軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけで寝てろ。

壁に奥の手をぶち込み、亀裂の先に探知魔法を使用する。その繰り返しでどうにかこうにか当たりの道を見つけることができた。本能様のおかげか、こういう時の勘も割といい感じに働いてくれるんでありがてぇ。

ただまあ、この光景は流石に予想外だった。あのグラドナとミクスがここまでこっぴどくやられてるなんて、マジかよって感じだ。

「つかリティアルってそんなに強いのかよ。探知魔法で探る限りじゃグラドナの方が強いって感じなんだけどな」

「戦えるご友人と思っていただければ、分かりやすいかと思いますぞ!」

戦える兄弟……うお、鳥肌が立った。俺やエクドイクは過去に兄弟の敵として戦って、見事に敗北しちまっている。そりゃあ他人の力を上手く活かせるからってのもあるんだろうが、もしも本人に実力があったらって妄想をしたのは一回や二回どころじゃねぇ。

「んで、あの剣が噂に聞く……ええと……」

「ダイオサイド!『二択の斬撃』とも呼ばれる自身の幻影を生み出す聖剣よ!」

「ああ、そうだった、そうだった。いいなぁ、俺のこの旋棍とか手作りだってのに」

しかも右腕には悪魔が憑依してっからな、どっちが悪者か判ったもんじゃねぇよな。相手の心を見透かすリティアルに幻影の剣、厄介そうではあるんだが……試してみっか。

旋棍を回しつつ、全身の状態を確認。擦り傷だらけで痛ぇことには違いねえが、体がいい感じに温まってんな。ただここに来るまで魔力を使い過ぎた。奥の手は打てて一発か二発、まともにやり合うなら一発が限界と考えていいな。

「――やはりツドァリでは、君を留めることはできなかったようだね」

「そこは殺したのかどうかくらい聞いたらどうだ?お前を想ってくれている奴なんだろうが」

「それくらいは君の顔を見れば分かる。彼女を生かしてくれたことには礼を言う、ありがとう」

「顔色一つ変えずに言いやがって。ま、仲間を生かしてくれたからって手加減をしてくれるって奴でもないだろうから……なっ!」

一気に飛び込み、攻撃を仕掛ける。リティアルに動きはねぇ、幻影か?だがあの位置にいることには変わりねぇんだし、このまま殴り抜け――ッ!?

脇腹に痛みが走り、咄嗟に横に飛ぶ。構えていなかったリティアルだったが、気づけば剣を前にと突き出している姿勢へとなっていた。なるほど、剣の位置を見誤りゃ俺自身の突進だけでも結構やべぇってこったな。

しかも今の反撃に本能様が反応を示さなかった。ツドァリが脅威度の低い攻撃で俺を削ろうとしてきた方法と一緒で、致命傷にならないように外してきやがったな?

「かぁー!わざと攻撃の手を緩めるなんざ、性格が悪いやり方してくんな!」

「それが君に対する最も効果的な攻め方だからね。一撃で殺せるのならそうするが、それを許してくれる君ではないだろう?体の自由が効かなくなるその時まで、じっくりとやらせてもらうよ」

「そりゃあツドァリに俺の攻略法を教えるような奴だ、自分でもできるに決まってらぁな。だけどまあ、その対策ならとっくに思いついてんだよ!」

下手な小細工は読まれて返されるだけ、心理戦じゃ絶対に勝てねぇってのは逆に分かりやすくていい。頭を使わずに愚直に攻めればいいんだからよ。さっきと同じように飛び込み、攻撃を仕掛ける。

「ハークドック殿!?もう少し慎重に――」

「そんな器用な真似、できたらやってらぁ!」

リティアルに旋棍が届く間合いまで近づくと同時に、足に激痛が走る。先の構えはまたもや幻影で、今度は剣が俺の足に刺さる位置に突き出してやがった。だが、こいつは本能様が反応しないような攻撃。食らったところで痛ぇだけで、致命傷にはならねぇんだよなぁ!?

「――ッ!」

足に刺さる剣を無視して旋棍を振るう。手応えあり、そりゃそうだ。剣を俺に当ててる最中に、剣での防御はできねぇだろうからな。

視界に映っていた幻影が消え、本当のリティアルの姿が見えるようになった。命中したのは剣を握っていない右腕、綺麗に命中したようでだらりと下がってやがる。

「足一本で腕一本か、悪くねぇ取引だな」

「ハークドック、無茶し過ぎよ!?」

「無茶なもんか。俺なら致命傷だけは避けられるからな。だからこの方法が一番手っ取り早ぇんだよ」

肉を切らせて骨を断つ、同じ真似をすることはグラドナやミクスにもできる。だが二人には致命傷を避ける手段がねぇ。突き出された剣が喉や心臓にでも刺さりゃ、それで勝負は終わっちまうからな。でも俺なら致命傷になりそうな箇所への攻撃は本能様が反応してくれる。

もしも本能様が静かなままなら、そいつはそのまま殴り抜けって言う本能様の合図ってこった。

「おう、ハークドック。わしも加勢するぞ。お前さんみてぇに特攻はできねぇが、リティアルの集中力を乱すくらいはできっからな!」

「頼むぜグラドナ。実力的には俺じゃ敵わねぇ相手だからよ」

もしもリティアルが以前のエクドイクと同じように純粋な技量だけで攻めてきたら、普通に実力差で負けちまう可能性が高いからな。小細工をしている間に打ち込めた一撃で腕を持っていけたのはでけぇ。

ミクスとマセッタがナイフと魔法で牽制、俺とグラドナが一緒に飛び込んで近距離攻撃を行う。グラドナは手前の地面を吹き飛ばしたりしての攻撃で剣の間合いを避け、リティアルが回避行動を行えないようにしてくれる。ありがてぇ、これならあとはまた――ッっと!?

本能様が反応し、即座に突進を止めて後方へと飛ぶ。同時に幻影だったリティアルが消え、剣を振り抜いている本当の姿が現れた。剣を振った後の姿だけでも、それがどんな攻撃だったかは分かる。こいつ、俺の首を刎ね飛ばそうとしやがった!

「やはり避けられるか。便利な才能だ」

「急に殺気を込めんな!怖ぇだろ!?」

「だからこそだ。格上からの殺意の込められた確殺の一撃、これなら君は攻撃を止めて回避せざるを得ないだろう?」

背筋に冷たい汗が流れる。やべぇ、もう別の方法を思いついてきやがったなこいつ。気の抜けた攻撃なら食らってでも反撃はできたが、本気で仕留めにくる攻撃相手じゃそいつは無理だ。

しかも今の剣、ツドァリが放ってきた毒のナイフとかの比じゃねぇ。全力で避けねぇと、確実に殺される。何が辛ぇって、今の疲労状態で全力行動は……。

突進を止めて後方に飛ぶってのは足への負担がでけぇ、剣で刺された足の傷がさらに広がったのが分かる……っ!

しくった。あいつは油断から腕を一本失ったわけじゃねぇ。最初から俺の足と相打ちを狙ってやがったな!?俺の機動力を落として、この展開に持ち込みやがったんだ。

本能様が反応してくれても、俺の動きが強化されることはない。もしも足を使って回避しなきゃならねぇ攻撃がきた時、この足が動かなかったら……。

俺を相手にすることになった時から、腕を差し出してでも俺の能力を落としに……すげぇ覚悟じゃんかよ、リティアル!

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……うっし、呼吸はこんなもんでいいな」

「ハークドック殿、ここは私とグラドナ殿で時間を稼ぎます!その間にマセッタ殿に治療を――」

「そんな時間をくれる相手じゃねぇよ。特に俺相手じゃな」

俺にはダイオサイドの効果が薄く、奴自身も安全に攻撃することができなくなる。治療中の隙くらい躊躇なく狙ってくるだろうよ。

それじゃどうする、俺の足が動かなくなるまで戦い続けるか?そうなったらリティアルの反撃で俺が死んで終わりだ。足に負担の掛からねぇような動き……そんなやり方でどうやってあいつに一撃を叩き込めってんだ。

「ハークドック、わしが死んでもあの剣を止めるってのはどうよ?」

「止めとけジジィ、どう止められるのか読まれて犬死するだけ……」

そっか、その手があったか。ただ上手く行くのか?一歩間違えりゃ、俺が即死することになるんだぞ?……つっても、このままジリ貧になってちゃ俺だけじゃなく他の三人も無事じゃ済まねぇし、ネクトハールの野望を阻止することだってできねぇ。

覚悟を決めろよ、ハークドック。お前が他の連中より秀でているのは泥臭ぇ覚悟くらいのもんなんだからよ。

ダイオサイドの真価を発揮する為には、相手の思考を裏切る選択肢を与えなくてはならない。視線、言葉、動き、気配、あらゆる要素を巧みに操り相手に結果を予想させ、その反対を狙う。私の眼にはこれができる力がある。

ツドァリに命じてハークドックを遠ざけたことは間違いではなかった。本能によって危険を察知することができるこの男には、どのような小細工であれ意味を成さない。

戦闘力で劣るツドァリではハークドックを倒しきることは難しいと判断し、奴の特性を理解した上で効果的且つ時間を稼げる手段を与えたが……やはり彼女ではハークドックを抑え込むことはできなかったか。

だが彼女が奮闘したことに意味はあった。ハークドックを分断したことで、私はグラドナとミクスを消耗させることに成功した。動きを完全に読めたとしても、どちらも一撃で私を倒す手段を持つ猛者達だ。ツドァリのおかげでハークドックが合流する前にその力を大きく削ぐことができた、この功績は大きい。

加えてハークドックの合流する為の手段が、彼自身にとって相当負担を掛ける方法だったこともこちらにとっては好都合なことだった。内在する魔力の残量、全身へのダメージ、それらを見る限り、ハークドックの疲労はグラドナやミクスと同等以上と判断できる。

今有利なのは私だ、だが心のどこかに不安が残っている。その原因は明らかだ。

「腕が痛むのか?俺の方がずっと痛ぇと思うんだがな」

私の才能は相手のことを理解する事に長けている。だからこそグラドナやミクスを同時に相手にしても、その攻撃回避を見切ることができた。

グラドナは自由な戦闘スタイルのようでありながら、その動きは重ね続けた鍛錬の型が反映されている。奴自身ですら気づいていない癖、それを見極めれば動く前から行動を読むことができる。

ミクスは相手の意表を突く攻撃手段を好み、戦闘中に様々な仕込みを行っていく。しかし彼女の行動には全て意図があり、それを意識すれば仕掛けられた策を全て見透かすことは容易だ。その背後でマセッタが魔法で援護しようとも、二人の在り方を完全に掌握した私に負ける要素はない。

だがこの男、ハークドックは別だ。この男は特段強いわけではなく、純粋な戦闘能力でも私の方が優れているだろう。喧嘩屋で、練磨された型のない行き当たりばったりでの戦闘スタイルだが、私にはそれが恐ろしい。奴の思考をいくら読んだとしても、奴はその場で奴自身が思いつかないような手段を思いつくのだ。

強者とは自らの中にある芯を元に、独自の立ち振舞を持つ。私はその相手を理解し、その先を見据えるのだが……この男には先がない。本人でさえ自分が次に何をしでかすか分かっていないのだ。

「どちらが重傷かなど、大した問題ではないさ。大切なのは、どちらがより勝利を欲するのかという点のみだよ」

「言えてんな。ただそうなるとリティアル、あんたの方が自分としての目的を持ってる分つえーってことになるよな?」

それを理解しているだけで、その辺のチンピラとは違うのだと分かる。そう、私の戦闘スタイルはどれほど勝利に対し貪欲になれるかでその強さが変わる。

ハークドックが私の予想を裏切る行為を取ってきたとして、私はその上を行けば良い。彼はユグラの星の民の目的に付いてきただけの男、それに比べ私は……この戦いに全てを賭けてきたのだ。

「覚悟の差だなんて甘いことを言うつもりはない。だが戦いとは自身がこれまでに費やしてきたものの結果だ。少なくとも私は君が生まれる前から積み重ね続けている」

「――そうだな。俺も後数十年くらい修行すりゃ、あんたくらいにはなれたんかね」

「なれただろうね」

この会話、ハークドックは何かを狙っている。息を整え、次の突撃に何かをするつもりなのだろう。グラドナやミクスか、それとも右腕の悪魔か。どちらでも問題ない、その攻撃を返せば奴の呼吸は再び乱れることになる。

「伝説の冒険者に保証してもらえたんなら十分だな。んじゃ、行くぜ!」

ハークドックがその場で数度の跳躍の後、突撃してくる。他三人に動きらしい動きはない。ならば右腕の悪魔の動きはどうだ、反応なし。視線の動きも真っ直ぐにこちらを見つめている。

ダイオサイドの力を使い、そのままの姿勢の幻影を生み出して構えを取る。完璧なタイミングでの反撃を狙い、ハークドックの本能を使用した回避以外では対応できないようにする。

ハークドックの才能は確かに厄介だが、利用することもできる。脅威の低い攻撃ならば反応させずに傷を与えることができ、高い脅威の攻撃ならば強制的に回避行動を取らせることができる。

どんな策を練ってこようと、的確に即死させるつもりで攻撃を放てばハークドックの足は止まる。この突撃も急停止、または急な方向転換を余儀なくされ、足の怪我と精神にさらなる負荷を与えることができる。

剣を振るうのと同時に、ハークドックが急停止を行った。だがまだ私の剣の間合い、そこからさらに避け――ないっ!?

私の剣がハークドックの首へと届こうとしている。だと言うのに、奴はその場から移動しようとしない。私は剣を止めるつもりはない、ならばこの攻撃は必殺の一撃となる。奴の本能が回避行動を強制していなければおかしい。

いや、迷うな。その動揺を狙っている可能性がある。回避をしないのであれば、それはトドメを刺す絶好の機会なのだ。このまま剣を振り抜け――

「――ッグ!?」

ダイオサイドが見えない衝撃によって弾かれる。その衝撃は斬撃を弾くなど生易しいものではない。ダイオサイドの斬撃を弾いてなお、私の体ごと吹き飛ばした。

その衝撃で意識が飛ぶ寸前となり、あらゆる五感が麻痺をした。唯一正常なのは思考回路のみ。何が起きた、結界魔法を張ったのか?奴にそこまで高度な結界が展開できるはずがない、後方にいた三人も魔法の発動を行った素振りもない。

「ハークドックッ!?ハークドックッ!?大丈夫っ!?」

聞こえた声はマセッタのもの。吹き飛ばされた私ではなく、奴が心配されている?揺れた意識を強引に押さえ込み、視界情報だけでも正常な状態へと戻していく。

その光景を見て、何が起きたのかを理解した。奴は私の反撃に対し、さらなる反撃を行っていた。壁を破壊した時の技を使ったのだろう、それをダイオサイドの上からとはいえ直撃を受けてしまったのだ。

しかし問題なのはどのような攻撃ではなく、どのように当てたのかだ。私はダイオサイドの幻影を展開し、私自身の姿はハークドックに見えてはいなかった。だが奴は完璧にタイミングを合わせてきたのだ。

「……ごぼっ、へ……へへっ。ドンピ……シャ……だ……」

「喋っては駄目ですぞ!マセッタ殿、まずは止血を!」

「やってるわよ!」

ハークドックは地面に崩れ、マセッタとミクスの手によって治療魔法を受けていた。奴の喉を抑えているマセッタの手のひらからは夥しい量の血が溢れている。私のダイオサイドの一撃はハークドックに命中していたのだ。いや、その瞬間を狙われたと言うべきだろう。

もちろん相打ち狙いで仕掛けてくる可能性は考慮していた。その気配を感じ取ろうものなら、すぐさまに距離を取るつもりだった。だがハークドックが仕掛けたのは相打ちですらなかった。先に私に殺されてから、攻撃を当てようとしたのだ。

相打ち狙いの匂いすらさせず、即死する攻撃を受けてから反撃をする。少しでもタイミングが遅れれば首が飛び、死ぬだけの結果に終わっていただろう。

「ぐ……う……おぉ……っ!」

歯を食いしばり、ダイオサイドを杖に体を起こす。だが至近距離で膨大な魔力の爆発を浴びたおかげで、体が思うように動かない。だが起き上がらなくては、ミクスとマセッタがハークドックの治療をしていると言うことは、まだ――

「往生際が悪いぜ、リティアル。ま、それだけ必死ってことだから仕方のねぇことだとは思っちゃうけどな?でもお前さん、若い奴が自分の命を捨てるつもりで繋いだ勝機を無駄にしちゃーだめよな?」

ダイオサイドを握っていた腕にグラドナの蹴りが入った。骨がへし折れ、ダイオサイドは回廊の奥へと飛ばされていく。支えを失った体は再び地面へと叩きつけられ、再び視界がぼやける。

「グラ……ド……ナ……」

「もう休め、リティアル。そんだけがんばりゃ、オラリアだって浮かばれんだろ」

グラドナは憂い気な顔で最後にそう言い、私の顔面へと拳を振り下ろした。