軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけでまだ終わらない。

アークリアルが剣を鞘へと戻す。どうにか奴の戦意を喪失させることに成功したようだ。

あらゆる才能を生み出し、最強の力を手にしていた湯倉成也と同等の剣術センスを持つような奴を相手に、まともに勝てる見込みなんてあるわけがない。だから折るのは奴の剣ではなく心、奪うのは命ではなく戦意だ。

人は対価なしに得たものに対し、価値を見い出せない生き物なのだ。己を磨くことも、強くなることも知らないアークリアルにとって、最強の座は大した価値がない。

だが、そこがアークリアルにとっての急所ともなる。奴にとって、相手を倒せないストレスは自身のプライドを刺激する良い要素となっていた。

最初はヨクスを倒した時と同じように、イリアスを容易く切り伏せ、その才能によって大きく動かされる自身の肉体への変化を楽しむ程度だったのだろう。『ああ、こいつには思った以上に体が反応した。ここまで体が動くなんて、感動的だ』くらいの。

しかしイリアスは決して攻め込まなかった。奴の落とし子としての才能を発揮できないように、守りに徹し続けた。ここでアークリアルには小さな意地が生まれた。

『自力でイリアスを倒したい。反撃による楽な勝利ではなく、自らの攻めによる勝利をこの手で掴みたい』

だがイリアスの守りは堅かった。加えて『俺』の横槍によって、数少ない活路である奇策を封じられてしまったのだ。それでもアークリアルは勝利を欲した。イリアスに勝ちたい、どうにかして、どんな手を使ってでも。

攻めあぐねたアークリアルは最終的に『俺』を囮にイリアスに攻撃をさせようとする。それを読んだ『俺』はイリアスに約束をさせた。もしもアークリアルが『俺』を狙った場合、何があっても反応してはいけないと。

イリアスが間に合った場合、俺を守る為に振るった剣によって反撃を受けて負ける。間に合わなかった場合でも、アークリアルに『これは有効な手段だ』と理解させてしまうことになる。だから『俺』を狙うことの価値を奪う必要があった。

例え『俺』を殺しても、アークリアルにはイリアスを倒すことができないとなれば、奴にとって『俺』を殺すことは無駄以上の負債となる。

どちらにせよイリアスを倒せないのならば、先程まで抱いていた『イリアスを正面から倒したい』という意地を守る。それがアークリアルと言う人間だ。

「降参するのか?」

「ああ、そうだよ。いや、降参も何もないけどな。いつまで経っても殺せない相手、殺しにこない相手に時間と体力を費やしたくなくなった」

「少なくとも『俺』は殺せただろうに」

「最弱を一人斬って終わりとか、誰も殺せないよりも惨めだろ。つか、俺がそういう奴だって、分かって聞いてるんだろ!?」

勿論分かっている。だがこの会話も必要な行為だ。アークリアルは先程まで熱心にイリアスの命を狙っていた。戦意が折れたとは言え、また何かしらやる気が復活する可能性は残されているからだ。この念押しするような嫌味な会話はアークリアルの心のクールダウンを促す意味合いを含んでいる。

「やる気をなくしたフリをして、ざっくり仕掛けてくる可能性もあるからな」

「考えはしたけどな、俺がそう思ってもお前が見破るだろ」

「まあな」

アークリアルは大きな溜息を吐き、遺跡とは違う方向へと歩いていく。もうこの戦いには関わらない、これは奴なりの降参宣言なのだろう。

「一応助言しとくけどな、アークリアル。お前は戦い以外に楽しみを見つけた方がいいぞ。落とし子としての才能を活かしたところで、得られるものの価値は大したもんじゃない。がむしゃらに剣を振っていた方が、まだ熱くなれただろ?」

「……ちなみにオススメとかはあるか?」

「そうだな、農業がオススメだな。雑草を処分する分にはその剣技は役立つだろうしな」

アークリアルは返事をすることなく手を振って去っていった。これでもう大丈夫、地下を攻略してる皆にアークリアルの脅威が及ぶことはもうない。

安心したと同時に全身の力が抜け、倒れそうになったところをイリアスに抱き止められた。ああ、一番の功労者だってのに、もう少し良い顔をすればいいものを。

「止まってないではないか!?君は奴が必ず剣を止めると言っただろう!?」

「いや、あいつも止めようとしていたんだが……思った以上に体力が奪われていたっぽいな。無自覚の心は読めても、体力の残量は読めなかった」

「もういい、早く治療をしなければ!」

振り抜かれてはいないが、最弱が最強の一撃を肩に受けたのだから無事ではない。イリアスは急いで『俺』の荷物から治療道具を取り出し、治療を始めていく。回復魔法が使えない分、消毒、止血、縫合などとやるべきことが多いのだが、テキパキと行なってくれている。

「練習してくれてたんだな」

「君を守るのが私の役目だ。剣を振る以外にもできることがあるのならば、それを身に付けることは当然のことだ」

きっと『俺』ならどこかで無茶をする。緋の魔王の洞窟や碧の魔王の城でやったこと辺りから、そんなことを考え続けていたのだろう。

脳筋のイリアスが騎士として必修である回復魔法以外に治療行為を学ぶとは、随分と影で努力していたことに違いない。学ぶだけではなく、学ぶ相手も見つけなければならないわけだからな。

「――極力無茶はするつもりはなかったんだがな」

「信用できない言葉だな」

「本当だって。おかげでまたイリアスに借りができた。コツコツ返してたんだが、まーた増えたぞ」

この傷、もしもイリアスが応急手当の技術を学んでいなければ、結構危なかったかもしれない。つまるところ、命の恩人再びってわけだ。

この異世界で安心して生活できる居場所を与えてくれた恩をちまちまと返していたんだが、本当に返しきれるか怪しいところになってきた。

「君はな……いや、いい。その話はまた今度だ。この薬で良いんだよな?」

「ああ、造血剤だな。ただ調合しておいて言うのもなんだが、ものっすごい苦いんだよな……いや、飲むから。睨むな睨むな」

うおぉ……苦いし、丸薬を飲み込むだけでも傷が痛む。だが痛みがあるうちは生きている証拠、そう割り切るとしよう。

一通りの処置を終え、命に別状はなさそうだと判断できたイリアスはほっと安堵の息を吐いた。内心相当に焦っていただろうに、よく耐えてくれたよ。

「ふぅ……緋の魔王に追いつめられた時以上に生きた心地がしなかったぞ。守るべき相手が殺されそうになると言うのに、それを堪えろと……。しかもアークリアルの奴は剣をしっかりと止めないときた」

「悪――堪えてくれてありがとうな。おかげで最強の男を足止めすることに成功した。全部イリアスのおかげだ」

緋の魔王の時は体が動く限り立ち続けられたが、今回はその意思すら許されない状況だったわけだからな。必要なことだったとは言え、イリアスにとってあの方法はかなり精神的に負担のくるものだっただろう。

「全部などと簡単に投げ捨ててくれるな。この傷を受けた覚悟は、誰にも奪うことの許されない君だけの功績だ」

遺跡の入り口まで移動し、通信用の水晶を起動する。合図だけならばエクドイクの鎖などで伝わってきたのだが、具体的な情報はやはり言葉を使わなくてはならない。

向こう側でも非戦闘状態の時は通信用の水晶を起動するように言ってあるから、これで直ぐに繋がるはず――

『――同胞っ!?大丈夫か!?』

『――ご友人っ!?ご無事ですか!?』

エクドイクにミクスの声が耳に響く。さてはこいつら、水晶の前で待機してたな?

「別々のチームなのに息ぴったりだな、おい」

『喋れているのなら平気でしょ?こっちは既に情報共有は済ませてあるわ?アークリアルの方はどうだったの?倒せたの?』

「倒せてはいない、お帰り願っただけだな」

『撤退させることに成功したわけか……。流石だな、同胞』

「とりあえず状況をまとめたい。ネクトハールはどうなった?」

各チームと情報共有を行い、事の顛末を確認していく。セラエスは死亡、リティアルはモラリ達と共に離脱。ラクラがラーハイトに体を奪われるも、そのままの拘束に成功。そしてネクトハールも消滅した……か。

魔族の体では魔王になることはできなかったのか。ま、なれるのなら無色の奴だって自分を魔王にしてただろうしな。

「ご友人っ!?ご無事じゃないじゃないですか!?」

「おい、絶対に揺らすなよ、叩くなよ、泣くからな」

最初に戻ってきたのはミクス達。マセッタさん以外結構な負傷をしていて、特にハークドックは目に見えて重傷だった。応急処置のおかげで命こそ取り留めているが、誰よりも治療を優先させなければならない状況だった。

「ワシェクト王子に連絡して、セレンデの治療施設を使わせてもらおう。マセッタさんは付き添いを頼めるかな?」

「ええ、勿論。ほんと、死にかけだってのにいい顔で寝ちゃって……」

ハークドックは事が済んだことで緊張の糸が切れ意識を失っているが、その寝顔はどこかやりきった満足感に満ちていた。あのリティアルを倒したジャイアントキリングっぷりだし、きちんと褒美をやらなきゃな。

「戻りまし――し、ししょーっ!?」

「気持ちはわかるが、そこで瀕死のハークドックの方を心配してやれ」

次に戻ってきたのは下層に向かっていたウルフェ達。エクドイク達はラーハイトに人質にされていた人達を安全な場所に移してから上層に向かっている分、少しばかり時間が掛かっているようだ。最終的な救助は後続して潜る騎士やバトラー・アーミー達に任せるにしても、ある程度の救助活動はしておかなければならないしな。

とりあえず『紫』にネクトハールとの戦いの後の話を確認しておく。他のチームとの情報共有を行なっていた『紫』以外の全員でネクトハールの研究室を調べたそうだ。

「下層はしっかり調べたのだけれど、ネクトハールが残したと推測される蘇生魔法の構築方法を記した媒体は見つけられなかったわ?」

「ラーハイトとリティアルのルートは元々通れないようにしていたからな。手渡しってことはないだろう。考えられるのは小動物が通れる程度の穴を使い、中層に届ける方法とかだな。蘇生魔法を手にしようとしていた二人は無力化できているわけだし、焦る必要はないだろう」

後の捜索は信用できるターイズの騎士、そしてバトラー・アーミーの者達が行うことになる。バトラー・アーミーからすれば蘇生魔法は自身には使えず、新たな上位存在を生み出すだけの厄介な魔法だ。こちらを出し抜いて悪さをするような真似はしないだろう。

ハークドックとマセッタさん、グラドナとバンさんは先に撤収させる。負傷の度合いを考えればミクスも早く休んで欲しかったのだが、こちらが帰るまで付き添うと言って譲らなかった。

「ご友人は魔法による回復ができないのですから、本っ当にご自愛して欲しいのですぞ!」

「言われなくとも、これが終わったらしばらくは一切の仕事を断って休暇を取るさ。セレンデの観光でもするかなー」

「その時は是非私も。しかしご友人だと新しい国に行く都度に厄介事に首を突っ込んでいますからな……」

一応メジスではまだトラブルに巻き込まれたことはないんだけどね?今回通過しただけだし、その間にヨクスの件はあったけど、それはスルーで。

念の為にミクスと『紫』に傷の様子を見てもらっている間に、エクドイク達が戻ってきた。ラクラを担いだエクドイクを先頭に、『蒼』が後ろを歩いている。ドコラは……まあ、もう還ったよな。ターイズで名乗った名前がペンネームだったってことを謝るくらいはしたかったが、まああいつのことだ、きっとそれくらい察してるだろうな。

「同胞っ!?大丈夫ではないではないか!?」

「エクドイク、お前もか。ああくそ、ハークドックはもう運ばれてたな。まあ大丈夫だ」

「アークリアルに斬られて大丈夫も何もないと思うのだがな……。だが適切な治療が施されているな。見事なものだな、イリアス」

「それよりもラクラの方はどうなのだ?ラーハイトに体を乗っ取られたと聞いたが……」

「ああ……。同胞、どうにかできるか?」

「できるぞ。メジスでウッカ大司教に追い込まれた時、ターイズでリリサの体から逃げる時に使用した魔石をバラストスに解析してもらっている。多少乗り移っている魂に負担を掛けるかもしれないが、問題なく引き剥がす手段は取れるそうだ」

ラーハイトが人の体を乗っ取ることができると知った時点で、こういった事態に対する備えは進めていた。窮した悪役の定石なんて、人質を取ることだしな。用意していない方がどうかしている。

「そう、良かった……。ほんっと、あのドコラって奴は好き勝手にして……もう二度と呼び出したくないわね」

「そうしてやってくれ。少しでも手段をと思って提案した側ではあるが、やっぱり死者を利用するってのはあまりいい気分がしないからな」

リティアルの追跡は……まだ必要ないな。話によればリティアルもハークドックの奥の手を受け、全身複雑骨折くらいはいっているらしい。ラクラの結界すら吹き飛ばす一撃を受けて生きているだけでも化物なんだけどな。

警戒すべきはリティアルがセレンデに戻ってきて、ネクトハールが残したであろう蘇生魔法の記録を入手することだ。追跡を行うよりかは、さっさとこの遺跡の調査をしてもらった方が早いな。

残るはラーハイト。殺したところで魂になって逃げ出せるような奴だし、ラクラの体から引き剥がした後は……罪人の体にでも移し替えて何かしらの封印措置でも行なってもらうとしよう。

「……ん」

噂をすれば、いや考え事をしていただけなんだが、ラクラ、もといラーハイトが眼を覚ました。体の方はエクドイクが麻痺の処置を施しており、動かすことも魔法の行使も行えないようにしてある。

とはいえ、ラクラの眼で恨みがましく睨まれるのも嫌だ。ここはもう一度眠って――

「エクドイク、これはラクラだ。ラーハイトじゃない」

「――ッ!?それは本当か!?」

ラクラの視線が『俺』の方へと向けられている。これはいつものラクラが『俺』に向けるものと同じだ。ラーハイトが乗り移っている状況でできる距離感じゃない。

ラーハイトはラクラの体を奪うも、事前に体に遅効性の麻痺を施していたラクラによって、その自由を奪われていた。そして今しがた意識が覚醒したわけなのだが、そうなると……。

「肉体が意識を失っても、魂の方には意識が残っていたのか。そして魔石を使わなくても移動できる手段があり、それを使ったということだな」

痛む体に鞭を入れ、ゆっくりと立ち上がる。こうしてはいられない、ラーハイトがどの体に憑依しているかはさておき、何をしようとしているかは明らかなのだから。