作品タイトル不明
そんなわけで去るぜ。
ツドァリは武器や罠に対し、何かしらの隠匿魔法を施している。そのせいで目や耳での知覚がなんの役にも立たねぇ。だが俺とツドァリ、互いの落とし子としての才能で相性を比べた場合、有利なのは俺の方だ。
「っと!全く見えねぇのは厄介だがよ、お前みたいな手合とやり合った経験くらいあんだよ!」
ラクラの結界やミクスの透明な投げナイフ、目で捉えにくい攻撃なんざ何度も体験してんだ。体の方も本能様の急な回避指示に十分についていくことができる。まぁ、正直見えなさ過ぎて攻撃されてる実感すら薄れちまってるのは、結構やべーとは思うんだがな。
ツドァリの隠す才能は確かにすげぇ、その分野については他の誰も肩を並べることができねぇんだろうよ。ただ身体能力だけで言えば、エクドイクやミクス達よりも幾らか劣っている。少なくとも体術の面で大きく遅れを取ることはねぇ、それがありがてぇ。
「見エテイルワケデハ、ナイナ。ソレガ、貴様ノ落トシ子トシテノ才能カ。リティアル様ノ分析ノ通リダナ」
「へっ、あの野郎も人を見る目だけはあるんだっけか?肝心の本人が血迷ってりゃ、どれだけ目が良くても意味ねぇのにな」
「――安イ挑発ダナ」
「あ、分かる?俺って結構倹約家でな?高い買い物には手をつけねぇ主義なんだわ」
声こそ聞こえるんだが、ツドァリの姿が見えねぇ。さっきから攻撃はナイフらしきものを投擲、罠への誘導と近寄る気配がねぇ。どうにか間合いに入らねぇことには勝つ手段がねぇが、尊敬するリティアルを侮辱する程度じゃ効果はねぇか。
「ソウカ、ダガ貴様ガ払ウ代償ハ高クツクガナ!」
「あっれ!?思った以上に効果的だった!?」
本能様の蹴り方が少しだけ変わった。今までは体を少しだけ動かせと言っていたのが、今度は大きく動かせと言っている。これは接近戦に切り替えたのか!?ちょろ過ぎねぇ!?
できるならバシっとカウンターを入れてぇが、姿が見えねぇ以上は下手な踏み込みは無理だ。まずは半歩下がって、攻撃を回避したあとに打ち込――
「痛っつ!?」
下がった足の裏に鋭い痛み、何かを踏んだ!?無事な方の足で跳躍し、積んである木箱の上へと移動する。畜生、思いっきり踏んじまったぞ!?本能様が反応してねぇってのはどう言うこった!?
「貴様ノ危機察知能力ハ、ヨリ脅威ナ事象ニ強ク反応シ、小サナ脅威ヘノ反応ガ鈍ル。殺傷性ノ高イ罠ニ紛レ、些細ナ傷ヲ与エル罠ヲ仕掛ケレバ、対応シキレナイ」
「……へぇ、そうかよ。随分と分析がお上手じゃねぇの」
今踏んだのは命に危険性のない、恐らくは小型の刃物とかだ。ツドァリが地面に何かを仕掛けていることは、本能様からの警告で知っていた。だが本能様が警戒していたのは別の刃物、恐らくは毒でも塗ってる奴があったんだろう。
挑発に乗ったフリをして飛びかかり、本能様の警戒を自分に向けつつ、俺にばら撒いてある刃物を踏ませたのか。こいつ、思った以上に強かな奴だ。
体の自由を奪うような毒が塗ってあれば、本能様はしっかりと反応してくれる。だがこういうチマチマとした攻撃は本当に勘弁だ。エクドイクにボコボコに殴り倒された記憶が蘇っちまう。
「私ニ命ジラレタノハ、貴様ノ足止メ。無論殺スガ、ソレハ結果トシテノコト。貴様ガ力尽キ横タワルソノ時マデ、傍デ抉リ続ケテヤル」
足の怪我は軽い。あと何度も刃物を踏むことになればまともに走ることもできなくなるだろうが、今の状態なら歯を食いしばるだけでいつもどおりの俺だ。このまま持久戦に持ち込まれちゃ、まず勝てない。ここは多少強引でも短期決戦を狙わなきゃならねぇな……よぅし。
「――まるで愛の告白だな。酒の席だったらうっかり承諾しちまいそうだぜ……。ま、その言葉を聞いて安心したぜ。つまるとこ、お前は俺を追ってきてくれるって……こったな!?」
木箱を吹き飛ばすくらいの勢いで飛び出し、入ってきた方とは別の扉に向かう。床は既に見えない刃が無数に撒き散らされているから使えねぇ。だから――
「壁ト木箱ヲ足場ニ……ッ!?」
「普通は走らねぇ場所だからな、壁には刃は仕込んでねぇだろ!」
木箱の中には色々と物が入っていて、足場にするくらいにゃ安定しているってのはさっきまでの戦闘の間に確認済みだ。壁と所狭しと並べられた木箱を交互に蹴っていきゃあ、地面に足をつかずに先に進める。そしてツドァリがさっきの戦闘で刃をばら撒いてたってことはだ、この扉の奥には……チマチマとした地味な罠はねぇ!
扉を蹴破り、通路の奥へと駆ける。本能様が反応しているあたり、殺傷力の高い罠はちらほらあるっぽいな。ま、俺が部屋から逃げ出す可能性くらいは考えていただろうしな。
そんで……よし、あそこだ。あそこを利用して仕掛けるぜ!
◇
リティアル様の言った通り、あの男は予測を裏切る動きをしてくる。来た道が塞がっているとは言え、よもや敵地の奥へと逃げるとは。
だがこの先の道は塞がっており、いずれ袋小路となる。この場所から抜け出す出口は私の持つ鍵がなくては見つけることすらできない。奴が死ぬまで追い詰め続けるとは言ったが、私が無理に追いかける必要はない。ここでハークドックが戻ってくるのを、罠を増やして待ち構えていれば良い。
「無駄ナコトヲ……ッ!?」
突如回廊の奥から鳴り響く轟音。この先にいるのはハークドックのみ、奴が何かをしていることは明白だ。だが何をしている?私が追いかけてこないからとヤケを起こしたのか?
そして再び轟音、先程よりもやや音がくぐもって聞こえる。何を企んでいる?私を誘い込む為に何かをしているのか?
「――マタッ!?」
これほどの轟音を鳴り響かせるには、かなりの大技が必要となってくる。私を誘い込む為だけに魔力を無駄遣いしているのか?……仕方ない、姿を消したまま様子だけ確認しておくとしよう。
回廊へと出て、ハークドックが向かった先へと移動する。曲がり角や天井、何かの物陰などに潜んでいる可能性を考慮しつつ慎重に進む。私が本気で姿を隠している時は魔力や姿だけでなく、音や匂いすら消すことができる。ハークドックが私の接近に気づくことができないことくらいは理解しているはず、そうなると何かしらの接触型の罠を仕掛けているのか?
鳴子などの物理的接触で発生する罠ならば、私の存在を感知することができる。だがそんな見え透いた罠に引っかかるような私ではない。
そろそろ行き止まりに辿り着く。ここまでハークドックの姿がなかった以上、奴はこの曲がり角を進んだ先にいる。仕掛けるか?いや、様子だけを確認し、再び下がった方がいいだろう。奴が何を企もうとも、私を倒さない限りこの場所からは抜け出せないのだか――
「――イナイ……?ソンナ、ソンナバカナ!?」
袋小路の場所にハークドックの人影がない。ここに来るまで何処かに潜んでいた?それはない。そんな素人が隠れるような真似をしたところで、私の眼を誤魔化せるはずがない。ならばこれは……!?
袋小路の壁に巨大な穴が空いている。人が一人、どうにか通れる程度の穴ではあるが、これは間違いなく掘られた通路だ。まさかハークドックは壁を掘って別の場所へと向かったと言うのか!?
位置だけで考えるのならばそう難しい話ではない。ハークドック達を分断した場所の地図が頭の中に入っているのであれば、どの方向に進めば別の通路に繋がるのかくらいはすぐに判断がつく。
不味い、もしもハークドックがリティアル様のところに辿り着くようなことになれば……急いで追わなければ!
穴に入り、奥へと進む。聞こえた轟音の回数は十回にも満たない。何処かに繋がったとしても、そう遠くまでは行っていな――ッ!?
何だ、何かおかしい。穴の中は土、回廊とは踏んだ時の感触が違うことは当然だ。だが、土はこんなにも柔らかかったか?
「――追いかけて来てくれてありがとうよ。お礼の熱い抱擁だ、受け取りな!」
「ッ!?」
聞こえたハークドックの声に、罠に掛けられたと判断。即座に穴から距離を取ろうとするも、穴の奥から凄まじい衝撃波が飛んできて、身動きの取れないまま穴のある場所の反対側へと叩きつけられた。
◇
うっし、ドンピシャ!直撃とは言えねぇが、奥の手をきっちりとツドァリに命中させてやったぜ!
ツドァリが追ってくるかどうかは正直微妙だった。だってさ、あいつが処理を施した場所って見つけることができなくなるって言うじゃんよ?てことはこの場所にも出口はあるんだろうけど、そこはツドァリに隠されてるって可能性が高い。だけど俺が別の道を作って逃げ出そうとすりゃあ、追う以外に道はねぇよな。
右腕に憑依させている悪魔の一部を掘った穴の入口の土に擬態させ、奴が踏んだ時に洞窟の奥に隠れていた俺に伝わるように仕込んでおいた。目に見える、見えないに囚われ過ぎたな、見た目が土じゃ警戒すら持たなかったってわけだ。
ま、探知魔法でも使えば一発でバレるんだが、そんなもんを使えば俺にも奴の位置がバレる。姿を隠しているツドァリが自発的に探知魔法を使うことはないと踏んだ。
一応反撃を警戒しつつ、慎重に穴から這い出る。壁に穴を空けた段階では平気だったんだが、掘り進める為に奥の手を狭い空間でぶっ放したせいで擦り傷だらけ。ツドァリをぶっ飛ばす為の一撃も、直接ツドァリに向かって撃ったわけじゃなく、穴の奥で曲がった先で曲がり角に向かって撃ったからなぁ……めちゃくちゃ余波を受けちまったぜ。
ツドァリは穴の反対側の壁に叩きつけられていた。それが見えているということは、さっきの一撃の影響で奴の姿隠しの魔法が維持できなくなったってわけだ。
「グッ……」
「そいつがお前さんの素顔ってわけか」
「――ッ!?」
ツドァリの格好はそこまで珍しいものじゃなかった。斥候を得意とする冒険者の女が好みそうな格好だ。顔も会話から想像できるような真面目そうな感じだし、その顔に残っている傷痕もイメージ通りだった。
ギリスタの鉤爪の刺青とは違う、こりゃ本当に受けた疵だな。顔の半分近くが火傷の痕のようになっており、その痕は喉、胴体まで大きく繋がっているように見える。さらに左目側には刃物の傷痕、相当古い感じだが……ツドァリの年齢を考えると幼少期にこれらの疵を負わされたってことだな。
「貴様……見タナ……ッ!」
「よっぽど姿隠しの魔法に自信があったようだけどよ、そんなに見られて憤るなら布くらいつけたらどうよ?」
あーあー、こりゃ自分の顔に相当な劣等感を持ってますねぃ。冒険者でたまーにいるんだよな、受けた疵が綺麗にならなくて性格が捻れちまう奴。
「貴様ニ……分カルモノカ……ッ!」
「不幸自慢ならしねーよ、語りたくもねぇ。親に捨てられただの、親に何かされただの、比べたところで浸れるもんなんてねぇだろ」
「……グッ……クッ!」
ツドァリは起き上がろうとしているようだが、俺の奥の手によるダメージが相当あるようで上手く起き上がれないでいる。まあ直撃受けたら胴体とか吹っ飛ぶような技だし、ラクラみたいに結界とか張ってなかったわけだからな。
「あーその、なんだ。殺し合う関係でこう言うことを言うのはどうかと思うんだがな……。もう止めにしねぇか?」
「フザケ――」
「ふざけちゃいねぇよ。お前とは殺すか殺されるかの関係だったけどな、もう勝負はついた。その怪我で立ち上がろうって気合はすげーけどな、お前回復魔法使ってねーじゃん」
これがエクドイクなら回復魔法で痛みを緩和し、鎖を使って起き上がってこれた。その場合は戦いの続き、どちらかが死ぬまでって奴だ。
だけどこのツドァリは自分の怪我を治そうとする気配がない。こいつは自分の才能だけを伸ばしてきて、他の分野に手を伸ばせていなかったんだろう。俺も似たようなもんだし。
「コノ、程度……ガッ!?」
「立ち上がるってんなら、ただ仕留めるだけなんだよ。もう今さら消えたところで意味もねぇし、怖かねぇ」
ナイフを握りしめ、無理に起き上がろうとしたツドァリの腹部に旋棍を叩き込む。気持ち加減はしてやってるんだが、それでも相当効いている。肋とかバキバキだろうな、こいつ。
「ア……憐レム……ツモリカ!貴様モ他ノ連中ト同ジダ!私ノ醜イ顔ヲ蔑ミ、見下シテ!」
「敗者としては見てるけどな。別にそれだけだ。あと醜いとか言うけど、顔自体は整ってんじゃんか」
傷痕があるってだけで、普通にいい女なんだけどな。ギリスタと違って真面目な顔をしてるってのがでかい。あいつは顔に刺青がなくても怖えって思うし。
「貴様ッ!」
「たかが顔の傷痕で喚くなっての。そんなもん、ほれ」
「ッ!?」
右腕の悪魔の爪を尖らせ、自分の顔をザっと斬りつける。火傷の痕までは再現できねぇが、左目側の傷はほとんど同じ感じになっているはずだ。
「あーいってぇ。でもそれだけだ。こんなもん、ただの傷だ。今はいてぇけどな、痛みなんてすぐに消えちまうだろ。お前が辛かったことは本当だろうし、傷痕で昔を思い出しちまうことも仕方のねぇことなのかもな。だけどさ、お前はリティアルに拾われて、救われたんだろ?本当にリティアルの為に戦うってんなら、いい加減過去に縛られんなよ。救われたお前の姿をリティアルに見せてやれよ」
「……」
「俺とお前、どっちが不幸だとか比べる気はねーけどな。お互い救われた者同士ってことにゃ違いねーだろ。てめーを救ってくれた人に、そんな過去を引きずったままの姿しか見せねーで死ぬのは……未練が残んだろ?」
結局のとこ、俺が後味悪い思いしたくねーから、こいつにトドメを刺したくねーんだよな。俺はジェスタッフの兄貴に救われた。だからこの一生を掛けて、兄貴に救ってもらった恩義を返していくと決めたんだ。兄貴にとって誇れる右腕となって、俺はこんなにも救われたんだって、見せてやりてぇんだ。
「……」
「黙るなっての。……ま、俺とお前とじゃ考え方が違うだろうし、今言ったことは忘れてくれ。今日は俺個人のわがままでお前を殺さずに放置する。どうせその怪我じゃもう戦えねぇだろうからな。リティアルは止めるけど、殺しはしねぇつもりだ。そんで色々終わって恨みとか残ってんなら、いつでも来いよ。そんときゃ相手してやるし、次はちゃんと殺してやるからよ」
ニヒっと笑うも、ツドァリの無表情な視線がいてぇ。くそ、俺って格好つけるの下手過ぎるぜ。……さっさとマセッタ達と合流すっか。