作品タイトル不明
そんなわけで元気を貰ってしまった。
戦いが終わってから一週間が経過した。現在の状況だが、セレンデの治療施設に入院をしております。
普通剣で斬られて一週間で完治するわけがないんだよな。なのにどいつもこいつも退院していて、安静にし続けている自分が馬鹿みたいで悲しくなる。
「ししょー、果物剥きました!」
「ん、ありがとうな」
ハークドックとかさ、リティアルに首斬られて出血死直前だったって聞いたのにさ、昨日爽やかな顔でお見舞いに来やがんの。しかも果物のチョイスが一番センス良いでやんの。『紫』も片腕が酷かったって聞いていたのに、いつも通りだったし、何故か胸の傷だけ少しだけ残して見せてくるのな。
「ウルフェも少し食べたらどうだ。流石にこの量を一人で食べさせては通常の食事が入らなくなるだろう」
「そうだな。ウルフェも食べてくれ」
「はいっ!ご相伴に預かります!」
全員退院しているものだから、果物のお見舞いが増えること増えること。おまけにワシェクト王子からも届いてくるものだから、部屋が果実の匂いで満たされてしまっている。ドリアンとかなくて良かったよ、ほんと。
「正直もう退院しても良いんじゃないのかなって気分なんだが」
「一人で服を着替える時、うめき声が漏れないのであればな」
「痛い時は痛いことを声で表現することは大事なんだぞ」
マリトからも『馬車に揺られて痛まないくらいに回復してから帰ってくるように』と釘を刺されている。肉体面に関して割れ物扱いは免れない定めなのだが、今回は戦いが終わったこともあって、それがより顕著になっている。
「ししょー、ラクラ達が帰ってくるまでは安静にしましょう。ウルフェが暇潰しに付き合います!」
「おう、ありがとな。でもたまにはセレンデの街並みとかを楽しんでもいいと思うぞ」
「それはししょーと一緒に楽しむから大丈夫です!」
こちらが入院している間、他の連中はメジスやクアマへと里帰りのような状態になっている。今セレンデにいるのはイリアス、ウルフェ、ミクス、そしてケイールとなっている。ケイールは出立当時にはいなかったのだが、応援として送られてきた騎士達の中に加わっていた。今はセレンデの街並みを歩き、その光景を目に焼き付けている頃だろう。
メリーアはラクラ達と一緒にメジスへ、マセッタさんはハークドックの付添いでクアマ魔界へと向かっている。メジス側の監視が綺麗にいなくなっているが、勿論代役はいる。
「んで、そっちも食うか?」
「そうだな、いただこう。リリサ、いくつか取ってもらえるかな?」
「ええ、貴方はこれが好きだったわよね?」
この部屋は別の患者一人と同室。その患者さんとはメジス聖騎士団団長のヨクスである。アークリアルに敗れたヨクスは数日前まで危篤状態だったが、無事峠を乗り越えることができた。それでも衰弱状態ではあったので、治療は最小限のものを続け、一昨日ようやく意識を取り戻したのだ。
ただそこからの回復はやっぱ異世界人だった。後遺症を抑える為、体力の十分な回復を待ってから治療を再開する状態なのだが、どうみてもこちらより元気だ。
そもそも起き上がって他の聖騎士と一緒に帰ろうとしていたくらいだ。今はメジスから駆けつけてきたリリサさんに咎められ、素直に入院生活を受け入れている。
そんなわけで現在メジスの監視役はエウパロ法王の世話役であるリリサさんが担っている。メリーアとマセッタさんには暫くの間休暇が命じられたのだ。
「ああ、だが少し多くないか。そして剥く速度が速くないか」
「はい、あーん」
「……あーん。美味いな。やはり君が剥いてくれる果物はひと味もふた味も違う」
恋人同士のイチャつきを見せられるのはちょっとあれなんだが、こちらも似たような真似をしてくる連中がいるので文句は言えない。むしろヨクスが一緒の部屋にいてくれるおかげで襲われずに済んでいるのだ。
「……ししょー」
「やらんでいい。それを許すとミクスが自重しなくなる」
「……世知辛い」
「別に構わないだろうに。君は相当な硬派なのだな」
「顔つきと貫禄だけなら、お前の方が数百倍は硬派に見えるんだがな」
リリサさんに抱きつかれながら果物を食っている聖騎士団団長。メリーアが見たらどんな顔をするのやら……。エクドイクに同じことをしたいと思うくらいか。
「しかしよくあのアークリアルを退かせることができたものだ。イリアス=ラッツェル、君のその剣はまさしく世界一と言っても過言ではない」
「過言だと思うのだがな……。私は受けに徹しただけで、貴公は挑まねばならなかった。条件が同じならきっとそこまでの差はなかっただろう」
下手な謙遜だ。アークリアルを倒さねばならない条件ならば、確かに結果は同じだったのかもしれない。だがヨクスではあのアークリアルの攻めを防ぎ続けることは難しかっただろう。ヨクスもそのことを理解しているのか、苦々しく笑ってみせた。
「謙遜はまだまだ下手だな。他国の最強の騎士の賛辞だ。素直に受け取っても構わないと思うのだがな」
「勿論嬉しいとは思っている。だが私にとっては、ここにいる彼の剣として役割を全うできたことが一番の喜びだ」
「なるほど。それは私の賛辞よりも遥かに素晴らしいものだ。粗品を送りつけてすまなかったな」
「いや、粗品などでは……」
イリアスが慌てふためく感じは見ていて楽しい。じゃなくて、愉しんでいるな、ヨクスの奴。
「もう、からかわないのヨクス!ごめんなさいね、ヨクスってば内心嫉妬しているのよ」
「内心ではないさ。イリアス=ラッツェル。紫の魔王の一件から私は同じ騎士として君のことを意識していた。私は成果を得られず、君は大成果を挙げた。素直に皮肉混じりに嫉妬くらいさせてくれても良いだろう?」
「それは……」
「ここは笑って鼓舞するところだ。ならば次は私よりももっと成果を挙げて見せるのだなと。そして私はこう返す、次はきっと君に嫉妬される程の活躍をしてみせようとね」
ヨクスが笑うと、イリアスもそれにつられて笑った。元々堅物同士、性格的な相性は良いんだよな。まあ恋愛面ではイリアスの遙か先、異次元にまでリードを広げていそうだが。
「で、も、私の前で他の女性に笑いかけるのはどうなの?」
「それはすまない。その埋め合わせとして、これから君だけに微笑み続けることにしよう」
「笑顔以外の顔も素敵なのだから、私だけを見てくれればそれで十分なのよ?」
ヨクス達がまたイチャつき始めたので、仕切りのカーテンを閉めた。果物を食べながら甘い光景を見せられてちゃ胸焼けする。何か塩味のやつが食べたい。
「ところで、ラーハイトは最後、君に何かを言おうとしていなかったか?」
「メジスに潜入していた時に使っていたラールハイトの体、あれを埋葬してくれってところだろ。何もしなきゃ、またメジスの施設に封印され続けることになるだろうからな」
「そうか……だが難しそうだな」
「そうでもないさ、実はエクドイクに根回ししてその体は回収させてある。ラーハイトは中層で死体を爆破して攻撃をしてきたからな、肉体の一つや二つ紛失していてもそのせいにできるさ」
憎き敵だろうと約束は約束だ。あんな奴を友として受け入れた善人の亡骸くらいは丁寧に埋葬してやるとも。
「つくづく君は抜け目がないな。だが君らしい」
「残る懸念はリティアルだが……それは後々向こうから接触があるだろうから、その時でいいな」
蘇生魔法の構築を記録した魔石は『蒼』が発見して破壊した。これでリティアルはネクトハールから蘇生魔法の構築方法を得るすべを失った。だが過程の報告がてらにある程度の知識は受け取っているのだろう。
それこそバラストスのような魔法に精通した人間を見つければ、再び蘇生魔法を手に入れることも十分に可能だ。
だが今回の戦いにおける戦力はリティアルが長年を費やして用意したものだった。リティアルにはもうこれ以上の戦力を用意することはできないだろう。ならばこちらの妨害を防ぐよりもリティアルは交渉の道を選ぶ。
「本当にくるのだろうか?」
「多分な。そうなるようにモラリやヤステトにはちょーっとばかり熱血指導をしておいたし」
「あれか……君があれだけの熱意を持って誰かを説得した光景は……あれが演技……」
そりゃあいつものトーンで説き伏せることもできなくはなかったよ?だけどね、リティアル程の相手に仕掛けをするのなら、人の心としての熱は重要な武器となりうるのだ。
そりゃもうスポ根ドラマに出そうなくらいな熱血演技でしたとも。最初はモラリもヤステトも引いていたが、最後には目に炎が宿ってたね、うん。
「別に本心には違いないんだから、問題ないだろ」
「元々熱い性格なのは知っているがな。ただあれは何かが違って見えた」
「よそ行き用の顔ってのはな、笑顔だけじゃないってことさ」
リティアルはモラリやヤステト、自らが仲間として引き入れた落とし子達に対して負い目を持っていた。その彼女達から熱意の込められた説得を受ければ、多少なりとも心を揺さぶられることになるだろう。それがこちらの思惑通りだとしても、モラリやヤステト達の思いは本物なのだから。
「ふむ、仕切りが閉められていたので寝ているかと思ったが、女を侍らせてお楽しみの最中だったか?」
「それは隣の患者だな。お見舞いに来てくれたのか、ワシェクト王子」
仕切りを開き、ワシェクト王子が姿を現した。手には何か籠のような物が握られているが、まさか追加の果物じゃないだろうな。
「ワシェクトで構わん。魔王を倒した英雄相手に偉そうにしていては心が小物になる」
「それじゃそうさせてもらうよ。気分が変わったらいつでも変更は受け付けるからな」
ワシェクトからの見舞い品は散々届いていたが、本人が直接やってくるのは初めてだ。これは何か話でもあるのだろう。
「ちなみに見舞い品だが、遺跡から発見されたなんだか元気を貰えそうな石像だ」
ぽんと置かれた手のひらサイズの石像。人がなんだかよくわからないポージングを取っているが、確かになんだか元気が貰えそうだ。
「今の状況じゃ果物よりかは良いチョイスだな」
「随分な量だな。私が果物を贈っていたのだから、他の者は別の物を持参すれば良いものを。いくつか持って帰るか」
「そうしてくれ。腐らせるのも悪いからな」
ワシェクトは果物を一つ手に取り、そのまま齧りつく。コクコクと頷いているが、これは自分のチョイスに満足している顔だな。一番美味かったのはハークドックの選んだヤツなんだがな。
「ところで貴公は暫くセレンデに滞在するつもりなのだろう?」
「――セレンデ王にでもそう言われたか?」
「まあな。その理由も色々考えてみたが、今日はその答え合わせをしようと来た次第だ」
「答え合わせをするなら先に答えを言えよ」
「自信たっぷりに回答して違ったらどうする。私に恥を掻かせたいのか?」
こいつも結構いい性格してるよな。仲のいい相手には本当に遠慮しないって感じで、結構友達減らしてるだろうな。ただ親友は多そうだ。
「漠然とでもいいんだぞ」
「そうだな。父上――セレンデ王は貴公の目的に協力するように私に命じた。つまりは国外の者に国内で動いて欲しいと言った目論見がある。つまりはこのセレンデの何かしらの問題を貴公に解決して欲しい、といったところだ」
「交渉のし甲斐がなくて助かる答えだこと」
セレンデ王はこちらの今後の方針を予測していたようだな。やっぱり王様ってのは名ばかりじゃないんだなってしみじみ。ゼノッタ王もなんやかんやでなんやかんやだし。
「それで答えは?」
「ネクトハール達の協力者の炙り出しだ。レイティスとしての組織もそうだが、その中にはエルフとかはいなかった。そんな連中がセレンデに居を構えていた」
「食料などを補給する人間がいれば目立っただろうな。なるほど、亜人、それもエルフやドワーフのようなセレンデ出身の協力者がいると言う訳か」
トリンではソライドが町のごろつきを恐怖で従え、リティアルに恩のある商人の商館を拠点としていた。ならばセレンデ側にも地元の協力者くらいいても不思議ではない。
「セレンデ王がこちらに任せようとしている理由は、それなりの権力者が介入している臭いでも嗅ぎ取っているんだろうな」
「そしてこの私だけがその可能性がないと信用され、協力者として適任だと選ばれたわけだな。流石は父上、私の清廉潔白な在り方を見抜いておられる」
「まあうん、ないだろうよ。そこまで自分を偽らなきゃな」
セレンデ王の判断基準として、既に『俺』とワシェクトにはある程度の接触があったと言う点があるな。妨害もされず、スムーズに協力をしてくれたワシェクトがネクトハール達の協力者である可能性は極めて低い。
セレンデ王としては『そいつなら多少は信用できるだろ、貸してやるから国内の膿取りをよろしく』と言った感じか。人任せな感じではあるが、こちらの目的を汲み取った上で効率的な判断だ。
「しかし蘇生魔法を手に入れようとした魔族の協力者か……意外と第一王子や第二王子、第一王女あたりが協力者なのかもしれんな」
「身内三人をいきなりぶった切るなよ。どれだけ胡散臭い一族なんだよ、お前ら」
「失敬な。私や妹はセレンデの光と言っても過言ではない王族の鑑だぞ」
「お前が妹好きなのは分かった。だけどそのへんの情報集めは『俺』がここを出てからな」
「それでは私はそれまでの間、何をして暇を潰せば良いのだ」
「普通の仕事しよ?王子でしょ?」
協力者として申し分ないはずの男なのだが、他にもっと良い奴がいるんじゃないかって思いたくもなる。