作品タイトル不明
そんなわけで粘る。
◇
発端はトリンでバラストス相手に会話をしていた時のことだった。『蒼』の扱う『殲滅』の力を以てしても呼び出された魂は不完全なアンデッドとしてしか蘇らない。ならば自らの意思で自在に動けるアンデッドは生み出せるのだろうか、と言った内容だ。
『理論的には可能だと思うわ。でもそれは私一人じゃどうしようもないのよね』
話を要約するに、『殲滅』の力は死霊術の延長上。より強い呪いで魂を現世に呼び出す力である為、通常の死霊術よりも元の対象の力を引き出しやすく、基礎的な性能の向上を行うこともできるらしい。
以前『蒼』の護衛として使われていた三人のアンデッドがそれに該当しているが、そこに彼らの意思はない。高度に定められた命令によって戦っていただけに過ぎない。これは呼び出された魂がそもそも協力的でないからだと『蒼』は言っていた。
『呼び出された者側で死霊術の構築を安定させれば、より安定した状態になると思うわよ。まあそうなると死霊術の知識がある人物ってとこが最低条件だけど』
この話を横で聞いていた同胞はターイズに帰ってから俺達にドコラの話をした。ユグラの残した『蒼』の観察記録を元に死霊術を習得し、実戦に使用していたほどの男ならばその条件を満たせるのではと。ラーハイトに関わったことでメジスの暗部であることを止め、山賊へと身を落としたドコラ。この男ならば今回の戦いに限っては手を貸してくれるのではないかと。
正直『蒼』は乗り気ではなかったが、紫の魔王との力量差を多少は気にしていたのだろう。結果としてマリトに許可を貰い、ドコラが埋葬されていた場所を掘り出してその頭蓋骨を入手した。そして『殲滅』の力を使い、ドコラをアンデッドとしてこの世に呼び戻したのだ。
『――誰かは知らねぇが、このクソとしか言えない世界に呼び戻してくれやがって。いや、こいつも自業自得ってことか?』
ドコラは『蒼』の仮説通り、復活した時点で自我を保ち、生者と変わらない様子で話しかけてきた。
『悪いが、都合のいい駒になるつもりはねぇよ。こうして喋っているだけでも自分の喉を掻き毟りたくなるからな』
アンデッドとして呼び戻された者の魂は完全には安定しておらず、死霊術の知識を使って補ったとしても相当な苦しみがあることをドコラは告げた。拒否権がないとしても、協力してもらえると思われたくない。だから自分を道具として使うのならば、通常のアンデッドのように自我を持たない化物として使えと。
『――少し話をしないか、ドコラ』
『てめぇは……』
しかし同胞が話しかけたことで、ドコラの様子が変わった。ドコラにとって同胞は命を奪った仇と変わらないにもかかわらず、交渉するに足る相手だったのだろう。同胞はこれまでの経緯を簡単に説明し、ドコラと一つの約束をすることになった。
『あと一回だけお前をアンデッドとして呼び出す。その時、お前の気が向いたならそこの二人を手伝ってほしい。向かなきゃ適当なアンデッドとして使う。どっちにしてもその後はお前の骨は誰の手にも届かない場所に埋め直してやるよ』
『それを信用できると思ってんのか?』
『まあな。お前ならできるだろ?』
ドコラは明確な返事をすることはなく、同胞は『蒼』に死霊術を解除させた。もっとしっかりと交渉すべきではないのかと問うた俺に対し、同胞は静かに笑いながらこれで大丈夫だと言った。
◇
ドコラ=ケッタ、あの男のことはよく覚えている。私が緋の魔王の部下としてメジスに潜り込んでいた時に出会った男だ。
リティアルがクアマを起点として国を乗っ取る計画の前準備として、緋の魔王に侵攻させる目的で私はあの魔王の元で活動していた。
魔王が復活している事実を人間側に気づかせることで、緋の魔王にとって侵攻を再開する頃合いだと判断させることができればと、ユグラ教の本部のあるメジスへと潜り込み色々と根回しをしていたのだが、そこで唯一私に目をつけていたのがドコラだ。
暗部と言う職業柄、色々と調べ物をしていた私に視線が向いたのだろう程度に高を括っていたのだが、よもや緋の魔王に会いに魔界に向かったのを尾行するまで怪しまれていたのは計算外だった。緋の魔王が気づかなければ、メジスに戻った時に私を暗殺していた可能性もあっただろう。
私はドコラを仕留めようとしたが、腕を一本奪うことしかできずに奴を逃してしまった。しかし奴の慎重さに私は救われた。私のような人物が平然とユグラ教の大聖堂に潜り込んでいたことで、メジスの現状が危険だと判断したのだろう。ドコラは私が狙っていた本を盗み出し、メジスから姿を消した。その後の顛末は――
「さて、と。まずはっと!」
ドコラが魔法を使用し、周囲の地面が砂煙を上げた。煙幕のようだが、何かを仕掛けてくるつもりか?いや、これは違う。恐らくは情報の整理の時間稼ぎをしようとしているのだろう。時間稼ぎならばそれはこちらも望むところ、しかしみすみす不利な状況に持ち込まれることは本意ではない。
アンデッドを射出し、数度起爆させてみるも手応えらしきものは感じない。ラクラに結界を張らせているのだろう。ならば他の手段を取るか?だがこれが罠だったら下手に行動を変えるのは下策だ。
「焦んなよラーハイト。久々に俺のやり方で戦うんだ、準備くらいさせろや」
砂煙が晴れ、再びエクドイク達の姿が見えるようになった。姿を隠した者などはいないようだが、それぞれの表情が微妙に変わっている。何かを吹き込まれたことは確かなようだ。
「それにしてもアンデッドにもなったのに、未だに隻腕と言うのはおかしな話ですね」
「俺の腕は魔界に落としちまったからな。大事に保管してくれてたか?」
「魔物が美味しそうに食べてましたよ。腕一本では物足りなさそうでしたが」
「残さずに食われたんなら大事にされたことにゃ違いねぇな」
どう仕掛けるか、先程と同じ手段で天井に吊るされた人質と奴らを同時に攻撃するか?いや……天井に吊るされた人質がいない?何処に移した?
「人質をお探しか?そいつらならここだよ、こ、こ」
ドコラはそう言って数度地面を足踏みする。そうか、先程の土魔法は砂煙を上げるだけでなく、穴を掘っていたのか。天井に吊るされた人質を穴へと移し、空気穴を残して空洞の中に閉じ込める。この方法なら周囲のアンデッドの自爆の影響も受けず、私の視界にも入らないから攻撃対象にもなりにくい。
「ついでに言うなら人質には数日は動けねぇように麻痺させておいた。もう魂の移動先には使えねぇぜ?」
「そんな面倒な手段を取らずとも、首を刎ねればすぐでしょうに。お優しいことで」
「優しさじゃねーよ、殺したら周囲の魔力の影響でアンデッド化すんだろーが」
死霊術については私と同等以上の知識があると見て間違いない。もっとも蒼の魔王と対峙する可能性が最初からあったのだから、死霊術のみで切り抜けられるとは思っていなかったが。
「別にどうしようと構いませんがね。時間を稼げることには違いありませんので」
「時間を掛けるつもりもねぇさ。ついでに優しくねぇってとこも証明させてもらうぜ?」
「そうですか、ではお手並みを――っ!?」
体のバランスが崩れ、地面へと転倒した。周囲のアンデッド達も同様に倒れている。これは何を……っ!足に奔る激痛でその原因が分かった。ラクラだ、ラクラが結界による攻撃で正面にいた私もろとも全てのアンデッドの足を切断したのだ。
「腕の時もそうだったが、足もかなーり痛かったんだよなぁ。さて、ラーハイト。お前はアンデッドと人間の区別をつかなくするように細工をしたわけだ。探知魔法を使ってみたがアンデッドと人間の区別がマジでわからねぇ。でも人質連中がアンデッドそのものになったってわけじゃねぇんだよな?」
アンデッドはその呪いを受けている限り、部位を破壊されても再生を行うことができる。それも相当な速度でだ。既に多くのアンデッドが再生を済まし、起き上がり始めている。
「おら、エクドイク。上からならよく見えんだろ?皆健気に起き上がっている中で、未だに這いつくばったままの堕落野郎がな」
「ああ、見つけたぞラーハイト!」
頭上からの声に視線を向ける。そこには天井に鎖を突き刺し、逆さ吊りになっているかのようにしてこちらを見つめているエクドイクの姿があった。それだけではない、既に私に向かって数本の鎖が伸びている。
「っ!」
奥歯に仕込んでいた魔石を口内に突き刺し、術を発動させる。次の肉体へと移動し、現在の立ち位置を確認しつつ呼吸を整える。エクドイク達との距離は曲がり角一つ分、このまま感覚でアンデッドを爆破してもいいが人質は既に回収されているだろう。
「起爆しねぇのか?まあ、意味ねぇし波長を飛ばせば位置が気取られる危険もあるからな」
「っ!?」
懐に忍ばせていたナイフを抜き、背後へと振るう。しかしその腕を容易く掴まれ、わけの分からない内に地面へと組み伏せられた。
「移動したてだからなぁ?そりゃあ周囲の状況を確認したくなるよなぁ?せっかく人質にアンデッドの真似をさせてたってのに、馬鹿みてえにここにいますって首をキョロキョロしちまうよなぁ?ラーハイトォ?」
ドコラの体はアンデッド、だから周囲のアンデッドの爆破の危険性を無視して最短距離で奥へと移動できる。エクドイクに指示を出したタイミングから既にこの体を探すためにアンデッドの中へと飛び込んでいたのだろう。
周囲のアンデッドはドコラに反応していない、『生者を襲え』と漠然とした命令しか与えられていないアンデッド達にはドコラを敵として認識できていないのだ。
再び奥歯に仕込んだ魔石を口内に突き刺し、肉体を移動する。そしてすぐさま直前の体の在った場所にいるアンデッド達を爆破する。
「……意味のねぇことをすんなよ!ただの爆発でアンデッドが死ぬわけねぇだろ!?」
少し先でドコラの大声が聞こえてくる。私が体を切り替えてから移動した形跡がない?捕まえていた体を守る行動を選択したのか?
奴が加わってから人質への攻撃に躊躇がなくなった。傷つけずに救うことから、傷つけても救うことに切り替わったのだ。
「そしてそして、この俺も意味のねぇことはしねぇ」
「っ!?」
ナイフによる攻撃では体術に差があり過ぎて先の繰り返しとなる。ドコラの姿を確認するよりも速く、エリア型の結晶展開で周囲を薙ぎ払う。その後周囲を見渡すと、隆起した水晶の上に立っているドコラの姿があった。
少しばかり考えていた時間はあったが、それにしてもこの場所に来るのが早過ぎる。
「そんな顔をしなくても教えてやるよ。お前が即座に魂となって肉体を移動できることを知った俺は、お前の魂の移動の仕組みを分析する為に至近距離で観察を行った。その結果、魔力の波長に近い何かが移動したのを確認できたってわけだ」
私が反撃ではなく、肉体を捨てて別の肉体へと移動することを読んでいたと言うことか。
「学習する奴は嫌いじゃねぇよ。だけどまあ、これでお前の弱点も色々分かったな。以前俺の右腕を奪った時に比べ、魔法の発動までの動きが悪い。魔力の質がお前の魂と合ってねぇんだな。事前に丁寧に弄くり回した体でもなけりゃ、お前の戦闘能力は大したことがねぇってわけだ」
仮面から覗く目がじっとりと私を観察している。あの男がする他者を理解する目とはまた別の目、落とし子が与えられたものとは別の、天性の才能とそれを十全に活かす努力によって得られた戦闘に長けた者が持つ特有の観察眼。
下手な大技は隙を作ってしまう。ポイント型の結晶を複数展開しつつ、牽制を行う。浄化魔法を施した攻撃ではあるが、ドコラは何の問題もなく回避している。
「そう言う貴方はあの時に比べ、随分と上手く立ち回るじゃないですか」
「アンデッドになったおかげで、本来ならやっちゃいけねぇやり方で魔力強化ができるからな。自分の体を守る必要がねぇってのは気楽でいいもんだ」
アンデッドは再生を繰り返す、それ故に肉体に対する負荷を考慮しなくて良い立ち振舞ができる。自我のあるアンデッドならその場限り、一度限りのような自爆覚悟の戦い方をその場で繰り返し使うことができると言うわけか。私も他人の体なら多少の無理もできるだろうが、やろうとは思わなかった。無理をしたところで伸びる上限がたかが知れているからだ。
「それはそれは、アンデッドに堕ちて良かったじゃないですか?」
「はっ、自分の骨を媒体とした肉体でも、魂の定着が安定してねぇんだ。心だけがイカれる猛毒を飲み続けているような気分なんだぜ?だからさっさと終わらせてぇんだよ」
「でしょうね。安定しない時の魂は精神に負担が掛かりますからね」
必要な処置を施した上での魂の移動はそこまで負担があるわけじゃない。だが、その工程を省いた状態での移動は並の拷問を上回る辛さがある。それこそアンデッドにされた状態と代わりのない状態とも言える。そんな状態で乗り移れる肉体を探し続ける苦痛は、心の寿命を削り続ける気分だ。
「生きながら似た経験をしたことがあるわけだ。そいつは不幸なこって。その癖に死霊術を使うたぁ、いよいよ以て外道じゃねーの」
「生憎と、そっちの方面の才能しか伸ばせませんでしたからね」
ドコラは反撃をしてくる様子はない。片手に握っているナイフを弄びつつ、こちらの様子を伺っているようだ。
「さっき聞いたが、スピネを滅ぼしたのはお前だってな?」
「それが何か?」
「スピネは俺の故郷だ。お前な、俺に因縁あり過ぎじゃねぇか!死ぬ前に決着つけさせろっての!」
「おや、それは残念でしたね。敵討ちをしたいのであれば、せいぜい頑張ってください」
可能ならば激情させ、精神的動揺を誘う。アンデッド状態の不安定な状態ならばこう言った揺さぶりもそれなりには効果があるかもしれない。
「別にそこまで思い入れはねぇんだよな。幸せな人生とは無縁だったしな。ただまぁ……ヘイドを利用して死なせたことに関しちゃぁ、そのツケは払わせてやるぜ」
「あの殺しが好きなだけで、大局を見ようともしない無能のことですか?」
「無能ってとこは否定しねぇがな。ただあいつとは何度か酒を飲んで笑いあった仲でな。俺はダチが少ねぇからよ、数少ねぇダチの敵討ちくらいしねぇとな?」
今の言葉がどれだけ本気で言っているのか、奴の声からでは判断ができない。だが私の言葉に対しては全くと言っていいほど感情の揺れを感じない。腐っても暗部の人間であることには違いないか。
「ドコラッ!あまり単身で進むな!」
「うっせぇよ。お前が遅いんだろうが、エクドイク」
エクドイクも合流してきたか。この時間差は恐らく先程の体を地面の下へと避難させてきたのだろう。……そろそろこの体の魔力が尽きる。次の体へと移動する頃合いだ。だがドコラの話が本当ならば、眼の前で術を発動してしまえば次の移動先も奴に読まれてしまうことになる。このままではいずれ最後の体で戦う事となるが……そうなればその時、結局的には時間稼ぎと言う目的は成功するのだ。
「おうおう、不敵に笑いやがって。全て順調って顔だな?そんなお前にちょっとした問題を出してやろう。さっきからラクラと蒼の魔王が見えねぇが、あいつら何処に行ったと思う?」
「――ッ!?」
人質の回収の為にエクドイクが遅れ気味に現れることは不思議ではない。だがラクラや蒼の魔王がいつまでも向かってくる気配がないのはどう言うことだ?まさか――
「おう。あるんだろ?ここのどっかに、逃げた先に辿り着く予定の、お前の愛用している体がよ?」
ドコラは暗部、姿隠しの魔法を他者に使うことは造作もないはず。ラクラと蒼の魔王は既にこの先に向かい、私自身の体を押さえようとしているのか!?
不味い、この人質達の体は移動後即座に動けるように調整してあるが、その反面移動できる距離を制限してある。最終的にこの地下遺跡から抜け出す為には、元の体を使わなければ安定した状態での脱出ができない。そもそも人質のストックが尽きた時はどうしても私自身の体が最終地点となる。先に押さえられてしまえば元の体に戻った時には、既に自害することもできない状態になってしまっているだろう。
「……簡単に見つけられると思っているのですか?」
「どうだろうなぁ?女の勘ってのはなかなかに冴え渡ってるもんだからよ。ただまあ、別にすぐ見つけなくてもいいんだぜ?お前が元の体に戻る時までに見つけて動きを封じておけば済む話だからよ?」
例え時間稼ぎが成功したとしても、ネクトハールから蘇生魔法の構築方法を受け取り、この地下遺跡を脱出しなければ意味がない。もしも生け捕りにされることになれば、あのユグラの星の民のことだ……。
作戦を変更しよう。ドコラを相手に人質を活かす方法は既に通用しないと考えていい。元の体に戻り、遠隔で全てのアンデッドを起爆させ続ける。いざとなればこの場所ごと埋め潰せば殺し切ることはできなくとも時間は稼げるだろう。
視界に映っていない範囲での攻撃は逃がす恐れもあり、他のルートに合流される可能性もあるが……これ以上手段を選んでいる余裕はない。ラクラ達が先行していたとしても、私の体はまだ見つかっていないはずだ。決断をするのなら、それは今しかない。
術を起動し、元の体へと移動する。元の体への移動の際には動けるようになるまである程度の時間が必要となるが……良し、じわじわと取り戻していく体の感触に違和感はない。
「……ん」
体が動くようになった。この場所から出る前に探知魔法を――いや、近くにラクラ達がいれば見つかる恐れがある。まずは耳を澄まし、周囲の状況を物理的に確認する。気配はない、大丈夫なようだ。
意識はなくとも探知魔法には引っかかる。魔封石を使わずに自分の魔力を隠し切るには探知魔法の魔力や空気の入らない完全な密閉空間に隠れておけば良い。例えばこの石造りの棺桶などがそうだ。
全ての棺桶を開きながら探せば時間が掛かり、破壊して回ろうものなら私の耳にその捜索具合が届いてしまう。体の隠し場所にはうってつけだ。
蓋に消音の魔法を施し、そっと開いて外に出る。五感で感じられる範囲には誰もいない。ひょっとすればドコラのあの言葉は私を元の体に戻す為のハッタリだった可能性もある。魂が向かう方向を感知できたのならば、この場所にもそう遅くない内に現れるだろう。
懐から合図用の魔石を取り出す。ユグラ教の通信用水晶の劣化版であり、遠隔で光らせて合図を送る程度のものではあるがこの状況では十分な効果がある。
「ネクトハールからの連絡はまだ……か」
今ならこの場所から避難することもできる……が、それでネクトハールを妨害するものが下層に到着してしまっては意味がない。やはりもう暫く時間を稼ぐ必要があるだろう。
この場所を勘付かれるリスクを背負ってでも、アンデッド達を一斉に起爆――
「爆発の音が……しない?」
全てのアンデッドには死霊術に介入しようとした際、即座に体が爆発四散するようにと細工を施してある。今飛ばした魔力波長だけでも十分に起爆することができるはず。数度試しているのだから距離的な問題があるわけではない。
原因を考えても仕方がない。ドコラ達が何かをやった、判断はそれだけで十分だ。今考えるべきはこれからどのように時間を稼ぐかだ。
敵の戦力は既に把握している。だが正面からの戦いで勝てる見込みがあるのは『殲滅』の力を使わない蒼の魔王くらいのものだろう。もっとも、ドコラを呼び戻したのはその蒼の魔王なのだから、それを蒼の魔王の実力と言えば誰にも勝てる見込みがないわけなのだが。
「――でもまあ、これくらいの窮地なら経験済みです」
そもそも私はまともな勝利をしたことがない。この異端な才能のおかげで、真っ当に強くなろうと思う気持ちなんてとっくの昔に腐りきっている。私の魔法の構築のセンスは魂に干渉することにのみ特化しており、他の魔法の才能がすぐに限界だと気づいたからだ。
アークリアルのように落とし子としての才能が他の才能を引き上げてくれていれば、もう少しまともになっていた可能性も……ないな。与えられようとも、与えられなくとも、人の本質は変わらない。今ある結果こそが、答えなのだから。
「せいぜい足掻くとしましょうか。往生際の悪さだけは褒められたことがありますからね」