作品タイトル不明
そんなわけで合流。
「――ッ!いい加減にしろよお前ら!」
痺れを切らせたアークリアルが叫ぶ。予想よりも少しばかり長く粘ってくれたもんだ。重畳、重畳。
「急にどうした」
「どうしたもあるか!いつまで仕掛けないつもりだ!?」
「仕掛ける仕掛けないの話をするなら、最初から仕掛けてるに決まってるだろ」
アークリアルはこう思っている。イリアスがアークリアルの攻撃に対し、一切の反撃を行わないのは『俺』が機をうかがっているからだと。リティアルが強敵と認めた男が、自分の予想もつかない攻め方をしてくるのだと。
相手が並の相手なら、そんな作戦の一つでも考えるのだが相手が相手だ。ユグラと同等の戦闘の才能を持つアークリアルの強さは緋の魔王と互角以上。単純なスペックだけで言うなら『闘争』の力で肉体的な限界へと達した緋の魔王の方が高いだろうが、アークリアルにはそれを補うだけの能力がある。
「はぁ!?何もしてないだろ!?」
「それじゃあ少しばかり話を挟もうか。別にお前なら聞きながらでも戦えるだろ?」
「……っ」
アークリアルは口を挟むのを止めた。話を聞く気があると言うことだ。あわよくばこの会話に乗じてイリアスが仕掛けるのではとも考えているのだろうが、そんなことはさせるつもりはない。
「アークリアル。お前さ、自分から攻めるのが下手だろ?」
「んなっ!?」
「別に驚くようなことでもないだろ。お前は『俺』が知る限りでも二度、敵を逃している。デュヴレオリとエクドイク達だ」
デュヴレオリから聞いたアークリアルとの戦いの話はこうだった。エクドイク達に合流する際にアークリアルと接敵し、デュヴレオリは倒すつもりで仕掛けた。しかし想像を絶する反撃を受け、瞬く間に追い込まれてしまったと。その後は隙を見て逃げ出し、エクドイク達の方へと向かったと。
「余裕があったとか、獲物をいたぶるのが好きだとか、そんな可能性も考えたけどな。そんな性格だとしたら、仲間のモラリやヤステトが連れ去られそうなタイミングで同じ真似をするのはただの馬鹿だ。極めつけはヨクスとの戦い、お前からは一度たりともヨクスに仕掛けてなかったそうだな」
強者の余裕、ただそれだけなのか。いや、アークリアルの才能のことを考えると一つの説が浮かぶのだ。
「お前は落とし子としての才能で、敵を倒す方法が分かる。どう剣を振るえば敵を倒せるのか、どう動けば最適なのか、それを才能だけで知り得ているんだ。だけどな、その才能に甘えて自分で剣技を身につけようとはしなかったんだろ?」
「――ッ!」
アークリアルは最初から敵を倒す術を持っていた。ならばその術を学ぶ為に剣技を磨く必要がなかったと言うことになる。いや、磨き方すら分からなかったと言うべきだろう。最初からできてしまうことを、どうすればできるようになるのかと理解することはかなり難しい。最初から泳ぐことができる奴が、どうやって金づちから脱却する方法を知ると言うのだろうか。
「お前は自分の強さを自分自身でも理解しきれていない。だから自分から攻める術が身についていない。反撃に特化したような戦闘スタイルを取らざるを得ないんだ」
「へぇ……随分と分かった口を効くじゃないの。それで、ずっと仕掛けなきゃいつまでも俺がこの女を倒せないとでも考えているのか?」
「いいや。お前が最強とも呼べる才能を持っていることは事実だ。反撃能力に比べ格段に質が落ちたとしても、基礎的な戦闘能力は十分に才能に引き上げられているはずだ」
ゲームに登場するシステマチックな敵とは違うのだから、最強の反撃ができる奴が自分から仕掛けて全くの雑魚と言うことはない。ハークドックの探知魔法のように、危険を察知する技が他者よりも高い水準に引き上げられているのと一緒だ。
アークリアルの攻めの強さがどれほどなのか、イリアスが受けきれるのか、こればかりは直接戦ってみないことには分からない。だが少なくともデュヴレオリを仕留めきれなかったことから、見込みは十分にあった。眼の前にある最強の頂きは、イリアスならば十分に視野に捉えられる範囲だと。
「そうかい。お前達から仕掛けるつもりがないってことはわかったからな。ならもう待つ必要はない、俺から仕掛けさせてもらうさ」
素人目にもアークリアルの様子が変わった。様子見で攻めていたのが、イリアスを仕留める為の動きに変わったのだろう。イリアスがどれほど余力を残しているかは分からないが、彼女とは事前にある程度の取り決めをしてある。
一つは手に負えないと感じた場合、即座に『俺』に伝えること。イリアスが無理をしてまで時間を稼いだとしても、アークリアルに敗れ、奴に地下に向かわれては詰みなのだ。だからそうなった場合はイリアスと一緒に地下遺跡へと逃げながら次の作戦へとシフトする予定だった。
だがイリアスは合図を送ってこない。様子見で攻めてくるアークリアルの攻撃ならば問題ないと判断しているのだ。ならば次の段階、真面目に攻めてくるアークリアルの攻撃はどうだ。
本格的な攻めに転じたことで、どれほどの勢いが増したのかは『俺』では判断できない。ここできついならそれでも構わない、大事なのはイリアスが今回の戦いで動き続けることができるかどうかなのだ。
……待てども合図はない。アークリアルにはまだ攻める手段がいくつも残されてはいるだろうが、これならいける。さらに次の段階へと進めることができる。
久々の出番、『超人眼鏡』、魔力を込められている状態のこの眼鏡を掛けると動体視力が跳ね上がるアーティファクト。さらに言えばこれは今回の戦いを想定してある程度の改良を加えたものだ。今回は両目に補正を掛けるのではなく、モノクル型にしている。
片目を閉じ、モノクルだけを通して二人の戦いを見る。強化された動体視力でも二人の戦いを目で追い続けることは難しいが、最低限の条件はクリアしている。それはアークリアルの姿や表情を時折ではあるが確認できると言うことだ。
「さぁて、こっからが本番だ……。頑張ってくれよ、皆!」
◇
気を失っているラクラを拘束し、いくつかの呪いを施していく。意識を取り戻したとしても、中身はラーハイトなのだ。自害されたり、魂で移動する魔法を使用されたりしては元も子もない。
「でもこの後どうするのよ?」
「さぁな。あの男のとこに連れて行きゃ、何かしら知恵を貸してくれんだろ。仮にも自分の女だ、真剣に考えるだろうぜ?」
「こ、こいつ……」
同胞にとってラクラが何処までの存在かはさておき、同胞がラクラを見捨てるようなことはしないだろう。最悪の場合、ラーハイトだけを逃して後日追い詰めるくらいの選択肢はとるはずだ。
「ぐだぐだ言うんじゃねぇよ。正気を保つのもそろそろ限界なんだ。なんでもかんでも死人に頼んな」
「……ねぇドコラ、そんなにも辛いの?」
「ああ、これを脅しで使っていたことに、この悪党である俺が罪悪感を持つくらいにはな。ま、反省はしねぇが」
「……そう、そうよね」
死霊術を学んだ者が必死で抗ったとしても、長い時間正気を保つことができない状態。『蒼』はそんな力を長いこと多くの者達に使い続けてきた。虚無感に苛まれながら生き続けた『蒼』にとって、それらのことに関心を向けることはできなかったのだ。
「はっ、今さらてめぇのしてきたことの罪の重さを再認識したところで意味はねぇよ。裁ける立場の奴もいなけりゃ、まともな償いの方法だってねぇ」
「……わかっているわよ」
「――ま、価値くらいはあるかもしれねぇがな。今お前さんが抱えた罪の重さ、それを抱えることができたってことがお前さんにとって最も価値のあるもんだ。独りよがりの罪悪感だろうと、それは人である立派な証なんだからよ」
ドコラもまた人生を踏み外し、外道へと進んでしまった者だ。人を陥れることを良しとし、そのことに心を痛めることがなくなった。そんなドコラにとって、甦った罪悪感は俺が思っている以上に価値のあるものなのだろう。
「それじゃあ、もう解除していいの?あいつに別れの挨拶とかいらない?」
「あの男は恋人じゃねぇ、俺を殺した奴だぞ。そもそも今生の別れならとっくに済ませてるっての。死人はさっさと土に戻るに限るぜ」
「ドコラ、最後に一つ聞いても良いか?」
「話聞いてねぇのかよ。ま、いいぜ」
「お前はラクラのことを知っていたのだろう?それも、あいつの良いところを含めて」
ドコラが死んだのはラクラが同胞に会う前。その頃のラクラはメジスでは悪評の方が高く、暗部であったドコラならばラクラの噂くらい耳にしていただろう。
ならばドコラにとってラクラは足を引っ張る相手ではないかと考えるのが普通だ。それなのにドコラはラクラが上手くやると信じ、ラーハイトを捕まえる策を託していた。これはラクラ個人のことを知っている者でなければできないことだ。
ドコラは静かにラクラへと視線を移した後、鼻で笑いながら答えた。
「……そいつが聖職者を目指した切っ掛けが、こんな悪党じゃ美談にならねぇだろ」
なるほど、それでか。ならばこれ以上は問うわけにもいかないだろう。
「そうか、では最後に礼を言わせてくれ。今回のこともそうだが、俺とラクラを引き合わせてくれたことにもな。ありがとう」
「悪党に礼を言ってちゃ、色々オシマイなんだがな」
「同胞は良く言うぞ。皮肉も込めてな」
「ははっ、言うだろうな。それじゃ頼むわ」
その言葉に『蒼』は死霊術を解除する。ドコラの体は崩れてゆき、残ったのは『蒼』が残した仮面と、砕け散った頭蓋骨の欠片だけだった。ドコラはアンデッドの爆発に巻き込まれていた。核となっていた頭蓋骨はその衝撃で破壊されていたのだろう。頭蓋の欠片を集め、袋へと移す。
「……この骨を少しでも奴の故郷に埋められないか、同胞に聞いてみるか」
「そうね。それくらいの働きはしてくれたもの」
感傷に浸るのはここまで。今後のことを考えなければならない。俺達はラーハイトを捕まえ、中層の護りを突破できた。だがその代償としてラクラが脱落してしまうことになった。
「『蒼』、お前はラクラを連れて上層に向かってくれ。俺はこの先を進む」
「……そうね。この子を置いていくわけにはいかないものね」
本来ならば地上まで運びたいところではあるが、イリアスとアークリアルが戦っている以上近づくのは危険だ。事前に上層にあるいくつかの部屋で、避難場所として使えそうな場所に目星をつけていた。アークリアルが地下に向かったとしても、最短距離で中層に向かう際に通らない場所ならば安全に過ごすこともできるだろう。
「そうだ。他のチームからの連絡はどうだ?」
「そうだったわ。ええと……『紫』から連絡が来てるわね。向こうはハズレだったって」
「そうか……そうなるとこの先か、もしくはハークドック達のルートが……」
「気をつけてね、エクドイク」
「ああ、行ってくる」
霊廟を抜け、回廊を進んでいく。もしも俺の道が当たりならば、少しでも急がねばならない。一人でネクトハールの相手をすることは難しくとも、戦いにさえ持ち込めれば時間を稼ぐことができる。それまでにウルフェ達が合流さえすれば十分に勝機はある。
「……ダメか」
しかしそんな意思とは裏腹に、下層へと続く回廊、その途中は完全に埋め尽くされていた。
◇
二人の英雄、『真眼』リティアルと『拳聖』グラドナ、武勇における逸話の多さはグラドナさんの方が多い。実際にグラドナさんの方が戦闘に優れていることも、少しの間戦闘を見ているだけで分かる。そこにミクスと私が加われば、勝機は十分にあると考えていた。だけど――
「若い二人はともかく、その様は悲しいものがあるね……グラドナ」
グラドナさんは決して弱くない。この中では間違いなく最強なはずなのに、膝を付いてるのがグラドナさんで、それを見下ろしているのはリティアルだった。
「ふぅ……ふぅ……やるじゃねぇの……リティアル。ミクスちゃん達は平気か!?」
「だ、大丈夫ですぞ!」
前に出る二人はリティアルの反撃で相当なダメージを受けている。後方で魔法による射撃をしていた私は未だ無傷だけど、結構な魔力を消費してしまっている。
「『拳聖』に『殲滅の刃』、戦闘能力は素晴らしいのだけれどね」
「リティアル殿、できることならばその二つ名は止めて欲しいところですぞ」
「そう言えば君はあまりこの二つ名を気に入っていなかったか。物騒なのは嫌いだったね」
「それもありますが……最近ではもう一つ理由ができたので」
「少し気になるね。良ければ教えてもらえるかな?」
「『蒼』殿と被っていますので」
えぇ……そんな理由!?あ、でもちょっと気持わかるかも。私も流石に魔王の二つ名と同じ奴とか貰ったら複雑な気持ちになりそう。二つ名とかまだないけど……。
「ああ、言われてみれば。あちらは過去に存在した力で、君のは新しいものなのだから、気にする必要はないと思うけどね」
「リティアル殿には分かりませんでしょうな。ガーネで初めてご友人と出会い、私自身をどうアピールしていくか考えていた最中、魔王の中に『殲滅の蒼』と呼ばれた方がいた時の気持ちなんて!」
「……いや、それはちょっと同情するよ。私も魔王の中に『真眼の~』とかいたら複雑な気持ちになっていただろうし」
なんかふざけた空気になっているけど、状況は最悪に近い。ミクスさんも茶目っ気を出してはいるものの、それが空元気だと一目で分かる。これも全てはあの聖剣、ダイオサイドの影響だ。
ダイオサイド、別名『二択の斬撃』。その能力は幻影を生み出し、自らの姿をその幻影の影に隠すこと。今の攻撃は幻影なのか、そうでないのか。その判断を見誤った場合、相手は無防備な状態で一撃を受けることになる。シンプルな能力ではあるけど、それを扱うのが『真眼』、リティアル=ゼントリーであるのが問題なのだ。
リティアルには相手がその攻撃を本物か幻影、どちらだと判断するかが読めている。彼にとってダイオサイドの能力とは、相手に二択を迫る不確かなものではない。相手にハズレを引かせ続ける不可避の力なのだ。
ダイオサイドの能力は攻めだけではなく、護りにも使える。構えの幻影を生み出すことで、相手の攻める方向を誘導することもできる。グラドナさんもミクスさんもそれに拐かされ、まともに攻撃ができないでいる。
「若ぇ頃はもうちょっと殴りやすい奴だったんだがなぁ……」
「君の自信を奪いたくなくて手加減していただけだからね。心配しなくても純粋に強いのは君だよ、グラドナ」
「うっわ、この歳なのに傷つくわー。大人気ねー!」
リティアルの身体能力もかなり高い。聖騎士のヨクスさんにも負けない動き、だからこそ規格外の枠にいるグラドナさんの動きにも対応できている。
「まるで戦えるご友人ですな……。もっとも、殿方としてはご友人の方が遥かに上位互換ですがな!」
「優劣に関しては否定するつもりはないとも。まあ、趣味が悪いとは言っておくがね」
「むき!」
接近戦ではダイオサイドの能力のせいでまるで歯が立たない。だからミクスさんは投擲による攻撃に切り替えているのだけれど、全てのナイフが造作もなく回避される。特殊な効果を持たせたナイフも、まるで最初から全ての手の内を知っているかのように最適な対処をしていく。
まるで勝ち筋が見えない。圧倒的な力とは別の意味で、規格外とも呼べる化物。こんな相手をどうやって倒せば……っ!?
「何、今の音!?」
壁の向こうから轟音と地響きが伝わってくる。それも何度も、段々と近づきながら。まさか、まさかなの!?そんな無茶な方法で!?
予想が確信に変わった時、壁に巨大な亀裂が走った。そしてその亀裂を通して探知魔法が飛んでくる。この魔力は、間違いない。
「……敗れましたか、ツドァリ」
「おうおう、リティアル以外は離れてろよ!一気にぶち抜くからよ!おるぁ!」
壁が吹き飛ばされ、その中から泥だらけ、傷だらけのハークドックが姿を現した。こいつ、分断された道を強引に掘り進んできたわよ!?
「ハークドック!」
「ようマセッタ。お前さんはまだ元気っぽいな。グラドナとミクスは……うおっ、大丈夫か?」
「ハークドック殿こそ、ボロ雑巾のようですぞ!?」
「ボロ雑巾?上等だろ。新品の雑巾より働きもんだぜ?」
よく見るとハークドックの顔に刃物でできたような傷がある。分断されたあと、誰かと戦っていたのだろう。私達にも負けないくらいボロボロなのに……格好つかないのに、ちょっと嬉しいじゃないの、もう!