍事利用される程の大きさにもなると辛いものはありますけど……ですが獣や魔物は魔封石を使いませんからっ!」

「ラクラ、私も試して良いか?」

その強度にイリアスも興味を持ったようだ。

「ええ、構いませんとも」

「よし、一応鞘付きで行くか」

イリアスは剣を掲げる。鞘付きのままだ。あまりにも硬い結界に剥き身の刃を叩きつければ、刃こぼれの可能性も十分にありうるからだろう。

イリアスは結界の前で立ち止まり、剣を振りかぶる。

「確かウルフェの一撃はあれくらいだから……良し、これくらいかっ!」

一直線に振り下ろされる剣。しかしその剣は結界に阻まれた。

「むう、流石に硬いな」

「……」

ラクラの表情が硬まっている。あ、良くみると剣が結界に刺さってら。

立方体である結界の辺に対し振り降ろされた剣は結界の一部を破損させ、面の抵抗でその勢いを失っていた。

「凄い結界だな。これを吹き飛ばすには結構本気にならないと私でも難しいぞ」

「試すなよ。多分結界ごとラクラが吹き飛ぶぞ」

「さ、流石はイリアスさん。ターイズでも五本の指に入る腕前は確かですね……」

簡易的な攻撃ならばイリアスとてラクラを傷つける事は叶わない。だが本気でやりあえば結界を吹き飛ばす攻撃が目にも止まらぬ速度で繰り出されるのだ。

ラクラの眼から見てもやはりイリアスは別格のようである。

「ですがこれで尚書様にも証明できたでしょう。イリアスさんはさておき、尚書様程度ではこの結界は破れませんよっ!」

結界内をくるりとターンするラクラ。そりゃそうなのだが、なんか癪に障る。

「じゃあせっかくだし試しても良いか?」

「ふふんっ、もちろんですともっ!」

とりあえず周囲を見渡す、いい物発見。兵舎の壁に立てかけてあったスコップを手に取る。

「そんな物でこの結界が破れるはずがないじゃないですか。この結界は足元にも張られています。掘っても無駄ですよっ!」

「えーと、これが丁度良いか」

一旦スコップを地面に置き、近くにあったやや大きめの石を持ち上げる。

「うん? 石投げに切り替えるのですか?」

「いや、腰に悪いからそんなことはしない」

石を傍に置いてスコップに持ち変える。石をどかした場所にスコップを突き立てる。

「尚書様?」

「良し、これでいいな」

スコップを持ち上げ、結界の前へ。そしてスコップの中身を結界の上にぶちまける。当然ながらスコップの中身は結界に阻まれる。

「一体なに……をっ!?」

ラクラの頭上にある結界には土が盛られている。立方体なのだから当然乗せられた土は零れることなく広がる。

半透明で視界の良好な結界なので内側からその様子ははっきりと見えるだろう。

石の下に潜んでいた大量の虫やミミズが蠢く姿を。

「あ、あの、あのあの、尚書様っ!?」

さて、ラクラは結界内でも動けていた。瞬時に張れるわけだから自身を中心として常に動かす必要もない。逆を言えばこの結界は動くものではない。

つまりは本人がその場から離れるためには結界を解除する他ない。

「いやー、やっぱり硬いなー、さ、行くか」

「よくもまあ酷い事を当然のように思いつくな君は」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! これをどかしてくださいっ! せめて虫だけでもっ!」

バンバンと内側から結界を叩き、助けを求めるラクラ。

「手が汚れるからなぁ」

「洗いますからっ! 綺麗な水を出して洗わせて頂きますからっ!」

「内側で円錐状の結界でも張りなおせば良いだろ」

「この形の結界しか使えないんですぅっ!」

「あーあれだ。解除してすぐに風を出す魔法とかで吹き飛ばせば?」

「タイミング間違えたらこの密室で魔法が暴発するんですよっ!?」

「一瞬で結界張れるならいけるいける」

「できるかもしれませんが……やっぱり無理ですってっ!」

一瞬頑張ろうとしたが、失敗のリスクを頭に浮かべてしまい集中力が欠如してしまっているようだ。

「しかし立方体の動かない結界じゃ、毒液とか吐き出す魔物とかと出会ったら詰むんじゃないのか?」

「確かにな。一時的には防げるが真上に物が残るとなると……」

「円錐型か球状の結界にすべきだな、後は表面を色々弾きやすい感じにするとか」

「うむ、それが良いな」

「二人でまともな話をしてないでどうにかしてくださいーっ!」

その後本気でラクラを置いて行こうとしたら泣き出した上、ウルフェが放っておけないと言い出したのでイリアスに頼んで水魔法で洗い流してもらった。

ただまあ、それで安心して結界を解除したことで結界上に残っていた水を頭から被ることになったのだが。

「酷いですっ、尚書様は酷い方ですっ!」

兵舎の中で椅子に座り、イリアスの温風を出す魔法で乾かしてもらいながら文句を言うラクラ。

「自信満々で誇ってた結界の欠点を指摘してやったのに、酷い言い草だな」

「いや、あれは普通に人としてどうかと思うが……」

「ししょー、いじわる、よくないです」

「意地悪なものか、力量差ではラクラの方が遥かに上なんだ。それを知恵で上回って見せただけのことだぞ」

「その後が酷いって言っているんですっ! 本気で困っていたのに心の底からどうでも良さそうに置いて行ったじゃないですかっ!?」

「溜飲が下がったからな。満足してたわ」

「初日のような優しい尚書様と共に過ごしたかったです……」

「奇遇だな。こっちも大人の魅力が感じられたラクラが恋しい」

「悲しい相思相愛だな……よし、乾いたぞラクラ」

「ありがとうございますイリアスさん!」

そういえばこの二人も距離感縮まっていないか?似たもの同士惹かれあうものはあるのだろう。

されど脳筋とポンコツは似て非なるものだ。その差を理解していなければ酷い目にあうだろう、主にイリアスの手によって。

「さて、『犬の骨』に夕飯でも食べに行くか。ラクラはどうする?」

「ええと、今は持ち合わせが――」

「それくらいは出す。それよりも聖職者って肉とか食べても平気なのか?」

「ええまあ、ダメな理由があるのですか?」

おっといけない。この世界には牛を神聖視するヒンドゥー教や豚を忌み嫌うイスラム教は存在しないのだ。

「信仰を持つ人は生き物を殺して食べることに抵抗感を持っているものだと偏見を持っていた」

「確かに生命は尊いものです。だからこそそれまでの命に感謝していただいています」

宗教的な縛りはなく、シンプルに食への感謝を忘れないといった感じだろうか。日本のいただきますにも似ている感覚だな。

「なら問題はないな。ターイズに来たなら寄るべき店の一つになる予定の店だ。行くぞ」

首を傾げるラクラの手を取り、半強制的に『犬の骨』へ連れて行く。

自然に囲まれたターイズ、その隣国である平野が広がるガーネ、さらにその隣に位置する荒野を含むメジスの領土は海に面していない。

とは言えメジス程になれば隣国に海と接している国もあるようで塩の価格は気持ち二つ分安いらしい。

だが塩が嗜好品であり、希少価値の高いものであると言うことには変わりない。

塩の特性を活かした料理に舌鼓を打つラクラ。無論塩の存在だけではない。山や森に囲まれているターイズは他の国に比べ、香草や香辛料の種類が豊富で味の幅が広いのだ。

最近では黒狼族の住む魔力量の多い希少な森が発見されている。そこにある特異な香草等も市場に出回れば、周囲の食文化はさらに向上していくだろう。

そんなわけでラクラにターイズの発展途中である料理文化を満喫させたまでは良かった。

ラクラは酒に弱いと言うわけでは無かったのだが自制が利いていなかった。

美味しい食事に美味しいお酒、それらに喜び人の金だということを忘れての追加注文の数々。

結果酔い潰れたポンコツ聖職者を背中に乗せ、マーヤさんの教会を経由する遠回りの帰宅ルートを余儀なくされる。

体だけならイリアスやウルフェよりも立派に大人なのだが、内面は子供のままである。

「見事に潰れているわね」

「飲みっぷりから見ても初めてという感じじゃなかったんですがね。視線を逸らした隙に潰れてました」

「飲みすぎというよりかは酔い方かしらね。途中までは感情が高ぶって一定量超えたら眠気が来る。そんな感じの子だと思うわ」

確かに、深い酩酊と言うよりは健やかに眠っている。つまり叩き起こせば起きたのではないだろうか、労働力を返せ。

「持ち帰っても良かったのに」

「泊める場所がないです」

「そりゃあもちろん坊やの、ね?」

「酒で潰れた女に手を出す程飢えてません。今後の関係もある相手なら尚更です。だからそういう目で睨むなイリアス」

「君も男性には違いない。女性と深い関係を持つのは構わないが、流石に隣の部屋でとなると私も安眠できそうにないからな」

そりゃそうだ。こちらとて隣人に音を聞かせるような特殊性癖を持っているわけではない。

「一つ屋根の下で暮らし始めてからそこそこ経って、問題一つ起こしてないんだ。その辺は信用してもらってもいい気がするんだがな」

これでも色々気は使っている。何せ年頃の女の子二人と同居しているのだ。

トイレや風呂場、相手の部屋に入る前のノックは当然のこと。自分が利用する時も相手側のトラブルが起きないように注意を払っている。

ラッキースケベのような展開が起きてみろ。イリアスの加減なしの拳でデッドエンドだぞ。

「まあ、それは……そうだな、うん」

「部屋を借りてる立場で家主に迷惑は掛けないさ。そういう時は外泊する」

「良い心がけだ。……ところで時折外泊していた時があったのは私の記憶違いではないよな?」

「さて、帰るかウルフェ」

「はい、ししょー!」

「おい、何故話題を急に終わらせる。おい、待て!」

子供ではないので、プライベートな時間について詮索されるのはご遠慮させていただきます。

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ここはターイズ本国にある空き家。家主であった老人が死去した後、新たな住人が現れるまで束の間の休息を与えられたこの建物に、あるはずのない人影が存在していた。

その男は扉に触れる事すら無く閉じた扉を潜り抜ける。

その男は床の埃の上に足跡を付けることなく歩みを進める。

全身を黒い布で覆ったその男はまるで実体を持たぬ亡霊のように空き家の中を進んでいく。

辿りついたのはかつて寝室だった場所。しかしそこに人が寝泊りしている痕跡などは存在せず、ただ一つの水晶が粗雑に置かれている。

ユグラ教が使う秘術、マーヤやラクラがメジスにある本部と連絡に使うそれと同じものだ。

男のかざした手が水晶に触れ、水晶は仄かな輝きを放つ。

「報告を聞きましょう」

水晶から声が響く、その声はラクラの報告の後にウッカと話した者の声だ。

「ラクラは本日報告にあった協力者と城門、城壁にて探知結界の設置を行った」

「なるほど、時間は掛かりますが堅実な手段ですね。まともな協力者と出会えたのは本当のようだ」

「明日はドコラが残した地図を元に、拠点跡地の捜索を行うそうだ」

「即座に結界を広げはしませんか。道具の準備が追いついていないかあるいは様子見しながら範囲を広げていくつもりなのか」

「追加の指示は?」

「しばらくはラクラの様子見で良いでしょう。本の所在が分かるまでは見つからないことに専念してください。それと貴方の仲間をそちらに派遣しました。まずは合流し準備を整えることにしましょう」

「それはありがたい。ではしばらくは影に徹することにしよう」

「ラクラの設置した結界が発生する魔力波の波長の確認をお忘れなく」

「既に済ませているさ」

「余計な口出しでしたね。他に何か報告することはありますか?」

「協力者の容姿がやや物珍しい。黒髪に黒い瞳だ。魔力をほとんど感じないが隠しているような気配は感じられない」

「ふむ、魔族に見られる容姿ですが、その様子では珍しいだけでしょうかね」

「それと傍に白い黒狼族の娘が護衛としているようだ。錬度は話にならないが内在する魔力は計り知れないものがある」

「ターイズは最近黒狼族と交流を始めたと聞きます。有能な者を護衛として雇ったというところでしょうか」

「後はイリアス=ラッツェルと交流を持っているようだ」

「それが一番警戒すべきでしょうね。ターイズの剣術大会で優勝した女騎士ですからね」

「そうだな。ドコラを仕留めた張本人、アレと正面から遣り合うのは仲間が揃っても御免だな。報告は以上だ」

「分かりました、何かあれば連絡を」

「ああ」

通信が途絶える。男はほのかに輝きを残す水晶の上に布を放った。

布が完全に水晶に被さった時、男は既に闇の中へと溶け込んでいた。

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現在山の中をハイキング中なう。

本日目指すのは最初にイリアスと一緒に攻略した山賊の拠点だった洞窟だ。

ギドウとかいう巨漢の男が頭をやっていた一味である。最寄の拠点だけあって午前中に集合してから昼には到着できそうだ。

参加パーティはイリアス、ウルフェ、ラクラ。

先陣するイリアスが雑草をばっさばっさなぎ払ってくれるおかげで、以前よりもスムーズに進んでいる。

以前は奇襲のため、静かに進まざるを得なかったが今回は道を作るつもりで進んでいる。

「しかし昨日の記憶が途中からすっぱりと……」

「運ぶ方の身にもなってくれ、重くて大変だったぞ」

「お、重くありませんよっ!?」

「痩せてる太ってる関係なく、眠っている成人女性は十分重いわ!」

「ひぃんっ!」

そもそもイリアスが担げば良かったのだ。

だがそうしようとしたところ、カラ爺の奥さんに『女の子を背負うのは男の仕事だよっ!』と叱られ、背負う羽目になったのだ。

最初こそ役得感はあったが、数百メートルも歩けばそんな余裕は無くなったわ!

雑談をしながら登山をしているとあっという間に到着。イリアスの剣により道中の邪魔な草木のほとんどが散っていった。

黙々と轟音を立てて進む様は重機を連想しましたね、はい。

「よし、イリアスはしばらく休んでいてくれ。内部を軽く見てくる」

「……ああ、何かあれば呼んでくれ」

中に入る、懐かしい光景だ。ドコラが死霊術を使うため回収を行ったらしく死体などは残っていないが、やはりやや臭う。うーん、この地面の染みは血痕だろうか。

「少し空気が汚れていますね、浄化しましょうか」

「できるのか?」

「もちろんですっ!」

ラクラが魔法を使用すると周囲の空気が流れているような感触を得る。そしてしばらくして魔法の使用が止まる。

なるほど、便利なものだ。周囲の臭いだけではない、空気の質が変わっている。

ジメッとした洞窟にいた筈なのに、清潔な無菌室にでも入ったかのような快適さを感じる。

「くうき、おいしくなった!」

「人が死んだ場所などはやはり大気の魔力も濁りますから、こうして整える事で本来の環境に戻すことができるんですよ」

「そういえばメジスでは魔王の残した傷痕ってのがあるんだったな」

「はい、その辺になるとなかなか浄化が進まないのですが、徐々にその範囲は狭まっています」

環境改善の魔法かー、 地球(こちら) の世界にも欲しい魔法の一つだろう。

主に工場を乱立させている国々に教えてあげたい。

その後簡易結界を張るも当然ながら不発。目的を果たしたので今度はこちらの仕事だ。

洞窟内を見て周り、壁から浮き出ている鉱石のメモを取る。流石に拠点として使われていたとだけあって貴重な物は見つからないだろうが、仕方あるまい。

自然的な発見はなかったが、山賊達の備品が一部残されているのを発見した。

使い古された雑貨等はほとんど放置のようだ。金銭になりそうなものだけ回収された模様。木箱いっぱいの魔封石も見つけた。

買おうと思えば多少は金額が必要とされる魔封石だが、ここにあるのは小さく質の悪いものが多い。

これが機能するためには魔封石本体を魔法の範囲に放り込む必要があるだろう。

探知魔法を妨害する逃走用だから小さくても十分なのだが、これを他の用途に使用するのは難しいそうだ。

例えば騎士の武具に使われている魔封石は綺麗にカッティングされていたり球状に磨き上げられている。その大きさもそれなりだ。

加工できそうなサイズは……ないなぁ。確かにパッと見使い道はないかなーこれ、でもちょっと貰っていくか。

数個ほどポケットに放り込みラクラと合流する。帰ったら宝物入れにでも入れておこう。

こっちに来てから増えた私物は少ない。相方であるこの木の棒、服、そして家にこっそり保管している小さな木箱こと宝物入れが私物である。

物珍しいこの世界ではちまちました物でもなんとなく拾いたくなってしまう、そんな子供心を満たす入れ物だ。

今のところ散歩中に拾った大きなどんぐりや綺麗な石とかが入っています。

将来的には大きな箱を用意して、この世界での冒険の記念品などを集めるのも良いだろう。

その後、目印代わりの小さな洞窟も調査しに向かう。こちらは人の住めるような広さではないが進んでいくと地下水が湧いている場所があった。

水筒に汲み取り持ち帰って成分を調べてもらうとしよう。

「結局成果はなしです……骨折り損です……」

「今日の場所は元々ドコラの一味とは別の山賊の住処だったからな」

帰りの道をラクラと小声で話す。イリアスには本のことを説明していない。

ラクラとしては話してしまっても良いと言っていたが、こちらがやや困る。

と言うのもイリアスはドコラとの会話を聞いており、ドコラがこちらに餞別を残していたことを知っているのだ。

その後にカラ爺と本を取りに行った話こそ知らないが、本の話を聞けば関連付けられてしまう可能性は高い。そうなると色々情報が露呈してしまうだろう。

イリアスが騎士である以上、上に報告する義務があり、安易に事情を説明すると密告させる負担を強いらせてしまう。とラクラには説明して情報を伏せさせている。

今回の探検も資源調査の旨を伝えているだけだ。いつかは話したい所ではあるが、本の所在に関してはマーヤさんにも伏せている件だ。

さらに言うならばマリトと共に内容を解読する話は、イリアスにとって快く思わない事でもある。

彼女はこちらが悪の道に進もうとする事を良く思っていない。騎士としてと言うより同居人として、友人としての感情なのだろう。

だがマリトと決めたことである以上、イリアスが口を出す事は難しい。そうなれば相談できるのは親しいマーヤさんと言うことになる。

マーヤさんは寛容ではあるが死霊術といった禁忌に関しては別だ。ユグラ教の大司教としての立場を全うせねばなるまい。

秘密を抱えると言うことは心苦しさが満載だ。こちらから説明する前に露呈してしまえば関係の悪化すらありえるだろう。

無難に生きたい者にとって大きな秘密は持つべきではない。とは言えマリトの立場も理解できるし共感できてしまう。

メジスが単にこれらの本を封印して管理しているだけなのか、それとも秘密裏に研究しているのか。

本の管理と言う事実こそラクラの存在で確定したが、未だにその脅威すら計り知れていないのだ。

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帰り道を進みながら彼の姿を見る。彼はラクラと小声で話をしていた。

何を言っているのかは聞き取れない。だが無理に聞くのは躊躇われる。二人には二人だけの秘密があるのだろう。

ラクラは良い人物だ。真っ直ぐで聖職者としての実力もある。可愛らしいところも多々あってとても魅力的な女性だ。

初めこそ奇妙な距離感を保っていたが、今では私と同じような関係になっている。

彼は相手によって鏡のように対応を変える。私との関係も今では軽口を言い合う程度に打ち解けたものとなっている。

時折腹が立つこともあるが、遠慮がなくなって来たと思えば悪くない。

ラクラとの関係も似たような変化があったのだろう。

彼が気軽に話せる相手が増えた。それは良い事なのだが……。

「イリアス、つかれた?」

ウルフェがこちらの顔を覗き、声を掛けてくる。ラクラと彼が小声で喋っているため、こちら側に寄ってきたのだろう。この子は色々と察しが良い。いや、良過ぎるのだ。

この子の経緯を考えればもっと愚直に生きていても不思議ではない。それだけ今の生活を取りこぼさないために必死なのだろう。

それほど過去への恐怖が残っているのだ。事実、布団に潜り込むウルフェは時折震えていた。

「そうだな。早く帰ってゆっくりしたいものだな」

「イリアスはししょーとはなさないの?」

「話すとは、何をだ?」

「ししょー、いろいろかんがえてる。ウルフェをむらからつれだしたときみたい」

ふむ、と考える。彼は常日頃、色々なことを考えているのは知っている。

肉体労働が得意でない以上、それが彼の生き方となっているのだろう。

だがウルフェの言い方から判断するに、彼は進行形で何かしら企んでいると見て良いのだろうか。

「それはラクラと一緒にか?」

「ううん、ラクラはなにもかんがえてない」

それだけ聞くと酷い言葉だな。だがラクラにも伏せている企みがあるのか? だとすれば今彼がラクラと接しているのも……。いやいや、ただ仲が良いだけかもしれない。

「……うむぅ」

悩ましい、彼は過度の干渉を嫌う傾向がある。それでも頼られている自覚はあるのだ、その関係を崩すのは……。

母の友人であるマーヤとは親しい関係を保ってきたのだが、彼のような個人として知り合った相手との交友関係は今までに経験がない。

どれほどまで踏み込んで良いものなのかが掴めない。だが踏み込めるなら踏み込みたい……。

剣術には自信があるがこう言ったことには不慣れなのだ。

「斬って仲良くなれるなら、一瞬で両断するんだがなぁ」

「イリアス、それこわい」

怖がられてしまった。この子から怖がられるのは避けたい。一度手合わせした後に怯えられたのはなかなかに堪えた。気をつけなければ。