軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけで増えた。

同胞がセレンデで療養している間、俺達はそれぞれが暫しの休息を得ることとなった。逃亡したリティアルや、セレンデにいるとされるネクトハール達への協力者など、未だ懸念すべきことは残されている。だが優先しなければならないのは同胞の傷の回復だ。

俺達が気兼ねなく使用している回復魔法。その恩恵を受けられない同胞にとっては浅い傷でさえ生命に関わる問題となってくる。下手に手駒が近くに控えていては、無理をしてしまう恐れだってあるだろう。

「その意見には同感だけど、どうしてメジスに向かう予定がメジス魔界の方に向かってるわけ?」

「いや、時間がある時にやっておきたいことがあってだな……」

現在は『蒼』とダルアゲスティアに乗り、育ての父大悪魔ベグラギュドがかつて支配していた領地へと移動している。

ベグラギュドがラクラに倒されて以来、他の大悪魔達が縄張り争いを続けまともに入ることすらできなかったのだが、同胞と紫の魔王との一件以来メジス魔界を支配しようとする悪魔は存在しない。

気配を探れば下級の悪魔くらいはいくらか見かけるようだが、こちらに近寄ってくる素振りはない。もっともこの同行者がいる以上、近づけるはずもないのだが。

「自分の魔力に満ちた場所なのに、どうも馴染まないのよね?そもそも荒れ放題な土地だし、景観が悪いのよね?」

「そんで、『紫』が一緒にいる理由は何!?」

「私も少しメジス魔界に用があったからに決まっているじゃない?折角下級悪魔が群がらないように同伴してあげているのに、邪険にするなんて酷いわよ?」

てっきり同胞の看病に専念すると思ったのだが、紫の魔王とデュヴレオリも俺達に同伴してきている。紫の魔王の魔物に対する支配力は他の魔王よりも優れており、下級悪魔程度ならば他の国にいたとしても操れるのだが……こちらに同伴する意味は何なのだろうか。

「あんたね……。魔界にいなくても魔物に命令できるんでしょ、一緒に来る意味なんてないじゃない」

「メジス魔界に用があるのは本当よ?でも悪魔に運ばせるより、この骨ドラゴンに乗った方が揺れないし楽でしょ?」

「ロォォ」

「人の切り札を馬車代わりにしないでもらえる!?」

「それに、他の魔王の魔族が私の魔界で何をするのか興味を持っちゃダメなの?」

「管理を放棄しておいて、自分の領土扱いってどうなのよ……もう、エクドイク!さっさと目的を話しなさいよ!どうせ勿体ぶるようなことじゃないんでしょ!?」

「勿体ぶることでないのは確かだが……。レイシアをメリーアの元へ返してやろうと思ってな」

「……」

俺に人間社会のことを学ばせるために捕らえられ、殺されたレイシア。彼女の亡骸は俺がこのメジス魔界に埋めたのだ。だが彼女には帰りを待つ妹、メリーアがいた。ならばレイシアの亡骸はメリーアの元へと届けるべきだと判断したのだ。

「何かが変わるというわけではないが、俺にできる償いはできるだけやっておきたいと思ってな」

「……そ、そう。……良いんじゃない?」

「償いと言っても、ベグラギュドが勝手にやったことでしょ?生み出した私ならともかく、貴方が償うと言うのはおかしくないかしら?」

メリーアにも似たようなことを言われていたのを思い出した。感情としては決着させたつもりだったが、やはりどこか引きずってしまっているのだろう。

「ならば少しでも善行を積みたいと思った。そういうことにしておこう」

「ええ、それくらいの気構えの方が良いわね?何でもかんでも想いを込め過ぎたら重いだけよ?」

「それ、あんたが言う?」

「あら、あの人は私の想いくらい平気で受け止めてくれるもの」

ベグラギュドが根城にしていた土地はメジスとメジス魔界の境界線から近く、ダルアゲスティアならばそう時間も掛からずに到着することができる。

そうして到着した俺にとっての始まりの場所。昔とほとんど変わりのない光景ではあるが、思っていた以上に味気がない。既に俺の体はこの魔界に満ちている魔力を受け付けなくなっており、体の周りに結界を張っている。そのせいで肌に感じる感覚が薄れているせいだろうか。

紫の魔王とデュヴレオリはベグラギュドが利用していた場所を見にいくとその場を離れた。俺と『蒼』はレイシアが埋められた場所へと足を運ぶ。

「ここがそうなの?」

「ああ。どうやら無事のようだな」

不自然に積まれた土の山。ここにレイシアが眠っている。人間社会でまともな墓を見てきたおかげか、この無骨さには申し訳無さを感じてしまう。

「――確かに人骨があるわね。魔物に掘り返されたりはしなかったのね」

「悪魔が好むのは人間の血と肉だからな。埋めてから暫くは下級悪魔が寄ってきていたが、その間は俺が悪魔避けの結界を施していた。白骨化した後は特に何をしなくても平気にはなったな」

鎖を展開し、骨の埋められている場所を土ごとくり抜き、用意してきた木箱の中へと移す。これでこの魔界へと訪れた目的は達成した。他になにかすることはあるだろうか。この場所もそう遠くない内にメジスの聖職者達によって浄化され、人間の土地となる。もう来る機会もないだろう。

「自分の部屋とかはなかったの?」

「あったが……部屋にあったもので必要だったものはこの鎖だけだったからな。よし、もうこの場所に用はない。メジスに――」

何か強い魔力を感じ、鎖を展開して戦闘態勢になる。探知魔法で精確な位置を――上か!

「やはりエクドイク、か。逃げ出した者が今さら何の用だ?」

頭上に飛んでいたのは上級の悪魔、そしてあの歪に折られた角には見覚えがある。そうだ、あれは俺と同じくベグラギュドの側近だった悪魔だ。ベグラギュドが倒された後、他の大悪魔の傘下に加わっていなかったから、ベグラギュドと一緒にラクラに倒されていたものとばかり思っていた。

「お前は……生きていたのか。いや、お前こそどうしてここにいる?全ての悪魔は一度紫の魔王の招集を受けたはず」

ターイズでの一件や、緋の魔王との戦いで名も役職も与えられていない上級悪魔はほぼ死に絶えた。生き残っていた者は全てバトラー・アーミーとして新たに紫の魔王の側近として控えているはずだ。こうして上級の悪魔がメジス魔界にいる事自体不自然なことなのだ。

「私が仕えるのはベグラギュド様のみ、故に抗った。それだけの話だ」

「……命は惜しくなかったのか」

紫の魔王の命令は悪魔にとって絶対。それに抗えるのは力を持つユニーククラス、大悪魔として名を持つ者達だけだと思っていたが……この悪魔はユニークの一歩手前まで力を付けていたのだろう。

招集に応じなかった大悪魔達は、仮面の力を与えられた悪魔によって強引に引きずり出された。力を持ち、それでいて上級の枠に残っていたからこそ運良く紫の魔王の招集から逃れることができたというわけか。

「元より惜しむ命などない……捧げるべきだった命がこうして残っていることは屈辱でしかないが……」

「統治する悪魔がいなくなってからも、この場所を守り続けていたのか。だがこの場所もそう遠くない内に人間達によって浄化されることになる。紫の魔王が人間達と交渉した結果の話だ。悪いことは言わない、紫の魔王の傘下に入れ」

「――世界は変わりつつあるのだな。だが私はこのままで良い。人間共がこの地を侵そうと言うのであれば、この身が滅ぶまで抗うだけのこと」

通常の上級の悪魔に比べ大分自我が強い。やはりこの悪魔、ユニーククラスへと届きつつあるな。これを放置しておくのはメジスにいる人間達にとって脅威になりかねない。

「あら、報告にあった羽虫はここにいたのね?随分と半端に成長しているじゃない?」

「――ッ!?」

空を飛んでいた悪魔が地面へと叩きつけられる。デュヴレオリがその羽根を毟り取り、尻尾で四肢を拘束していた。そしてその傍らには紫の魔王が物を見るような視線で悪魔を見下ろしている。

「紫の魔王……メジス魔界に来たのはこの悪魔が目的だったのか」

「ターイズで悪魔を呼び出した際、一応観測はしていたのよね?その時は上級悪魔一匹の離反程度、大悪魔さえ確保できれば後はどうでも良いと思っていたのだけれどね?もしもこれが人を襲えば、私と彼の約束が違えてしまうことになるでしょう?でも助かったわ?目的の一つがあっさりと見つかってくれてね?」

紫の魔王を味方に取り込む為、同胞がメジスと取り決めた約束の中にメジス魔界にいる魔物の無力化がある。確かにこの悪魔が浄化を行なっている聖職者達を襲うようなことになれば大きな問題になっていたかもしれない。

「主様。この者の処分、いかがなさいますか」

「半端ではあるけど、ユニーククラスとしての素体は貴重なのよね?でも私に逆らった不出来な悪魔であることも事実……さて、どうしようかしら?」

「……この地を守り続ける私の在り方が、貴方様にとっての敵対行動となるのであれば、殺してくださっても構いません。私は貴方様にお仕えすることはできないし、ベグラギュド様の残された領地を守る役目を捨てるつもりもありません」

悪魔は抵抗することなく、静かに首を下げた。デュヴレオリの強さを実感してしまえば、抗おうとする気力など湧かないのだろう。

だがその悪魔の姿を見た紫の魔王の瞳に、微かだが興味の色が宿ったように感じた。

「擦れているけど、面白い自我を持つ個体ね?そうね……良いことを思いついたわ?私に仕えなくても良いわ、代わりにそこの男の下に付きなさい?」

「……は?」

紫の魔王の視線は俺へと向けられている。どうやらそこの男とは俺のことらしい。突拍子もない発言に誰もが唖然としてしまっている。

「貴方はベグラギュドの残したものを守れればそれで良いのよね?大悪魔にとって最も価値があるのはユニークとして得た特異性、ベグラギュドの場合は『盲ふ眼』となるわ?ならその眼を受け継いだエクドイクを守ることは、貴方の生きる意味として悪くないんじゃない?」

「……そうなのか?」

いや、俺に聞かれても困る。俺がこの眼を与えられたのはベグラギュドの所有物としての象徴としてのはずだ。託されたのとは違うような気もする。

「ほら、デュヴレオリ、唯一の大悪魔としての見解を言いなさいな?」

「はっ。……今私の中には十一の特異性がある。一つは自前だが、残るは他の大悪魔から引き継いだものだ。奴らは死に、その場には何も残らなかった。領地も、肉体も、名前すらも、確固たるものとして残ることはない。だがこの力だけは確かに奴らが大悪魔として成った証として残っている」

「……エクドイクを守ることが……ベグラギュド様を守ることに……?」

「断言するつもりはない。だが、それが最も近しい行為だろうと私は考える。少なくともこんな何も残らない土地で死に絶えるよりはな」

悪魔が何やら深刻そうに考えている。しかしデュヴレオリの視線がどこか泳いでいるのは気のせいか。突然の持論を展開した紫の魔王に合わせているだけのような気がするのだが。あ、紫の魔王も視線が泳いだぞ。

「……魔王様、もしも貴方様がお許しになってくださるのであれば……そこの男の配下に加わりたいと思います」

「許すも何も、そう命じているのよ?拒否するのであればここで殺すだけ、選択肢なんて与えるわけないでしょう?」

「感謝致します」

どうしてこうなったかは分からないが、どうやらこの悪魔は俺の部下になるらしい。紫の魔王は一体何を考えているのだ?こんなことをして一体何の得があると言うのだろうか。

「ちょっと、勝手に話を進めないでもらえる?エクドイクは私の魔族なのよ?」

「あら、貴方の魔族とやらが部下の一人もいないのはみすぼらしくないの?」

「ス、スケルトンとかに命じればエクドイクの指示にだって従うわよ!」

「その中に明確な意思を持った魔物はどれだけいるの?骨ドラゴンくらいじゃないの?」

「ぬ、ぐ……。それに貴方の魔界の魔物でしょ!?クアマ魔界に適合しないわよ!」

確かにそれは問題だ。俺も『蒼』もこのメジス魔界に漂う魔力は毒に近い。簡易的な結界で問題なく行動はできるが、四六時中維持を続けることは難しい。この悪魔もクアマ魔界で活動させる場合、常に負担を強いることになる。

「適合させれば良いんでしょう?ほら、さっさと魔力を貸しなさい?」

「……わかったわよ。ほら」

渋々顔で『蒼』が紫の魔王に手を差し出す。その手を取った紫の魔王は、もう片方の手で悪魔へと触れる。これは何かしらの処理を施しつつ、『蒼』の魔力を利用しているのか?

「悪魔は元々肉体を自在に変化させられるのよ?少し弄れば別の魔界の魔物として適合させることができるわ?私としては言うことを聞かない出来損ないを追い出せて、貴方達はユニーククラスに近い個体を配下に加えられるのよ?悪くないでしょう?」

「そんなことができるのか……」

かつて紫の魔王は自身の感情をコントロールし、異形の魔物を生み出していたこともある。魔物を弄る能力に関してならば他のどの魔王よりも秀でていることは確かだ。

暫く様子を見ていると悪魔の体が石のように変化し、ピクリとも動かなくなった。魔力の流れを感じることから死んではいないようだが……。

「サナギのようなものね?私の魔力で作られた体を捨て、『蒼』の魔力を使って新しい体へと変化しているのよ?」

「え、悪魔って虫みたいなものだったの?」

「普通に変化させても良かったけど、ぐずぐずに溶けた肉塊が蠢く様を見たかった?」

「……配慮に感謝する」

などと言っている内に石化した悪魔の表面に亀裂が入り砕けていく。そして中から現れたのは……人の形をした存在だった。

ただの人ではなく、悪魔特有の角や尻尾などが生えている。以前同胞が話していたサキュバスとか言う個体の特徴と一致している気がする。

「な……な……なんで雌型なのよ!?」

「デュヴレオリや他の大悪魔、バトラー・アーミーは全部雄型でしょう?たまには可愛らしい個体も造りたくなるわよ?それにその悪魔なら、あの人と私の邪魔にもならないし?」

「あんたって奴はぁ!?ワザとね!?愉しんでやってるわね!?」

どうやら悪魔に性別があるのではなく、紫の魔王が調整した結果らしい。個人的には普通の悪魔の姿の方が機能性に優れていると思うのだが。

「これが……私……?」

「ええ、そうよ?蒼の魔王の魔力を直接付与されているから、すぐにユニーククラス程度の力は身につくと思うわ?名前は蒼の魔王か、エクドイクにでも名付けてもらいなさい?悪魔ってネーミングセンス悪いのよね?」

「……主様、私の名は……」

「発音しにくいのよ。デュヴレオリって」

「――」

明らかに怒っている『蒼』、固まっているデュヴレオリ、困惑している悪魔。それらを見て満足気な顔の紫の魔王。同胞はこの人物を相手によく立ち回っているものだ。