軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけであの日に戻ろう。

エクドイクやウルフェのチームと違い、俺のチームは俺以外ローブで姿を隠している。これが何を意味しているのかって言うとだな、俺が一人でこの罠だらけの回廊を突破しなきゃいけねぇってことだ。

「……大丈夫ハークドック?」

「……おう。なんとかな」

本能様のおかげで殺傷力のある罠に掛かることはまずねぇが、罠が起動する要因を事前に見つけているわけじゃねぇんだ。

今が丁度いい例になってやがる。回廊を進んでたら足元に罠の起動するスイッチがあったようで、本能様がいきなり足を大きく右に逸らせって蹴りを入れてきた。当然俺はそれに従って踏み込む足の位置を強引に変えるんだが……まあ罠は回避できる。できるんだが、その後の体勢を維持するのも大変なわけで、盛大にすっ転ぶことになったわけで。

ひっくり返った俺をマセッタがなんとも言えない複雑な顔で見下ろしている。いや、俺の本能様については説明しているから事情は察してくれているんだよ。だから呆れたような顔をしないってだけですげー良い奴なんだ。ただこの光景が既に四度目ってのが精神的にきちい。地下遺跡を利用するのはいいけどよ、もうちょい掃除したらどうなんだっつの。おかげで泥だらけだぜ!

「て、的確に引っかかるように配置してあるわね!」

「敵を褒めたからって、俺が無様な格好を繰り返している悲しみは和らがねぇぞ。つかもう中層じゃねーのか!兄弟は中層になったら罠は減るって言ってなかったか!?」

「それは三つのルートのうち二つがって話でしょ。そうなるとこの先にいるのは……リティアルさ……リティアルってことになるのかしら」

あーそうだったな。あのいけすかねぇ野郎かー。セラエスとかなら一度勝った相手だし、楽できると思ったんだがなぁ。

「今さんづけしようとしてたな」

「元々モルガナの上司だったの、そう簡単に癖が抜けるわけないじゃない。心配しなくても戦闘で手を抜いたりはしないわよ」

「あーそっか。そうだよな。俺も兄弟や姐さんが敵に回っても同じ呼び方しちまう自信があるわ。ま、ジェスタッフの兄貴が兄弟や姐さんと敵対する道を選ぶとは思えねぇけどな」

しっかしリティアルかぁ……ま、ジェスタッフの兄貴を利用しようとした奴だしな。この右腕も元はと言えばリティアルが原因だしな、お礼参りをするのも悪かねぇ。

「ここはもう中層のようだけど、他のルートと違って大規模な施設は造られていないのよ。だから上層と似た感じで細々とした部屋がいくつもあって、隠れて奇襲するにはもってこいなのよね」

「順当に行けば俺達は教会に着くはずだったよな?」

「上層で崩れていて進めなかった通路があったでしょ?多分あの辺で位置情報を狂わされたのね」

ツドァリの仕込みって奴か。兄弟の用意した鍵はあるから問題ねぇと思ったが、敵味方区別なく認識できねぇような突貫工事でもしたのかね?本能様は命に危険がなけりゃ反応してくれねぇもんなぁ。

「とと、この部屋出口が二つありやがるな。右も左も危険な罠はねぇか……とりあえず右から調べっかね」

右の扉を開いてその先へ進む。先に続く通路があるから当たりか外れかわかんねぇな。一応左側も確認してから――ッ!?

「扉から離れろ!何かくるぞ!」

突如扉から殺意のようなものを感じた。マセッタ達は部屋の奥へと下がり、俺も通路の方に距離を取る。すると扉のある位置の天井が爆発して、瓦礫と共に道が埋まっちまった。

「おい、マセッタ!大丈夫か!?」

返事は聞こえねぇ、だが爆発の規模的には俺の方が近かった。巻き込まれたってことはねぇだろうな、多分。

「とりあえずこの瓦礫を吹き飛ばして……ってまた殺気かよ!?」

天井が次々と爆発し、瓦礫が降ってくる。罠が発動していると言うより、誰かが意図的に起爆してやがるな畜生!?通路の奥へ奥へと退避しちまってるが、こりゃあ意図的に分断されちまったってことか!?

眼の前に扉を見つけ、飛び込む。爆発の連鎖は通路で止まったようで、部屋の天井までは爆発してこねぇ。このまま行き止まりまで爆破されてたらどうなったんですかね、俺。

「しっかし通路一本分まるまる埋め尽くしやがって……。合流できっかな……」

マセッタの話によれば、このルートの中層はいくつもの分かれ道で分岐と合流を繰り返している。細かい地図はマセッタが覚えているんだが……当然俺は覚えてねぇ。最短で合流することは無理ってことだな。

「仕方ねぇ、適当に下りながら合流できるのを待つしかねぇか。――ところでよ、そんなに熱い殺気を向けんなよ。照れんだろ」

俺が飛び込んだ部屋は物置のような場所で、適度に積まれた木箱が視界のあちこちに入ってくる。そしてその木箱の影から隠す気が微塵もねぇ殺気が放たれてやがる。

「――ハーク、ドック。リティアル様ノ敵、落トシ子デアリナガラ……何故リティアル様ノ邪魔ヲスル?」

声だけが部屋中に響いてくる。女の声だが、どこか掠れているな。ろれつが回らないって言うよりかは……上手く喋れない何かがある感じか。さっきの罠を考えるに、こいつがツドァリって奴なんだろうかね。

「お前がツドァリか?馬鹿みてぇに罠を仕掛けてくれやがって、おかげで服が泥だらけじゃねぇか!」

「私ノ質問ニ答エロ」

「なら俺の質問にも答えろっつの」

「……ソウダ、私ガツドァリ、ダ」

お、割と素直。いや、これは俺の答えを聞きたいから合わせてるってだけか。せっかくだし探れるところは探ってみるか。同じ落とし子でありながらリティアルに敵対する理由ねぇ……。

「俺は俺を救った人の元で戦っているだけだ。お前らはリティアルに救われたり導かれたりしてるんだろうが、俺のところにはリティアルは現れなかったからな。文句なら俺を取りこぼしたリティアルに言いな」

親に捨てられ、一人で生きていた俺を救ってくれたのはジェスタッフの兄貴だ。だから俺は今こうしてここにいる。そりゃあリティアルが助けてくれてりゃ、きっと俺はツドァリとかと一緒に兄弟の敵として立ち塞がっていたんだろうがな。

「リティアル様ハ、コノ世界ニ適応デキナイ落トシ子達ノ為ニ戦ッテイル。貴様ヤ私ノヨウナ者ガ増エナイヨウニ」

「そうかい。そりゃあ立派だ。茶化しているわけじゃねぇぜ?本当に立派だと思ってる。だがそいつは落とし子でなけりゃできねぇって話でもねぇ。現に俺を救ってくれた人は落とし子に対して理解がある。今回お前らのリティアル様の敵となっている男もな」

蘇生魔法を完成させ新たな魔王を生み出すことと、落とし子を救うことにどんな関係があるのかは知らねぇ。丁寧に教えて貰えれば俺でも納得できる答えが返ってくるかもしんねぇ。

「リティアル様ガ正シイト、ソノ可能性ヲ否定セズシテ、敵ニナルト言ウノカ」

「どっちが正しいとか、そんなことは俺には関係ねぇ。俺は救われた恩を返す為に生きてんだ、ジェスタッフの兄貴に全ての恩を返し切るまでは悪の道だろうが、間違ったことだろうが、一緒に隣を進むだけだ」

そりゃあ正しい道に進んでくれることが一番ではあるんだけどな。だけど兄貴も兄弟も、それくらいのことは分かってんだよ。頭の悪ぃ俺なんかよりもずっとな。覚悟した上で進んでるんだ。そんな生き様に馬鹿が口を挟むのは野暮ってもんだ。

「愚カナ……」

「おう、今回の突入メンバーの中じゃ一番愚かだぜ?あ、待て。ラクラよりも馬鹿なのか、俺?いや、まて、いやいや……」

単純な知識量じゃ確かに俺がドベなんだが、馬鹿さ加減で言えばラクラの方が上じゃねぇのか?いや下って言った方がいいか。やべぇ、ちょっとその辺の自信がねぇぞ俺。今度兄弟に聞こう。

「話スダケ無駄ダッタ。貴様ノ出生ヲ聞イタ時、或イハト思ッタガ……」

「あるいは寝返ってくれるかってか?はは、お前俺より馬鹿じゃねぇの?実はリティアルの方が間違いでしたって知ったところでさ、お前リティアル裏切んの?」

「――ナルホド。賢イナ、貴様ハ」

あ、こいつ皮肉通じねぇタイプだな。だけどまあ、忠誠心ある奴ってのは敵だろうが味方だろうが好きだぜ?どっちの想いが強いか競えるわけだからな!

大きく深呼吸をし、旋棍を左右交互に一回転。上層の罠のおかげで体はいい感じに温まってくれてんな。

「生まれて初めて賢いって言われちまった。嬉しさのあまり惚れちまいそうだ。ま、その辺は軽く殺し合ってからな?」

「あの馬鹿、死んでないでしょうね……」

立て続けに聞こえてきた地響き、これは通路の先もほとんど埋もれてしまっているわよね……。ハークドックなら爆破の前に避難することはできるでしょうけど……。

「彼ならツドァリが相手をしているよ。だから無事と言うことはないだろうが、すぐさま死ぬことはないだろう」

「――リティアルッ!」

声の聞こえた方へと視線を向けると、リティアル=ゼントリーが開かれた左側の扉に寄り掛かっていた。いつからそこにいたのか……ツドァリに姿を隠してもらっていた?

「久し振りだね、マセッタ。見ないうちに随分と肩の力が抜けたようだ。ラクラ=サルフとの確執は取り除かれたようだね」

思わず構えたせいで頭に被っていたローブがずれちゃったけど、この様子だと私がこのチームにいることは読まれていたようね。流石と思っちゃダメよマセッタ、これからこの人を倒さないといけないのだから、飲まれちゃダメ。

「できることなら貴方とは敵対したくはありませんでした。モルガナのギルドマスターとして貴方以上に相応しい人はいなかったと、今でも思っています」

「ありがとう。その評価を否定するつもりはないよ。だが私にはそれ以上に成し遂げなければならないことがあった。それだけだ」

「蘇生魔法を完成させ、新たな魔王を誕生させることにどんな必要性があるのですか!?」

リティアルは少しだけ思案し、ふむと頷いた。どうやらこうして話すことも彼にとっては時間稼ぎになると判断したのだろう。

「これからこの先、落とし子は生まれ続ける。今は同一の才能を持つものがいない程度の出生率ではあるが、その頻度は増していくことになる。そうなるようにユグラが今の人類に仕込んだからね」

「落とし子が……増え続ける?」

「ユグラにとって落とし子とは、勇者の代わりをこの世界の人間に担ってもらう為の仕組みだ。長い年月を掛け、人類にユグラに匹敵する才能を持てるように徐々に体の仕組みを変えていく呪いなのだ」

その話は代表さんからも聞かされた。ユグラは死しても復活を続ける魔王に対抗する為、特異な才能を持つものをこの世に残し続けるようにしたと。ただ増え続けると言う話は初めて聞いた。

「それと魔王を増やすことにどんな関係が……?」

「人間とは異物を嫌う生き物だ。それは落とし子に関係なく、誰もが自然と自覚していることだ。君も自覚はあるはずだね」

脳裏に浮かんだのは過去の私、周囲から浮いていたラクラを毛嫌いしていた時の記憶だ。それが良い意味でも、悪い意味でも、人は特出した存在に対して苦手意識を持ちやすい。そのことは理解できる。

「個として嫌悪する存在が増え続ける。そうなれば人類はどのような行動にでるか、その答えは魔王の軍勢を目の当たりにした過去の者達が良い例を見せてくれている。やがて自分達を飲み込む新たな人種、それに対する恐れを」

「……」

「結論から言えば人類は落とし子を否定する。人工的に造られた怪物として敵視し、排除しようと動くようになる。例え今理解があったとしても、それは数が少ないからと言うだけに過ぎない」

「そんなことは……」

「あるとも。私がギルドマスターになるまで、なってから、いったいどれほど才能を妬む者達からの妨害を受け続けたと思う?冒険者の時もそうだった、私達は常に疎まれ続けていた」

そんなことはない、とは言えない。名のある冒険者ともなれば、同じ冒険者から羨まれるのと同じだけ妬まれるもの。それはモルガナでもそれなりの地位にいた私にも経験があったことだ。

「落とし子が世界に認知されれば、ある日を境にそれは起こる。そうなってからでは遅い、手を差し伸べようにも間に合わなかったり、手が足りなかったりするだろう。ハークドックやウルフェのように偶然理解者に救われる可能性も十分にあるが、大抵は排除されることになる。私は落とし子達がそんな境遇に追い込まれないよう、新たな価値観を世界に根付かせようとしているのさ」

「新たな価値観……?」

「そう、落とし子が増えることを恐れる必要がないように。より明確な脅威を世界に刻み込む。魔王と言う人類の敵がいれば、人は落とし子よりもそちらを恐れるようになる。私が行おうとしているのはユグラの調整の続きなんだよ。ユグラは魔王と言う脅威に対抗するように落とし子を生み出した。だから私は落とし子という脅威に対抗する為に魔王を増やすんだ」

「それじゃ歴史の繰り返しになるだけじゃないですか!?」

魔王によって人類は滅ぶ窮地に追い込まれた。その為に落とし子を生み出したことに正誤の見極めをすることは難しくとも、魔王を増やせば人類が再び滅亡の危機を迎えることになるのはすぐに分かる。

「繰り返しにしはしないとも。私にはこの眼がある。私の意思を理解しそれを成し遂げられる者を魔王とすれば、表向きは過酷な世界に見えても裏では調和を取ることができる」

「そんなこと……上手く行くなんて保証……」

「ユグラが選んだ魔王の人選は間違いだった。誰もが自分勝手に生きる者達、その結果魔王を生み出したユグラ本人が魔王を倒さねばならなくなったのだ。もっとも緋の魔王だけは正しく人類の敵であろうとしていたようだがね」

緋の魔王の侵攻の記憶は新しい。あれほど恐ろしい軍勢がもしも人間の軍を突破していたら、どれほどの被害が生まれていたことだろう。リティアルはそんな緋の魔王だけは正しかったと言っている。

「落とし子を守る為だけに、人類を危険に晒すのですか!?」

「為だけ、と言うのは感心しないな。君は人類を危険に晒したくない為だけに、落とし子を排除しろと言うのかい?」

話はそんなに極端な問題ではない筈。だけどリティアルの言うことが起きないと断言することもできない。私はこれまで落とし子と呼ばれる者達を見てきた。その人間性を受け入れることはできても、その才能や能力まで受け入れられているだろうか?心の奥底で嫉妬や恐怖を感じていないと言い切れるのか?

頭の中で最初に浮かび、最後にもう一度浮かんだのは……ハークドックだ。彼の過去を知って同情し、彼の人となりを受け入れ――

「私は落とし子ではありません。だけど貴方の言っていることは理解できるし、共感もできます。才能や境遇に嫉妬したことなんていくらでもありますから。確かに落とし子だけが危険な立場にあり続けることは間違いだと思います」

「……それでも君は私を否定するのだね」

リティアルは私がどのように言い返すのか、既に察しているようだ。だけど、これはしっかりと言葉で伝えなければならないことだと思う。

「はい。私は貴方以外の落とし子である人を知っています。彼は理解者によって救われ、導かれ、落とし子ではない人達とも共に歩めています」

「それは彼が特別恵まれて――」

「いいえ、特別にしているのは貴方です、リティアル。彼と貴方の人生は違っていても、それが普通のはずです。違いはあっても、特別ではありません」

ハークドックは私のことを凄いと、色々と褒めてくれた。彼が落とし子ではない者から認められているのと同じで、彼もまた落とし子ではない者も認めているのだ。

「彼は落とし子ではない人達を信じることができる。だけど貴方は信じることができないでいる。だからこんな計画を実行しなければと躍起になっている」

「……」

「そうなってしまった過去が貴方にあるのでしょう。それを私は知りません。だから貴方の全てを否定するつもりはありません。だけど、私は貴方よりも幸せに生きている人の生き方を尊重させてもらいます」

「その結果、救われることのない者が生まれるとしても?」

「もちろん可能な限り探し出して救います。貴方のような人が、これ以上同じことをしなくて済むように」

代表さんは言っていた。私は視野が狭く抜きん出た才能はなくとも、純情で真っ直ぐな人だと。踏み止まるよりも前に進むべきだと。そうすれば私にしか成し遂げられないことが、私の未来に現れ、それをやり遂げられると。

リティアルが過去にどれほどの苦悩や絶望を感じてこの場に立っているのか、それを察することなんてできやしないけど、普通の人間として真っ直ぐと向き合うことはできる。

「理想論だね」

「はい。理想を追い求めるのが人間ですから、お互いに」

「事なかれ主義、無難に生きたいだけの浅い理想……とは言わない。少なくとも君はその理想を持って私の意思に抗い、倒すべき敵となるのだから」

リティアルが今内心何を思っているのかはわからない。ただ分かるのはお話がこれで終わりと言うこと。て言うか私、なんでこんなに熱く喋ってるんだろう?

「なんだ、マセマセに言いたいこと全部言われちまったい。最年長のわしの立つ瀬ねーじゃん!」

「マセマセは止めて……」

「――そうだね。酒の匂いがしないからいないのではと心配したが、この場にお前が居合わせない筈もないか……グラドナ」

背後にいたグラドナさんがローブを取り払いながら前に出る。『拳聖』と呼ばれ、かつてリティアルと共に名を馳せた生ける伝説が、私と一緒に戦うことになるなんて今でも夢のよう。

「って、作戦じゃギリギリまで正体は明かさないって話だったでしょ!?」

「お前さんは気づいてねーだろうがな、他のチームはとっくに中層に到着してんぜ?リティアルに対応されないようにすりゃーいーんだからよ、当人が眼の前にいるなら構わねーじゃん?」

「え、あ、本当だ」

中層を進むことですっかり忘れていたけど、エクドイクチームとウルフェちゃんチームからの合図がきていた。どうやら私達が最後に中層の敵に接触したようね。

「マセッタ殿、実に素晴らしいお言葉でしたぞ!感銘のあまり、口を挟む隙間もありませんでしたからな!」

「あ、あの、ミクスさん……改めて褒められると恥ずかしいので……」

「――驚いた。ミクスさんもいたのか」

隠す必要もなくなったとのことで、ミクスさんもローブを取った。その姿を見て僅かにリティアルが動揺したように見えた。

「むふん、流石のリティアル殿でもこの展開は読めなかったようですな!」

「読めなかったと言うより、度外視していたのだけれどね。上層を突破する上で各チームには最低一人、罠に詳しい冒険者などを入れておきたいと読んでいたのですがね。そうなるとウルフェのいるチームは……」

「おっ、その顔は気づいたって顔だな。罠に強いミクミクのいるわしらが最後に中層に到着したってことはだ、その発想は間違ってなかったってーわけだな」

「そうなると……ネクトハールと同じ魔族であるニールリャテスが罠に――」

「リティアルよぉ、努力してた奴のことを忘れてやんなよ。いるだろ、わしとお前が知ってる奴で、斥候が得意な奴がなー?」

ニヤニヤとグラドナさんが笑っている。それに対してリティアルははっとしたような顔をして、呆れたような表情へと変わっていく。

「……まさかバンを連れてきたのか?」

「あったりー!できるならサルベとかも誘いたかったんだけどな?そしたらお前さん、ターイズとかに兵隊送り込んだろ?」

エクドイクチームにはラクラが、ウルフェちゃんチームにはニールリャテスとバンさんがそれぞれ姿を隠して行動をしていた。バンさんはターイズの商人だけど、かつてはリティアルやグラドナさんと一緒に活躍していた冒険者の一人。代表さんが今回の突入メンバーに推薦していたのよね。

「最善手だけを打ってくる相手ではないと読んでいたが……入れるにしてもこっちのチームだろうに」

「そこは戦力のケアですぞ。リティアル殿はどうにかこうにかハークドック殿を引き離し、私達と相対するはず。熟知されているグラドナ殿とマセッタ殿だけでは少々心許ないと、ご友人は判断したのです!」

それを言えばモルガナの冒険者であるミクスさんも同様なんだけどね。まあ一人でも多い方がいいのは事実だけど。

「なんだよーリティアルー。そんなにバンに会いたかったのかよー?わしで我慢しろって、抱きしめてやるぜ?」

「酒臭くなくとも遠慮するよ。グラドナ、お前と話すよりはバンの方がマシなだけさ」

「ふん、わしだってマセマセやミクミクの方を抱きしめたいぜ。ふへへ……」

これが拳聖……。栄光と性格は一致しないってよく学べる人よね……。

「流石はユグラの星の民、少しばかり読み違えさせられたね。だがまあ、この程度なら読み負けたことにはならない。パターンは違ってもミクスさんが混じっている時の想定は行っているからね」

リティアルは腰に下げていた剣を抜く。ああ、あの剣はよく知っている。モルガナの冒険者でリティアル=ゼントリーの逸話を知らない者はいない。……ラクラは例外だけど。

かつて『真眼』と呼ばれ、才能のある優秀な人材を見つけ出すことに秀でていたリティアルにも語られている武勇はある。その時にあの剣の存在を抜くことはできない。

「聖剣、ダイオサイドか。懐かしいじゃねぇの」

「エンチャントソードと言うものは皮肉なものだ。悪によって生み出されれば魔剣、善によって生み出されれば聖剣と呼ばれる。果たして今私が握っているこの剣は聖剣と呼ばれるに相応しいのだろうか、どう思う?」

ダイオサイド、リティアルの逸話で彼が直接解決した困難では必ずと言っていいほど登場する聖剣。彼にとって切っても切れない縁を持つ最強の武器なのだ。それが正義の道、悪の道のどちらであろうとも。

「知らね、質に入れたら酒代には困らねぇだろーがな」

「だからお前じゃなくてバンにいて欲しかったんだ。会話の年齢が下がる」

「わしらが若返るなら好都合じゃねーの。あの日に戻ったつもりで楽しもうぜ!」

こうして歴史に語り継がれる伝説の冒険者同士の戦いが始まった。